「翔鶴姉!」
その姿を見て瑞鶴は赤城の姿を想起したがいつも見慣れていた銀色の髪がそれを打ち消した。
装甲空母である翔鶴とその僚艦達がそこにいた。
「此れより殲滅戦に入る。
翔鶴と大鳳は味方艦隊と連携して周辺の掃除を、それ以外の同志は私と共に泊地へ殴り込む」
「Oh!響、来てくれたんデスネー!」
「久し振り、今の私は改装を受けて
真っ白い服と艤装を纏った駆逐艦、ヴェールヌイは素っ気なく答える。
「繰り返すけれども私と同志三隻は今より空母が開いた敵艦隊の穴を突き抜ける。
それ以外の艦娘は残敵の掃射を任せる」
冷静に、とても落ち着いた声音でヴェールヌイは自艦隊と瑞鶴達の艦隊に指示を飛ばす。
そして敵艦隊へと突っ込んでいき、自分の間合いに敵艦を捉えて的確に深海棲艦を打ち抜く。
「それにしても、あの白い駆逐艦がどうして私達の艦隊にまで指示を飛ばすんですか?」
葛城はやや不満そうに呟いた。
後から来た見知らぬ駆逐艦が行き成り指示を飛ばすから、面白くないのも無理はない。
「響、じゃなかったヴェールヌイはね。昔は私達の呉鎮守府に所属していたのよ」
「そうなんですか!?」
「うん、あの娘は私達の鎮守府始まって以来の最強の艦娘よ
金剛も長門さんも砲撃戦で勝ったことがないぐらいのね」
葛城は信じられないと突っ込んで行ったヴェールヌイの姿を目で追った。
敵の砲撃を完全に予測したかのような動きで、砲弾が掠ることすらない。
正に当たらなければどうということはないを地で行く戦い方だった。
「そこのお二人とも、ヴェールヌイの指示は聞こえましたね?
私達は露払いを行います、戦闘機でもいいので早く発艦をして下さい!」
ヴェールヌイ艦隊のもう一人の空母、大鳳が怒号を飛ばす。
二人は慌てて戦闘機を発艦させて翔鶴と大鳳の攻撃隊の援護に回った。
(反応は鈍いけれども、此方の攻撃隊の編隊に合わせられるのね。いい練度だわ。
翔鶴さんの話通り、厳しい鍛錬は受けてはいるみたいだけれども、まだまだね)
大鳳は少しだけ瑞鶴と葛城を見直した、しかしまだまだ足りないと考える。
自分と肩を並べている空母、翔鶴の妹としては期待していた分よりも下回っている。
「大鳳、少し集中力が乱れてませんか?いつもより艦載機の動きにムラがあります」
「ごめんなさい、翔鶴さん。気を付けます」
ぴしゃりと翔鶴に指摘をされた大鳳は素直に謝ったと同時に流石と感心していた。
艦載機の動きを見るだけで、自分の心の揺れを見抜いた翔鶴に大鳳は心服していた。
やがて、泊地での戦いは第二遊撃機動部隊の介入により攻略に成功した。
やはりこの泊地が西方海域の敵の本丸だったようで、瑞鶴達は貧乏くじを引く結果となった。
(本来なら私達だけの力で倒せた方が提督さんの純粋な手柄になったんだろうけど)
恐らく、遊撃部隊は本丸が何処であるのかがわかってから動いたのだろう。
ヴェールヌイの指示なのか、大本営からのトップダウンなのかはわからない。
ただわかることは、瑞鶴達だけの力ではこの作戦は失敗しただろうということだった。
作戦が終わって全艦隊は一旦、指揮本部のある佐世保鎮守府に帰投することになった。
それは遊撃艦隊も同じだったので、瑞鶴は久し振りに翔鶴に会う機会が出来たが複雑だった。
(どうしよう、まだあの時の気持ちの答えを見つけていないのに会いに行ってもいいのかな)
会えるのは素直に嬉しいことなのだが、まだ例の件について瑞鶴は答えを見い出せていない。
そんな状態で会ったとしても、何を話せばいいのか?それ以前にどんな顔をすればいいのか?
佐世保に帰投して休息に宛がわれた部屋で瑞鶴は頭を抱えていた。
「瑞鶴先輩、翔鶴さんに会いに行きましょう!」
「葛城、でも私はまだ……」
「差し出がましいとはわかっています。
でも、今会わないと次は何時になるかわからないじゃないですか。
瑞鶴先輩には後悔なんてして欲しくないんです!」
「うん、そうだね。挨拶だけでもして来ようかな」
「はい!そうと決まったら善は急げです!早速行きましょう!」
葛城に手を引かれるような形で瑞鶴は遊撃艦隊の控えている部屋に向かう。
其処には翔鶴の姿はなかった。
「あの、この艦隊に所属している翔鶴さんはどこに居ますか?」
物怖じせず、葛城の堂々とした問いかけに部屋にいる艦娘が一斉に振り返る。
修羅場を潜ってきた艦娘達ばかりなので、その眼光は一瞬鋭く見えた。
「貴女達は……呉の艦隊の空母二隻ですね。翔鶴さんに用ですか?」
問いかけに答えたのは大鳳だった。
スレンダーな体型に整った涼し気な顔立ち、それでも目には抜け目ない光が宿っている。
何をしに来たのかと、露骨に二人に疑いの眼差しを向けて来た。
「えっと、翔鶴は私の姉妹艦でこの艦隊に所属していたと思うんです。
というか翔鶴姉を見間違える筈がないし。今何処に行ってるの?」
「翔鶴さんならヴェールヌイと大本営からの司令官代理と一緒に会議に行ってますよ?」
取り付く島もない様子で大鳳は言い捨て、瑞鶴の気のせいか少し不機嫌そうな顔になった。
確かに、事後の取り決めをする会議はこの鎮守府で行われており、
そこへ行ったばかりならかなり時間がかかるだろう。
「そ、そっか。なら戻って来たら話があるって伝えて貰えないかな?」
「お断りします。会議が終わったら私達はすぐに横須賀へ帰投するように命じられています」
「そんな!翔鶴さんの妹の瑞鶴先輩に会う時間ぐらい作れないの!?」
「無理です、私達は大本営直属の艦隊ですので長く横須賀を開ける訳にはいきません!」
本人の瑞鶴を蚊帳の外に、葛城と大鳳はお互いを睨み合っている。
この様子に他の遊撃隊の艦娘も流石にどうしたものかと困惑した様子を見せた。
「まぁまぁ大鳳ちゃん、
そんなお堅いこと言わずにちょっとぐらい会わせてあげてもいいじゃない」
柔和な雰囲気で大鳳を宥める艦娘がいた。
黒くサラサラなロングヘア―にスタイルの良さを強調するような腹部を大胆に露出した服装。
青くキラキラとした光と笑みを称えた瞳を持つ彼女は阿賀野だった。
「阿賀野さん、またそうやって時間にルーズな事を言っているとヴェールヌイに怒られますよ」
「でもでも、姉妹が再会出来る場面だったらヴェルちゃんもそんなに目くじら立てないと思うよ」
「またそうやって勝手なあだ名で呼んだら、
今度はどんな鬼畜な訓練を課されるかわかりませんよ」
「どうかしらね~、大鳳ちゃんも今の発言は危ないかも……あっ帰ってきた!」
阿賀野の発言に瑞鶴と葛城は振り返る。
そこには見知らぬ男、かなりくたびれた中背中肉の中年は大本営から派遣された司令官代理と
その両脇を固めるようにヴェールヌイと翔鶴がいた。
「何だね君達は」
「えっと、私はそちらの翔鶴の姉妹艦の瑞鶴です。こっちは葛城です。
久し振りに再会出来たから姉妹艦に挨拶をしようと思って……思いまして!此処に来ました」
普段、提督相手にも敬語を余り使わないので瑞鶴はしどろもどろに答えた。
葛城や阿賀野は失言が飛び出さないかハラハラして瑞鶴を見守っている。
翔鶴は特に口を挟む様素は見せず、落ち着かない様に両手をもじもじさせている。
「そうか、だがまたの機会にしなさい。これから私達は横須賀へと帰らなければならない」
「え、でも……」
「待って下さい」
冷たく重い声がその場の空気を凍り付かせる。
意外にも待ったをかけたのは司令官代理の脇を固めるヴェールヌイだった。
「このまま直接横須賀へと帰投せず、呉で補給を受けて行った方がいいと思います」
「何?そんな必要性なんて「勘違いしないで下さい」
司令官代理の反論を聞く気はないとヴェールヌイは発言を制した。
「私はお願いをしているのではありません。この意味がわかりますか?司令官代理殿」
敬語口調だがそこには相手を敬う気持ちなど全くない。
冷たく重い声と同じか、それ以上に冷たい視線を司令官代理に投げつける。
これにはただの代理を務める、デスクワーク派な中年には逆らうことが出来なかった。
「チッ、良いだろう。だがただ補給を受けるだけでは駄目だ!呉鎮守府の監査も行う!」
「そんな、監査を行う部署でもないのに急な抜き打ちの監査だなんて横暴過ぎよ!」
「やましいことをしていなければ問題ない筈だ!何か心当たりでもあるのかね?」
「そんな訳ないわ…じゃなくてそんな訳ないじゃないですか!」
「ならば監査は行う!言っておくが提督に知らせるのは無しだ!通信は傍受する!」
そこまでやるのかと瑞鶴は更に食って掛かろうとするが、翔鶴と目が合った。
これ以上、この男に突っかかるのはやめなさいと瑞鶴は翔鶴に言われた気がした。
「了解……しました。提督には知らせません」
「フン、だったら呉まで出向いてやる。これで満足かな、旗艦殿?」
「ありがとうございます。
全くそんなことを思って居ない様な、さらりとした口調でヴェールヌイが述べる。
どうやら口先での勝負でもヴェールヌイの方が上手らしい。
「そういうことだから、二人は今日はもう帰ってくれないかな」
「わかったわ、響。ありがとうね」
「礼には及ばないよ。じゃあね」
素っ気無い態度は相変わらずで、響達は部屋へと入っていった。
瑞鶴達は事の顛末を旗艦である金剛に報告した。
勝手な行動をしたことを咎められると思った瑞鶴と葛城は身構える。
「All right!
取りあえず提督には作戦報告は済ませたので、改めて通信する必要はありませんネー」
「あの、瑞鶴先輩は悪くないんです!私が無理矢理に引っ張っていった形なので……」
「ラギーは気にしなくても問題Nothing!
ワタシでも同じことをしたと思いマース」
俯きがちな葛城の頭を撫でて金剛は朗らかに言い放つ。
「でも、何でヴェールヌイは呉に寄ろうって提案してくれたんだろう?
私と翔鶴姉の為だけに名目上の上司に逆らってまで提案するとは思えないんだけど」
「ワタシに心当たりがありマース。結局は瑞鶴と同じ気持ちということでしょうネー」
金剛の発言に瑞鶴はそういうことかと小さく呟いて頷いた。
状況が飲み込めない葛城は首を傾げている。
「テートクの事デスから今更抜き打ち監査が来ても特にNo problemネー
寧ろテートクの秘蔵の卑猥なcollectionが見つからないかワタシは期待してマース」
先程までの朗らかな様子から一変して、戦場に臨んでいる様に鋭い殺気が金剛から出ていた。
瑞鶴は心の中で、厄介なことになってしまった不憫な提督に深く謝罪した。