先の大規模作戦から数日が経ち、私達五航戦に更なる改装計画があるという噂が囁かれるようになった。
ある日、朝の稽古の前に加賀さんから一通り稽古が終わったら提督のいる赤レンガの執務室へ向かうように指示を受ける。
いよいよ、この日が来たのだと私は重圧に潰されてしまう思いに駆られた。
この鎮守府を襲った機動部隊壊滅の日、あの悪夢を払拭する時が来たのだ。
あの後、私達は一次改装を受けた。改装後の瑞鶴の装束を見て私は動揺を隠せなかった。
あれは
これ以上、瑞鶴が私の知らない瑞鶴になってしまうことが本当に怖かった。
嘗ての大戦で私は瑞鶴よりも先に沈んでしまった。
私が沈んでからの瑞鶴の戦歴は、悲惨なものだった。
瑞鶴本人は誇りに思っている様だったが、私には聞くに堪えない事柄だった。
せめて、私がもっと上手くやっていれば……本来瑞鶴がやったことは
これ以上、瑞鶴があんな目に遭わない様に、私は何を為すべきなのかを考えない日は無かった。
今以上の力を手に入れる為に、瑞鶴と共に加賀さんに弟子入りをして、アウトレンジ戦法を確立する為に瑞鶴程ではないが短い弓からより射程距離の長い長弓の鍛錬を行った。
それでも、先の大規模作戦では瑞鶴を庇い切れずに二人揃って中破をしてしまった。
加賀さんも提督もああ言ってくれたが、今の私達には――
いえ、私にはあの一航戦のような――赤城さんの様な苛烈さも加賀さんのような気高さも全然足りない。
それは私に確固たる力とそれに基づく信念が足りないからではないのか?
そう思い至った上での更なる改装の話、私は自分が先に改装を受けることを提督に強く進言した。
私の熱心さに今思えば、提督も瑞鶴も唖然としてしまっていたが、そんなことはその時の私には些末な事に思えた。
提督の承諾を受け、私は今、明石さんと工廠にやって来ている。
第二次改装は他の艦娘でも行われていることで、今更特に身構えるものではない。
しかしながら、今回は二つの形態を使い分けることが出来るコンバート形式という前例の無いものだった。
少なからず、私は緊張し右の頬を汗がつぅっと滴るのを自覚する。
いつも見慣れている筈の工廠は薄暗く、まるで影が私の体を絡めとろうと蠢いている様にも見えた。
「翔鶴さん、緊張してますか?」
不意に隣の明石さんから声を掛けられて私は体を一瞬だけ強張らせてしまう。
やや遅れて、私はおずおずと頷いた。
「きっと大丈夫です!この工作艦明石が責任を持って、翔鶴さんの改装を成功させて見せますから!」
屈託のない笑みで、右腕で自分の胸元を叩いて明石さんは私を勇気づけてくれる。
脇にある握りこぶしが作られた左手は少々震えている。
それを見て、目の前に居るこの艦娘も前例の無い事に畏怖の念を抱いていることに気付く。
この艦娘は私と同じだ、目の前にある重圧に潰されそうになっても必死に這いつくばって、抗っているのだ。
ならば、彼女の目の前の重圧を取り除いてあげたい、私の改装で彼女の自信に繋がるというのならば、共に満足のいく結果を残したい。
私と同じ道を歩む事になる他の艦娘達の、何よりも瑞鶴の行く道を灯してあげたい。
「明石さん、よろしくお願いします。私も精一杯頑張りますから」
明石さんの左手を自分の胸元に引き寄せ、両手で優しく包み込む。
いつか、瑞鶴が加賀さんにしてあげたことを思い出す。
「はい!二人でこれからの道を切り拓いていきましょう!」
決意を新たにし、蠢く影が横たわる工廠へ私達は入って行く。
私が次に目を覚ましたのは、次の日の朝のことだった。
やはり、慣れない改装だった為か通常よりもかなり時間が掛かってしまったらしい。
体が横たわっているベッドの隣には、鈍い黒色をした胸当てと、
それを見て、この改装は成功したと確信して、私は安堵の息を漏らす。
ふと、反対側の窓側を見やると、其処には私が目覚めるのを待って、パイプ椅子に座ったまま眠ってしまった瑞鶴の姿があった。
いつも同じ部屋で寝ているので、彼女の寝顔は見慣れているのだが、今は無性に最愛の妹の寝顔が愛おしく思えてくる。
羽織らせる物も特に無いので、寝顔を少々堪能してから私は瑞鶴を起こす。
「瑞鶴、そんなところで寝ていたら風邪を引いてしまうわよ。瑞鶴?」
「ん……翔鶴姉?良かった、意識が戻ったんだね」
目が覚めるや否や、瑞鶴は私に抱き着いてきた。
彼女の髪の匂いが鼻孔をくすぐる。明石さんの腕前を疑う訳ではないが、漸く私は自分が無事に改装を終えられたことを一層強く感じることが出来た。
「ありがとう、瑞鶴。貴女に抱きしめられてやっと安心出来たわ」
瑞鶴に抱きしめられたのは、何時以来だったろうか。
私は、例えこの
今回は以前予告した通り加賀さん以外の艦娘がメインになるお話しです。
現状3部構成になる予定ですが長いのとダレそうなので次は早めに投稿したいと思います。
翔鶴姉と瑞鶴と花見したい……(切実