加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

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更新の間が空いてしまって本当に申し訳ない


一航戦結成

翌日、龍驤を交えての猛特訓が開始され段々と三人は息の合った連携を取れる様になった。

だが鳳翔もそれに合わせて少しずつ本気を出す様になり、中々彼女から一本を取る事が出来なかった。

何度か惜しい所まではいった時もあったが、常に鳳翔が上を行ってしまう。

そんな三人に、とうとう初出撃の機会が訪れる。

作戦内容の説明が提督から直々に三人と鳳翔に説明された。

 

「本日より貴艦らを正式に第一航空戦隊、通称『一航戦』に任命する」

「一航戦……」

 

嘗ての大戦で勇名を馳せた航空戦隊、それを拝命した加賀は身が引き締まる。

提督もまた自分の鎮守府で航空戦力が整った事に思う所がある様子だ。

 

「作戦内容としては沖ノ島海域にいる敵航空戦力の無力化を狙いたい。

 そこを叩けば敵の通商作戦にも大きな打撃を与える事が出来るだろう」

 

沖ノ島海域のある南西諸島海域は物資が豊富な海域だ。

元々は人類の生命線とも言える場所だったが現在では深海棲艦が跋扈する海域となっている。

敵も物資が豊富であることを知っているらしく、輸送を行っているらしい。

その輸送部隊が何処へ物資を運んでいるのかは潜水艦隊が目下捜索中との事だ。

初めての出撃という事で加賀は緊張を感じる。

これまでの訓練は過酷なものだったが、鳳翔という絶対的な監督のいる訓練だ。

この作戦は実戦であり、絶対的な庇護者もいない自分の身は自分で守る死の世界との境目。

あの大戦では足を引っ張る事もあったが、今度こそは最後まで戦い抜く覚悟を決める。

ふと、自分の隣にいる赤城の様子が気になって加賀は彼女を見つめる。

赤城は平然としておりその表情からは普段と特に変わりのない様子にしか見えない。

緊張感が無い、というよりも普段から彼女はこうした自然体でありながら自然体ではなかった。

それはまだ短い付き合いながらも常に行動を共にして来た加賀には分かりきっていた事だった。

 

「加賀さん、緊張していますか?」

「ええ、貴女は普段通りみたいですけどね」

「そんな事はありませんよ。これでもいつもよりちょっと緊張はしています。

 食欲も今ならご飯五杯までしか喉を通ら無さそうです」

 

ちなみにいつもの赤城ならばご飯は八杯までは食べられる。丼で。

 

「初陣でそれなら十分なのではなくて?」

 

少々お気楽な相方の態度に加賀は少しだけ頭を痛める。

だが、このやりとりで緊張が解れたのを考えると、態とそう言ったのではないかとさえ思えた。

龍驤も同じ気持ちだったらしく、強張った表情から少々柔和な表情に変わっている。

 

「兎に角、ウチらの初陣が決まったわけや!キミらも気合入れてやるんやで!」

「そうですね、初陣なのですから提督や鳳翔さんの期待に応えないといけませんね」

 

実際、加賀ら三人に対する提督と鳳翔のいや鎮守府全体の期待はとても大きい。

これまでの恩義に報いる為にも、作戦を大成功に導くことが加賀らの使命となった。

 

「気合を入れてくれた様で何より。作戦は三日後、それまでに体調をベストな状態に整えておけ

 『貴艦』らの奮闘に心より期待する」

 

提督は大仰な執務机から立ち上がり、三人に向けて敬礼をする。

三人もまた敬礼を返して、執務室を後にした。

 

「しっかし、体調をベストになるまで整えるっちゅーと何をしたらええんやろね」

「私は美味しいご飯があればそれだけでベストなのですが……」

「そんなん君くらいのもんやで。加賀はどうなん?」

「私は……間宮さんのアイスクリームがあれば」

 

加賀はやや躊躇って、恥ずかしがるように声を絞り出す。

 

「ああ、そういやキミ甘いもん大好きやったね……

 ほんなら今日は間宮さんのとこで出撃前の景気づけに食べに行こか」

「龍驤さんの奢りですか!?」

「何でや!確かにウチが誘ったけれども君の胃袋を一杯に出来る持ち合わせなんてないで!!」

「残念だわ、好きなだけ間宮さんのアイスクリームが食べれると思ったのに」

「加賀まで悪ノリしおって……」

 

初陣前の緊張感が良い具合に解れた三人はその後、いつもの様に訓練を行いその日を迎える。

初めての戦場は南西諸島、沖ノ島海域。敵機動部隊と輸送部隊が跋扈する海域だ。

僚艦には響、暁、金剛の三人が空母三人組の護衛として編入されている。

三人ともこの鎮守府の初期からいる古参中の古参で特に響は旗艦経験が何度もある歴戦の猛者だ。

また機動部隊までの露払いとして秘書艦である電率いる水雷戦隊が先行して海域を進んでいる。

 

「もうすぐ別動隊の電達から連絡がある筈なんだけれども」

 

やや不安そうに暁が呟く。

前衛艦隊のお陰で此方への攻撃は非常に少なく、行く先々には深海棲艦の残骸が漂流している。

 

「信じて待とう。電と雷なら何も問題は無いよ」

 

姉の暁とは対照的に旗艦の響は冷静に航路を進む。

暁も響がそう言うなら、と今は納得して前に進む事を選んだ。

やがて、深海棲艦の残骸が一層多く漂う場所までやって来ると響の無線に反応があった。

 

「響ちゃん、此方第一水雷戦隊なのです」

「此方第一航空艦隊だよ。首尾は?」

「敵の主力艦隊を捕捉したのです。

 電達もこのまま加勢に入りたいところなのですが、中破艦が続出ですので帰投します。

 後の事は響ちゃん達に任せるのです」

「了解した、私に言われるまでも無いとは思うけど帰路の警戒を厳とせよ」

 

了解、と電の返答を聞いてから響は加賀達にも状況の説明をする。

この先にこの作戦の成否を別ける敵主力機動部隊がいる。

加賀は初めての実戦を前に体に寒気を覚えた。

小刻みに腕の先が震える。

寒さは感じない、これはどういった震えなのかこの時の加賀には分からなかった。

 

「では第一航空艦隊、突撃」

 

静かに響が言い放つと艦隊は速度を上げて海上を進む。

十分に加速した後から加賀達は艦載機を発艦させる。

 

 

 

 

(訓練通りにやれば大丈夫……)

 

実弾を搭載した艦載機の矢は、訓練で使うものよりも酷く重く感じた。

矢は一直線に青空を切り裂いて飛び、渡り鳥の様な姿になって

雄々しく空を飛んで行く。

初めて、艦載機を飛ばした時の事を想起した。

練習用の矢ではなく、本物の艦載機を飛ばしたあの時は

ただただ嬉しさと達成感がこの胸に沸き上がった。

だが今は本物の戦場、そこで初めて艦載機を飛ばしたこの瞬間から

私は遠い記憶の世界からこの戦場へと舞い戻って来たのだと実感する。

そこからの記憶は曖昧だった。

初めての実戦は訓練とは別物で、状況に翻弄されながらも自分の役目を務めるので精一杯だった。

 

「加賀ぁ!もうちょい自分の方を守らせんと被弾するで!!」

「くっ……わかっているわ」

 

だが既に敵の艦載機に囲まれた状態だった。

響も暁も上空の艦載機の撃墜に専念しているが、どうしても敵の数が多い。

 

「Oh……多勢に無勢デース」

 

金剛は敵の戦艦とタイマンでの撃ち合いに縺れ込まれて、此方への掩護は期待出来そうもない。

このままでは此方の艦載機は徐々に磨り潰されてしまい、制空権を維持出来なくなる。

その時だった

 

「沈メ……」

 

鋭く、凍てつく殺意と共に発せられたのは呪詛の様な言葉。

その声の主は相対する者ではなく、私の隣に立つ同胞の言葉だった。

思わず弓を向けそうになったが、声のした方を見るとまるで能面の様に無表情の赤城さんが居た。

能面の様とはまさに言葉通りで、敵意や殺意を巧妙に隠すが如くその表情には何も浮かばない。

それが、私には心底恐ろしかった。

この人には憎悪も赫怒も無く、ただただ純粋に殺意のみを敵に叩き付けている。

感情というものが、無いのではないか、と。

通常ならば敵というものへの憎悪や怒りが最初の原動力となるだろう。

だが赤城さんにはそれがない、提督が、大本営が敵だと言えば赤城さんにとっての敵となる。

そこには赤城さんの個人的な意思も感情も関係ない、正しく彼女は純粋な『兵器』なのだ。

通常ならば感情を持つ『人間』に近いとされる艦娘でありながら、

彼女は感情を全く出さず『兵器』にとても近い存在だと改めて認識した。

 

 

 

私が戦場で初めて恐怖を感じたのは敵からの攻撃ではなく、相棒のその在り方だった。

 

 

 

第一航空艦隊は赤城や響、金剛の活躍により敵機動部隊を見事撃破することに一応成功した。

敵の空母を大破まで追い込めたとは言え、取り逃がしてしまったのは痛手だが

南西諸島海域の敵の輸送ルートはこれで潰えたも同然だった。

これには提督も大変喜んだ様で、

豊富な資源を採取できる南西諸島の輸送ルートの構築に喜々として取り組んでいる。

戦勝ムードで沸く鎮守府の食堂では、作戦に参加した艦娘達で宴会が行われていた。

殆どの艦娘が明るく飲み食いをしている中で加賀は浮かない表情をしている。

 

「加賀、どうしたん?初陣で作戦成功させたんやで?もっと楽しまなアカンで」

 

とすっかり出来上がっている龍驤が絡んでくる。

 

「龍驤、貴女から見て赤城さんはどう映ったのかしら?」

「赤城か……そらあの状態の赤城には薄ら寒さを覚えたで」

 

酔いが覚めたかの様に、龍驤も神妙な面持ちになる。

 

「なら私は貴女の目にはどう映ったのかしら?」

「加賀、加賀は…………」

 

考え込む様に、それでも適切な言葉が思い浮かばない様子で龍驤は押し黙る。

 

「龍驤、私は今日初陣を終えてやっと人間の言う『感情』という物を理解出来たわ」

 

その胸にあるしこりの様な物、それは赤城への恐怖や嫉妬であると

はっきりと加賀はその時に認識した。

この黒い心の渦こそが、自分を『人間』に近い艦娘たらしめている事にも。

周囲の祝いの喧騒もその渦に呑み込まれていく様に、加賀の耳には入らなかった。

 

 

 

宴会も終わり、加賀と赤城は寮の自室へと戻る。

赤城は宴会でもいつもと変わらずに大いに食べて飲んで、満喫していた。

対照的に加賀は戦勝ムードに置いて行かれた状態で楽しんだとは言えない。

寝る支度を整えていると、赤城がずっと自分の様子を見ていることに加賀は気付く。

 

「どうかしたの?」

「いいえ、加賀さんが心なしか塞ぎ込んでいる様に見えましたので」

「……そうね、正直言うと私は貴女を妬ましく思っているわ」

「…………」

「私と貴女は同じ日に着任した。それなのに貴女はいつも私の先を飛び越えてしまう。

 本当に妬ましい。けれどもそれは間違いなのもわかっています。

 貴女を妬むよりもまずは自分の技量を磨かなければ」

「私は加賀さんは間違っていないと思います」

「え?」

 

思いがけない言葉に加賀はきょとんとする。

 

「私が加賀さんの立場でしたら、私も加賀さんの事を意識してしまうと思います。

 一人だけで鍛錬をしていてもそれはただの自己満足、

 自分の隣に立つ人が居てこそ強くなった事を実感出来るんです。

 だから隣の人が気になってしまうのは加賀さんだけじゃないんですよ」

 

と最後に少々悪戯っぽく赤城は微笑んだ。

やはりこの人には敵わない、こんな黒い感情までもこうして受け入れた上で

完膚なきまでに叩き伏せてしまうのだから。

照れ臭いのか、赤城は布団に頭まで潜り込んでいつもの挨拶を交わす。

 

「おやすみなさい、加賀さん」

「おやすみなさい、赤城さん」

 

この黒い心のしこりはまだ消えないが、それでも前向きになろうと決意して加賀も就寝する。

自分の隣に立つ人がいる事の幸せを噛み締めながら。




とりあえず言い訳は活動報告にて
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