加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

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とても時間が空いてしまい、申し訳ありません。
前回の続きです。


少しずつ

昼食を済ませた加賀は射場にやって来る。

かつては、誰か他の空母が訓練をしていたのに、今となっては時間が止まった様に静かになってしまった。

加賀は左手に和弓を握ると、かつて訓練したように真っ直ぐ前に構える。

右腕がない今、弓を前に構えると重心が崩れてしまい前のめりに倒れてしまう。

 

 (こんな初歩的なことまで、今の私には出来なくなってしまっている)

 

提督はあんなことを言ってくれたが、赤城の後を追い続けていた加賀には今の自分の状況を受け入れ難かった。

生涯の全てを戦いに捧げた赤城の姿が、加賀には非常に鮮烈で、苛烈で、単純に格好良かった。

彼女の才能に嫉妬しなかった訳ではないが、彼女の在り方を理解してからはそんな感情は消えてしまった。

ただ、彼女の隣で在りたい、何処までも着いて行きたいと思い、人並み以上に鍛錬にも打ち込んでいた。

それが今では、一人ではロクに弓も構えられない。

いつしか目標として憧れていた人は、決して会うことの出来ない遠い所へと行ってしまった。

静まり返った射場に来ると、嫌でも自分が取り残されてしまった現実を思い知らされる。

来るべきじゃなかったと加賀が後悔していると、射場の入り口から誰かが入ってきた。

 

 「え、加賀さん!?どうしたんですか!?」

 

小柄な体格の、軽空母・瑞鳳だった。彼女も弓矢を扱った艦載機の発艦方法を扱っている。

これでも彼女は新人二人よりも古参で、弓の扱いに関しては二人よりも完成されており、加賀の指導は必要ないので普段は加賀の稽古を受けていなかった。

倒れている加賀を見て、驚いた瑞鳳は駆け寄る。

 

 「何でもないわ、少しバランスを崩しただけよ」

 「ひょっとして、弓を取ったんですか?」

 「ええ、けど結果はご覧の有り様よ」

 「そうかもしれませんけど、加賀さんが弓を取ってくれて良かった」

 

瑞鳳の言葉に加賀は面食らう。

 

 「加賀さん、あれから翔鶴達の稽古でも弓を取ろうとしなかったから」

 

それに気付いた瑞鳳が遠慮がちに言った。

言われてみれば、新人二人の稽古の時も、自身では弓を取らなかった。

むしろ自ら弓を取る必要がなかったからだったが……

確かに、あれだけ鍛練していた弓をあれから今まで一度も取らなかった。

特に意識をしていた訳ではないのだが、

加賀は自分の心の中の何処かで、弓を取ることを避けていたのかもしれない。

ならば、何故今になって弓を構えに射場まで来たのか?

 

 (きっと、提督のあの話のせいね)

 

先刻の提督の戦力増強の件が原因だろう。

正直、加賀は提督のあの話が出たときに、再び出撃できる、戦場に戻れる、赤城の元に逝けると期待してしまっていたのだ。

結局は新人が増えるだけという、加賀にとっては肩透かしな内容だったが、

それでも加賀の内に眠る、激しい感情が息を吹き返したのだった。

我ながら、単純でとても愚かだとらしくない自嘲をしてしまう。

 

 (それでも私の為すべき事は変わらない

  私はあの二人を必ず一人前に、いえ

  一人前では足りないわ、一航戦を継ぐには)

 

かつて、最後の出撃時に赤城と約束したのだった。

あの二人に稽古をつけることを。

 

 (その二人を差し置いて、私が沈んでしまっては

  赤城さんに合わせる顔がないわ)

 「あのー、加賀さん?」

 

ずっと考え込んでいる加賀に瑞鳳が心配そうに声をかけてくる。

 

 「大丈夫よ、それよりも貴女は鍛練の為に来たんじゃなかったの?」

 「そうでした、もし良ければ私の弓も見てくれませんか?」

 

思いもしない申し出に加賀は面食らう。

 

 「翔鶴達ばっかり稽古をつけて貰っていて、

  ずるいと思ってたんです。

  加賀さんの弓の構え方って凄く綺麗でしたから」

 「そうかしら?赤城さんの方が……」

 「赤城さんも綺麗でしたけど、

  上手く言えないんですけど、

  加賀さんの方が自分を矢に込めてたというか……」

 

確かに、加賀の記憶でも赤城の弓は我を押し殺すようなものがあった。

戦場ではただひとつ、殺意のみを込めていたが、

普段の稽古では無機質な機械の様に恐ろしい程、正確な動きをしていた。

自分もそれに憧れて目指していたが、ついぞ会得することは出来なかった境地だった。

大なり小なり、矢を放つ際には己の感情が矢にこもってしまう。

瑞鳳は、そんな自分の弓を綺麗だと言ってくれた。

 

 「あと内緒なんですけど、瑞鶴も加賀さんが一番綺麗だと言ってましたよ」

 「そ、そう……それはどうでも良いのだけれど」

 

端から見て、そんな風に思われているとは思わなかった。

赤城の領域まではおいそれと、辿り着けるものではないので、

それはそれで自分に親しみを感じてくれているのかもしれないと、加賀は好意的に解釈した。

 

 「良いわ、そこまで言ってくれるのなら見せてもらいます」

 「はい、宜しくお願いします!」

 

その日の午後は瑞鳳の弓の稽古をずっと見続けていた。

 

 

 

夕刻、赤々とした夕日が水平の彼方へ沈み行く頃に加賀は波止場にいた。

作戦は成功を収め、誰も欠けること無く鎮守府に帰って来たとの報を受け、加賀は安堵した。

普段ならば既に寝ている時間なのだが、新人二人が気になって提督や他の艦娘と一緒に波止場で待っていた。

 

 「加賀、夜風は体に悪くないか?」

 「ご心配なく、以前は夜戦にも出ていたので慣れてます。

  提督こそお体は大丈夫かしら?」

 「良く言う。誰のせいで金剛にいらんお仕置きをされたと思ってる」

 

やがて、空は赤色から徐々に濃紺の明けの明星が煌々と輝きだす。

水平線から六つの船影が浮上する。

それを見て、漸くその場にいる皆は安堵する。

報告は無線通信で既に入っていたが、実際に目にしないと不安なのは皆同じだった。

暫くして!主力艦隊達は波止場に辿り着いた。

 

 「ご苦労だった。作戦成功は勿論吉報だが、全員が帰投出来て本当に良かった。

  明日は休暇をとり、しっかりと傷を癒してくれ」

 

全員が帰投出来たが、無傷ということではなかった。

こちらの損害は中破が2隻、大破が2隻だった。

その内、中破2隻は……

 

 「お帰りない、派手にやられたわね」

 

罰が悪そうに俯いている新人二人に加賀が言葉を投げ掛ける。

五航戦の二人は中破状態まで追い込まれ、艤装は殆ど壊れてしまっていた。

空母にとって、中破するということはそれ以降の砲撃戦では無力になってしまうということ。

それが情けないと自分を責めているのか、二人の目尻には涙が湛えられていた。

 

 「一航戦の代わりとして初めて作戦に参加して、無事に帰ってきただけでも十分だわ」

 

加賀は無意識の内に自分の失った右腕をちらと横目で見る。

帰って来ることが出来なかった戦友と、かつての自分の目標はもう帰って来ることは、決してない。

 

 「提督も常々言っていることよ、生きている内は何とでもなるわ。

  だからそんな顔しないで、貴女達の帰投を私に祝わせて欲しいわ」

 

もし、両腕があったなら二人を抱擁することも出来たかもしれない。

右腕のない自分の体を少々恨めしく思いながら、加賀は二人の頭を順番に撫でた。

二人は堪らず、人目も憚らずに泣きながら何かを言うが、嗚咽が混じって良く分からなかった。

次は絶対に役目を全うする、だから今後も稽古をつけてくれ、そんなところだろう。

加賀は二人を宥めながら、入渠ドックまで付き添って行った。

 

 

 

空母寮の自室に戻り、加賀は敷きっ放しにしてしまっていた布団に体を横たえる。

 

 「赤城さん、今日はあの二人がとうとう私達の代わりに出撃して作戦を成功させました。

  無事に帰って来てくれて、本当に嬉しかったのだけれども上手く伝わったかはわかりません」

 

そう言って加賀はカレンダーに記念と印を付ける。

最後に、赤城におやすみを言って、加賀は眠りに就いた。

自分達の後継者がいる、という安心感を胸に抱きながら。




次回予告

三つの指輪は空の下なる空母の艦娘に
七つの指輪は鉄の山の戦艦の艦娘に
九つは果敢なき巡洋艦の艦娘に
一つの指輪は深き深海の提督のため、
影横たわる深海鎮守府に
一つの指輪は、すべてを統べ
一つの指輪は、すべてを見つけ
一つの指輪は、すべてを捕らえて
くらやみのなかでつなぎとめる
影横たわる深海鎮守府に

ひょんなことから綺麗な金色の指輪を見つけたのは
空母でも戦艦でも巡洋艦ですらない駆逐艦だった
実はその指輪は深海棲艦の首魁、深海提督の力を込めた指輪で
これを葬るために駆逐艦・吹雪の苛酷な旅が始まる!

第一章・「遠征の仲間」
20016年1月15日投稿予定



すみません、ふざけすぎました
誰か艦娘とファンタジー小説のクロスオーバー書いてくれぇ
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