加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

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此処からちょっと過去編


第三部
会遇の時は来たり


此処は呉にある鎮守府の赤レンガの廊下、そこに黒く長い髪をした柔和そうな女性が歩いている。

だがその歩みは柔和な表情から反してしっかりと前を見据えた堂々とした足取りだ。

そんな彼女は本日この鎮守府に初めて配属された、艦娘の赤城である。

着任初日の今、彼女はこの鎮守府を直接任されている提督へと挨拶に来ているところだ。

 

(提督に挨拶を済ませたら私はこの鎮守府の一員になれる。深海棲艦との戦いが始まる)

 

そんな事を考えていると赤城は体の内から力が湧いてくる様な気さえしてくる。

ふと、目の前から同じく提督の執務室へと向かっている艦娘がいることに気付く。

黒い髪をサイドテールでまとめ、その涼しい目元から感情を読み取ることは出来ない。

赤いミニ袴を着た赤城とは対照的な青いミニ袴を来たその女性も赤城の存在に気付いたようだ。

 

「赤城です。よろしくお願いします」

 

物腰柔らかく赤城は挨拶をすると、女性は加賀です。宜しくとだけややぶっきらぼうに言った。

そんな彼女の態度に赤城は腹を立てる事もなく、執務室の扉をノックする。

中からやや高めの男の声が入って来るように促してから二人は扉を開けて入室する。

小奇麗な部屋の中でひと際存在感を放つどっしりとした机とそこには白い軍服の青年が居た。

青年の隣には秘書艦である小柄で幼い印象のある艦娘、電が控えている。

 

「航空母艦・赤城、本日付けで着任致しました」

「同じく航空母艦・加賀、本日付けで着任しました」

「ああ宜しく頼むよ。俺は呉を預かっている『提督』だ」

 

鎮守府の執務室でこの恰好をしているので、誰の目にも提督であることはわかっている。

けれども初対面での挨拶のマナーとして提督も一応名乗るのを信条としていた。

ただ個人名を伝えることは提督には出来ない。

この世界の提督になる者達はその特異な境遇から『個人』を捧げて職務に就くことなるからだ。

『提督』の本来の『個人』は大本営のみが知っており、

職務を全うした時に返還(・・・・・・・・・・・)されることになっている。

 

「それでは早速だが二人には本日から鳳翔付きで訓練を受けて貰う。今日からコンビ結成だ。

 何分この呉鎮守府はまだ戦力を揃える段階でな、勝手ながら二人には期待をしているぞ」

「はい、ご期待に沿える様に精進致します!」

 

赤城と加賀は再び敬礼をして執務室を出る。

すると鎮守府の廊下には何時の間にか鳳翔が待機しており、微笑みながら二人を出迎えた。

 

「おはようございます、軽空母鳳翔です。今日から貴女達の教官役を務めることになりました」

「宜しくお願いします。空母赤城です」

「空母加賀です。宜しくお願いします」

「では早速ですが波止場へと向かいましょうか。二人とも艦載機の発艦方式は弓と聞いています。

 弓術に慣れるのも大事ですが、まずは波の上でもまともに動けるかテストをしますね」

 

一瞬だが赤城と加賀は鳳翔の微笑みに凄味が増した様に感じた。

背筋は凍り付き、目の前にいるこの艦娘が只者ではないことを直感で悟る。

二人のこの直感は正しかった事を身をもって知ることになる。

波止場に辿り着き、脚部の艤装を着けて二人は水面の上に立つ。

加賀は少々ふらつく程度だったが、赤城は殆どふらつくことは無かった。

その様子を見た加賀の表情は険しくなり、意地でも転倒をしないように体を強張らせる。

 

「あら、赤城さんは確りと立つことが出来ているんですね。

 加賀さんは少し力が入り過ぎです。それでは海上移動も上手く出来ませんよ」

 

まだまだ重心が安定しない加賀はどうしても体に必要以上に力が入ってしまう。

艦娘は海上移動をして敵の攻撃を避けることも重要だが、これでは上手くいかない。

 

「ですが赤城さんもただ立っているだけでは意味がありません。

 二人とも私に着いてきて下さい。今から海上での回避の訓練を始めます」

「回避の訓練……?もう回避の訓練をするというの?」

「はい、貴女達は提督からの期待だけではなくこの鎮守府全体の期待が掛けられてます。

 申し訳ないのですがそれだけの時間も足りないので、少々スパルタで行かせて貰います」

 

そう言うと鳳翔は弓矢を取り、二人を波止場付近から湾内の沖へと誘う。

沖へ着いた途端に鳳翔は二人へと弓矢を向ける。

 

(本気で回避訓練を始める気ですね……)

(今の私に何処まで出来るのか、それ以前にこの人は何処まで出来るのか)

 

加賀は自身の訓練よりも隣に立つ同僚のことが気になっていた。

自分の嘗ての戦歴から実力にはある程度の自負があったが、赤城はそれを余裕で凌いでいる。

その赤城へと向けられている自身の感情が分からずに戸惑っている。

鳳翔の弓から矢が放たれる、矢は橙色の翼を持った艦載機へと姿を変え、

猛禽類の様に二人に勇猛果敢に挑んで来る。実弾を使っていないが、当たれば痛いでは済まない。

これには流石の赤城もなす術なく、加賀と同じく何度も被弾した。

結局二人は気を失う寸前まで訓練を続ける。

 

「まさか初日で此処まで食い下がるとは思っていませんでした。今日はもうお終いです」

「いえ…………まだ……やれるわ……」

 

もはや膝が踊りっ放しの加賀はそれでも食い下がろうとしている。

 

「いいえ、今日はもう終わりです。艦娘とは言え、海上で気絶するのは危険です。

 赤城さん、加賀さんと入渠ドックまで付き添ってそのまま入渠して今日は切り上げて下さい。

 私はまだ仕事がありますので今日は波止場までになりますね」

「はい、ありがとうございました」

 

呼吸を整えて、毅然と赤城は返事をするが赤城もまた意識を失う寸前まで来ていた。

だが加賀ほど消耗はしていないので、彼女の元へと行き手を差し出す。

 

「大丈夫よ……先に行っていて頂戴」

「そう、ですか。何かあったらすぐに呼んで下さいね」

 

そう言うと赤城は加賀から離れはしたが、すぐにフォローに回れるようにピッタリと後を付ける。

その事に気付けないほど加賀の視野は狭くは無く、どうしようもなく赤城の行動が面白くない。

だが自分の至らなさの結果だということも分かっており、この苛立ちをぶつける相手がいない。

この身を焼く様な感情をこの頃の加賀は知らなかった。

 

 

 

ドックに着くや否や加賀は全身の力が抜けたのかその場に崩れ落ちる。

赤城は少々迷ったが、先程の加賀の言葉を思い出して様子を見るだけに留める。

暫くしても加賀が立ちあがる様子がないので、赤城は彼女の了承を得ずに彼女を抱える。

 

「な、何を……!?」

「鳳翔さんに付き添う様に言われましたので、勝手ながら入渠のお手伝いをしますね」

「私は一人でも平気です!」

「わかってますよ。でも私達は同僚なのですし助け合うのは大切なことだと思います」

 

赤城は抱えた加賀の衣服を脱がせ、自身も脱いだ上で入渠ドックに入る。

加賀は抵抗の意志を見せたが、体に力が入らないので赤城のされるがままだ。

不思議なもので、ドックに入ると徐々に体に活力が戻ることを二人は感じる。

ある程度の気力が戻った加賀はキッと赤城を睨みつける。

 

「その、上手くは言えないのだけれども私は貴女が………………苦手です」

 

精一杯言葉を選んだ末に加賀はそう言い捨てる。

 

「でしょうね、それは何となくわかっていました。

 けれども私は貴女のことを他人の様に思えないので…………恐らく好きなんだと思います」

「そういう貴女の屈託のないところも私は苦手です」

「ふふ、すっかり元気になって来たみたいで安心しました。明日も頑張りましょうね」

 

これだけ苦手であることを告げても何とも思っていないように振る舞う赤城に

加賀は怒りを通り越して半ば呆れていた。

本当にこの同僚をコンビを組んで上手くやっていけるのか不安になる初日だった。

 

 

 

「それで私の部屋にどうして貴女がいるのですか?」

「鳳翔さんからの提案です。コンビを組むからには寝食をなるべく共にした方が良いと」

「私は了承していません。あと勝手に布団を隣に敷かないで下さい」

「でもここ以外ですと玄関先ぐらいしかありませんよ」

「…………勝手にして下さい」

 

苦々しげに加賀は吐き捨てて拗ねるように布団に潜り込む。

 

「おやすみなさい、加賀さん」

「…………おやすみなさい、赤城さん」

 

電気が消え、暫くして隣で何食わぬ顔をして眠り込む赤城の寝息だけが耳に聞こえる。

ほんの一瞬なのだが、赤城に名前を呼ばれた事は悪くないと思い眠りに落ちた。




いつもの如く少し後に補足を活動報告に投稿します
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