その前に前回は描けなかった加賀と葛城のお話しを……。
元正規空母、加賀の朝は早い。
いつものように新人達に稽古を付ける為に、一足先に射場へと向けて準備を進める。
先日、増えた新しい正規空母の葛城だが、これまた特殊な弓術を扱う艦娘だった。
矢に破魔の札を付けた独特なもので、加賀達が扱う弓と、龍驤達が扱う陰陽術を足して割ったような運用方法を取る。
これには当初、加賀も頭を悩ませたが艦載機を満足に飛ばすことも出来ないようでは意味が無いので、
葛城も翔鶴や瑞鶴と同じように、まずは弓で矢を放つ稽古を付けさせる事にした。
陰陽道の部分は、他鎮守府の龍驤に相談をしながら進めるとしても、まだその時期ではないと後回しにしている。
射場に辿り着くと、既に教え子の三人は自主練を行っており、加賀が入って来たのに気付くと練習の手を止めて寄って来た。
「「「おはようございます!」」」
「三人ともおはよう。では葛城は引き続き矢の構えから射るまでの一連の動作を確認します。
翔鶴と瑞鶴は皆中を出すまで此処で稽古、それが済んだら赤レンガの執務室へと向かって頂戴」
何時もと違う指示に三人が意表を突かれた顔をする。
提督に口止めをされてはいないので、加賀は思い切って本当の事を言う。
「貴女達二人の内、どちらかが更なる改装を受けられるそうよ」
「え、更なる改装ってことは……」
「そう、大本営から正式に貴女達五航戦の改二改装の許可が下りたらしいわ」
「おめでとうございます!瑞鶴先輩、翔鶴先輩!」
自分の事の様に嬉しいのか、葛城は瑞鶴に抱き着いていた。
加賀がじろりと窘める様に睨むと、瑞鶴は葛城を引き剥がす。
「どちらか、と言いますと同時には改装は受けられないのでしょうか?」
「そうね、改装設計図は数は足りているのだけれども、貴女達の改装にはもう一つ必要なものがあるそうよ」
「必要なもの……?」
「先の大規模作戦の成功を鑑みて、大本営が試作段階の甲板を提督に渡したらしいわ。
試作段階というだけあって希少なものらしく、二隻分は用意できなかったみたいだけれども、
いずれはもう一つ配備される予定みたいね」
加賀の説明を聞くと、翔鶴はそうですかと平静を装って呟くように言った。
姉妹揃っての改装ではないことが気掛かりなのか、それは加賀にはわからない。
やがていつも通りの稽古が始まる。葛城は放っておくと瑞鶴の方ばかりを気にするのでここ数日は加賀が付きっ切りで稽古を見ていた。
最初の頃よりも大分様になっており、加賀の見立てでは弓の扱いに関しては技術はあと少しで物になるというところだった。
しかし、先にも述べた様に彼女の艦載機の発艦方法はほぼ固有の方法であるだけに、最終的には実戦での経験で形作るしかない。
今の彼女の心構えでは、戦場に出すにはまだまだ早いというのが加賀の判断だった。
五航戦は既に二人とも皆中を出したので、赤レンガの執務室に身なりを整えて出発していた。
「葛城、貴女の技量は申し分ありません」
「本当ですか!?」
「ただ、貴女は瑞鶴への憧れが強すぎる。戦場で今みたいに視線で瑞鶴を追っていると生きては帰れないわ」
「す、すみません、気を付けます」
「どうしてそんなに瑞鶴の事を気にするの?」
加賀は葛城と二人だけになったことで、疑問に思っていたことを聞くことにした。
「それは……昔、私があの大戦で瑞鶴先輩を見送ることしか出来なかったからです」
あの大戦とは、艦娘がまだ人の形になる前の本来の姿で戦っていた頃の事だった。
最期の戦いに赴く前の瑞鶴を葛城は知っていた。
「私が配属される鎮守府に瑞鶴先輩がいると聞いて本当に嬉しかったんです。
今度こそは先輩と一緒に戦いたいと思っていたから
私には直接は見せなかったんですけど、先輩本当は凄く寂しかったんだと思います。
お姉さんを喪ってしまって、私も後から姉を喪ってしまったから良くわかるんです」
「そう、それで視線で瑞鶴の事を追いかけていたのね」
加賀は少し考えて、自分の事も話そうと決めた。
「私にも本来なら妹がいる筈だったわ。
けれども
私はあの子達に居ない筈の妹を重ねて観ているのかもしれないわ。
だから、少しは貴女の気持ちもわかるつもりではいるわ。
けれども、今の貴女の状態では戦場に出す訳にはいかない。
瑞鶴と一緒に戦いたいのなら、どうすればいいのかはわかるわね?」
「はい、加賀さん今まで集中出来なくてすみませんでした。先輩達の力になる為にも、私頑張ります!」
「期待しているわ、ウチの鎮守府では待望の三隻目の正規空母になるのだからね」
加賀の言葉に葛城は真剣な面持ちになる。
現状、この鎮守府に所属している正規空母は五航戦の二隻と、葛城しかいない。
かつて鎮守府を支えていた四隻の正規空母は、もういないのだ。
自分の置かれている状況と、掛けられている期待を改めて認識をした葛城の稽古は、今までよりも実のあるものとなった。
余り自分の身の上を話したことがない加賀だったが、今回は腹を割って話して良かったと思っていた。
(思っていたよりも素直な子で良かったわ)
先に自らのことを曝け出してくれたことで、加賀も同じく素直に気持ちを述べることが出来た。
目の前の少女の素直さと直向きさは見習うところがあると、少しだけ加賀は思った。
(あの二人にも、まだ話したことはなかったわね)
自分の居た筈の妹の話は赤城にしか話したことはなかった。
赤城もまた、姉が居た筈だったのだが加賀と同じ理由で喪ってしまっている。
そういう部分でも赤城には共感を覚えていたので、鎮守府に所属している艦娘の中で唯一、赤城には素直に気持ちを述べることが出来たのだった。
あの二人には教育者として多大な期待を掛けている、文字通りの愛弟子なだけに何処まで近い距離感を取っていいものか戸惑いを感じてもいた。
こうして葛城が着任しても、二人への想いは変わらないので、無理に関係性を変える必要もないのかもしれない。
(それでも、偶には手放しで褒めてあげようかしら)
そんなことを考えながら、加賀は葛城の稽古に集中するべく、雑念を振り払うように頭を横に振る。
余り手放しに褒めると翔鶴は兎も角として、瑞鶴が調子に乗ってしまう。
やがて、五航戦の二人が赤レンガから帰ってきた。
「加賀さん、ただいま戻りました」
「おかえりなさい、それで?提督は何と仰っていたの?」
「やっぱり、私と翔鶴姉のどっちかしかまずは改装出来ないって言われちゃいました」
「そう、そのどちらかというのはもう決まったのかしら?」
「はい、練度的にも私から改装するということになりました」
「私は、正直反対だったんだけどね。
今回の改装って今までの第二改装とは違うって言われて……何だか実験台みたいで」
今回の改装の内容については加賀も聞かされていた。
改装後に、さらに高い練度で改装が出来、異なった形態をコンバートすることが出来るという。
前例の無い改装に、加賀もましてや提督も不安を覚えなかった訳ではなかったが、大本営の決定を覆せる訳がなかった。
実験的な意味合いも非常に強い為か、準備が出来次第に改装を実行しろというのも前例の無いことだった。
「瑞鶴、そんな事を言っては駄目よ。私達がやっと手に入れたチャンスだと思わないと」
今朝、初めて第二改装の話を聞かされた時とは裏腹に、翔鶴の表情は明るかった。
大方、瑞鶴が実験台になるのではなく、自分が最初に改装をすることになったので安心したのだろう。
「改装は何時行う予定なの?」
「明日には決行するそうです、ですので明日の稽古は申し訳ありませんが、顔を出すことが出来ないと思います」
話に聞いてはいたが、本当にすぐに改装をしてしまう様で、加賀も流石に驚きを隠せない。
「そう、無事に改装が終わることを期待しているわ」
「はい、私がいない間、瑞鶴をよろしくお願いしますね」
「ちょっと、翔鶴姉!私は子供じゃないんだからそんなこと言わなくてもいいってば!!」
子供扱いされたと気に障った瑞鶴はツインテールを揺らしながら抗議する。
「何を言っているの、加賀さんには稽古をつけて貰っているのだから当然のことでしょう?」
「諦めなさい、瑞鶴。姉にとって妹は幾つになっても妹なのだから」
加賀にまでこう言われてしまうと、瑞鶴はもはや何も言えないでいた。
例え、存在することが出来なかった妹でも、加賀には確かに妹がいて、その姿を目の前の二人に重ねている。
妹だと本人の前で直接は言わないが、この先翔鶴や瑞鶴が改装を受けて、どんな姿になっても妹のような存在であることは変わりようがない。
そう、加賀は思っていた。
ちょっと今回は短めで
次に書くお話しですがプロットではちょっと加賀さんの出番が少なめになると思います。
次は翔鶴姉の改二のお話しと瑞鶴との関係性を掘り下げたいと思います。
急ぎでの投稿なので次回予告はお休みですー。