時報を聞くとわかるのですが、葛城は提督にも一定の好意を寄せていると思われる台詞があります。
しかし、この鎮守府の葛城は重度の瑞鶴フリークであることを先に断らせて頂きます。
そもそも、このシリーズは提督の艦娘への介入は極力減らしていますのでこういうキャラ付けになりました。
元・正規空母加賀の朝は早い。
大規模作戦完遂から数日が経ち、鎮守府運営も通常へと移行した。
通常に戻ったということは新人二人の稽古も再開したということだ。
今日も赤城との約束を守る為に、加賀は二人を一人前の正規空母とする為に厳しい稽古を課す。
片腕での生活にも慣れが出てきて、準備にも余裕が出来ている。
「いってきます、赤城さん」
日課の挨拶を済ませて、空母寮を後にする。
今日はいつも通り射場へと向かうのではなく、赤レンガの提督執務室へと向かうことになっていた。
以前、提督から聞かされていた新しい正規空母がこの鎮守府に配属する日だった。
通常、艦娘は着任すれば提督の執務室へと挨拶に来るのがしきたりだった。
その着任の挨拶の後に、五航戦と同じく加賀に稽古を付けてもらう予定なので、こうして加賀に迎えに行くことになっていた。
執務室にノックをしてから入室をすると、そこには執務机に頭を突っ伏している提督の姿があった。
室内の異変に加賀は一瞬、身構えるものの良く提督を観察してみれば頭にたんこぶを作って気絶してるようだ。
傍らにはいつも金剛が淹れている紅茶がまだ暖かい状態で放置してあったので、恐らく金剛も此処にいたのだろう。
そこから推測される事実とは―――
(また痴話喧嘩でもしてたのね)
呆れ果てて加賀も思わず溜息を吐く、気絶していた提督は加賀が入室して来た気配で目が覚めたらしく唸りながら気だるげに頭を上げた。
「加賀じゃないか、どうしたんだ?」
「今日配属される筈の新しい子を迎えに来ました」
「ああ、そういえばそうだった」
金剛に頭を打たれたショックなのか、提督の記憶は少々混濁しているようだった。
何処ぞの鎮守府の金剛は戦艦の砲弾を裏拳の一撃で弾いたというから、侮れない。
「思い出したぞ……新しい艦娘のことで戦闘時には服を脱いで戦う、会うのが楽しみだな、と俺が言ったら何故か金剛に殴られたんだ」
「毎回思うことなのだけど、よく提督は生きているわね」
艦娘には爆撃されたり、対空射撃をされたり、ケツバットをされたりと提督の被害には枚挙に暇がない。
それは兎も角として、提督の性格だから鼻の下を伸ばして言っていたのだろう。
ここの鎮守府の金剛はやや嫉妬深い嫌いがあるので、殴ったと思われる。
(それさえ無ければ頼りになる艦娘なのだけれども)
「加賀も折角来たんだ、座って待ってなさい」
お言葉に甘えて、執務室の後方の椅子、本来ならば秘書艦が待機している席につくことにする。
(怒った金剛は恐らく執務室を出て行ってしまったので、丁度この席が空いていた)
暫くは提督が執務しているのを眺めながら、新しい艦娘が来るのを待つこととした。
ところ変わって、五航戦の二人は先に射場に着いて自主練習を始めていた。
瑞鶴曰く〝加賀さんがいないところで練習して、加賀さんが知らない内に弓術を完璧に形にしてギャフンと言わせたい〟とのことだった。
ギャフンと言わせたいは兎も角、翔鶴も弓術の訓練は多いに越したことはないと同意だった。
集中力を研ぎ澄ませ、的をしっかりと見据えて弓を構える。
「ねぇ、翔鶴姉」
「え!?」
不意に声を掛けられたので素っ頓狂な声を出してしまい、集中力が途切れてしまう。
その拍子に放ってしまった矢は的に届くことはなく、横の盛られた土に空しくその鏃を突き立てた。
「どうしたの、瑞鶴?弓を構えている間は声を掛けちゃ駄目って言ったでしょう?」
「ごめん、それよりも何か変な視線を感じない?」
何処か瑞鶴が落ち着かないという様に周囲をきょろきょろと見回す。
以前は、女性ばかりということもあって鎮守府に不審者の出入りが多かったこともあったらしい。
しかし、殆どが深海棲艦と戦う実力者ばかりから何時しか不審者も怖がって近付かなくなってしまっていた。
そんな中で、不審者が鎮守府に侵入したとは考え難い。
「ひょっとして深海棲艦のスパイとか?」
「それも考え難いけれども……索敵機で一度探ってみましょう」
練習用の矢から普段、戦闘で使う索敵機の矢を弓に番えて放つ。
矢は艦載機の姿を取り、射場のぽっかり開けた空から周囲を旋回する。
すると、索敵機から報告があった。
「よし、見つけた!行くよ翔鶴姉!
それにしても自分が既に補足されているのにも気付かないなんてひよっこみたいね」
「待って、瑞鶴!まずは提督に報告をしないと」
「そんなことしてたら逃げられるかもしれない!」
そう言うと瑞鶴は射場を飛び出し、不審者がいる場所へと駆けて行った。
提督の執務室、加賀がこの部屋に来てから1時間は経過していた。
余りにも遅いので、流石の加賀も痺れを切らしていた。
「本当に今日着任しに来るの?」
「その筈なんだがな、もう来ていても可笑しくないが何かあったのか?」
段々と二人は不安になりつつあった、すると窓ガラスを破って何かが執務室に入って来る。
「これは、瑞鶴の偵察機ね」
「俺の部屋の窓が……家具職人に頼んでまで作ってもらった窓が」
「提督、それどころではないみたいよ。不審者が鎮守府に侵入したみたいね」
無残にも破壊された自分のお気に入りの窓を壊されて提督は意気消沈していたが、加賀が容赦なく言う。
偵察機は加賀の手のひらに着地して妖精がぴょんぴょんと跳ねて急ぐように催促していた。
「不審者だと?今更こんな艦娘ばかりの場所に変態が入って来るとは思えないが」
「深海棲艦のスパイの可能性もあるわ、それに放っておいたらあの子達が独断で動いてしまうかもしれない」
「あー、そうだな。翔鶴は兎も角として瑞鶴なら先走って行動してそうだ」
本当に深海棲艦が潜入しているとしたら、それは鎮守府が瓦解し兼ねない危機に陥ったということ。
これは余所の鎮守府の話なのだが、フードを被ったとある深海棲艦一隻の侵入を許しただけで甚大な被害を被り、更にとある艦娘一隻が誘拐されてしまった。
後に誘拐された艦娘は無事救助されたのだが、その圧倒的な深海棲艦の強さは周知の事実となった。
本来ならその深海棲艦は南方海域の深部にしか姿を現さない個体だったらしいが、そういった異例の出来事があってからより一層提督達の恐怖を煽った。
(もしも、この鎮守府にあの深海棲艦が紛れていたのだとしたら、戦うことが出来ない私が居ても足手まといになるだけね)
だが、加賀はもう仲間を見殺しにすることは出来ない。
「提督」
「わかっている、止めてもお前は二人の元へ行くだろうな。金剛!」
いつもよりも真面目な声音になって提督は軍帽を被る。
秘書艦の名前を呼ぶと、執務室の扉が開き何時からか廊下で聞き耳を立てていた金剛が入って来た。
「状況はお前が盗み聞いた通りだ。すまんが加賀と一緒に現場へと急行して翔鶴と瑞鶴の安全を確保して欲しい」
「Yes,sir!私に任せるデース!」
「俺は念のために第一艦隊の面子に召集をかけて現場へと向かうよう指示を出す。
蜜に連絡を取れ、無理と判断したなら深追いはせずに第一艦隊が到着するまで待て!」
「加賀は私の後に続いて下サーイ!私がescortしマース!」
金剛と加賀は執務室を後にして、異変があったという射場へと向かう。
鎮守府内には放送で異変があったことを知らせはじめ、他の艦娘達にも緊張が走る。
赤レンガから射場までは全力で走れば10分も掛からない場所にある、しかし加賀は片腕が無く全力疾走しながらバランスを取るのが難しいので少々時間が掛かってしまった。
現場に辿り着くと、そこには翔鶴と瑞鶴と、見慣れない人の形をした者が居た。
良く見れば見慣れないそれは瑞鶴の腰にしがみついている。
加賀の脳裏に、あの
「瑞鶴!すぐに離れなさい!!」
「え、加賀さん!?それに金剛さんまで!?」
普段の落ち着いた声音とは違う、悲壮な加賀の叫びに驚いた瑞鶴と翔鶴が振り返る。
「お待たせしマシター!私が来たからにはもう大丈夫デース!」
「ああ、金剛さん、ちょっと待って!違うのこの子は」
「
翔鶴が何かを言おうとするが、金剛は聞く耳を持たずに瑞鶴と彼女にしがみ付く不審者に突撃する。
高速戦艦と言われる彼女の全力疾走はかなり素早いもので、既に彼女の意思以外ではこの場にいる誰も止めることは出来なかった。
「ほら、アンタもいつまでも私にしがみついてないでキチンと誤解を解くためにも自己紹介しなさい!」
「はい、瑞鶴先輩!」
いつの間にか瑞鶴の腹部に顔を埋めていた不審者が顔を上げて瑞鶴に返事をする。
加賀は何処かでその顔を見た、と思った瞬間に思い出した。
「初めまして、先輩方!私は本日付けで配属されることになりました、雲龍型正規空母三番艦の葛城です!」
「Rookie!?」
これには金剛も驚いたらしく、急ブレーキをかけるが時既に遅く、その場にずっこけてしまう。
確りと敬礼をした葛城を見て、加賀は以前提督に見せてもらった彼女の資料と写真を思いだして彼女が不審者ではないことを認識した。
「加賀さん、金剛さんごめんなさい。瑞鶴も私も早とちりをしてしまって」
「いいえ、まさか提督の挨拶よりも先に貴女達に会いに行っているなんて予想外だったわ」
「は?葛城、アンタまだ提督に挨拶も済ませてなかったの!?」
「はい、早く瑞鶴先輩に会いたくて先に射場に来ちゃいました!」
「来ちゃいましたって、なんて奔放な子なの」
それは瑞鶴に言われたくないことだと加賀は内心思ったが一応黙っておいた。
このままだと第一艦隊が此処にやって来るので加賀はすぐに瑞鶴に提督への連絡機を出す様に促す。
すぐに瑞鶴は矢を番えて放つと、葛城はその青みがかった黒い目を一杯に輝かせて瑞鶴を見つめていた。
「流石は瑞鶴先輩、綺麗な所作ですね!」
「そ、そうかな……ただ艦載機を発艦させただけなんだけど」
「とにかく葛城、貴女は執務室に行って提督に挨拶を済ませなさい。私が付き添ってあげるわ」
「私もテイトクの元に帰りたいので一緒に行きマース」
「はい、よろしくお願いします!」
瑞鶴以上に奔放な教え子の登場で、加賀の胃は少し痛くなりつつあった。
後で明石の処に寄って胃薬を貰おう、と加賀はぼんやりと考えながら金剛と葛城を伴って執務室へと向かう。
夜になり、加賀は空母寮の自室へと戻って来た。
あの後の稽古はかなり滅茶苦茶なものとなってしまった。
瑞鶴が弓を取る度に葛城は瑞鶴を見つめて、彼女が当てれば賛辞を述べるのを繰り返すので加賀はそれを窘めるのに気力が削がれてしまった。
後半は流石に葛城も控え始めたが、それでも目線は常に瑞鶴を追い駆けており、これはかなり手を焼くことになりそうだと頭を抱えさせられた。
「赤城さん、今度ばかりは私も自信が持てないです……おやすみなさい」
思わず日課の赤城への挨拶に弱音を交えてしまう。
加賀は力が抜けたように布団に崩れ落ちた。
次回予告
その時、リンガの星が一つ、瞬いて消えた。
その時、一つの時代が、終わりを告げた。
次回、リンガ艦娘伝説第82話 『提督、還らず』
リンガの歴史がまた一頁
葛城がただの瑞鶴フリークになってしまった。
今回は提督の出番多めになりましたが、次回からは艦娘同士の掛け合い中心に戻る筈です。
提督と艦娘の絡みは外伝的なもので補完出来ればなー(書くとは言っていない
ちなみに次回予告で提督に死亡フラグ立ってますが本編には全く関係ありません(何
あと深海棲艦の侵入した鎮守府が気になる方は電撃マオウで連載中のつむじ風の少女をどうぞ!(ダイマ