加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

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お久しぶりです。残念ながら私は生きています。


旗艦として 後編

余りの轟音に瑞鶴は鼓膜が破れそうになったが、幸い自身に怪我はない。

だが先ほどまで会話をしていた榛名は直撃してしまったようで右舷側の艤装が大破していた。

 

「榛名!大丈夫!?」

「大丈夫です、まだ航行は出来ます……。ただ主砲がもう……」

 

何事かと周囲を確認するが、周囲には水面以外に何も見えない。

砲撃の発射音も、艦載機によるエンジン音も何も聞こえない事から潜水艦による雷撃と断定する。

 

(現在の編成で対潜水艦への有効な打撃を与えられるのは初月と五十鈴だけ。

 けれども対空装備に特化していて、潜水艦への備えはほぼないか)

 

そもそも、鎮守府の近海で潜水艦の跳梁を許しているというこの事態が異常事態だ。

無線で対潜警備艦隊と鎮守府への連絡を取り、退避をするのが最善の手と瑞鶴と榛名は確信する。

すぐに僚艦達にも潜水艦隊への警戒を瑞鶴は厳命する。

しかし問題は大破してしまった榛名だ。

高速戦艦とは言え、大破してしまってはその高速性は著しく損なってしまう。

榛名を護衛しながら、何とか敵潜水艦から逃れなければならない。

 

(どうしよう、敵の編成もわからないし潜水艦相手の艦隊運用なんてやったこともないし……)

 

大破をしている榛名に旗艦を続ける余裕はない。

自分が何とかしなければと思うと、瑞鶴は体の震えが震え出す。

 

「瑞鶴さん、一人で悩む必要はありません。私達が付いています」

 

一人で悩んでいると、鳳翔が諭すように言う。

 

「ですが、決断をしなければなりません。

 大破してしまった榛名さんを輸送船に乗せ、その護衛は必要です。

 問題はその護衛にどれだけの艦艇を付けるかなのですが……」

 

確かにその通りだ。

ここで潜水艦に攻撃する術を持たない自分や葛城が残り続けていても何の役にも立たない。

だがそれにも護衛を付けなければならない。

敵の潜水艦がどれだけの規模なのかもわからず、既に逃げ場など無いのかもしれない。

潜水艦の悪質さを瑞鶴は痛いほど認識させられる。

 

「瑞鶴、何を迷っている?」

 

瑞鶴が思い悩んでいると、初月は覚悟をした表情で言う。

 

「僕を囮として使うんだ。

 そうすれば皆は助かる可能性も出て来るだろう?

 瑞鶴達は呉鎮守府における貴重な航空戦力、榛名と五十鈴は主力艦艇だろ?

 だったら駆逐艦である僕が捨て石になるのが最も損失が少なくなる」

「ふざけるんじゃないわよ!!」

 

瑞鶴も理屈ではわかっていた。

だがそんなことを容認することは出来ない。

 

「そんな命令下せる訳ないでしょ!?仲間を見捨てるなんてこと、私には絶対に出来ない!」

 

何よりもそんなことをしては、加賀に軽蔑をされるかもしれない。

それでも全てを守るには、自分の余りの力の無さに情けなくなってくる。

 

「それでも、旗艦はお前なんだ!この先にどっちかを選び取る必要が出て来る。

 寧ろ選択肢すらない状況に追い込まれることもある。

 その時に命令を下さないといけないのが旗艦なんだ!」

「そうかもしれないけれど……」

 

本当にこれしか方法がないのか?

何とか全員が助かる可能性は無いのか、そんな都合の良いことばかりを考えてしまう。

すると今度は五十鈴が険しい表情で口を開いた。

 

「五十鈴も残るわ!潜水艦との戦いなら初月よりも五十鈴の方が長いわ!」

「駄目だ。五十鈴はその経験を活かして瑞鶴達の護衛に回るんだ!」

「嫌よ!またアンタだけを危険な場所に行かせるなんて五十鈴には出来ない!

 沈むつもりだったら五十鈴も一緒に沈むわ!!」

「これは昔の戦いとは違うんだ!そんなこと気にするな!」

「アンタこそ昔の戦いのことを引きずってるじゃない!」

「二人ともいい加減にしなさい!」

 

言い争う五十鈴と初月は思わず冷や汗を垂らす。

それだけの凄まじい怒気と怒号が、あの鳳翔から発せられていたのだ。

普段の居酒屋で楽し気に料理をしている姿からは想像も出来ない。

あの一航戦を鍛えた歴戦の猛者の姿がそこにあった。

傍観することしかできなかった他の艦娘たちも冷や汗を流していた。

 

「命令を下すのは旗艦です、旗艦の判断を仰ぎましょう」

「私は……」

 

瑞鶴が悩みに沈みそうになると、瑞鳳が意見具申をする。

 

「私と鳳翔さんの軽空母なら潜水艦を何とか足止めできるかもしれません」

 

鳳翔さんが久し振りに戦闘モードになっているので、普段の砕けた口調から瑞鳳は思わず敬語だ。

 

「有効な攻撃とまでは行かないかもだけれども、やってみる価値はあると思います。

 だから初月・鳳翔・瑞鳳で敵潜水艦を牽制しつつ

 残りの艦艇は鎮守府まで退却することを意見具申します」

「でも、それだと僕だけでなく二人にまで危険が」

「大丈夫。これでも私と鳳翔さんは今まで呉鎮守府の航空戦力を支えたのよ?

 正規空母にも出来ないことが出来るってことを見せてあげる!」

 

どうやら鳳翔さんが本気を出したことで、瑞鳳もまた滾るものがあったらしい。

その目にはやる気と決して捨て鉢になっている訳ではない意思が表れていた。

 

「鳳翔さんもそれでいいですよね?」

「勿論です。久し振りに瑞鳳さんの本気を見せて貰いますね」

 

二人から今まで異常のやる気を感じ、瑞鶴は戦慄する。

どうやら先の演習でも鳳翔と瑞鳳は本気を出してはいなかった様だったのだ。

 

「では鳳翔さん、瑞鳳、初月は敵潜水艦の足止めをお願いします。

 私と残りの艦娘は榛名を乗せた輸送船を護衛しつつ退避するわ」

 

瑞鶴は旗艦である自分だけが何も出来ずに退避することしか出来ないことを歯痒く思う。

 

「瑞鶴、榛名の護衛も大事な任務なんだから手を抜かないでね!」

「ありがとう、瑞鳳。では武運を祈ります!」

 

配置につく前に五十鈴は初月の元へと向かう。

 

「初月、今度こそ帰って来なかったら許さないから!」

「沈んでも許されないのは怖いな、やれるだけのことはやるさ」

「絶対よ!その憎らしい顔、もう一度この五十鈴に見せに来なさい!」

 

まるで今にも初月を張り倒しそうな勢いで五十鈴は捲し立てて瑞鶴達の元へと戻る。

初月はその後ろ姿を見て

 

(そんなに僕のことが嫌いなのか……、でも僕の事を心配してくれるなんて五十鈴はいい奴だな)

 

等とぼんやりと考えながら、五十鈴達を見送った。

此処からは、気の抜けない状態となる。

 

「それでは初月さんはソナーで潜水艦の動きを見張って下さい。

 私と瑞鳳さんはいつでも発艦準備が出来るように艦攻、艦爆部隊を準備します」

「艦攻と艦爆……?」

「事は速さを問われるわ。だからソナーに感があればすぐに私達に知らせてね」

 

そう言うと瑞鳳と鳳翔はいつでも発艦準備が出来るように神経を研ぎ澄ませる。

初月もそれに倣って予備で積んでいたソナーに感がないか必死に耳を澄ませる。

僅かな痕跡も逃すまいと、自分だけではなく鳳翔と瑞鳳の命運も自分の耳に掛かっていると

初月は文字通り耳をそば立てた。すると自分たちの後方に多数と思われる潜水艦の感がある。

 

「初月五時の方向より潜水艦の感あり!!」

 

いつの間にか背後を取られたことに驚きつつも、すぐに声を張り上げて鳳翔と瑞鳳に知らせる。

すると目にも止まらぬ速さで鳳翔は弓を取り雷装した艦載機を繰り出していた。

続いて瑞鳳も艦載機を繰り出したがその兵装は爆装したものだ。

鳳翔の艦載機がまず魚雷を水面に向けて降下したが、通常よりも早く魚雷は爆発する。

大きな爆音を発し、水柱が海面を突き出して空へ伸びる。

すると海面から敵の潜水艦が顔を出していた。

そこを獲物を見つけた猛禽類の様に爆装した艦載機が直上から太陽を背に急降下爆撃を敢行する。

 

「そうか、魚雷の爆発で敵もソナーを一時的に使えなくなったから浮上して此方を確認したんだ。

 そこを後続の瑞鳳の艦爆で追撃しているのか」

 

理屈では簡単に出来ることと思えるだろう、

しかし鳳翔程の熟練度で素早く艦載機を繰り出せなければ後手に回るのがこの戦術の弱点だ。

また幾ら熟練の鳳翔であっても、これだけの速さを維持するのは骨が折れるだろう。

更に今回は演習ということで、模擬用の威力の抑えられた爆弾しか鳳翔も瑞鳳も持っていない。

爆雷も予備だけでなくきちんと装備していれば、もっと有効な策が取れたと初月は痛感する。

 

「初月さん、余計なことを考えている暇はありません。すぐに移動をしますよ」

「わ、わかった。けれどもわざわざ敵に居場所を教えるようなものじゃないのか?」

「その通りです。私達の役割は悪まで瑞鶴さん達を逃がすことです。

 引ける注意は此方に引いて瑞鶴さん達の生還と鎮守府の対潜艦隊との合流に努めるべきです」

 

それもそうかと納得して初月は鳳翔と共にその場を移動する。

移動を始めると瑞鳳は偵察機を鎮守府の方角へと放つ。

無線での通信は敵の潜水艦に傍受されてしまう可能性があるからだ。

 

 

 

一方で瑞鶴達と大破した榛名を乗せた輸送船は、

途中で何度か潜水艦に襲われたものの無事に鎮守府まで辿り着けた。

波止場には直々に提督が出迎えてくれた。旗艦として瑞鶴は今回の報告を執務室でする。

 

「そうか、今は鳳翔と瑞鳳が初月に着いてくれていたのか」

「はい、それでも演習用の模擬装備ばかりですのでかなり状況は逼迫している筈です。

 だから提督さん!」

「わかっている、先程瑞鳳の偵察機が鎮守府に戻って来た。

 今は少しずつ鎮守府の近海を西進しつつ散発的な攻撃をする潜水艦の対処をしている様だ」

 

机上に置かれた鎮守府近海の地図を用いて説明をする。

 

「そこで対潜警戒をさせていた艦隊に鳳翔達がいるであろう座標を送り合流させる。

 通信は傍受される恐れがあるから、お前の偵察機でそれを知らせて欲しい」

 

瑞鶴は了解と言って執務室を後にする、廊下には加賀が待っていた。

 

「瑞鶴」

「わかってます、これも大事な任務でしょ。ちゃんと遂行するわ」

 

足早に瑞鶴はその場を去る。

今加賀と会ってしまうと、旗艦瑞鶴として居られなくなる気がするからだった。

波止場に辿り着き、対潜警戒艦隊がいると思われる方角に偵察機を弓に番えて発艦させる。

せめて、自分が出来ることを精一杯にやらなければ旗艦として申し訳が立たない。

自身の祈りが届くことを願って、瑞鶴は自分の偵察機を見送る。

 

 

 

あれから三時間ほどが経過した。

鳳翔の集中力は驚異的で的確に敵潜水艦を炙り出すことが出来ている。

これに負けじと瑞鳳もそれに合わせて爆撃を行っているが、鳳翔曰く少しずつ遅れているらしい。

弾薬の方もあと少しで尽きそうな状況となり、余り楽観することは出来なかった。

 

「瑞鳳さん、休んでいる暇はありませんよ。攻撃隊の準備を」

「……はい!」

 

やはり集中力が切れかかっているのか、瑞鳳は少々息が上がっている。

それでもかなり手早く攻撃隊の準備を済ませ、弓に番えて臨戦態勢に戻る。

この根気の強さはずっと鳳翔と呉鎮守府を支えていたから培われたものだろう。

短い時間だがこの三時間で鳳翔がどれだけスパルタかは初月も身に染みていた。

悲観的になっていると、そんな暇があったら対潜警戒を厳とせよと叱られもした。

やがてソナーに新しく敵潜水艦の反応が現れる、それと同時に初月は声を張り上げた。

 

「ソナーに感あり!十二時の方向!!」

 

自分達の正面に潜水艦の反応があった。

はじかれる様に初月は声を張り上げて鳳翔たちに報告する。

既に鳳翔は艦載機を繰り出して魚雷を投下する。

しかし魚雷は爆発しなかった。不発弾だったようだ。

 

「不味い!!」

 

方角は分かっているので、初月は牽制として爆雷を投射する。

鳳翔は発艦させた艦載機を急いで回収するが、鳳翔の近くで炸裂音がした。

爆雷の気泡で隠れていたが、潜水艦の魚雷が鳳翔の足元まで忍び寄っていたのだ。

 

「しまった、鳳翔さん!!」

 

巨大な水柱が立った後に、鳳翔は艤装を中破させながらも何とか立っていた。

思わず瑞鳳が駆けようとすると、鳳翔はそれを制止する。

 

「今動いてしまっては敵に位置を知られてしまいます。

 初月さんの爆雷のお蔭で敵は此方の位置が把握出来なくなりました。

 これは敵と私達との根比べです」

 

鳳翔は毅然とそう言うと、瑞鳳は何も言えずにその場に固まってしまう。

どうやら鳳翔の言う通り、敵潜水艦は爆雷で一時的にソナーが使えない様だ。

このまま此方が動かず、何も音を出さなければ相手は最終的には浮上して目視するしかない。

念のため、初月はソナーを確認したがやはり敵も動く気はない様だ。

暫く、波の立てる音以外に何も全員の耳には届かなかった。

この海原で漂流しているような気分にさせられる。

波間を眺めていると段々とスローモーションになる錯覚に陥る。

時間の流れがとてもゆっくりな、それでも気が抜けない張りつめた状況だ。

何時でも敵潜水艦を攻撃できる様に瑞鳳と鳳翔は弓を構えたままで待機している。

鳳翔は根比べと言っていたが、二人への負担は尋常ではないので楽観視は出来ない。

初月は無理を通して自分だけでも残れば良かったと後悔していた。

その時だった、波間に黒い影が顔を出したのは――

 

「発艦!!」

 

瑞鳳が先に気付き、艦載機を番えて射る。

鳳翔が後に続いて発艦させるが、それでも間に合わない。

波間の影は口元を狂喜に歪ませて、海中へと消えて行った。

既に移動を開始して二人の爆撃を回避してしまっただろう。

初月が絶望と後悔、憤怒に顔を歪ませると水上電探に感があることに気付かなかった。

 

「敵潜水艦を発見、爆雷を投射します!!」

 

少女の声が三人に届いたと同時に爆雷がピンポイントで投下される。

水中で爆雷が爆発すると気泡が大量に海面へと沸き上がる。

 

「お待たせしました!朝潮、ただいま助太刀に参りました!!」

「皆さんお疲れ様です。後は私達にお任せ下さい!」

 

改二改装された朝潮と吹雪、由良、鬼怒の対潜水警戒艦隊が絶体絶命のピンチに間に合った。

流石の対潜水艦に特化した装備編成の為に、三人があれだけ苦労した潜水艦も駆逐され行く。

緊張の糸が切れた初月は、その場に力なくへたり込んでしまう。

 

「初月さん、大丈夫ですか?」

 

中破した鳳翔が初月の元へとやって来る。

戦場での鬼気迫る雰囲気ではなく、いつもの居酒屋で見せる柔らかい表情だった。

 

「ああ、ごめん。安心したら力が抜けて……」

「諦めずに頑張って良かったでしょう?」

「そうだな、僕はどうしても心が弱いみたいだ」

 

自分の両頬を叩いて初月は喝を入れて立ち上がる。

既に周辺の潜水艦は朝潮達が始末を終えた様だった。

 

「良かったね、三人で帰れて」

「ええ、流石に肌を見せるのは恥ずかしいので早く入渠させて欲しいですね」

「うん、帰ろう。僕たちの鎮守府に」

 

 

 

それから程なくして、呉鎮守府には初月達三人が無事に帰投した。

鳳翔はすぐに入渠させられ、残りの無傷は二人は提督へと報告をする。

 

「そうか、敵の潜水艦は一部隊だけではなかったか」

「はい、明らかに此方の行く先々で遭遇したので複数の艦隊が領海に侵入していたみたい」

 

それはそれでかなり困ったことになる。

此方の警戒網の裏を突いて幾つもの潜水艦が跋扈することを許してしまっているということだ。

対空演習を自分達の侵入に気付いて今回は攻撃をしてきたことも考えられる。

そうなると何時から侵入していたのかが分からない。

 

「対潜警戒を更に厳とするか、二人ともご苦労。ゆっくり休んでくれ」

 

二人が出て行った後に執務室に大淀が入って来る。

 

「提督、ご指示のあった暗号の件ですがやはり解読された可能性もありますね」

「確か暗号変更の指示があったのが三か月前の時だったか?」

「そうですね。大本営からの直接の指示だったかと」

「そうか……暗号を変更した矢先にこの事件とは」

 

苛立ちを隠せずに提督は舌打ちをする。

提督の発言を受けて、大淀は険しい表情をする。

 

「大本営に密通者がいると?」

「おいおい、滅多な事を言うものじゃないぞ大淀。お前の首が飛んでしまうぞ」

「提督も同じことを考えていらっしゃる癖に」

「仮にそうだとしてもこの事は他言無用だ。

 これより鎮守府内での通信暗号は別のパターンを使う。

 それでどれだけ効果があるかは知らんがな」

「鎮守府外への連絡はこのまま変更は無しということですね?」

「勝手に暗号を変更したら変に勘繰られるだろうからな。

 逆にこの程度のハッタリに引っ掛かってくれるほど単純な相手なら良いのだが」

 

嫌な予感を抱えて提督は思わず溜息を吐く。

密かに提督は他の鎮守府への連絡を画策する。

 

 

 

鳳翔達が何とか帰って来たと聞いて加賀は安堵した。

航空戦力を失うのは鎮守府としても大打撃な上に個人的にも鳳翔や瑞鳳を失いたくなかった。

それに何よりも、瑞鶴が責任を感じるような事態にならずに済んで良かったとも思っている。

加賀はもう聞いているかもしれないが、瑞鶴にこの事を教える為に彼女を探していた。

そして、予想は的中しており彼女は射場で訓練に打ち込んでいる。

 

「瑞鶴、鳳翔さん達が無事に帰還したわ」

 

聞いているのかいないのか、瑞鶴は射掛けを続けている。

その態度に少しだけ加賀は苛立ちを覚えたが、構わずに続けた。

 

「貴女は自分の無力さに怒りを覚えているでしょうが、それが旗艦というものです。

 艦隊の司令塔としての役割は時として非情な選択もしないといけないわ」

「そんなの今回のことで身に染みたわ。それでも私はもっと強くなりたい」

「その志しは立派なものよ。けれども過剰な力への過信は危うさと隣り合わせと知りなさい」

「何でよ。加賀さんは最初からあれだけの強さがあるけど、私は弱いままじゃない!

 翔鶴姉の様に改二になれれば、翔鶴姉に置いて行かれることも無かったのに!」

 

そこまで言って、瑞鶴はとんでもない失言をしてしまったと自覚する。

加賀は相変わらず無表情なままでいたが、無意識に自身の義手を擦っていた。

 

「私は自分の弱さを自覚しているわ。

 私の隣に居たあの人は私よりも遥かに先を進んでいた。

 そして、今も私はこうして取り残されている状態よ」

「……ごめんなさい。加賀さんに当たるなんてどうかしてるわ」

「旗艦とはどういうものか貴女はちゃんと理解をしたと思えば我慢します。

 一緒だった榛名や葛城だけじゃない、鳳翔さん達を助ける切っ掛けも貴女が作ったのよ」

 

あの後、瑞鶴の艦載機は朝潮達を早い段階で見つけて連絡を取ることが出来た。

それがあの危機的状況から鳳翔達が生還するまでに繋げることが出来たのである。

本人にイマイチ実感がない様だが、加賀はその事を誇らしく思う。

 

「あ、ありがとう……慰めてくれて」

「初めての旗艦で戸惑うのもわかるわ。経験を積んでよりよい艦隊運用が出来る様になりなさい」

 

これは自分にも言い聞かせている部分が加賀にはあった。

早く右腕の義手の精度を上げて、前線に復帰したいという気持ちが段々と強くなっていた。

その事を今回の事件で加賀は自覚してしまったのだ。

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