アティスマータ新王国にある広大な森林山岳地帯の一角。
その地はアーカディア帝国が建国される過去よりも魔獣など人外の存在が住み着いているとされ、物語や恐怖話の発症の地となっていた。古くから伝われている影響か、触れ得ざる地として人々の意識に染みつき、
自然がありのままの生命力を発揮して構成される森林は、鮮やかな緑ではなく禍々しい黒と感じさせる。さながら
そんな場の森林の上空を蒼の騎士が飛んでいく。
大型コンテナを持ち運んでいる《クラブ》だ。低く、低く、持ち運んでいるコンテナが樹木の先に触れるか触れないかの高さで飛び進む。その飛行に迷いはなく、ただ目的地一点を目指して突き進んでいく。辿り着いたのは、山岳の麓。そこも樹木が生い茂り、遠目では、黒い森に浸食されているにしか見えない。
ライはその場にコンテナとクラブを下す。背に展開するフロートユニットを折りたたみ、下ろしたばかりのコンテナを頭上高くまで上げ、持ち運んでいく。
大型のコンテナの中身は、
大きな足音を響かせながら、確かな歩で進んでいく。
辿り着いたその先、樹海の深奥に、異物のような人跡がその存在を誇示している。
それは、山の麓をくり抜いて作られた人工の穴。コンテナを持ち上げている《クラブ》すらも簡単に入れ、口を崩れぬよう整えた洞窟は、自然で作り上げるには不可能な代物だ。
市街や村落といった人界から遠く離れた位置座標は、その存在を秘匿する意図は明白である。建造構造もまた、外部に漏れる音や光や熱……あらゆる情報を遮断するのに十分であると思えた。
誰にも見せない、見せたくない。俗世と隔離された秘匿の遺跡。
その在り方は、建造時の目的通りに、全てを一目に触れぬままその役目を寡黙に果たしていた。
洞窟を進んだ先に広がる光景に
「――ただいま」
ライは数多の感情が入り混じった目で眺め、声を出した。
そこは広大な地下空間に広がる遺跡。いや、もはや都市と呼んでも過言ではないスケールが広がっていた。
この遺跡を考古学者たちに見せれば何というだろうか。言葉の差異はあれど、見解は「ありえない」で一致するかもしれない。本来なら限定された空間であるはずのそこを拡大し、人間が居住することすら可能な壕を無数に築いている。
天井が分厚い岩盤とその上に山をそびえ立たせていることを除けば、それは紛れもない都市だ。未だにたった一人しかその存在を確認していない古の地下都市。
しかし、長い年月を積み重ねたその都市は、崩壊している。ここで
遺跡の最深部。
一直線に伸びる道の両脇に巨大な石柱が整然と並んでいる。岩盤をそのままくり抜いたようにも見えるが、よく見れば違うと気付けるだろう。細かく丁寧に加工したブロックを多く積み上げることによって、柱を作り上げていた。さして必要もないそんな装飾が施されていることが、そこが特別かつ極めて重要な場所であることを教えてくれる。
先には傾けられた棺桶を思わせるポット、それを見守るように側に立つ青い巨人がある。あのポットこそがライの目覚めた場所であり、側に立つ巨人は
更にその先には、大きな扉。表面に複雑な幾何学模様めいた絵が描かれていただろう扉。『黄昏の間』へと繋がるその扉は、破壊され、その機能を失っている。
ライはその最深部を、遺跡全体を見渡した。
――何も変わらないか。
遺跡にはかつて来た時と何も変わっていなかった。
目覚めてから半年の間、
彼らにとってこの遺跡には価値はないのか。五年と半年の間、ライ以外にこの遺跡に足を踏み入れた者はいないのだ。
しばらく遺跡内を上空で見回していると《クラブ》を操作し、目的の存在――赤いV字の角と左右に大きく広がった肩部が特徴的な金色の
「久しぶり、《ヴィンセント》」
降り立った場には
倒された
「考えてもしょうがないことか……」
待機している《ヴィンセント》の背後にある、磨かれた
過去に強引に開けようとしたが、見かけ以上に頑強で《月下》の輻射波動ですら、こじ開けることが出来なかった。《蒼月》や《クラブ・クリーナー》なら可能かもしれないが遺跡が崩壊する恐れがあったため、試していない。
そんな扉を開く方法は一つ。
抱え続けていたコンテナを下ろし、その中から一振りの
扉に備えられる鍵穴、いや剣穴に《クラブ》で《ヴィンセント》の
ガチリ、と確かな手ごたえを感じ、引き抜くと
扉の先は通路だった。石や岩をくり抜いた雑な代物ではない。発達した科学で整えられた白亜の通路。コンテナを抱え直してそこを迷いなく進んでいく。
通路は、
進んだ先、辿り着いた
「圧巻だな……」
百はある
特に《ヴィンセント》のファクトスフィアは《クラブ》の物より劣るが、元となった《ランスロット》よりも強化がされている。《サザーランド・アイ》と同様に一際優秀であることは知っているため、
後は、リーズシャルテのお土産用の希少パーツ……案の定ドリルだ。
毎回思うのだが、何故とても戦闘に有効とは思えない兵器と呼べるものが多々あるのか。
例として、六基のチェーンソーが装着された大型近接武装、ただ単にブースターを組み込んだ巨大な鉄塊、機竜の全長を超える組み立て式大型発射砲台といった規格外の武装が存在していた。
そんな暴力的な武装を一目見た時、心を奪われかけたが、それ以上に何かしらの危険を感じ近づくことは止めている。輻射波動を装備して何を言っていると自分でも思うが。
だが、こうしてパーツを自由に漁っているとどうしても悪い気を覚えてしまう。
この遺跡とは違うと思われる、十余年前に現れたという
その奥に眠る
特に
そんな各国が時と犠牲を払い、
《サザーランド・J》の扉を開こうと姿を捜すが――
「……いない?」
遺跡中を回り、ファクトスフィアで探知をしても《サザーランド・J》の姿がどこにもないのだ。
まさか
戻しては召喚、戻しては召喚を何度か繰り返す。召喚される際に放たれる波動を感知しようとするが、ファクトスフィアに反応はない。つまり――
「
探索に時間を掛けすぎたため、外はもう真っ暗になっている。そのことに気付くと空腹を自覚し、休息をとっていた。
《クラブ》から降り、コンテナに入れていたザックの中から取り出した携帯食を口に含み、水筒の水を口に含んで思うのは、
――どうすんだよもー。
待機する、《サザーランド・ジーク》についてだ。
『この世界』で五年と半年を過ごしているのに、未だに自分自身が存在することすら解っていない。そんな解決していない謎が多すぎる状態でのにまた新たな謎が増えてしまった。
食事を一先ず終えて、《サザーランド・ジーク》の装甲に手を当てる。もう片方は顎に当て、口を開いた。
「君はどこの遺跡にいるんだ?」
《サザーランド・ジーク》が本来待機している場所。
ギアスの遺跡が複数あることに疑問はない。『あちらの世界』では、自分の故郷、神根島、龍門石窟と世界中にあった。『この世界』に複数あってもおかしくはないのだ。
――あの扉が使えれば……。
砕けた巨大な扉を見る。
あの扉の先には『黄昏の間』が存在する。『黄昏の間』は世界中の扉と繋がっているため、遺跡から『黄昏の間』、そして別の遺跡へと移動できる。かつて神根島の遺跡から入り、神殺しの計画を失敗させた後、遠く離れた帝都ペンドラゴンまで移動したため実証はある。しかし、見た通り扉は砕けて機能停止している。つくづく惜しい。
実のところ、他の遺跡について調べなかったわけではない。
存在を考慮し、レリィ・アイングラムにも頼み込んで、ギアスに関連するものについて調べたのだ。しかし、結果は芳しくなかった。ありとあらゆる歴史書を読み解いても関係する何かは見つけられなかった。レリィの方でも成果はなかった。
――そもそもこの遺跡は何に使われていたんだ?
『あちらの世界』ではギアスの力を研究し、その先にある『何か』を追求するだけの研究組織――嚮団が存在していた。
だが、この遺跡は研究組織に使われていたとは到底思えない。
先ほどの洞窟の入り口、扉の開け方、通路の大きさから機竜や
研究だけをしているなら、何故
いや、ギアスの根源『エデンバイタル』接続の実験と考えることができるが、それなら
「待てよ、兵器……?」
兵器、戦うための道具。
兵器が必要ということは、戦っていたということ。
だとしたら――一体何と戦っていたのだ?
戦うための研究組織であると同時に基地だったのではないか?
「――解らん。この遺跡については置いておこう。次は
《サザーランド・ジーク》から手を離し、顎に手を当てたまま再び熟考する。
『あちらの世界』の兵器、
何故、『あちらの世界』の技術がこちらに?
――解らない。というか
いかん。謎がどんどん湧いてくる。謎に嵌ってしまう。
このことから
『ザ・ゼロ』を受けたことによる影響と考えたことがある。
『ザ・ゼロ』の効果は、神羅万象の存在を無にする恐ろしいものだ。これを
いや、そもそも
凡そ人間では纏うことが出来ない殺人的な重量を持つ重装甲衣を着ていること。
重装甲衣の背中にある『あちらの世界』の技術、神経電位接続を使用していることから人体を改造をしていること。
重装甲衣の耐久、神経電位接続により
倒し、中身を外気に触れさせると灰になって崩れること。
これらの事実が、彼らがまともな存在ではないことを証明している。
そんな者たちが扱う
いけない。どんどん頭の中が謎で埋め尽くされていく。一度、頭の中をスッキリさせるため持ってきた日記に纏めようと《サザーランド・ジーク》に背を向けた。
さて突然だが、《サザーランド・ジーク》について話をしよう。
開発コンセプトから重装甲と重火力を備えたため、元となった
そんな
答えは――
不吉な音が響く。
初めは小さく。次第に大きく。そしてついには決定的に
「――っ!?」
《サザーランド・ジーク》を中心に地面が蜘蛛の巣状に急速に罅割れていく。ライが異常に気付いた時には、足場は崩れ、空洞がぽっかりと生まれる。逃げる間もないまま、ライは奈落へと落ちて行った。
読者の方々に捧げる補足と微ネタバレ
補足1
補足2
サザーランド・アイ、サザーランド・スナイパー、グロースター・ソードマンといった改造機も
補足3
改造機と原型機と別々に存在するが、《紅蓮》、《ランスロット》、《ガウェイン》、《蜃気楼》、《白炎》、《グレイル》、《ブラッドフォード》、《ゼットランド》、《アレクサンダ》はライの《クラブ》と《月下》と同じ特別性。戦闘を繰り返すことで進化をしていく。
補足4
ライの現在の撃墜率は、《ヴィンセント》、《ヴィンセント・ウォード》、《暁》、《月下》(ノーマルと藤堂機)、《ガレス》、《ガへリス》(オリ機)の第七世代と以下世代の全機、《サザーランド・ジーク》。第八世代とは交戦してはいるが、退かれたりしている。
補足5
他国
「
「ヒャッハー!!新鮮で性能が高い
他国
「(゚□゚)」
新王国(学園)
ライの事情を知らない生徒
「ライ先生、
ライ
「気を付けるんだぞー。……さて、行くか」
「ヒャッハー!!新鮮で性能が高い装甲――」
ライ
「見つけたぞ!彼女たちに近寄らせるものかー!!」
「ぐおっ、離せっ!邪魔をするな――!!」
ライの事情を知らない生徒
「何か凄い音がしませんでした?」
ライの事情を知っている生徒
「いえ、何も聞こえません。(ライ先生頑張って下さい!)」
ライ
「他国?距離の関係と黒い怪人を指名手配帳簿に乗せ始めた国がいくつかあって、身動きが取りづらい」