爆発だの、膝枕とか、気絶など騒がしく愉快な日から翌日。
昼休み中の
「それじゃ呼び出すぞ。リーズシャルテ、何かあるかもしれないから離れてくれ」
「おーう、けど
「これから見せる
装甲衣の代用に、機竜を纏うのに適した『装衣』を身に付け、ライは布で刀身を隠した一振り
橙色の柄の
そして目を閉じ、脱力。呼吸を整え、布を勢いよく剥がし、
「――起動せよ、魂魄捧げ、主に仕える橙色の騎士。仕えるべき君子のため忠義の嵐を降らせ、己の忠節に殉じろ《サザーランド・J》」
このことから
バギン、と罅割れる甲高い音が響いた。
姿を現したのは、薄青紫の頭部と橙色の体を持った
「……酷いな」
召喚された《サザーランド・J》を見たリーズシャルテの率直な感想だった。世界中にその暴力的な力を振りまいている
《サザーランド》。
その
そもそもどうして、ライが愛機でもない
機竜研究者として
アタックされたライは、当然拒否した。
倒した
拒否を突きつけられてもリーズシャルテは折れることはなかった。技術の簒奪といった邪な思いは抱かず、真っ直ぐな探求心をライに何度もぶつけたのだ。
悪意が潜む頼みであったのなら、ライは紙屑と同様の扱いで握り潰す。しかし、向かってくる相手にそんなものはない。ひたむきに思いをぶつけてきている。その純粋な姿が、かつて守り切れなかった者と重なってしまった。
そして、彼女ほど優秀な技術者に見せれば、未だに存在する
その見せて貰った
殆ど差が無いからこそ、《サザーランド・J》の状態の過酷さがよく解る。かつての戦闘から修復はされておらず、辛うじて原型を留めているといった所か。この状態から万全の姿に戻すことは無理だと断言できる。
「
《サザーランド・J》の状態に構わずライは身に纏う。それだけで装甲に亀裂が入り、至る所から瀕死であることを伝える悲鳴が至る所に響いた。
「ギアス伝導回路、起動」
ライを覆う胸部装甲から紅い光が輝くと共に、《サザーランド・J》の体にスパークが弾け飛ぶ。
――なんかなぁ……。
そんな姿の
だが、
甲高い音を鳴り響かせて、地上から溢れる光に神々しさはない。逆の魔的な印象を浮かばせる。地獄から呼び出された悪魔のように。特に、ギアス伝導回路を起動させた時にはその存在感が膨れ上がるのだ。
流れ出す規格外の力に重症を負った《サザーランド・J》の体が苦しみ大きく震えるのを感じながら、ライは神装《
「――力とは治癒である」
再生、修復、治療などの回復にまつわる物を思い浮かべながら、言葉を吐く。それによってイメージをより固めていく。するとどうだろうか。末期状態であった《サザーランド・J》に光が走り、損傷していた箇所を修復していった。
揃った《サザーランド・J》の手指を開いて、状態を確認。
違和感のない手ごたえにライは頷いた。
一連の光景にリーズシャルテは息を吐いた。
いつ見てもとんでもない光景だと思う。機械が自己修復するなど。
機械とは自分の体を自分で癒すとは出来ない。程度の差があれど人間の回復に比べれば単純だが、傷ついた部分を他者の手を借り交換する手間をかけることでようやく治ったといえるのだ。しかし、
「《ジーク・ユニット》」
直後、ライの呟きに《サザーランド・J》の周囲の空間が歪む。
しかし、空間の歪みが異常だ。《サザーランド・J》の二回り以上の歪みが広がっている。
「おいっ!?何を出そうと――」
言い切る前に
《サザーランド・J》を包むように現れた武装、大型のコンテナを思わせる存在に思わず、
「でかっ……!?」
《サザーランド・J》の武装《ジーク・ユニット》に驚愕した。
「
《サザーランド・ジーク》の機能を停止させ降りたライは、懐かしむようにして、《サザーランド・ジーク》の装甲を撫でる。
リーズシャルテは現れた巨体に圧倒されながらも、機体を回り眺めた。目には未知への好奇心と巨体が誇る威圧による畏怖を浮かべていた。
「な、ナイトギガ……?
「大いに違う。そもそも従来の
《サザーランド・J》に装備された《ジーク・ユニット》を叩く。
「
「なるほど、確かにそんな開発コンセプトならばここまで大型になるのも納得がいく。だが、ここまで巨大だと要塞が浮かんでいるにしか見えないな」
「やっぱりそう思うよな」
リーズシャルテの評価にライは頷く。たった一人の異世界人として、関わりが薄いとはいえ自分の世界の技術が評価されるのは嬉しく、満足そうだった。
「実際、こいつを無傷で倒すのは運が良かったとしかいえない」
「そんなに手強いのか?ここまでデカいと火力を命中し易いと思うんだが」
「いやいや、言っただろ。フロートユニットで縦横無尽に移動するって、こんな見かけでも速いんだ。高機動しながらの集中砲火は怖いぞ。あのヘイブルグの闘技場を粉微塵にしたのもこいつで、この学園も五分足らずで焼野原に出来る、絶対に」
空中を飛び回り、ミサイルの雨霰を降らして、学園を破壊していく光景を思い浮かべ、ゾッとした。リーズシャルテも似たような想像をしたのか、体を震わせている。
「こんな奴の同類が……まだいるのか?」
「いると言えばいるが……KGFは僕が確認してる内で《
「何でそんなに少ないんだ?聞いた感じでは高性能だが」
「採用するのに色々なことが重なってな……」
KGFは不遇な存在だろう。その性能の高さも知っているため猶更そう思わせる。
多大な戦果を上げ、その性能の良さを証明し続けた《ランスロット》タイプの量産型が進んでいたこと。それによりKMF用のオプション型フロートユニットの量産が加速していったこと。KGFがテロリストの戦力として運用されイメージダウンしたことなど、様々な要因が重なり合って開発競争から外れてしまった。
それを口に出そうとした時、
「――あら、今度のは大物だったようね」
凛とした響き。
透明感のある声が裏庭に聞こえた。
その声に振り向けば、美しい少女が立っていた。
「クルルシファー・エインフォルクか。ユミル教国の留学生が何をしに来た?」
「ご挨拶ね。何かが割れる音が聞こえたから来てみただけよ」
「ちょっと待て、ライっ!何を自然に話している!
「リーズシャルテ。言い忘れていたが、
「な……っ!」
「いつのころだったかしら。ほら、貴女が機竜の実験で
「半年以上前ではないか――っ!?」
――疲れるな、やっぱり。
地面に座り込み、視線を傾けると《サザーランド・ジーク》に二人の少女がついている。
リーズシャルテは、《サザーランド・ジーク》から機竜を纏う機竜などアイデアを見出して、忘れない内にメモを取っている。あと装備の円錐型スラッシュハーケンを念入りに調べている。あれをドリルに交換できればと思っているに違いない。
クルルシファーも最初はリーズシャルテと同じく触れるなどしていたが、今は《サザーランド・ジーク》を見つめているだけだ。いや、見つめたフリをしている。彼女の意識は離れているライに向けられていた。
――クルルシファー・エインフォルク……。
北の大国、ユミル教国の留学生、リーズシャルテと同じ士官候補生のクラスメイト。
勉学、体技、
そんな少女を……ライは苦手としていた。
一年前の入学式で、一目見かけた時から何等かの壁を作ってしまうのだ。
その時に胸に沸いた感情は何だったのだろう。ただ解るのは、彼女に自分という人間に近づいて欲しくないという願いに似た感情を抱いていることだ。
だが彼女はライの気持ちを知らず、意識を向けている。
瞳に浮かぶ感情は――期待?
期待だというのなら、何を自分に期待している?
自国のユミル教国にあわよくば渡そうとしているのか?
だが、彼女に邪な色は見当たらない。
ならばなんだ?
何故、自分に意思を向ける?
何故、自分に近づこうとする?
何故、自分に関わろうとする?
――解らない。
――解らない……。
――解らない……!
『
突然、現れた思考と頭痛に首を左右に強く振った。
額に手を当てると大量の汗をかいていた。
――何だ……?
今、自分は何かを叫んだ。一瞬の瞬きであったため、内容は思い出せない。思い出そうと記憶を探ろうとした時――
『――――――』
昼休みの終わりを知らせる予鈴が、
ライは《サザーランド・ジーク》を戻し、その
「今日はここまでだ。早く教室に戻ったほうがいい」
「え~まだ《ヴィンセント》を見せて貰ってないぞ」
「君の場合、次を見せたら時間を忘れて没頭してしまうだろ。それで、授業に遅れるなど笑い話にもならん」
「わがままを言わない方が賢明ね。次はライグリィ教官の授業。教官が入室する前に着席してないと雷が落ちるわよ」
「む~~」
不満そうに口を尖らせるリーズシャルテに苦笑を浮かべながら、《クラブ》を召喚し、フロートユニットを展開。閉めたコンテナを持ち上げる。
「《ヴィンセント》の紹介はまた後だ。僕はこれから出発するから、持ってきたパーツと一緒に楽しみにしておいた方がいい」
「あ、ドリル!ドリルがあったら持ってきてくれ!」
はいはい、と返事をしてライは《クラブ》のフロートユニットを吹かし、抱えたコンテナなど無いように勢いよく空へと駆け上がった。
あっという間に空へと駆けた《クラブ》。残されたリーズシャルテとクルルシファーはその空を見つめていた。
「速いな。ギアス伝導回路を作動させなくても、神装機竜に匹敵する性能に偽りなしだな」
「あんな大きなコンテナを抱えていったのに凄いわね。中に何か入っているの?」
「いや、殆ど空だ。あのコンテナはパーツなどを持ち運ぶためのものでな。何でも
「なるほどね。けど、あんなお荷物を抱えたまま飛んでたら、機竜の探知に引っかかるんじゃないかしら?」
「猛スピードで低く、高く飛ぶの繰り返しらしい」
「納得できそうで、納得できない説明ありがとう」
揃って早足で教室に向かおうとした時、クルルシファーは空を見た。
「ライさん、貴方は私と同じ……」
瞳には、先ほどと変わらない感情を浮かばせていた。