加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

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ちょい短いですが投下


無冠の初陣 前編

空母加賀の朝は早い。本日も瑞鶴や葛城に弓の鍛錬をしなければならない。

先日の龍驤の教え子達の演習で、航空戦としては惨敗してしまってから

加賀は自分の戦術や戦略を練り直すこととなった。

長い間実戦から離れてしまっていたとは言え、確かに今まで過去のやり方に囚われていた。

向上心を忘れてしまっては、他人に何かを教える立場の者としては失格だ。

あの演習で誰よりも自分の至らなさを痛感したのは加賀なのかもしれない。

それ以来、加賀は敢えて避けていた現主力艦隊メンバーと交流を持つようにした。

何時もの射場での鍛錬が終われば、非番や出撃の終わった主力艦隊と会う様にしていた。

ただ世間話をしているのではなく、現在の艦隊がどんな状況なのか、

どういった戦法が使われているのか等の戦いに関するヒアリングが主だった。

相手側も自分の考え方や動き方を整理するのに丁度良いらしく、まるで相談の様になっている。

だが、加賀は射場での鍛錬にも手を抜かない。

先日の演習から更に他の鎮守府とも演習を重ねて、いつしか葛城は改装を受けていた。

しかし、当の葛城は鍛錬に身が入っていない様子だ。

 

「葛城、どうしたの?今日はやけに姿勢が乱れているわ、確りなさい!」

「ごめんなさい……」

「……少し休憩にします、瑞鶴はそのまま射掛けを続けなさい」

 

必要以上に萎縮してしまう葛城に、加賀は何かあると思い鍛錬を一旦止める。

 

「どうかしたの?何か悩みでもあるのかしら?」

「それがその、もうすぐ私の初陣があるので緊張、してしまって」

「緊張するものなのね、貴女は気が強いタイプだから平気だと思っていたわ」

「そんなことないですよ、私は過去も艦載機を使った実戦はやったことないですから

 演習でしか飛ばしたこともないですし、実戦でも上手く行くのかどうか……」

 

自分も赤城も二航戦の二人も龍驤も、初陣で緊張などしたことがなかった。

瑞鶴と翔鶴も初めての実戦の時に表面上だけかもしれないが、緊張している素振りはなかった。

今まで見たことがなかった反応なので、加賀もどう言ってやれば良いのか悩んでしまう。

 

「こればっかりは経験を積んで慣れるしかないわね」

「加賀さんは初陣の時は何とも思わなかったんですか?」

「私達艦娘の大多数は初陣はもう過去に済ませてしまっているから。

 それでも緊張する娘はいるにはいるけれども、私も赤城さんも特に何とも思わなかったわ」

「さ、流石ですね」

 

赤城との話を聞いて、余計に葛城は委縮してしまった。

下手を打ったと焦った加賀は真剣に葛城の不安を取り除くにはどうすればいいのか頭を巡らせる。

一人だけ、彼女と同じように初陣で緊張をしていた艦娘を思い出した。

 

「葛城、もし良ければ鍛錬の後に時間はあるかしら?」

「大丈夫です、今日は部屋に帰って瑞鶴先輩の写真を眺めるだけですから」

 

葛城の相変わらずな趣味にはこの際、目を瞑る。

 

「そう、この後に長門や陸奥と会うのだけれども貴女も一緒にどうかしら」

「え、長門型のお二人とですか!?初対面ですけど大丈夫かなぁ」

「別に取って食う訳でもないから平気よ、長門の趣味からは貴方は外れていると思うわ」

「え、長門さんの趣味って……」

「何でもないわ。兎に角、初対面でも大丈夫よ」

「じゃあご一緒させて下さい。この鎮守府のエースと会えるの楽しみです!」

「では鍛錬が終わったらついて来なさい、鍛錬が終わる頃には主力艦隊も帰投している筈よ」

 

それから鍛錬が終わり、夕暮れになると加賀は葛城を伴って赤レンガの一室へと向かう。

そこは会議室の様なもので、既に長門と陸奥がそこに居た。

 

「出撃お疲れ様。今日も無理を言ってごめんなさいね」

「気にするな、加賀の方からこういう席に来てくれる様になって私も嬉しいよ」

「他のメンバーは?」

「入渠などで今晩は都合が付かないらしいので、私と陸奥だけだ」

「そう、二人がいるのなら問題ないわね。それと知っているとは思うけれども葛城よ」

「は、初めまして!葛城です!鎮守府のエースのお二人に会えて光栄です!」

 

緊張でガチガチになりながらも葛城は精一杯に挨拶をする。

その初々しい様子を見て、長門と陸奥は微笑ましい気持ちになった。

以前の鳳翔と打ち解けた様に、葛城には目上の人の懐に入る能力があるようだ。

 

「初めまして。そんなに緊張しなくてもいいのに」

「そうだ、私達は同じ艦娘なのだからお前も堂々として居ればいい」

「ありがとうございます。でも今は別の理由でも緊張してまして」

「ん?別の理由とは?」

「ほら、長門。葛城はもうすぐ初陣で私達と一緒に出撃するのよ」

「ふむ、それならば緊張しても仕方ないだろうな。嘗ての陸奥もそうだった様に」

「わ、私の事はいいから!」

 

長門の思い出した様な呟きに、珍しく陸奥が狼狽える。

普段は余裕のある大人のお姉さん然とした雰囲気は何処へやらだ。

 

「いや、加賀はお前の昔話をして葛城の緊張を解そうとしているんだろう。そうだな、加賀?」

「話が早くて助かるわ。今の葛城は初陣を迎える前の陸奥と同じ状態よ」

「成る程ね、それは確かに……深刻だわ」

 

苦虫を噛み潰した様な表情で陸奥は呟く。

 

「けれども、あれは長門だって問題になったんだからね!」

「くっ、確かに未だに金剛にこの事で弄られ続けているが、私は何も恥じてはいない!」

 

顔を真っ赤にして陸奥が反論すると、長門も顔を赤らめる。

更に信じられない握力で、思わず握っていた椅子の肘掛けを握り潰した。

肘掛けは中身の綿をぶちまけられて無惨な姿となっている。

目の前で繰り広げられる、子供染みた喧嘩に葛城は絶句するしかなかった。

 

「しまった、また明石に小言を貰ってしまう」

「こ、これがウチのエースだなんて……」

「あらあら、ウチの鎮守府は変わり者が多いのよ。知らなかった?」

「そんなの初耳です……。でも悲しい事に否定出来ません」

「じきにこの姉妹漫才にも慣れるわ、それよりも葛城に何かアドバイスして頂戴」

 

長門は椅子を壊したことに消沈し、陸奥はその長門を見て笑いを堪えている。

中々話が進まないことに痺れを切らして加賀は切り出した。

その様子を見て陸奥は含み笑いをする。

 

「成る程ね、加賀達は緊張することを知らないから、アドバイスが出来なかったのね」

「人を心臓に毛が生えたみたいに言わないで頂戴」

「でも肝が据わっているのは本当よね。

 そうね、アドバイスの前に私も過去は大した戦果をあげられなかったわ。

 艦隊に付いて行っても鈍足なのを詰られたぐらいだし、失礼しちゃうわ」

 

大袈裟に溜息を吐いて陸奥は昔のことを思い出している。

この鎮守府より以前の出来事を大まかに言えば、あの爆沈する日までに目立つ活躍はなかった。

 

「そんな実績もない私が、ビッグセブンというだけでこの鎮守府の主力艦隊に選ばれたのよ。

 とんでもない重圧だったわ。

 私よりも長く着任している艦娘だっているのにそれを差し置いての抜擢だったんだもの」

 

今でもその事に多少思う所があるのか、陸奥は複雑な表情になる。

それを三人は黙ったまま、彼女の話に耳を傾けていた。

 

 

 

その日のことは今でも覚えているわ。(正直、忘れたい気持ちもあるけれども)

私の初陣が決まって、私はそれまで以上に訓練に打ち込んだのよ。

ただ、それが祟ったのか土壇場になって私の艤装に不具合が起こったわ。

()()()()()()()()()()()()()第三砲塔に問題が発生したの。

爆沈した日の詳しいことは覚えていないけれども、まるで過去を準える様でとても不安だったわ。

初陣の朝、私は朝食も摂らずに自室で閉じこもっていたの。そしたら相部屋の長門が来た。

 

「陸奥、艤装の方はどうだった?」

「……正直、かなり嫌な感じね。第三砲塔の排熱に問題があるらしいわ」

「よりにもよって其処か、普段は明るいお前の表情も曇るというものだ」

 

長門に言われてしまうぐらいに私は自分の表情が曇っていることに気付いた。

これでは、艦隊の士気に関わってしまうだろう。

 

「私は大丈夫よ、長門。だから貴女までそんな顔しないで、ね?」

「そうか、だが無理はするな?」

「わかってるわよ、それじゃ私は初陣の作戦要綱に目を通すから」

 

私が部屋に備え付けの机に向かって一人の世界に引き籠ると、長門は部屋を出て行った。

これがまさかあんな事になるとは思わなかったのだけれども……。

 

 

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