加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

23 / 30
Look at me

加賀が右腕に義手を付けてから数日、ぎこちないながらも何とか掌の開閉が出来るようになった。

ただ開閉が出来るだけで、まだ物を持つことが出来るほど握力は無いものの

最初の全く動かせなかった頃より大分進歩したと言える。

しかし加賀にはそれよりも気になることがあった。

数日前から瑞鶴の様子が可笑しい。

鍛錬に身が入っていないという訳ではないが、休憩時間等は上の空状態だった。

これにいち早く気付いたのは葛城だった。

 

「きっと瑞鶴先輩に好きな人が出来たんですよ!」

「好きな人……?」

「そうです!瑞鶴先輩のあの上の空な顔は今までよく見た表情をしてます。

 主に瑞鶴先輩に見惚れているであろう私の表情と全く同じなんです!」

「そんなことを堂々と言われても返答に困るわ……」

 

言われてみれば確かに葛城と似たような表情をしている様にも見える。

更に陸奥から聞いた話だと、先日化粧のやり方を教えてくれと言われたらしい。

まさか提督に心を奪われたのか、瑞鶴に限ってそんなことはないだろうと加賀は考えている。

他人の色恋沙汰を詮索するのは無粋と知りながらも、そこは加賀も気にはなっていた。

ただこんなことを無神経に聞いてしまっても良いものだろうか?

下手をすれば上司から告白を強要させてしまったことになるのではと思うと聞くに聞けない。

ただ今は鍛錬や作戦に支障が出てはいないみたいなので、これが酷くなったら聞くこととしよう。

それよりも自分は自分のすべきことをしなければ、と加賀は空き時間も使ってリハビリに励む。

物が持てる様になるまでは、まだまだ時間が掛かりそうだった。

 

 

 

幾日が過ぎ、瑞鶴は約束の日の朝を迎える。

はっきり言えばこれが瑞鶴の艦娘としての人生?初めてのデートだ。

正直人間の男女がデートをするというのは雑誌か何かで読んだことがある。

大体が映画館やら美術館やらへ行くということぐらいは瑞鶴でもわかる。

提督には外出届を二人とも出しているので、鎮守府を出て人がいる街に出て行くのは問題ない。

ただ艦娘であることがバレなければ(・・・・・・・・・・・・・・)大事になることもないだろう。

変装までは必要ないが、念のために髪型や帽子などで誤魔化しをしておく。

いつもは鶯色の長髪を結んでいる瑞鶴だが、今日はそのままにしてキャスケットを被る。

胴着も外出用のパーカージャケットにホットパンツに変更する。

普段は化粧もロクにやったことはないのだが、変装の為にもやってみることにする。

この為に数日前に陸奥に化粧のやり方を習っておいたのが功を奏した。

拙いものの陸奥の教え方が良かったので、何とか見れるようにはなったと瑞鶴は思った。

 

「よし、これで準備はOKっと……何気に艦娘になってデートなんて初めてよね」

 

姉である翔鶴とも二人で買い物へ行ったこともなかった。

そもそも街へと出て行くのも今回が初めてだ。

それまでは鎮守府内で間宮に行ったり、居酒屋鳳翔に入り浸ったりしていただけである。

そもそも姉との二人でのお出かけがデートと呼べるのかが疑問だが。

 

「いや、でも女の子同士なんだからこれもデートじゃないでしょ。

 だから緊張なんてする必要もないし……」

 

しかし、そういう方向に思考を傾けるとそれだけで沼に沈むように意識をしてしまう。

初心な生娘の様に瑞鶴の鼓動はデートという事実だけで淡い期待感と根拠のない胸騒ぎがする。

兎に角、このまま自室で悶々としていても埒が明かないので瑞鶴は空母寮を後にする。

鎮守府と街は距離があり、一般人が何かの拍子に迷い込まない為とも言われている。

だが理由は他にもあった、艦娘と一般人を隔離するという目的でもあった。

その為に街へと出掛けるには車を使うのが手っ取り早い。

鎮守府の正面ゲート近くには送迎用の一般車が常駐しており、

外出届がある日には決められた時間を行き来する。

一般車に偽装はされているが、万が一の有事の為に強化ガラスなどの防衛装備は備わっている。

既に駐車場には初月の姿があった。早く来ていると思っていなかったので瑞鶴は動揺する。

 

「やぁ、瑞鶴。約束の時間よりも早いな」

 

瑞鶴はそうだったかなぁと誤魔化して視線を逸らす。

横目で見ると初月は露出の少ない、普段のボーイッシュなイメージ通りの男装の様な恰好だ。

自分と釣り合うように服を選んだのだろうかと、瑞鶴は少しだけ自惚れる。

 

「それにしても、いつもの胴着姿もいいけれども可愛いな。化粧までして来てくれるなんて」

「こ、これは変装用で仕方なくしてるのよ!あんたこそいつもの髪型よりも大人しめじゃない」

 

初月のいつも逆立っている横髪は下ろされており、

後ろ髪もまとめていないので綺麗に切り揃えられた肩の上までのセミロングになっている。

 

「まぁね、僕も簡単な変装という奴さ」

 

そう言って初月はジャケットの内ポケットから伊達眼鏡を取りだし、それを掛ける。

 

「こうしてみると大人しめな少年っぽく見えるだろ?」

「自分で言うか……」

 

取り敢えず、二人は送迎用の車に乗って鎮守府から移動する。

その道中で何度か人間の姿を確認することが出来る。

鎮守府に居るだけだと普段見かける人間は提督ぐらいしか居ないので、

外出をすると何を守っているのかを実感する艦娘はとても多い。

瑞鶴もその例に漏れずに、自分の使命を誇りに思える。

車で一時間程走ったところで瑞鶴と初月は降ろされる。

そこは駅前となっており、多くの人間が行き来して鎮守府とは違いとても賑やかだ。

鎮守府にはそれなりの数の艦娘が所属しているが、賑やかという訳ではない。

それ以前にこれだけの数の人間を見るのは瑞鶴は初めての事だったので圧倒される。

 

(鎮守府に居る時よりも、何だか肩身が狭い気がするなぁ)

 

鎮守府ならほぼ艦娘しかいないので、同族意識からか余り疎外感を感じたことはない。

提督のことも、人間ではあるのだが普段の言動から艦娘に対して

とても理解をしてくれているので、艦娘と近い同族意識もあって人間として意識はしなかった。

だが、此処には知らない人間がとても多くて今まで箱庭で育ってきたという実感が沸く。

 

「瑞鶴、緊張してるのか?」

「ううん、大丈夫だから。ところで今日は何処へ行くの?」

「今日は映画を観ようと思っていたんだ。よくあるヒューマンドラマなんだけれども」

 

ちなみに、鎮守府で要望を出せば娯楽として映画を記録した媒体を入手することは出来る。

それなのに態々街まで出向いているのだから、

いよいよ初月はデートという体で来たかったということが瑞鶴にもはっきりと伝わった。

 

「ヒューマンドラマが観たいという娘も余りいないから、中々鎮守府では観れないんだ」

「あー、確かに私達ってそういうのは興味ない娘の方が多いかなぁ」

「此処まで付き合わせて今更だけれども、大丈夫か?

 もしも他に行きたい場所があったら遠慮なく言ってくれてもいいぞ」

「ううん、映画自体が初めてだし何よりも映画館で観ること自体も面白そうだしね」

 

前に誰かが映画館で見る方が鎮守府の多目的室で観るよりも臨場感や迫力があると聞いていた。

街に来ること自体も瑞鶴は初めてのことだったので、初月の要望を断る要素は全く無かった。

 

「ありがとう。早速だけどもうすぐ開演だからチケットを買って入場しよう」

 

余程楽しみだったのか、普段のクールな雰囲気から年相応の無邪気さを初月は見せる。

そんなギャップに瑞鶴は少しだけ胸が締め付けられるような感覚を覚える。

平日の昼間なので人は少なく、すんなりとチケットと飲み物を購入して座席へと着く。

ほぼ四角形に囲われた空間に、普段は大海原を行くからか閉塞感を覚える。

無意識の内に握り拳を作っていた掌に初月の黒手袋越しの掌が重ねられた。

 

「わかるよ、少し緊張して息苦しいんだろ?僕が着いてる」

「う、うん……」

 

何だか本当の恋人のようなやり取りをして、瑞鶴は顔が真っ赤になるのを感じる。

余りの恥ずかしさに初月の顔を直視出来なかったが、気のせいか耳が赤くなっている様に見える。

間もなく証明が落とされて劇場は夜の様に暗くなり、銀幕に物語が映し出される。

 

 

 

映画鑑賞が終わり、手頃な喫茶店で瑞鶴と初月は休憩をしていた。

アクション映画などや戦争映画などを見たことはあったが、

ヒューマンドラマを観るのは瑞鶴は初めてだった。

それだけに疑問点がとても多く、自分の中では処理しきれない部分もあって少々モヤモヤする。

それを飲み下そうとわざわざ苦手なブラックコーヒーを頼んだが、やはり収まらない。

 

「ねぇ、初月はどうしてさっきの映画を観ようと思ったの?

 映画の内容とアンタのチョイスに不満があった訳じゃないのよ?

 正直言うと初めてあのジャンルの映画を観たから良く分からない点が多くて」

 

初月は涼しい顔でブラックコーヒーを飲んでいたが、少しだけ躊躇う表情をする。

 

「そうだね、僕も瑞鶴と同じさ。わからないからヒューマンドラマを観ているんだ」

「え?どういう意味?」

前の僕の最期(・・・・・・)は知っての通り、大立ち回りを演じてボロボロになって沈んだ。

 その最期が強烈で鮮烈で苛烈だっただけに、僕の記憶に焼き付いて離れない」

 

そう語る初月の表情は悲しげで、恐ろしげ等の色々な感情が顔に出ていた。

普段は加賀ほどでは無いにせよ、表情に出さないだけに瑞鶴は新鮮さよりも違和感を覚える。

 

「別にその事を悔いても、呪ってもないんだ。過去の体験に引っ張られる娘なんて一杯いるしね。

 僕がああいう映画を観て知りたいのは人の心や感情そのものなんだ」

「人の心や感情?」

「そうさ、何故僕に乗っていた彼等は勝ち目もなく、助かる見込みもないあの戦いに身を投じた?

 状況を考えればああするのが最善だったのか?一体何を、考えて思って知ったのか?

 僕はそれが知りたかったんだ。自分に彼等と同じことが出来る心があるのかどうかが」

 

初月は映画を通して、人の感情や心を探りたかったらしい。

それならば街に出て人間と触れ合えば手っ取り早いのだが、それは許されない。

艦娘は極力人と深く交流をすることが許されていない。

人間が艦娘をどう思って居るのかは千差万別、決して良い感情を抱く人間だけではない。

その為に、気晴らしの休暇等を除いて人間と私的なコンタクトを取ることは許されなかった。

だから回りくどいが映画を通じて、人の感情や心を学んでいるという。

 

「そう、だから他の娘達が好む様なアクション物よりもヒューマンドラマなのね。

 じゃあちょっと聞いてみたいんだけれども、どうして主人公はヒロインから身を引いたの?

 本当はお互いが好き同士なのに憎まれ口を叩き合って別れちゃったじゃない?」

「そこは難しいところだけれども、お互いに一緒にいることよりも最善の道を選んだんだろう」

「えー?好き同士だったら一緒にいるのが一番の幸せなんじゃないの?」

「ふむ、それをまさか瑞鶴が言うとは思わなかったよ。

 瑞鶴だって翔鶴と距離を取ることを選んだじゃないか」

「それは……私と一緒だと翔鶴姉が何時かふらっと居なくなってしまいそうだったし」

「状況は違うけれども、あの映画の二人も同じ心境だったんだよ。

 お互いを想って身を引くというのも人間の感情や心には正解の場合があるみたいだ」

 

そう言われてしまっては、瑞鶴も言い返す事が出来なくなってしまう。

確かに状況は違うけれどもまるで自分と翔鶴と同じ選択をしたということになる。

ただそれは一時的なもので、いずれはまたコンビを組みたいという前提はあったが……

 

「成程ね、流石にああいう映画を何度か観ていただけあるわね」

「それ程でもないよ。けれども今の僕だったら彼等と同じことをする決意は出来た」

「そうなの?」

「僕は自分の命を捨てても守りたいと思う物が出来たからね」

「え、それって何?」

「それは……

 

 

 君だよ、瑞鶴」

 

 

 

真剣な眼差しで、瑞鶴を見据えたその言葉は彼女から思考を奪い取る。

これはデートだと初月が言っていたことを瑞鶴は漸く思い出した。

全く心の準備をしていなかったので、どういう返事をするのか考えてもいなかった。

ただ、これだけは言える

 

「私はそんなことを言われても嬉しくない。

 例え好きな人の為だからって、自分を蔑ろにするのは悪いことだと思う。

 私のせいで相手が傷つくなんてこと考えたくない」

「そうだね、それは瑞鶴の考え。答えなんだろう。

 けれども僕の考えだってある、もしもそういう状況になったのだとしたら

 僕は喜んでこの身を捧げてもいい。君に振り向いて貰えなかったとしてもそれで構わない」

 

奉仕と言うには余りにもエゴに塗れていると初月は自覚している。

 

「でも……」

「これは僕自身が導き出した、僕の答えだ。

 例え好きな相手がその考えは間違っていると指摘されても、主張を翻すつもりはない。

 僕だって瑞鶴のさっき言った考えを否定するつもりも肯定するつもりもないからね。

 ただ瑞鶴には見て……いや知って欲しかった。

 僕や翔鶴みたいな考え方をする人だっていることを」

 

翔鶴があの時自分を庇ったのは、信頼されていなかったという訳ではない?

瑞鶴の体中に電流が走った、だとするのならばあの行為の本当の意味は……

俯いてしまった瑞鶴を見て初月は少しだけ険しい顔をする。

 

「すまない、瑞鶴を責めている訳じゃないんだ。色々な考え方があるというだけの事さ。

 そろそろ門限が近い、迎えが来る場所まで移動しよう」

 

その後、再び駅前まで二人は戻って来たときと同じ車両に乗って鎮守府へと帰還する。

帰還した頃には夕日は沈みかけており、薄暗くなってしまっていた。

 

「今日は付き合ってくれてありがとう。それじゃあまた」

「初月!」

 

そのままこの場を後にしようとした初月は振り返る。

 

「アンタの考え方を私は否定出来ない。

 だったらアンタが身を犠牲にする必要がないぐらいに私が強くなってやるわ!

 守られっぱなしなんて、冗談じゃないもの!」

「そうか、それでこそ瑞鶴だな」

 

こんな自分でも瑞鶴はそれを受け入れようとしてくれている、そのことが初月には嬉しい。

結局、初月への告白への直接的な返事ではないがそれでも彼女は満足だ。

今度こそ振り返らずに初月は駆逐艦寮へと帰って行った。

 

(誰かが傷つくのが嫌だったら、私自身が強くならなきゃいけない。

 初月のお陰でその決心が着いたし、翔鶴姉の行為の理由もわかった)

 

決意を新たに瑞鶴も空母寮へと帰るとその途中で同じく帰路についていた加賀と遭遇する。

 

「あら、貴女……」

「加賀さん、ただいま」

 

瑞鶴は朗らかに加賀にただいまを言うが、彼女は怪訝そうな顔をして瑞鶴をまじまじと眺める。

一体どうしたのだろうかと瑞鶴が考えていると

 

「民間人……ではないわよね?それとも新しく配属された艦娘?

 提督からそんな話は聞いていないし……」

「え、ちょっと!私だってば!瑞鶴!」

「……」

 

それでも怪訝な顔をしているので、脱帽していつもの様にツインテールを両手で作る。

すると加賀は表情はそのままに驚いた様に目を見開かせてポツリと言う。

 

「馬子にも衣装ね」

「失礼な!私だってちゃんとおめかしすればこうなるんだから!

 そんなことよりも、明日からまたみっちりと指導をお願いするわ!」

「そう、漸く迷いは吹っ切れたみたいね」

 

自分が動く前に乗り越えてくれたことを加賀は安堵しつつ、また成長してくれたのを実感する。

 




その内にまた補足上げます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。