加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

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第二部開始します


第二部
葛城の休日


空母葛城の朝は早い。

というよりも夢を観たくないので早く目が覚めてしまう。

いつもなら直ぐに朝の鍛練の為に、直ぐに顔を洗わなければならない。

しかし、今日はその必要もなかった。今日は非番の日だった。

それでも葛城は鍛練がある時と同じ時間に起きて、準備をする。

鍛練すらも休みのこの日が葛城にとっては最も憂鬱だ。

何をすればいいのかわからないので、ただ時間を浪費してしまうだけだ。

 

(それだったら、瑞鶴先輩達と一緒にいる方が楽しいなぁ)

 

という訳で、朝の鍛練へとこっそり混じりに行くために葛城は準備を進めているのだ。

空母寮を飛び出して、射場へと行くと既に瑞鶴が射掛けを行っていた。

瑞鶴を見ていると、葛城は自然と心が落ち着く。見惚れていると、瑞鶴が葛城に気付いた。

瞳と瞳が触れ合うと、葛城の心拍数が一際大きな鐘を打つ。

 

「あれ、葛城?今日は非番じゃなかったっけ?」

「おはようございます、瑞鶴先輩!

 することも無いので、先輩達に会いに来ちゃいました!」

 

目の前の可愛い後輩に、瑞鶴は頬が緩むがすぐにその表情は引き締まる。

現機動部隊を指導する加賀が、射場に現れたからだ。

葛城もそれに気付いて加賀に向けて礼をする。

最初の頃はそれでも構わずに瑞鶴に抱き着いていたので、大分進歩が見られる変化だった。

 

「おはようございます、加賀さん!」

「おはよう、葛城は休みではないの?」

「する事がなくて来ちゃいました」

「遊びに来たのなら帰りなさい、瑞鶴はこれから鍛錬をするのよ」

 

加賀は無表情を崩さず、けんもほろろに言い捨てる。

 

「だ、だったら私も鍛錬を」

「それは駄目!折角の休みなんだから、きちんと休日を謳歌しないと!」

 

葛城が弓をとろうとすると瑞鶴は制止する。

納得のいかない様子の葛城に、加賀も諭すように頭を撫でながら

 

「休日に体を休めることも大事。だから今日は自分のしたいことをしてみなさい」

「うぅ、分かりました……」

「稽古が終わったらお昼一緒に食べたげるから」

「はい!葛城、お昼まで待機します!!」

 

さっきまで落胆していたのに、すぐに上機嫌になる葛城を見て、加賀は溜息を吐く。

名残惜しそうにしながら、葛城は二人を残して射場を後にする。

外からは瑞鶴の矢が的を射る音だけが聞こえた。

 

 

 

朝一番に寮を出たので昼休憩までかなりの空き時間が出来てしまった。

空き時間は自室に戻って、瑞鶴の隠し撮りの写真を眺めていた。

しかしこの時、葛城は偶には違うことをしてみたいと思った。

前に暇は時間に何をしているのかを瑞鶴に聞かれた時に、違う趣味を見つけろと怒られたからだ。

他に自分の興味のあることと言えば、実戦で使用する艦載機ぐらいのものだった。

 

(そう言えば私ってまだ実戦に出たことないから、艦載機が普段どこにあるのか知らない)

 

加賀の教育方針で、訓練が終わっていない葛城は自分用の艦載機を持てないでいた。

少し考えて艦娘の装備は工廠で作られると前に聞いたことがあるので、工廠に向かうことにする。

鎮守府内でも最高機密に位置する場所なので、かなり奥まった場所に工廠は作られている。

工廠の入り口は硬い扉で閉ざされており、IDカードを読み込む機械が備え付けられている。

 

「え、もしかしてカードがないと入ることも出来ないの?」

 

セキュリティも厳重で、秘書艦とそれに類する艦娘でなければ自由に出入り出来ない。

葛城はまだ新入りなので、工廠での開発任務にも従事したことが無くIDカードも持っていない。

途方に暮れていると後ろから聞き慣れた声を掛けられた。

 

「どうしたのですか、葛城さん。貴女が此処にいるなんて珍しいですね」

「あ、鳳翔さん。おはようございます!」

 

声の主はこの鎮守府に所属する鳳翔だった。

この鎮守府の最初期を支えた、古参の中の古参だが

現在は酒保管理や装備開発、居酒屋経営等の裏方に回っている。

あの赤城と加賀、蒼龍や飛龍に機動部隊の戦術を叩き込んだのも彼女だ。

加賀の弟子である葛城や瑞鶴達は孫弟子に当たる。

 

「休暇を頂いたので、もし良ければ艦載機を見たかったなーと思いまして」

「そういう事でしたか、でしたら少しだけ待っていてくれますか?

 工厰の中には入れてあげることは出来ませんが

 艦載機を持ってくることは出来ますので」

「良いんですか!?」

 

葛城の表情が華やぐと、鳳翔は微笑んで快諾した。

 

「ちょうど提督に開発の指令があったので、少し待っていて下さいね」

「ありがとうございます!!」

 

何度も大袈裟に頭を下げる葛城を宥めて、鳳翔は工厰内へ入る。

分厚い扉の向こうに鳳翔が消えて数分すると、鳳翔は外へと出て来た。

 

「思ったよりも早いんですね」

「殆ど妖精さんや明石さんがやってくれますからね。

 私は提督に渡されたレシピ通りのものを指示するだけですし。

 はい、こちらが零戦21型ですよ」

 

鳳翔が風呂敷から取り出したそれは、模型やラジコンサイズの零戦だった。

目を輝かせて葛城がそれを受け取ると、色んな角度を隅々まで眺める。

暫くすると零戦の姿は、呪符へと姿を変えた。

 

「葛城さんに装備されたと思って姿を変えたみたいですね。

 そう言えば、どうして純粋な呪符から弓矢を交えたスタイルに変えたのですか?」

「やっぱり呪符だけだと射程の改善が難しいと思ったんです。

 それと、憧れの瑞鶴先輩と一緒に訓練を受けられるかもしれないと思って……」

 

葛城がそう言うと、鳳翔は思わず笑ってしまった。

 

「ふふ、ごめんなさい。それで今日はどうして工廠に来ようと思ったのですか?

 いつもなら休みの日でも射場で瑞鶴さんの稽古を眺めていたと思っていましたが」

「今日はそのー……

 瑞鶴先輩と加賀さんから休みの日なのだから自分のしたいことを探せと言われました。

 ただ、私はまだ艦娘になって日が浅いし、急に人の姿になって人らしいことをするのも

 まだ慣れていないので、どうしたら良いのかちょっと途方に暮れていたんです」

 

道すがら、葛城は少し罰が悪そうに言った。

休日の過ごし方は既にこの鎮守府の他の艦娘は、みんなそれぞれの趣味を持っているのが多い。

その中でまだ人に言っても引かれない様な趣味を持っていない自分が異端だと思い込んでいた。

 

「そうですか、確かに艦娘として着任したばかりの娘たちは皆戸惑いますね」

「私以外にも皆そうだったんですか?」

 

思わぬ鳳翔の話に、葛城は興味津々で聞き返した。

葛城の聞き上手な様子に、気をよくした鳳翔は饒舌になる。

 

「ええ、昔は加賀さんも休日は何もせずに瞑想ばかりしてましたよ。

 他にも瑞鶴さんは暇だからと加賀さんにじゃれついてましたね」

「加賀さんにじゃれつく瑞鶴先輩!?」

「……語弊がありましたね、じゃれつくというよりも喧嘩を売りに行ってましたね」

「え、今はあんなに仲が良いのに、昔は悪かったんですか?」

 

艦娘になって日が浅い葛城にもわかるように伝えるために、鳳翔は少し考え込む。

感情の機微に対して鈍感な娘を何度も見て来た鳳翔だったが、こういう話は慎重になってしまう。

間違ったことを教えてしまっては、その娘の精神に悪影響を及ぼしてしまうと考えているからだ。

 

「喧嘩をすると言ってもそれが仲が悪いという訳ではないのですよ?

 寧ろ喧嘩をすることでコミュニケーションをする人もいるんです」

「喧嘩でコミュニケーション、ですか?」

「そう、昔の瑞鶴さんと加賀さんは所謂ケンカップルと呼ばれる関係です!」

「け、ケンカップル!?」

「そして今はお互いの立場の変化に戸惑いつつも、

 満更でもない交流をするオフィスラブ一歩手前な関係なのです!」

「オフィスラブぅ!?だ、だったら私と瑞鶴先輩の関係は……?」

「そうですねー、憧れの人に構って欲しい微笑ましい先輩後輩の関係ですので

 十分にワンチャンあると思いますよ」

「わ、ワンチャンってなんですか?鳳翔さんの言葉はちょっと難しいです……」

 

聞き慣れない言葉の羅列に葛城が困惑した顔をしているのに気付いて鳳翔の暴走も漸く止まる。

慎重になってこの体たらくなのだから、鳳翔の思考は相当毒されてしまっているのだろう。

 

「あぁ、ごめんなさい。

 最近始めた『ぱ~そなるこんぴゅ~た~』なる物で私も色々と知りまして」

(あ、それ聞いたことある。提督が夜な夜な潜水艦の口調真似て書き込みしてる奴だ)

「話が逸れましたが兎に角、休日に自分の時間を持つことはいいことです。

 特に貴女は()()()()()()()()()()()()()()()()()ですから、

 瑞鶴さんにべったりになる理由もよくわかります」

 

大昔の記憶、まだ葛城が人の姿を取るよりも前の軍艦だった頃の記憶。

葛城と瑞鶴が同じ場所に居たのは一週間もなかった。

それでも葛城が見た最後の瑞鶴の姿はかなり鮮明に脳裏に焼き付いていた。

艦娘となって最初に思い出した記憶でもあり、必ずこの人と共に戦場を駆け抜けたいと思った。

自分はまともに艦載機を飛ばしたことも無いけれども、あの人は私と一緒に戦ってくれるのか。

不安は尽きなかった、それも当人を目の前にして吹き飛んでしまったが。

 

「そうかもしれません、けれども功績のない私が瑞鶴先輩の隣に立つ資格があるのかどうか。

 やっぱり翔鶴さんとコンビを組んだ方が……」

「葛城さん、確かに貴女には敵を撃破した戦勲はないかもしれませんが

 それを補って余りある大事なことをしたじゃないですか。

 散り散りになった人達を祖国へ帰したというとても大事な仕事です」

「それだったら鳳翔さんだって……」

「私はそれよりも多くのパイロットを死に追いやってしまいましたから」

 

鳳翔の微笑に陰りが見えた。

他の誰にも見せないその表情は、自分と同じ生き残った空母だからこそ見せたものだろうか。

葛城にはその気持ちを完全に理解することは出来ないが、その心情に寄り添うことは出来る。

否、共に戦後を戦い抜いた葛城だからこそ、鳳翔の心の傷跡に触れることが出来た。

 

「鳳翔さん、私は上手く言えないけれども、それでも鳳翔さんは凄いです。

 私と同じ様に人を助けることが出来た艦艇に、沢山の人に携わった鳳翔さんには

 胸を張っていて欲しいんです。じゃないと私の立つ瀬も無くなっちゃう」

「ありがとうございます。他でもない葛城さんにそう言って貰えて、私も嬉しいです」

 

微笑を崩さない鳳翔の目尻に、頭上に昇る太陽の光が反射する。

自分の言葉で返って来た初めての反応で葛城は少し戸惑うが、

目を逸らさずに正面から返って来た言葉を受け止めた。

 

「あの、鳳翔さん。もし良ければまたこの鎮守府の昔話し聞かせて下さい。

 他にも艦載機のお話しとか、色々と教えてくれると嬉しいです」

「ふふ、勿論ですよ。私で良ければ話し相手になって下さいね」

「今日はこの後瑞鶴先輩とお昼を食べる約束があるんですけど、鳳翔さんはどうですか?」

「私はこの後提督に開発任務の報告をしてから居酒屋の仕込みを始めますので、

 残念ですがご一緒は出来ませんね。夕方以降に居酒屋に来て頂ければ時間は出来ますよ」

「そう言えば鳳翔さんの居酒屋にはまだ行ったことなかったです!今晩お邪魔しようかなぁ」

「来てくれたらサービスしますね、ではまた」

「はい!艦載機ありがとうございました!」

 

葛城が預かっていた艦載機を返すと呪符の姿から通常の零戦の姿へと変わる。

鳳翔はそれを風呂敷にしまって赤レンガへと向かって行ってしまう。

葛城もそろそろいい時間なので、瑞鶴達が待つであろう食堂へと向かった。

 

 

 

赤レンガの執務室で提督は鳳翔からの報告を受けていた。

 

「開発任務に関しては以上です」

「ご苦労だった、それで建造任務の方はどうかな?」

「残念ですが、今回もお目当ての艦娘の建造は出来ませんでした」

「そうか、鳳翔さんでも駄目となるとやはり最後には加賀に頼むしかないかもしれないな」

 

執務机に肘をついて頭を抱える様にして、提督は唸った。

提督にとっても、加賀にそれをやらせるのは苦渋の決断だ。

 

「提督、流石にそれは……」

「わかっている、加賀に頼むのは本当に最後の手段だ。

 それまではもう暫く鳳翔さんにも頑張って貰いたい」

「ええ、出来れば加賀さんの手を借りずとも済むようにしたいですね」

「そうだな、居酒屋の仕込みもあるだろうし、今日は下がっていいぞ」

 

鳳翔は一礼して執務室を退室する。

提督は溜息を吐いて、大本営からの指令所を手に眺める。

 

「今更こんな指令を下して、お上は何を考えているんだか」

「どうでしょうネー、やはり古い考え方の人はかつての栄光に縋り付くものかもしれまセーン」

「そうかもしれんな、結局は今更なことを皆に強いているのは俺の方だしな

 大本営に直訴をしてでも……」

「テートクー、格好付けるのもいいけれども、

 今のテートクには大本営に逆らうだけの地盤はないデース」

 

秘書艦の金剛には、提督の強がりは筒抜けだった。

男としてのプライドの大切さはわかっているが、その為に首を差し出しては元も子もない。

 

「うぐぐ、確かにそうだが」

「どんなに見っともなくてもNever give upがテートクのいい所デース

 ワタシは最期までテートクの傍を離れまセーン」

 

諭すように、それでいて唆すように金剛は優しい声音で提督の心を慰撫する。

自分の脇を固めてくれる頼もしい秘書艦だからこそ、提督も情けない姿を曝け出せた。

 

 

 

昼の食堂には、任務や鍛錬の終わった艦娘達でごった返している。

葛城、瑞鶴、加賀の三人はあれから合流して一緒に昼食を食べ終えていた。

 

「加賀さん、瑞鶴先輩、水のおかわり要りませんか?」

「それじゃあ、お願いしようかしら」

「悪いわね、よろしく」

 

葛城が三人分のコップを取りに行くのを二人は眺める。

 

「どうやら、私達以外にも話し相手がちゃんと出来たようね」

「みたいですね、葛城ったら私にべったりだから少し心配だったけどもう大丈夫みたいね」

「少し寂しいと思っているのではないの?」

「そんなことないですよ!可愛い後輩がきちんと自立出来るようにするのが先輩の役目だし」

「貴女みたいなヒヨッコでも、それがわかるようになったのなら大したものだわ」

「むぅ、またそうやって半人前扱いして!」

「最近まともな射掛けが出来るようになったからと調子に乗っているから半人前なのよ」

「上等じゃない、私が一人前だってこと見せてやるわよ!」

「おお、これがケンカップルという奴ですね!?」

 

二人がヒートアップしていると、水を持ってきた葛城が割って入る。

 

「か、葛城……?」

「その、ケンカップルというのは」

「それがお二人のコミュニケーションの取り方だと鳳翔さんから聞きました!」

 

葛城の爆弾発言に、食堂に集まった艦娘の視線が二人に集中する。

暫しの沈黙の後に加賀が咳を一つする。

 

「……やめましょう瑞鶴」

「そうですね、私も大人げなかったです」

「「だからそのケンカップルというのは撤回しなさい(して)!!」」

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