加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

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試験的に書き方変えます。


的を当てるに必要なことと

元・正規空母加賀の朝は早い、寝坊助な後輩二人を叩き起こす為に朝日が昇り切る前には布団から体を起こしている。

相変わらず重心が安定しないので最初から左腕を壁についてからゆっくりと起き上がる。

寝汗を拭い去り、衣服を悪戦苦闘しながら替え、流しの椅子に座って髪を梳く。

ふと、以前は赤城さんに髪を梳いて貰っていたことを思い出してしまう。

が、思い出に浸っている時間はない、自分が決めた鍛錬の開始時間まであと1時間しかない。このままでは遅刻してしまう。

焦ると上手くいかないのだが、正直じれったい感覚もある。

これが弓術であるならば自制心もきちんと働くのだが、生憎と最近は後進の育成ばかりで自分自身は弓術をやっていなかった。

寧ろ出来ないでいたので、自制心というものが最近欠如していると自分の中で反省し、朝の最後の日課を済ます。

 

 「それでは赤城さん、行ってきます」

 

きちんと身なりを整え、加賀は空母寮の玄関先まで行く。

そこには既に準備を終えた、五航戦の姉妹が待っていた。

 

 「お待たせしました、早速だけれども体を温めるために基礎訓練として準備体操の後にマラソンを開始します」

 

準備体操をする二人を眺めて加賀は空母寮の玄関からパイプ椅子を引きずりながら持って来る。

意外にもパイプ椅子を引きずるだけでも苦戦を強いられるも、何とか自力で所定の位置まで持ってこれた。

しかし、そうこうしてる内に準備体操は終わってしまったらしい。

 

 「それじゃあマラソンを開始します。鎮守府の外周を十周」

 「ちょっと待って下さい!加賀さんも一緒に走るんですか?」

 

 加賀が自分達の横に着いたので慌てて翔鶴が言う。

 

 「そのつもりだけれども」

 

 動じずに加賀は涼しい顔で言った。

 しかし五航戦二人は怪訝な顔をしている。

 

 「あのさ、流石に加賀さんは走らない方がいいよ

  今の体じゃあ日常生活だってままならないんだし」

 「リハビリは必要でしょう」

 「リハビリって言っても順序があるでしょ!?」

 「そ、それに加賀さんまだ準備体操だって終わってないじゃないですか」

 

 それもそうだと、加賀は思った。準備体操もせずにいきなり走っては余計に体に悪い。

 結局の所は二人のランニングフォームを眺めることにする。

 

 「翔鶴!瑞鶴!下を俯かないで、真っ直ぐ上体を起こしながら走りなさい!」

 「は、はい!」

 「わ、わかってるっての!」

 

 下を向いていては体の姿勢は悪くなる上にきちんとしたランニングフォームにもならない。

 全く、新人はランニングフォームすらまともに出来ていないのか、嘗て赤城さんと訓練をしていたことを思い出す。

 

 (思えば、私はずっとあの人を追いかけるので精一杯だった。

  周囲からどう思われているのか知らなかったが、あの人は常に私の先を行っていた)

 

 思い出に耽っていると、新人達が加賀のもとに戻って来る。

 どうやらランニングが終わったらしく、加賀も椅子から立ち上がり、波止場へと向かう。

 新人二人は艤装を装備して波止場から海面へと降り、最近ずっとやっている海上での実戦形式の訓練を行う。

 翔鶴は先日の最初にやっていた頃よりも大分型は出来ていた。基本に忠実にやろうとする彼女は努力型の秀才なのだろう。

 同じく地道な努力を裏で重ねていた加賀は、翔鶴には物事を教えるのが楽だと思っていた。

 決して口にはしないが、自分と同じ目線で戦う彼女の問題点や得意とする部分は加賀も把握がしやすかった。

 しかし、一筋縄では行かないのが妹の瑞鶴だった。

 

 「う~、流石は翔鶴姉そつなくこなしてるなぁ」

 

 彼女は中々型にはまらない、柔軟性を宿していた。正直、加賀には一番苦手な分野だった。

 柔軟性だけでなく、彼女の場合はなまじ何事をもそつなくこなす才能がある(本人は気付いていないが)。

 故に、彼女は一つのことに囚われず、執着せず、極めずにこれまでを過ごしていた。

 それは、悪く言ってしまえば何事も中途半端になってしまっているということ。

 加賀も翔鶴もそのことをわかっているが、変に煽ててしまうと良くないと思い瑞鶴には黙っていた。

 瑞鶴本人がそれに気付くまで、加賀は小姑のように細かく瑞鶴に小言を言い続けている。

 ただ、瑞鶴も言われっ放しは性に合わないようで、機会を見ては加賀に反論をしていた。

 それが傍目から見れば、二人は険悪な仲と思われているようだが、お互い後腐れをしない主義なのでそこまでではなかった。

 むしろ、加賀も瑞鶴もそういう関係性なのを楽しんでいる節すらある。

 話が脱線したが、明らかに瑞鶴は伸び悩みつつあった。

 

 (こんな時に赤城さんがいたら、どう指導したのかしら)

 

 赤城は他の追随を許さない天才だった。艦娘に、否、武人に求められる大凡の気質と才覚を備えていた。

 任務には忠実に、私情を一切挟まない。むしろ私情というものが赤城には非常に希薄だった。

 出撃や任務のないプライベートな時間ですら鍛錬に殆ど費やしていた。

 それ以外はコンディションの調整に必要な補給(食事)や休息だけ、彼女の艦娘としての人生全ては戦いに捧げられていた。

 瑞鶴と同じ天才型の赤城ならば、何かしら彼女に的確なアドバイスが出来たかもしれない。

 でも、此処には赤城さんはおらず加賀しか新人の育成をする人間がいない―――

 

 「そろそろ休憩にします、波止場へ上がってらっしゃい」

 

 一先ず、足元も覚束ない瑞鶴にこのまま訓練を続けさせては、要らぬ怪我を負わせ兼ねない。

 加賀は自分の元へ二人を手招きする。

 

 「加賀さん、どうしたの?」

 「瑞鶴、海上は射場とは環境は違うかもしれないけれども、弓を取るのに必要なことは何も変わらないわ」

 「集中するってことでしょ?それぐらい私だってわかってます!」

 「そう、集中することよ。でもそれ以上に実戦では必要なことがあるわ」

 「集中以外に必要なこと、ですか?」

 

 翔鶴は今一つ要領を得ず独り言る。

 

 「そう、それは獲物を殺す為に最も必要なもの、殺意よ」

 

 加賀の目付きが、かつて戦場で一航戦と呼ばれていた頃の物に戻る。

 その目にまっすぐ射貫かれた新人二人の体から、一斉に冷や汗が噴き出した。

 

 「私達艦娘が使うものは嘗て人間の間で培われて来た弓道とは違います。

  明確に相対した存在を射貫かなければならない弓術です。

  普段の戦闘とは違うやり方だとしても、長弓を扱うこのやり方でも殺意を込めてやりなさい。

  殺意とは、最も原始的な本能に近く、あらゆる雑念を取り除いたそれは

  通常の集中では辿り着くことが出来ない極地にあります」

 

 それは瑞鶴だけではなく、翔鶴にも足りないものだった。

 赤城との思い出に耽った際に、二人に足りないと思ったものはこれだった。

 今の二人に比べれば、赤城は獲物を前にした時は常に殺意に溢れ、声を掛けると此方にまで殺意を向けられたものだと、加賀はしみじみ思いだしていた。

 今となっては微笑ましい思い出だと言うと、新人二人にはドン引きされたが。

 

 「兎に角、貴女達二人には殺意が足りません。

  殺意のない攻撃は、例え技術や使う道具が優れたとしても獲物を殺すことはできません」

 「うぅん、殺意かぁ……確かに、今までは訓練ってことで意識してなかったなぁ」

 「私もです、実戦形式というのはそういう意味も含めてだったんですね」

 「では休憩はお終いよ、今日の午後は貴女達は演習があるのでしょう?

  それまでにはあそこのブイに括りつけられた的に確りと当ててもらいたいものね」

 

 訓練で使われるこの波止場の沖のブイには常に的が括りつけられている。

 他の艦娘の訓練にも使われているので、今日は偶々昨日使った者が片付け忘れていたのだろう。

 本来ならば、空母が訓練で使う距離の的では近すぎるぐらいだが、今の新人二人にはあの的に当てることすら難しかった。

 加賀に促され、二人は波止場から海上へ再び降りて普段戦闘で使う弓より長い和弓を構える。

 

 「あんな近くの的、いつも通りのやり方だったら楽勝なのに……」

 「瑞鶴、それじゃあ訓練している意味がないでしょう?」

 「そうだね、翔鶴姉。よっし、今日こそ加賀さんがギャフンと言わせてやるんだから!」

 

 瑞鶴の古臭い言い方に思わず翔鶴はクスクス笑い出す。

 程よく緊張感が解れて、二人は静かに弓を頭上に掲げて弦を引き絞りながら胸の高さまで下ろす。

 そして、的を倒すべき深海棲艦とイメージし、それを射貫くつもりで狙いを定める。

 不思議なことに瑞鶴は、今まで気になっていた足元の波や海面を撫でるような強風がいつもよりも気にならなくなっていた。

 むしろ、どういう風に構え、どういう風に狙いを定めれば良いのかが自然と頭の中に流れ込んでくる。

 その直感通りに矢を放つと瑞鶴の矢が初めてまともに艦載機の姿をとり、的を射貫くことが出来た。

 それは翔鶴も同じようで、隣り合った二つの的は見事に棒から落ちて海面に浮かんでいる。

 喜びのハイタッチの後に、してやったり顔で瑞鶴は加賀の方を見やると、加賀は満足そうに微笑んでいた。

 何だか気恥ずかしくなって、瑞鶴はすぐに視線を外して水平線の向こうを見ていた。

 

 

 

 本日も新人の稽古が終わり、加賀は空母寮へ真っすぐ帰る。と思いきや、工廠の明石の部屋の前に来ていた。

 扉をノックすると少し遅れてから、部屋の主からの許可の声が返ってきたので加賀は部屋へ入る。

 

 「お疲れ様、此処はいつ来ても忙しそうね」

 「お疲れ様です、加賀さん。

  ええ、先の作戦から戦力拡張に提督は躍起になってますからね

  『絶対に次の大規模作戦までには大和型を配備してみせる』と豪語してましたよ」

 

 

 無謀とも言える大型建造を回し続けて、秘書艦や大淀に大目玉を食らっているという噂は本当のようだった。

 流石の加賀も呆れたように溜息を吐くが、そんなことを聞く為に態々工廠に来た訳ではない。

 

 「本題よ、例の件はどこまで進んでるのかしら?」

 「そうですねー……、正直かなり難航してます。

  あの二人の改装には通常の改装設計図だけでは足りない部分が出てきているみたいで」

 「長弓を使った訓練は既に実戦形式まで早めているわ。

  貴女のツテで大本営に働きかけて、足りない部分を補うことは出来ないの?」

 「う~ん、そういうのは大淀の方が無理がきくと思いますよぉ」

 

 大淀が言う事を聞けばですけど、と明石は心の中で補足する。

 彼女は真面目な気質なので、特別な理由無しでは中々に融通を利かせるのは難しい。

 

 「あ、それはそうと加賀さん。その腕のことなんですけれども」

 「いいわ、未だにそちらから連絡が無いということは、まだ何でしょう?」

 「お話が早くて助かります。もう少し不便をかけますが、

  何とか日常生活に支障が出ない程度には出来るようにしますので」

 「一応、期待はしているわ」

 

 抑揚のない声で言って、加賀は明石の部屋を後にする。

 二人の稽古はこのまま続ければ後一ヵ月はあれば、実戦に投入できるまでになるだろう。

 新人二人のポテンシャルの高さに、加賀は実は驚いているがそんなことは二人にはおくびにも出さない。

 優しい教官役は自分には似合わないと加賀は思っているからだが、慢心をして欲しくないという部分が強かった。

 工廠から外に出ると、いつものように西日が水平線の彼方へ顔を隠そうとしている。

 ゆっくりと、慎重に加賀は空母寮へと歩き出した。

 

 

 

 部屋に辿り着いた頃には、夜もすっかり更け込んでいた。

 それはいつもの事なので、特に焦りもせずに加賀は一人湯あみを済まして着替えて眠る準備をする。

 一日の締めくくりを忘れずに行って。

 

 「赤城さん、今日やっとあの二人が私達と同じやり方で的に当てることが出来ましたよ。

  正直、私一人で教官役が務まるのか不安でしたが、一応形になって来て良かったです。

  それでは、おやすみなさい。良い夢を、どうか」

 

 返事も無く、加賀は布団に潜り込んで目を閉じる。

 明日も早く起きて、二人をびしばし指導しなければ。




いかがでしょう?
以前の書き方とどっちが読み易いか等、お気軽にご指摘下されば幸いです
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