加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

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久々の投稿申し訳ありません


旗艦として 前編

正規空母加賀の朝は早い、今日も今日とて後輩達の教育に余念がないからだ。

義手を取り付けてから朝の準備が短縮できるようになり、以前の様に早い段階から射場に行ける。

 

「赤城さん、行って来ます」

 

朝の日課を済ませてから空母寮を出て行く。

片腕を失ってからこんなに早く出かけるのは初めてだった。

漸く、誰もいない朝一番の静かな射場へと戻って来ることが出来た。

変わらない射場の雰囲気に懐かしさを覚えつつも決定的に変わってしまった部分を実感してしまう。

以前とは違う部分、それは今の自分には弓を取ることが出来ないことだった。

右腕は漸く物を持つことは出来る様になったが、弓を引くことは到底出来ない。

そこに至るまでにはどう考えてもまだ時間が掛かってしまう。

静かな射場で特に出来ることもないので、リハビリとして練習用の道具で弓を引く練習をする。

パチンコの様な形状をした物にゴムを取り付けたものだが、それすらも引くのが大変だ。

左腕は確りと握ることは出来るが、肝心の右腕の力が不十分なので思った以上にゴムが伸びない。

この訓練も昔に鳳翔さんから弓道を習った際に最初にやらされたもので、とても懐かしく思える。

今更これを使って練習することになるとは思ってもみなかった。

 

(赤城さんと出会ったばかりの私が見たら卒倒しそうね)

 

あの頃の加賀は今ほど余裕は無く、周囲への応対も刺々しいものだった。

自分の実力を過信して誰よりも優秀であると自負をしていたからだ。

それがこの鎮守府にやってきて、自分より遥かに優秀な艦娘と出会ってしまったのだ。

今でこそ小さな自尊心に固執していた自分を恥ずかしく思うが、当時はそう考えられなかった。

加賀が思い出に耽りながらゴム弓を引いていると、射場の扉が開く音がする。

すぐにゴム弓をしまって加賀は瞑想をするように正座して入場した相手を出迎える。

 

「加賀さん、おはようございます」

 

やや眠気を伴いながらも挨拶は朗らかに瑞鶴は行う。

加賀もおはようと短く挨拶を返すと、瑞鶴はまじまじと辺りを見回した。

 

「ひょっとして朝来てからずっと瞑想してたんですか?」

「……」

 

思わず視線が先程しまったゴム弓へと向いてしまう。

瑞鶴はそれに気づいたのか気づいていないのか、さっさと準備運動に入る。

一先ず、右腕のリハビリとして握力を鍛える為に掌の開閉を繰り返す。

ただ何も持たずにやるのではなく、少々重めの物を使うことにする。

数日前に明石から廃材の鉄の棒を見繕って貰ったので、それを使うことにする。

掌を上に向けて親指以外の指にその鉄棒を乗せて掌の開閉をすれば、握力を鍛えられる。

普通にやる分には既に何の問題もない状態だが、鉄の棒を指に引っ掛けるとかなりやり辛い。

思った様に指が動かないが義手なので前腕にかかる負担は感じられない。

今更ながらリハビリをやる度に不思議なものだと感じる。

物を持つという感覚は辛うじてあるものの、痛覚といった感覚は一切感じられない。

まるで力のかけ方を手探りしているようなものだ。

そうこうしている内に葛城もやって来て、稽古をする時間になる。

 

 

 

 

今日は午前は弓での訓練を行い、午後には沖で防空艦隊との合同練習を行うことになっている。

昼食を手早く済ませて、すぐに加賀達は波止場まで移動する。

そこには既に防空艦隊が辿り着いており、沖までの輸送船も停泊していた。

 

「やぁ、瑞鶴」

「お、おはよう初月」

 

瑞鶴はあの出来事以来で初めて初月と訓練を一緒に行うので、少しギクシャクしていた。

当の初月の方はそれを知ってか知らずかいつものクールな態度を崩さない。

この二人の空気にいち早く気付いたのは葛城だった。

 

(まさか瑞鶴先輩の想い人ってあの駆逐艦……!?)

 

自分の憧れの先輩の想い人(と葛城が勘違いしてるだけだが)が駆逐艦であることに葛城は戸惑う。

だが、逆に初風のスタイルを見て葛城は思い始めた。

 

(あ、でも胸はそこまで大きくなくても良いのなら私にもチャンスはあるかも?)

 

変なところで前向きになって葛城はやる気を奮い立たせる。

そして葛城以外にも瑞鶴と初月のやり取りに注目している艦娘は他にも居た。

青い長髪をツインテールにして、その鋭い瞳は油断なく二人の表情や仕草を観察していた。

 

(あの娘がこの鎮守府の一航戦が後継者の一人に選んだっていう瑞鶴ね)

 

鎮守府の過去を知るこの艦娘は五十鈴、一航戦とも同じ艦隊で死線を潜り抜けた猛者でもある。

そんな彼女から見れば、瑞鶴は些か落ち着きが足りない様に見えてまだまだ未熟な印象を覚えた。

あの加賀が目をかけているというのでどんな艦娘だろうと身構えていたが、自分の敵ではない。

 

「それでは本日はお互いの能力を発揮できるように頑張りましょう!」

 

防空艦隊の旗艦、榛名が瑞鶴に挨拶に来る。榛名もまた呉鎮守府の古参の一人である。

本来なら瑞鶴の方が挨拶に行かなければいけない場面だったので、瑞鶴は少々焦る。

 

「宜しくお願いします!」

「緊張しなくても大丈夫ですよ。お互いにベストを尽くしましょう!」

 

だが瑞鶴が緊張をしているのは他にも理由があった。本日の空母機動部隊は彼女が旗艦だ。

更に彼女が率いる空母機動部隊は葛城、瑞鳳だけではなく今回はあの鳳翔も含まれていた。

呉鎮守府において最初の空母である鳳翔が演習とは言え、艤装を付けて出撃するのは非常に稀だ。

これには加賀の意向もあって、鳳翔には出撃をして貰ったらしい。

 

『今後は瑞鶴が中心となってこの鎮守府の航空戦力を纏めるのだから、

 自分よりも年季が上の艦娘でも指示を出すこともあるわ。だから鳳翔さんで慣れなさい』

 

ということだった。鳳翔も快諾してくれたのだが、それでもとてつもないプレッシャーを感じる。

何せ瑞鶴には師匠の師匠のような存在なので、自分がヘマをすれば加賀が怒られることになる。

それに普段はそこまで意識はしていなかったが瑞鳳も自分よりも先輩になるので、

瑞鶴は鎮守府で数少ない空母としての重圧を、はっきりと意識して感じていた。

 

「瑞鶴さん、大丈夫ですか?」

「ひゃい!大丈夫です!」

 

その緊張の原因である鳳翔から声を掛けられたので、瑞鶴は思わず素っ頓狂な声を出す。

 

「緊張感を持つことは良いことですが、緊張をし過ぎるのは身が強張ってしまいますよ。

 そうだ、ちょっと反対を向いて屈んで貰えますか?」

 

何故背中を見せて屈む必要があるのかと不思議に思った瑞鶴の肩を鳳翔の手が掴む。

強すぎず、弱すぎず絶妙な加減で鳳翔は瑞鶴の肩を揉んだ。

一瞬だけ強張った全身が思わずほぐれる様な感覚だ。

 

「偶に提督にやってあげているんですけどどうでした?」

「すっごい気持ち良かったです」

 

そう言われた鳳翔は屈託のない笑顔で満足げに頷いた。

可愛い人だなぁと瑞鶴は和んで、ガチガチに緊張していたのが少しだけ解れた気がした。

 

「瑞鶴いいなぁ、鳳翔さんのマッサージって本当に気持ちいいんだよね」

「終わったら瑞鳳さんにもして上げますね。久し振りに一緒に出撃するのですし」

「鳳翔さんと一緒なのって何時以来でしたっけ、もう一年ぶりぐらい?」

「そうですね、瑞鶴さんと翔鶴さんが出撃するようになってから、私は裏方が多くなりましたし」

「懐かしいですねー、二人とも空母として立派に成長してくれて良かったぁ」

「まぁ、昔の私は本当に口先だけの空母だったし……加賀さんのお陰かな」

 

昔の自分を思い浮かべながら瑞鶴は罰が悪そうに言う。

その辺りも成長を感じられて鳳翔と瑞鳳は満足げに頷く。

 

「実際その通りですね。翔鶴さんと瑞鶴さんの育成をしながら出撃もこなすのは多分無理でした。

 加賀さんが帰って来てくれたお陰でこの鎮守府の航空戦力は立て直せたも同然です」

「あの、そろそろ時間なのだけれども私語をしていてもいいのかしら?」

 

注意をしようと近づいたら自分の話題になっていたので、複雑な表情をしながら加賀が言う。

既に防空艦隊は移動用の輸送船に乗り込んでいた。

 

「うわ、しまった!皆早く準備して乗り込もう!」

「全く、旗艦は貴女なのだから確りとして頂戴。私語を注意することも出来ないのかしら」

 

ぐうの音も出ない正論に瑞鶴も言い返すことが出来ずに準備を進める。

気持ちの切り替えが大事なので落ち込むことはなかったが、反省はしておく。

演習艦隊全員を載せた輸送船は出港し、加賀はそれを一人で波止場で見送った。

 

 

 

沖に着いた瑞鶴率いる空母機動部隊と、榛名率いる防空艦隊はそれぞれの配置へ移動する。

今回の演習はお互いを攻撃し合うものではなく、航空打撃と防空射撃の訓練を主軸にしている。

空母機動部隊は目標の的を全て当てれば勝利、防空艦隊は一つでも的を守れれば勝利となる。

つまりこの演習は瑞鶴たちのやり方によって色々な展開を作り出せるということだ。

 

「という訳でどうやって攻めるの、瑞鶴?」

「うーん、やり方としては幾つかあるかな?」

「はい!やっぱり空母機動部隊は先手必勝!

 私としては最初から全戦力で叩き潰すべきだと思います!」

「それじゃ一回防がれたら一巻の終わりじゃない。

 ここはセオリー通り攻撃部隊を幾つかに分けて繰り返し攻撃を続けるべきよ」

 

葛城は一度に全戦力を投入した短期決戦、瑞鳳は戦力を分けての持久戦を意見具申する。

だがどの作戦も決定打に欠けている。相手は初月、五十鈴、荒潮、榛名を擁する防空艦隊だ。

正面からぶつかって行っては勝利条件を満たすことは難しいだろう。

 

「瑞鶴さん、どうしますか?どちらかの提案を(・・・・・・・・)採用しますか?」

 

鳳翔の台詞から瑞鶴は気付く。

 

「いいえ、どっちの案も採用します」

「どっちの案も?」

「どういう意味ですか、先輩?」

「つまり全戦力を三隊に分散して、多方面からの同時攻撃を仕掛けるってことよ」

「乱戦ってこと?でもかなりシビアなタイミングが必要になるよ?」

「大丈夫よ、瑞鳳。今日の私達には協力な助っ人がいるわ」

 

この鎮守府最古参の空母にして未だに最強との噂もある鳳翔が此処にいた。

彼女の率いる航空隊は文字通りの百戦錬磨、厳しい作戦でも難なく成功させてきた。

 

「鳳翔さん、力を貸して下さい」

「私ですか?」

「仲間の力も使って作戦を成功させるのも旗艦の役割ですよね?」

「成程、ですが私に頼りきりにならずに自分達でも全力を出して下さいね」

 

鳳翔は普段の居酒屋では見せないような、凄みのある笑みを浮かべて念を押す。

その様子に瑞鶴は少々気圧されそうになるが、勿論と力強く返事をする。

返事に納得した鳳翔は早速艦載機の発艦を準備する。

 

「よし!瑞鳳、葛城も発艦をお願い!突撃タイミングは鳳翔さんの合図に合わせて!」

 

四隻が一斉に艦載機を発艦させて三つ編隊へと作り変える。

部隊はそれぞれ三方面へと展開して標的へと向かって行った。

 

 

 

結果として瑞鶴達の空母機動部隊は六つある標的の内の五つに打撃を与えることが出来た。

機動部隊の敗北となってしまったが、防空側が若干有利な条件だったので仕方ない部分もあった。

鳳翔の艦載機の練度はやはり非常に高く、標的に有効打を与えたのは殆ど鳳翔の艦載機だった。

瑞鶴たちの航空隊でもまとまった動きが出来るように

航空隊の指揮も非常に適格にこなしており、瑞鶴はその様子を具に観察した。

演習も終わって防空艦隊と合流を果たす。

 

「お疲れ様でした。そちらの攻撃が余りに適格でしたので肝を冷やしましたね」

 

瑞鶴が健闘を称えに行くと、逆に榛名から健闘を称えられる。

 

「鳳翔さんのお陰ですよ、やっぱり最古参空母の称号は伊達じゃないですね」

 

その鳳翔の艦載機に付いて行けるだけでも凄いと榛名は苦笑しながら言う。

確かに、加賀に鍛えられる前だったら付いて行くことすらも難しかっただろう。

そろそろ輸送船で帰ろうとした時、不意に海面から爆発が起こった。

 

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