ナイトメア・オブ・ライ   作:兜割り

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今回で序章と言える部分は終わりです。
次話から原作に突入します。

というか今回の話はカオスです!(ギャグではない)


絶叫

――『強制超過(リコイルバースト)』。

 

肉体操作による全力の行動を、自らの精神操作により抑えることによって、極限の溜めを作り出す機竜使い(ドラグナイト)三大奥義の一つ。

全力の攻撃と、それを停止する命令。

本来矛盾する強力な操作を同時に行い、動力源たる幻創機核(フォース・コア)から流れるエネルギーの制動を意図的に暴走をさせ、完璧に操ることで超威力の一撃を繰り出す。だが、その操作を完璧に行わなければ、機竜に流れるエネルギーは暴走し、周囲や己の身すら死の危険に晒す、禁忌の技。

 

機竜に可能ならば悪夢(ナイトメア)も理論上は可能であることをライは理解している。あくまで理解しているだけで、試しにやってみようと思わないことはなかったが、取得していない。理由は悪夢(ナイトメア)の戦闘では行おうとする際に生じる隙が命取りになるため。

 

幻創機核(フォース・コア)から流れるエネルギーで一撃を十数倍に跳ね上げている。『エデンバイタル』の無尽蔵なエネルギーで放つ一撃は、悪夢(ナイトメア)に対して十分過ぎるほどに通用するだろう。

 

しかし放つまでの間、悪夢(ナイトメア)が待ってくれるだろうか?

高機動力、高火力を前に使用するまでに集中することが出来るか?

 

不可能だ。

 

大きな隙を見せれば悪夢(ナイトメア)は《ハドロン砲》の一発や二発を撃ってくるし、唯でさえ一撃で死ぬ緊張感で戦っている最中に放つ余裕などないのだ。

 

一応、専用の装甲機竜(ドラグライド)を所有しているが、ライとしては機竜よりも悪夢(ナイトメア)を使用するため、そこまで多くの機会もないことで取得をしなかった。

 

 

 

 

 

『剛腕』の両腕は膨大なエネルギーを纏い、巨大に見させ、周囲の空間を歪めるほどの圧力を生んでいる。

 

その光景を一目見れば老若男女誰もが理解するはずだ。繰り出される威力は一兵器が出せるものではない。最早、天災の領域に片足を突っ込んでいると。力が放たれれば、この地下空間は愚か遺跡そのものが崩壊する。それはもう間違いない。

 

凡そ一個人に放たれる規模ではないソレにライはどう対処するか。

 

《月下》で逃げる?

駄目だ。足は『剛腕』に踏み付けられて身動きが出来ない。例え逃げ切ることが出来ても、天災クラスの『強制超過(リコイルバースト)』が放たれる前に逃げ出せる距離など高が知れている。

 

妨害?

意味がない。《月下》の武装では『強制超過(リコイルバースト)』を中断できるほどの火力は見込めない。輻射波動なら可能だろうが、先ほどの集中防御で防がれる確率が高い。第一、《甲一腕型》を動かし輻射波動を流し込む間に、『強制超過(リコイルバースト)』が放たれてしまう。

 

防ぐ?

不可能。《月下》を吹き飛ばせる風圧を生む一撃ですら、防御は不可能だと認識させられたのだ。そんな一撃を『強制超過(リコイルバースト)』で打ち込もうとしている。それも両腕で。いくら防御としても使用可能な輻射波動でも、結果は火を見るよりも明らかだ。

 

駄目だ、詰んだ。完全に詰んだ。どうあがいても《月下》ではこの先の展開を生き抜くことはできない。

 

悟った時には、『剛腕』の『強制超過(リコイルバースト)』が振り下ろされた。

 

自身を打ち滅ぼすには過剰威力の奥義にライは、逃亡も妨害も防御の悪あがきすらしなかった。選んだのだ。未だに諦めていない意地で『剛腕』に迎え撃った。

 

ライの選んだ選択が――『消滅』だった。

 

そこから先のライの行動は神技といってよかった。

 

強制超過(リコイルバースト)』が《月下》に直撃する寸前に、精神操作によって待機させた。体を光の粒子と変換し消え去ることで《月下》が大破することはなくなった。だが、《月下》という邪魔物がいなくなっただけで、『強制超過(リコイルバースト)』は止まることはない。

 

今や生身のライは、両手を上げた。『剛腕』の『強制超過(リコイルバースト)』とライの両手がぶつかった。

 

ぶつかり、そこに生まれるものは――静寂。

 

破壊も、衝撃も、轟音も何も生まれなかった。あれほど膨大なエネルギーを発し、想像を絶する破壊力を秘めていた『強制超過(リコイルバースト)』が消えた。

 

『剛腕』によるライの死を表す音もなく、両腕を受け止める形で健在だった。圧倒的な破壊力の消滅とライが健在である理由は、『剛腕』の両腕とライの広げられた両掌に浮かび上がる紅い紋章だ。

 

ワイアードギアス――『ザ・ゼロ』。

 

ライが備えるありとあらゆる存在を無にする『王の力』。

これによって『強制超過(リコイルバースト)』を消滅させたのだ。

 

……すまない《月下》!

心の内で《月下》へと謝罪する。それはこの戦いを共に勝ち抜けなかったことと、『ザ・ゼロ』で防ぐという博打でしかない行動を行うこととの意味が含まれていた。

 

『剛腕』は愕然としているように窺えた。それもそうだ。文字通り必殺の奥義が何も生み出すことなく、生身の人間によってただパッと消えてしまったのだから。頭の中は、何故消えたのか理由と理屈探しでいっぱいになっていることだろう。

 

今、確実な隙が『剛腕』にある。それを逃さぬ手はない。

 

 

「――!!」

 

 

瞬間の勢いで、ライは左の拳を握り、踏み込んだ。拳の先には『ザ・ゼロ』が爛々と輝いている。

 

『ザ・ゼロ』が浮かぶ拳を目の前にぶち込んだ。

消滅の力が『剛腕』に触れると、微量のスパークと身震いを起こし……エネルギーの全てを失った『剛腕』はズゥン、と威圧感を感じさせる音を立てて崩れ落ちた。

 

勝った実感が沸かない苦い勝利―――だが倒したのだ。

 

 

「う……っ!」

 

 

そうして、気が抜けたのかライも膝をついて、倒れた。無理もない。《月下》を使用しての心身を磨り減らす戦闘と『ザ・ゼロ』を二回同時に発動させた時点でライの体力は限界を迎えていた。正直にいってそれを超えて発動した『ザ・ゼロ』は博打だったのだ。

 

――速くこの場から離れないと……っ!

 

『ザ・ゼロ』によって確かに『剛腕』は機能を停止している。しかし、ぶつけた『ザ・ゼロ』の威力はどれ程の威力があったのか解らない。そのまま永久に停止してくれるのなら助かるのだが、中途半端ならば再起動をする可能性も存在する。悪夢(ナイトメア)なら機能停止しても、破壊しないかぎり内蔵する幻創機核(フォースコア)で再起動するのは体験済みだ。

 

それに想像したくないが、この地下空間に『剛腕』と同じ機動兵器が存在することも十分にあり得る。だから、急いで上に出ようとするが立ち上がることが出来ない。それどころか意識も霞み始めていた。

 

 

「ああ……くそ……」

 

 

地面に転がる《月下》の機攻殻剣(ソード・デバイス)に手を伸ばしたところでライの意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

裂かれた天が閉じられ、海よりも深い静寂だけが『黄昏の間』を包んでいる。

ライの目の前で背を向けている少年がその天を見つめている。彼はついさっき、血を分けた両親を消滅させたのだ。

どれ程の時間が経過していたのだろうか。

 

不意に少年が同じ姿勢のまま、緑髪の魔女に声をかけた。

確かな繋がりを見せるやり取りを幾つか行った後、魔女の言葉に少年が我に返ったようだった。表情を引き締め、視線を魔女から自分に向けられる。

 

自分たちは世界の嘘をなくす計画を否定し、現実を、時の歩みを進めることを選んだ。それが自分たち二人の意思。

 

 

『君は見たか?この世界以外の様々な可能性を』

『ああ、見た。幾多の人々の悲しみや苦渋の過去が混在していた数えきれない世界。この世界も無限にある可能性宇宙のひとつでしかない』

 

 

そう、本当に多くの世界があった。目の前の少年と白い騎士が協力し、世界中の憎悪を受け止める世界。第二皇子の不老不死の計画を白い騎士が身を賭して防いだ世界。少年の最愛の妹が友人と手を取り合って明日の道へと進んだ世界。

 

その中にはもちろん自分が含まれている世界と存在していた。皇女の悲劇を『王の力』で防いだ世界。軍に所属し、多くの人に支えられて過去を求めるのをやめた世界。学園で優しい友人たちと笑い合った世界など。

 

 

『君はどうする?平行世界の君と同じように『魔王』として君臨するつもりか』

 

 

幾多の世界の中に、少年が行動を起こさない世界も存在していた。

天空要塞から放たれる恐怖に支配された世界。消え去った皇帝により次の皇帝選びに皇族と後ろ盾の貴族たちに帝国が分裂、崩壊する世界。超合衆国の唯一の軍、『黒の騎士団』の総司令官が病でなくなり、統制がとれなくなり超合衆国が出来上がる前に逆戻りした世界。それらすべてを内包する世界もあった。

 

悲しいことに、この世界は戦争で疲弊しながらも、憎悪を募り続けている。それをリセットするには全てを受け止める『魔王』が必要なのだ。

 

自分としては彼が行動を起こす、起こさないどちらでも構わない。

彼が行わなくても自分が行動を起こすつもりだから。

 

 

『――ライ。俺はやるぞ』

『自分がやらなければ人が多くの悲劇が起こるからか?』

『――いいや、違う。ライ。お前はいったな。黒の騎士団なんて必要ない。ギアスの力を持って、ナナリーとともに引き込もれば良かったと……そうだ。俺はそうしようと思えばできた。だがしなかった。人を殺してでも自分の世界を手に入れたかったから』

『……』

『人を騙し、人を操り、人を殺して世界を創造する。それが俺の選び取った道。俺はまだその道のまだ半ばにいる』

『……』

『自らが起こした火種に起因する混乱は世界に残っている。超大国同士の対立、巨大な争乱の中、無数の人々が死んでいる』

 

 

『――まだ、終わっていないんだ。俺の目的はまだ、果たされていない』

 

 

『それで……?』

『続ける。最小限度の殺戮で世界を統一する。この世の争いを全て治め、憎しみを俺に向けさせる』

『見るのと聞くのでは感じ方がやはり違うから言わせてもらうよ。……正気で言っているのか』

『おかしいか』

『……いや。おかしくは、ないな。おかしくはないけど、君はそれをどうしてやる。平行世界の自分が行ったから自分もやるというのか?』

『勘違いは迷惑だ、ライ』

『……?』

『俺は最初から、これまでの行動を自分の意思で行ってきた。他人の意思など含めていない。そんなもの、含める余地はない。やりたいから、やったのだ。……お前もそうだろう?王になる際、他人の意思を含めたか?』

『……!』

『そう。当然の事だ。これからもだ。俺がやりたいからやる。手にしたいから手に入れる』

『やるのか、魔王の所業を』

『無論』

『やり遂げられるのか?全てを失った君に』

『ああ。己の目的の為に、既に幾多の命を奪った。その事実に懸けて誓う』

 

 

『俺はこの世界を手に入れる。頂点に立つ。魔王として生き、魔王として滅びる』

 

 

断固の意思で宣言した魔王に自分はどう思ったか。

確か、かなわないな。僕の負けだ、だったはずだ。

 

自分はかつて蛮族との戦いでギアスの暴走で守るべきものを全て失った。愛する妹を、尊敬する母を、父から託された国民を。空っぽになった自分は、現実に耐えきることが出来ず、眠りと記憶喪失という形で逃げた。

 

しかし、目の前の魔王はどうか。

自分と同じように全てを失っても逃げる選択をしていない。何度も心が折れかけたことは知っている。それでも、必ず立ち上がり一歩を踏み締めている。

 

――凄いよ、ルルーシュ。

 

友の壮絶な覚悟に……涙が零れた。

 

 

 

 

 

 

ライは過去の夢から、覚めた。

――懐かしいな。

久しぶりに『あちらの世界』の夢を見た。遺跡を拠点にしていた目覚めたばかりの半年間はよく見ていたが、遺跡の外では『あちらの世界』の夢を見ることは殆どなかった。やはり唯一共通しているのが、ギアスの遺跡だからか。

 

滲む視界を手で擦ると濡れていた。泣いていたのだ。

――ルルーシュ……。

彼は魔王となって自分は彼の騎士となった。

そして最後。自分は彼に剣を向けた。だが、そこまでだ。そこで自分の記憶が途切れている。『この世界』に来てから必死に思い出そうとしているが、片鱗の一つもない。

 

――というか僕は確か……。

ぼやけている自分の意識をまとめ上げて、状況を思い出す。自分が安全な状況ではないことを思い出して、目を開けた。

ぼやけた視界に入る色彩は明るさだけだ。とても自分が意識を失った地下とは思えないほどに白く明るい。身体は寝ている。服装は変わらず装衣で、背には柔らかい感触がある。ベットだ。自分はベットに横になっている。

何故、どうして、誰にと考えながら視界が整い、白い天井と蛍光灯らしきものが見えた。身体を起こし、周りを見渡すと――

 

 

「おわぁっ……!?」

 

 

視界に入ったものに驚き、ベッドから転がり落ちた。

ろくに受け身を取ることができずに、床に身体をぶつける。勢いよく、跳ね起きてベットの横にいた存在から距離をとった。

 

 

「『剛腕』……!」

 

 

まさか隣に『剛腕』が控えていたのだ。何をされるか分かったものでもない。いつもは腰にある機攻殻剣(ソード・デバイス)に手を伸ばすがない。

 

抵抗のために『ザ・ゼロ』を使用しようとするが……

 

 

「……?」

 

 

『剛腕』は何もしてこない。ただじっとライを見つめている。その身に持つ性能ならライの身体を一瞬で砕けれるのに何もしてこないのだ。

 

ライは警戒心を維持したまま、そっと離れる。

『剛腕』もそれに合わせて顔を追うようにして向ける。

 

自分がいる白い部屋の奥まで離れ、『剛腕』を視覚の中心に置いて部屋を見渡した。白く、広い部屋だ。天井も不自然に高く、機竜サイズの『剛腕』が身をかがめる必要もないほどに高い。

 

備えられているのは、自分が寝ていた以外にもきちんと整列されたベット。他には机と椅子に、壁を埋める棚がある。棚の中には、ラベルが張られたビンと何等かの容器が並んでいた。

 

 

「……医務室なのか?」

 

 

その言葉に『剛腕』が反応し、ライは咄嗟に構えた。『剛腕』の反応はそこまでのものではない。ただ首を縦に振っただけだ。ライの言葉を理解して、反応したのだというのなら恐ろしい知能だ。『あちらの世界』でもそこまでの人口知能らしきものは発展していない。

 

 

「……僕の機攻殻剣(ソード・デバイス)はどこだ?」

 

 

ライは自分の言葉に反応したため、ダメ元で聞いてみた。

その言葉に『剛腕』は、同じように首を縦に振って、《ファクトスフィア》と思われる部分の四つの光点が光る。すると医務室の扉――こちらも高い天井に合わせているため大きい――が開いた。そこから姿を現したのは、

 

 

「はぁっ……!?」

 

 

『剛腕』によく似た悪夢(ナイトメア)もどきだった。

姿を現した悪夢(ナイトメア)もどきにライは驚愕の声を上げてしまった。『剛腕』が一機だけとは限らないとは思っていたが、まさかの登場に驚かずにはいられない。

 

現れた悪夢(ナイトメア)もどきは、『剛腕』と同じ『サザーランド』によく似た白い顔だった。ボディも第七世代の意匠を持つスマートなデザインだが、『剛腕』とは差異がある。

 

『剛腕』のように四肢が太くなくバランスのとれた《ランスロット》に近いボディ。腰に備えられた前部分を開いたスカートを思わせる武装だ。

 

勝手に命名『スカート付き』はその手に日本刀の、《月下》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を握っていた。それを持ったままライへと近づき、

 

 

「え……?」

 

 

ここでまたライは驚かされた。何と『スカート付き』は頭を垂れ、片膝をついた姿で《月下》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を両手に乗せてライに差し出したのだ。

 

恐る恐る手を伸ばして機攻殻剣(ソード・デバイス)を受け取った。軽く握って反応を確認すると特に何かされたようでもなく状態も良好に感じた。

 

『スカート付き』はライが受け取ったのを確認すると静かに下がり、『剛腕』のそばへと寄った。そのまま動くこともせず、二体同時にただじっとライを見つめている。

 

ライは渡された機攻殻剣(ソード・デバイス)と変わらずに見つめてくる二体を交互に見て口を開いた。

 

 

「お前たちは……何者なんだ?」

 

 

その疑問の声が出終わると、『スカート付き』の姿が煙のようにふっと消えた。その光景にライが驚くのも束の間、目の前に突然『スカート付き』が現れた。体勢は機攻殻剣(ソード・デバイス)を渡す時と同じ、しかし手には紙の束が置かれていた。

 

『スカート付き』の行動に戸惑いながら紙の束を受け取る。紙の表紙には古代語が大きく書かれていた。

 

 

「じ、じせい……?じせいだい、あっ違う。次世代か。次世代シリーズ開発計画書か……」

 

 

拙い古代語解読力で何とか表紙の文字を解読した。

これを持ってきたということは、彼らはこの次世代シリーズに分類されているということか。

次世代。何の次世代だ、と疑問を持ちながらその謎を解くために表紙をめくると、びっしりと書かれた古代語と『スカート付き』と思しき悪夢(ナイトメア)もどきが載っていた。離れて待機している『スカート付き』と比べてみても同じだった。

 

 

「A・ザ・スピード……?」

 

 

『スカート付き』の見取り図の上に大きく書かれた名称らしきものを読み上げると『スカート付き』が反応した。どうやらこれが名前らしい。ならば先ほどの消失は高速移動というわけか。

 

この紙の束は設計図かと目星をつけて紙を一枚、一枚めくっていく。どうやら予想は当たっていたようだ。数ページめくると今度は『剛腕』の詳細らしきものが載っていた。

 

「D・ザ・パワー」

 

読み上げてみると『剛腕』が先ほどの『スカート付き』、いや《A・ザ・スピード》と同じ反応をした。なるほど。確かに名に違わない性能だ。

詳細を深く解読することはなく、どんどんページをめくっていく。

 

 

 

――A・ザ・スピード。

 

――D・ザ・パワー。

 

――S・ジ・オド。

 

――R・ザ・ランド。

 

――M・ザ・リフレイン。

 

 

計画書に乗せられた次世代シリーズ、縮めてGXシリーズは全部で五機の詳細が載っていた。どれも独自の改造が施されており、強力な性能を持っていることが《D・ザ・パワー》との戦いで解る。

 

 

「ねぇ、君たちの他にここに仲間がいるのか?」

 

二機は頷き、肯定。

 

 

「ちょっと呼んでくれないか?」

 

 

再び、肯定。

 

しばらくすると、医務室の扉が開いた。

姿を現したのは、三機のGXシリーズ。計画書をめくり、確認していく。

右目にスコープを装着し、右腕が巨大化し肘部分に銃砲が突き出た――《白炎》の《七式統合兵装右腕部》に似た――装備をしているのが《S・ジ・オド》。

頭部後方が大型化していて、一番シンプルなデザインをしているのが、《R・ザ・ランド》。

左目をアイパッチで隠しているのが《M・ザ・リフレイン》。

 

 

「……これで全部か?」

 

 

医務室にいる全機が頷いた。

 

ライは顎に手を当てて、計画書を再びめくった。初歩的な解読しか出来ないが、じっくりと読み進めていく。

 

GXシリーズ。

マッスルフレーミングを採用した()()()。現在暴れている悪夢(ナイトメア)とはまた違う機体をベースにしているようだ。

 

ギアス伝導回路は内蔵していて、神装は所有しているが《無色の魔導器(ロスト・カラーズ)》ではない。自分の名称に通ずる能力だ。

そういえばと気付き、《D・ザ・パワー》の腕を見た。そこには《月下》の斬撃で傷ついた後が残っている。悪夢(ナイトメア)だったら神装ですぐに回復するはずだ。

 

知能は……統括者(ギア・リーダー)格の自動人形(オートマタ)のAIを採用?

なんだそれは。そんな存在は聞いたことないから、どれ程なのか不明だ。だが、優秀らしく経験を積めば積むほど成長していくラーニングシステムを持つらしく、『強制超過(リコイルバースト)』もそれによるものなのかもしれない。

 

最後、この五機は一つの部隊として連携する護衛機として製造されたらしい。

 

《A・ザ・スピード》と《D・ザ・パワー》が持つ名称通りの性能。目にも止まらないスピード、機竜を吹き飛ばせるパワーで前衛を務める。

後方では、特装機竜(ドレイク)に似た能力を持つ《R・ザ・ランド》が補助を行い、《S・ジ・オド》と共に探索能力を活用して狙撃する。

残った《M・ザ・リフレイン》だがこれは凄い。能力は相手に幻覚を見せるもの。詳しい理屈は解らないが、味方の姿を相手から消すという記録がある。リフレインの名前で嫌な予感はしていたが、ここまで恐ろしいものだとは。

 

最初に《D・ザ・パワー》とぶつかったのは幸いだった。相手が高速移動をする《A・ザ・スピード》や幻覚を使う《M・ザ・リフレイン》だったら、死んでいたかもしれん。

 

自分の解読能力で解ったのはここまで。残りは学園で文官の生徒たちに協力してもらうしかない。

 

――護衛か……。

 

 

「あーなんだか喉が渇いたなー」

 

 

ワザとらしく呟くと、高速移動した《A・ザ・スピード》が水の入ったコップを差し出した。それを受け取り、軽く匂いを嗅いで飲む。うん、普通の水だ。

 

GXシリーズの対応を見ると自分が彼らの護衛対象なのか?

思い切って聞いてみた。

 

 

「君たちは僕の護衛なのか?」

 

 

その言葉にGXシリーズは頷かなかった、だからといって、否定もしなかった。どこか戸惑っているように見えた。しばらくして、彼らは手を扉へと向けた。こちらへと案内してくれるのか?

 

 

「……行ってみるか」

 

 

GXシリーズの案内の元、ライは《月下》を纏って共に行った。

 

 

 

 

 

――ここは本当にあの遺跡か……?

GXシリーズに連れられて進むんで行くと、地上にあった遺跡と雲泥の差がある高度な設備で整えられていた。案の定、医務室の外の通路は巨大で、GXシリーズが三機並んでも余裕があるほどに広い。悪夢(ナイトメア)のパーツが収められている部屋と同じ感覚だ。途中で見つけた部屋には人が過ごしていた痕跡すらもない。長い年月無人なのだ。

 

この無人の地下施設で彼らが護衛対象としているものは何なのか?

まさかすでに護衛対象は亡くなっており、そのミイラをずっと守っているとか良からぬ想像をしているとGXシリーズたちが足を止めた。

 

止めた先にあるのは、金属の巨大な扉だ。両開き式のスライド扉。両脇にある機竜サイズの大きなレバーがある。そのレバーを《A・ザ・スピード》、《D・ザ・パワー》が同タイミングで下す。

 

扉がレールを走る音は轟音に等しく、戸袋に鋼鉄が激突する音は打撃音に通じる。風が来た。正面からの解放に風が吹く。

 

扉の開いた先にそれがあった。

壁から伸びるケーブルに繋がれて、直立しているのは、

 

 

「GXシリーズ……!?」

 

 

いや、よく似ているが違う。GXシリーズの純白の装甲とは反対の漆黒の装甲。人間の髪のように頭から伸びる黄色のケーブル。そして、顔面と胸部に浮かぶ赤いギアスの紋章。

 

異形だ。異形過ぎる。

KMF(ナイトメアフレーム)を元にした悪夢(ナイトメア)、独自の発展を見せているGXシリーズとは、在り方が全く違うように感じた。これは、兵器ではない。それ以上の最悪なものだと。

 

ライは一歩進んだ。

その恐ろしさが直感で理解しているのに、近寄ってしまう。全身から汗が噴き出してきた。血が音を立てて駆けまわる。

一歩一歩進むたびに、精神的にも肉体的にも圧倒的な嫌悪感が走り、手足の芯が疲れ果てたように重くなる。

 

――嫌だ……っ!

 

叫びたかった。だが、口からは言葉が出てこない。喉の奥で膨れ上がっては消滅する。やがて全身が痛み始めた。身体を真っ二つに裂かれたような痛みだった。

 

 

――壊さなければ、殺さなければ……っっ!!

 

 

理屈などはない、宿命めいた殺意が頭の奥から湧きあがってきた。《月下》の武装を召喚しようとして、操縦桿を握る手に力をこめる。しかし、ダメだ。手首から刺すような痛みが生まれ、筋肉がギシギシと軋むだけで、召喚できず、どんどん異形に近づいていく。

 

そして、とうとう異形の目の前に立つ。

罅割れる精神を無視して、《月下》の手を身体が操作する。

 

《月下》の指先が、異形の顔の紋章に触れた。

 

ライの絶叫と、異形の絶叫が響き渡ったのは同時だった。

 

 

 

 

 

ライは急いで異形から離れ、武装を全て展開した。背後で控えていたGXシリーズが側に寄った時には顔は蒼白で、激しく息を荒げていた。

 

 

「貴様っ……貴様っ!!一体()に何をしたっ!?」

 

 

今、自分は確実に何かされ、させられた。

異形に触れたとき、思念というべきものが邪気と共に流れ込んできた。その思念は明らかに狂気に犯されていて、自分の頭の中を蹂躙していった。

 

怯えた目で、異形を見つめていると異形に、異変が起こり始めた。

沈黙していたはずの頭部の《ファクトスフィア》と思われるセンサーに明かりが点り、真っ直ぐに伸ばされていた四肢が激しく震動を始めていた。それと共に、内部からは金属同士がぶつかり合って立てる甲高い音が、短いサイクルで聞こえてくる。製造工場で作動している機械の印象が浮かんだ。

 

震える体から体勢を崩さないため、瞬時に補正し、必死に体を安定させる仕草を見せたが、それも束の間。背中から張り出した部分――KMF(ナイトメアフレーム)ならコックピットーーが光りを瞬かせると、異形は限界を迎えたようにして膝を折り、地面に手をつけた。

 

――暴走か何かか?

襲い続ける酷い頭痛で頭を押さえ、とてもまともとは思えない異形の動作にライは一歩下がった。警戒からではない。目の前の異形がとてつもなくおぞましいことから来る嫌悪感とがなり立てる衝動からだった。

 

目を背けたい、こいつからすぐに離れたい、視界から消したい、消滅させたい、破壊したい、破壊したい、破壊したい、壊せ、壊せ、壊せ、破壊破壊破壊殺せ殺せ殺害殺害殺殺殺殺――!!!!

 

頭がそう叫んでいるのに、ライはいずれの行動も出来ず、黒い異形を見ていた。

 

異形の異変は地面に四肢で這うことによって終わったわけではなかった。張り出した部分の光はより一層増し、体は激しく身悶え、指で地面を引っ掻いて、傷だらけにしていく。

 

光り、身悶え、引っかく。それが何度も、何度も幾度なく繰り返される。

全身が激しく前後左右に揺れ始め、軋み始める。やがて駆動系も断末魔の悲鳴に似た唸り声をあげた。ここまで行くと暴走の範疇ではない、もはや自壊の領域だ。手が救いを求めるかのようにライへと伸ばされる。

 

 

「やめろ……っ!?」

 

 

叫ぶ衝動を抑えながら、思わず放たれた制止の声。ライ自身も何故、そんな台詞をいったのか理解出来なかった。

だが、その叫びを受けた影響か、異形の振動が止まり、耳障りな駆動音も止んだ。それにライが安堵の吐息を出す束の間、異形も吐息に似た、漏らす音がした。張り出した部分が僅かに開き、内から空気が流れ出したのだ。

 

ゆっくりと張り出した部分のハッチが開かれていく。

 

 

「――――」

 

 

ライは言葉を失った。

ハッチが開かれるにつれ、隙間から漏れ出すピンク色の肉塊のようなものを認めてしまったから。悪夢(ナイトメア)にはマッスルフレーミングといった人体を模したパーツを組み込んでいるため、有機的な印象を受ける。だが、そのパーツはあくまで無機物から開発している。操縦者を抜けば、有機物など断じて組み込まれていない。

 

とうとうハッチが完全に開いた。中にあったのは、肉塊。何本ものケーブルを接続したピンクの肉塊。約一ml(メル)ほどハッチには到底収まりきらない巨大な肉塊が露出した。繋がったケーブルによるものか、それとも肉塊そのものが生きているのか、心臓に似たリズムで脈打っている。

 

形容し難い光景にライはただ呆然とした。

 

沈黙していたかに見えた悪夢(ナイトメア)が微かな動きを見せる。

頭部に備えられていた髪に似た部分が弱弱しく持ち上げられる。先端はブロンズのナイフを思わせ、武器であることが解る。そのブロンズナイフで肉塊をそっと斬る。

ずるり、と肉塊の切り口から何かが零れた。透明でぬめぬめと光沢を放つ液体で濡れている先が五つ細い棒に分かれた肌色のもの。

 

――手だ。

 

――人間の手だ。

 

――細く、美しい女の手だ!!

 

その事実を認識して、異形が行っていたことを理解して、精神の限界を迎えたライは嘔吐した。胃の内容物をすべて床にぶちまけた。胃が空になっても、止まらず喉を焼いて胃液も吐き出した。それでも止まらず、何度も空反吐が続いた。

 

――出産。

黒い異形は出産をしていたのだ。それも今までの行為から相当な難産であることが知れる。新たな命の誕生に拍手か祝福の言葉をかけるのが礼だろう。だが、それは生物が生物を生み出す偉業から来るものだ。

 

この異形は機械でありながら、生命を誕生させた。人と人が結ばれて作り上げた歴史を冒涜し、汚し、辱めた嫌悪感が身体が震えあがる。

 

 

「うぅ……っ!」

 

 

と呻いて、《月下》の《ハンドガン》の銃口を、未だに脈動する肉塊に向けた。しかし、ダメだ遅かった。

 

裂かれた肉塊の中から器用に触覚で、全裸の女が取り出された。

うっすらと肌に赤い模様を浮かべた十代半ばの身体。四肢は生え揃って、頭部には身長よりも長い鮮やかな銀髪を持っている。だが、その髪の内側には透き通った水色の髪が混じっていた。

 

全身をべったりと血糊をこびりつかせ、ゆっくりと地面に置かれると女の素顔が明らかになった。

 

 

「……」

 

 

美しかった。閉ざされたままの両の瞼はまだ白くふやけているが、それでも女は美しかった。顔を形成するパーツの一部一部が奇跡的に整えられ、はめ込まれている。

 

それが猶更不気味だった。天才が己の理想を込めて作り上げた彫刻や絵画が生きているとしか見えない。

 

ゆっくりと女の目が、見開かれる。黒く染まった双眸に黄金の瞳が輝いている。その視線がライを射抜いた。

 

一度、目を閉じると黒と黄金の色は治まり、左右対称の灰と、ライそっくりな蒼の瞳。血糊の糸を引いて、かすかに唇が開かれる。

 

 

「――――――――――」

 

 

女の言葉に……心のどこかの最後の一線が切れた。

 

 

「■■■■■■■■■■――――――ッッッッ!!!!」

 

 

悲鳴の色を持った絶叫が喉から生まれ、女に向けて《回転刃刀》を振り下ろした。

 

 

 

 




ツッコミどころ沢山だな。というか詰め込み過ぎた。……けど、早く原作に辿り着きたかったんだもん!




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