ナイトメア・オブ・ライ   作:兜割り

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どうも皆さん、お久しぶりです。

夏は駄目でした。熱中症で倒れました。執筆意欲が出ませんでした。スランプに陥りました。

頭に出たネタをポチポチと溜め込んで、ようやく一話分になりました。

最弱世界ではなく、ギアス世界の話となります。

前編です。

そして最後、とんでもない爆弾を落としておきます。


番外編 世界を壊した少年
皇帝と騎士


 その空間は世界から隔離されているといえた。

 地下に作られた施設の、そのまた最深部に設けられた闇の施設である。

 体育館ほどの広さがあるその部屋は、外界から完全に遮断されていた。人がその空間で生活するのに必要な、清浄な空気と温度を保つため、高度な空調が施されていた。

 

 そんな外界から外された空間に人が二人。青年、いやまだ成人には届いていないと感じさせる風貌の少年二人がこの空間に対峙していた。

 

 一人はまっすぐな黒髪の少年。面立ちはどこか憂いをおびておりながらも端麗。白く豪奢な服装を纏った体はすらりと伸びて線は細くもあるが、同時にこれ以上ないというくらい整っている。

 

 もう一人は黒髪の少年とは対照的な跳ねた銀髪を持った少年だった。面立ちは黒髪の少年と負けず劣らずの整った美形。こちらも体の線は細く見えるが、黒髪の少年が持つ繊細さとは違い強靭さを感じさせる肉体を黒い学生服で包んでいた。

 

 その二人はただ黙って挟んだ机の上に置かれた物をただ睨む。

 

 黒髪の少年の濃いような淡いような、紫水晶(アメジスト)のような不思議な色をした瞳と銀髪の少年の海のように深い色を湛えた蒼玉(サファイア)を思わせる瞳が視線を注ぐのは机上に置かれた白と黒で彩られた盤――チェス盤である。

 

 ただチェスをしているだけ。たったそれだけ、それだけのことなのだが、この空間は重量すらも感じさせる痛々しいほど緊迫した沈黙に貫かれていた。強いて音が生まれるとしたら空調が空気を吐き出す音、駒が盤とぶつかり合う音だけ。

 

 もしこの空間に小さな音でも一瞬鳴らせば、二人にとってはすぐ隣で爆発音を鳴らした、この対局の邪魔をしたとしてその罪人ともいえる人物を即座に抹殺する、といったオーラと集中力を出していた。

 

 お互いに熟考どころか思考の時間などという間は存在ない。相手が駒を動かせば、早指しで駒を動かし攻防を行う。ただ黙々と、黙々と二手三手よりも先の手を読みながら駒を動かしていく。

 

 そんな濃密な対局もお互いが討ち取った駒、敵陣に深く進み込んだ持ち駒の数が増えるにつれ、この一局が終盤へと持ち運ばれていった。

 

 銀髪の少年が白く細い、しかし軟弱さを感じさせない強靭さを有した指で駒の一つ――白いナイトを手に取る。

 

 僅かに浮かせたまま横に二マス、縦に一マス進む。更に敵陣へと進み込み、ガツッとチェス盤とナイトを強くぶつかり合わせた。静寂の空間に一際響く硬質な音が奏でられる。

 

 進んだナイトの次に進む移動先、そこには王冠を被った意匠の黒い駒。つまりはキングがそこにあることを示している。黒のキングの側にあるのは、一騎だけではない、プロモーション(昇格)でクイーンと成ったポーン、更にはルークがその正面にあった。

 

 

「……チェックメイト」

 

 

 唇を真一文字に噤んでいた銀髪の少年が勝利宣言を絞り出す。しかし、それは本当に勝利宣言と人の耳に入ったらとても信じられそうにもないほど重々しかった。声色は疲労の色に染まり切り、頬と額には四筋、五筋の汗が伝う。

 

 逆に黒髪の少年はどこまでも冷静で落ち着いていた。追い詰められたことに動揺するわけでもなく、ただただ小さく微笑み深く頷き――

 

 

「ああ、俺の負けだ」

 

 

 まるで自身の敗北を、銀髪の少年の勝利を喜び、満足したかのような降参宣言(リザイン)だった。

 

 

「やれやれ、最悪でも引き分けに持ち込もうと思っていたんだが、防ぎきれなかったか。相変わらずナイトの使い方が上手いな――ライ」

 

「悪かったね。けど、クイーンを犠牲にしてキングを囮にする戦術だ。常道から外れ過ぎている、もう君には通用しないだろうな――ルルーシュ」

 

 

 黒髪の少年の名は――ルルーシュ。

 

 銀髪の少年の名は――ライ。

 

 年相応の表情を浮かべる少年二人。しかし、世界中の人々が知っている。この二人が世界に対して行ってきた悪行の数々を。

 

 片や、世界を手中に治めた暴君。

 

 片や、世界最強のKMF(ナイトメアフレーム)パイロットである騎士。

 

 『悪逆皇帝』と『狂蒼の騎士』。

 

 それが世界中の人間が認知する二人の名である。

 

 

 

 

 

――◆◆◆◆◆――

 

 

 

 

 

「しかし、全力を出せる相手とはいえ、流石に十連続の対局はきつい。体力よりも精神にくる」

 

「そう言いながら六つも勝ち星を取ってるじゃないか。お蔭で僕はこうしてコーヒーを淹れさせられてるよ。それに僕の勝ち星はほぼ後半。君の持久力が切れ始めてようやく勝ち始めた」

 

 

 悔しやを滲ませながらもライは手慣れた動作でコーヒーの用意を始める。

 ルルーシュは優雅に足を組み、この空間に備えられたキッチンでコーヒーを入れるライを見て意地の悪い笑みを浮かべている。

 

 

「まぁ、これで六十八戦中三十勝二十九敗九引き分け。後一歩のところで届かなかったな」

 

 

 既に夜深く、時計の針はあと数分もすれば次の日へとなることを示していた。

 もうすぐ一日が終わる。ライはともかく、ルルーシュは色々と忙しい身である。普段なら次の日に迫る業務に取り掛かるため早めに寝るが、今日は特別だ。

 

 だが、二人とも諸々の経験から徹夜には慣れているが思いのほかチェス勝負の疲労が体にきた。それから来る睡魔を祓うため敗者であるライはコーヒーを淹れることに。

 

 

「くっそー、神聖ブリタニア帝国第九十九代唯一皇帝、黒の騎士団CEO、超合衆国第二代最高評議会議長。文字通り世界を手に入れた悪逆皇帝が淹れるコーヒー、飲んでみたかったなぁ……」

「ふっ、俺は蛮族からまだ弱小国であったブリタニアを滅亡から守り『狂王』と謳われ、世界最強のKMF(ナイトメアフレーム)を操り、たった二機しかない第九世代KMF(ナイトメアフレーム)を下して武力の頂点に立ったナイトオブゼロ、『狂蒼の騎士』のコーヒーが飲めて感無量だが」

 

 

――『狂蒼の騎士』。

 

 その自身に付けられた字名(あざな)にライはコーヒーポッドを落としそうになった。そして、引きつった笑顔でルルーシュの方を向く。

 

 

「その『狂蒼の騎士』ってのやめてくれ。ヴァルトシュタイン卿らラウンズ部隊を殲滅した後、『我が狂蒼の騎士が騎士の頂点』って世界中に言いふらしやがって。僕は自分のこと騎士なんて高尚な者だと思っていない。ただ破壊するだけの――血に塗れた狂戦士(ベルゼルガ)でしかないんだ。そっちの方が人々の中で浸透しているよ」

 

 

一拍。

 

 

「それに表に立つよりも黒子の方が性に合っているんだ。ネットで字名(あざな)から『ルナティック・ブルーナイト』って称された際にはベットの上で頭を抱えながら転がり回ったぞ」

 

 

 そう言ってライが指さす方にはシーツや枕も無茶苦茶に散らされたベットがあった。どうやらのた打ち回ったのはルルーシュが来るついさっきのことらしい。そんなライにルルーシュはやれやれと首を振っていた。

 

 

「あっ、ルルーシュ!ちょっとテレビ点けて!三番のニュース!」

 

 

 時計の針が両方とも十二時を指したのを見たライは、慌てたように声を出した。

 ルルーシュは、その事に首を傾げながら、言われるまま机の下にあったリモコンを手に取り、テレビを点けチャンネルをニュースを映すと――。

 

 

『みなさん、こんばんわ。BNVのミレイ・アッシュフォードです。本日のニュースは――』

 

 

 太陽のように輝くブロンド。ニュースキャスターは外での仕事も多く、傷みやすい色のはずなのに豊かな髪に乱れというものは存在しない。そして、身につけているのは決して派手ではないが、体のラインがくっきりと出るスーツ。

 

 これだけなら女を売りにしている……と陰口を叩かれそうだが、そんなものは興味ない、視聴者の期待に可能な限り応えるのはテレビ屋たる気概だろう、と彼女からは抑揚をつけてニュースを語りながらも感じられた。

 

 

「会長、まだニュースキャスターになって一年も経ってないのに、新人ニュースキャスターコンテスト一位になったって。期待のホープとして評価されているみたい」

「日本に上陸した台風の実況をして飛ばされてきた看板が衝突しても続けた根性の持ち主だ、お前はそれを見て変な声を上げて飛び上がったな。……お前、まさか毎日確認しているのか?」

 

 

 呆れてようにルルーシュが視線を向ける中、ライは照れ臭そうに微笑み、

 

 

「――恩人だからね。それを抜きにしても彼女のリポートは面白いんだよ。君も彼女に感じた恩を忘れたことはないだろ?」

 

 

 ルルーシュはニュースに映る、自身の二つの意味で先輩と言える女性を見ながら、当たり前だ、と呟いた。

 

 

「俺にとって幸福だった『ランペルージ』の生活……それを与えてくれたのはアッシュフォード家と彼女だ。それだけに言葉ではどんなに尽くせない感謝がある。ああ、彼女は尊敬できる『人生の先輩』だ」

「世界征服を成し遂げた悪逆皇帝と世界最強の騎士二人の頭が上がらない生徒会長か。頂点は生徒会長、三流ライトノベルにありそうな面白可笑しい事実だ」

 

 

 くくっ、と笑いをかみ殺すような声をライは上げる。その後、テレビに映るミレイをどこか寂しさと悲しさを滲ませた目で見る。

 

 

「言葉ではどんなに尽くせない感謝って言ったけど、僕も君と同じくらいの感謝を会長には持っているよ。記憶喪失だった僕も受け入れてくれた彼女、優しく強い人。仮入学だった僕を正式に入学させようと尽力してくれた。今すぐ会いに行って感謝を言いに行きたい」

 

 

でも、

 

 

「――会長は僕のことを覚えていない。会長だけじゃない。リヴァルもニーナも、学園の皆が僕のことを忘れてしまっている。『幻の美形』は本当に幻になってしまった……」

 

 

 前皇帝でありルルーシュの父親、シャルル・ジ・ブリタニア。彼が持つ超常の力『記憶改変』のギアスが学園の生徒全員の記憶からライの存在を消し去った。

 

 覚えていない相手に言葉を伝えてもそれは、相手の心に通ることはない。記憶を取り戻させる手段はあるが、もうライはもう彼女たちがいる『平穏な日常』へは戻れないところまで来てしまっていた。

 

 だから、ライは思いを胸の内に閉じ込め続ける。せめて忘れないよう、彼女たちが向けてくれた優しさが無駄ではなかったことを示し続けるために。

 

 ルルーシュはライの声に何も言わなかった。自分が彼の立場だと慰めの言葉は、ここまで来たライの覚悟を傷つけるような物だ。だが、懐かしむ……お互いが共有する過去について花を咲かせることはいいだろうと口を開けた。

 

 

「正式入学か……初耳だな。一体いつそんな話が出たんだ?」

「僕が君に素性を明かした後だから……大体学園祭の前ぐらいだね。会長が『喜びのダンス』を踊りながら上機嫌に伝えてくれたよ」

「ああ、学園祭の途中で俺に重大発表があると言っていたか。また何やら奇天烈な企画を上げるかと思っていたが」

「過去に制服を入れ替える『男女逆転祭り』や『水着で授業』なんてあったんだっけ?なんだそれ――凄く楽しそうじゃないか」

「どこがだっ!何が悲しくて思春期の男子が女子の制服を着なければならない。女子の制服を来た俺がどんな気分だったか分かるかっ!女子だけでなく男子まで俺を熱っぽい視線で見てくるんだぞっ!」

「君は筋肉ないし、体の線が女子が羨むほどシャープだからね。学園祭前半で行われたコスプレ人気投票もウェディングドレスで男子にも関わらずナース服の会長、バニーガールのシャーリーを押さえての堂々の一位だったし。四位の特攻服を着たカレンが終わった後、ロッカー蹴って凹ませてたよ」

「全くもって不名誉だ。……そう言えばお前はチャイナ服で五位だったな。お前はああいう騒ぎはどうなんだ?楽しんでいたようには見えなかったが」

 

 

 その言葉にライは心底心外だと表情に驚きを映した。

 

 

「いやいや、楽しんでたよ!ちょっと数百年のカルチャーショックで戸惑っていただけさ。僕の時代、女性が男装を、男性が女装するのはご法度だからね。それに……」

「それに?」

「ああやって多くの同年代とはしゃぐことも初めてだったから……」

 

 

 再びライの目に懐かしさが滲みだす。

 

 いかんな、過去に浸るのはいいが浸り過ぎるのは困る。ライを過去から引きずり出すためのとっておきをルルーシュは口にした。

 

 

「そうだ、ライ。会長や俺、スザクがいなくなったアッシュフォード学園の生徒会。誰が生徒会長をやっていると思う?」

「?それはもちろんリヴァルだろ。元々、生徒会書記だったし、残ったメンバーとしては妥当であると思うが」

「ああ、そうだ。今の生徒会はリヴァルが会長となって動かしている。なら副会長は誰だと思う?」

 

 

 それは、と口に出した時ライは沈黙した。心当たりのある人物を探してるのか、顎に手を当てて考えている。そして思い至ったのか、その目はみるみるの内に見開かれていった。

 

 

「まさか……」

「思い至ったか。そうだ――」

 

 

 ライは呆然と震えを帯びた声で、ルルーシュは歓喜に満ち溢れた声で、その人物の名を呟いた。

 

 

『シャーリー・フェネット』

 

 

 ルルーシュとライ、二人にとって馴染み深い名前が出て――ライは深い安堵から腰が抜けそうになった。そして、瞳からぽろぽろと涙を流していく。哀しみではない、喜びの涙を。

 

 

「そうかぁ、良かったぁ。――無事、退()()出来たんだ」

「ああ、脇腹に受けた銃創も痕も残らずに癒えて、部活も励んでいるようだ」

 

 

 そうか、そうかとライは何度も頷いた。だが、ひとしきりに頷いた後その心中に凄まじい自己嫌悪が生まれた。

 

 

「けど……そもそも彼女が撃たれた原因は僕にあるよな」

「……」

「君の記憶回復を怪しんだギアス嚮団の宗主V.V.はサイボーグとなって『ギアスキャンセラー』を有したジェレミア卿を君の元へと送り込んだ」

「ライ……」

「僕はその当時、学園と黒の騎士団時代の記憶を封じられ、皇族時代の記憶のみを残されて嚮団の狗になっていた。母上や妹、守るべきだった民たちの眠る地を盾にされて。ジェレミア卿が不審な行動をしないかどうか、監視するそれが僕の任務だった」

「ライっ……」

「ジェレミア卿と君を駅ホームに入り込んだ時、僕も乗り込もうとした。そこをシャーリーに呼び止められた。学園での記憶がない僕を、彼女は驚いたように話かけてきた。――それがいけなかった」

 

 

 ライは俯き首を振った。しきりに振った。当時の過去を振り払うように、抗うように、懺悔するかのように。

 

 

「監視員は僕だけではなかった。いや、正確には()()監視する者がいた。そいつはシャーリーが僕の記憶を呼び覚ましかねないと判断して……彼女を撃った」

「ライ……っ!」

 

 

 沈みゆくライにルルーシュの鋭い一喝が全身を叩いた……ような気がした。

ライはルルーシュの声にびくりと体を震わし、恐る恐るルルーシュを見た。

 

 

「しっかりしろ、ライっ!シャーリーは確かに撃たれた。しかし、その弾は脇腹に当たっただけだろ!致命傷というわけではない!シャーリーを襲った監視員をお前は排除し、適切な応急処置して病院に送り届けた。そのお蔭で彼女は今も生きているんだ!」

「だけど……彼女を傷つけたのは……」

「最悪の結果ではなかっただろ!お前がいなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「――ッ!!」

()()()()()()()()。お前ではなく、()()()が俺と計画を進めた平行世界を、『ラグナロクの接続』を崩壊させた時、俺たちは見た」

「その世界では……シャーリーは死んでいた」

「そうだ。だが、この世界では生きている。生きているんだ。最悪の結果ではない。負い目を持つなとは言わない。けれど、必要以上に悲しむな。それは今生きている彼女への冒涜だ。喜び続けるんだ」

 

 

 突きつけられた言葉にライは目を閉じ、少し震えた声を出した。

 

 

「……それでいいのかな?」

「それでいいんだ。喜ぶのなら表情は泣きっ面ではないだろ?」

 

 

 ライは小さく頷き、涙を拭ってルルーシュを見た。その表情は弱弱しいが、確かに喜びを感じさせる笑顔だった。

 

 ライのコーヒーの準備も終盤まで進むと、ふと尋ねた。

 

 

「そう言えば生徒会で思い出したけど彼女――ニーナはどうしたんだい?」

 

 

 ライの口から出た名前はシャーリーと同じくルルーシュやライと生徒会役員で顔馴染みの人物。眼鏡をかけた大人しい見た目で如何にも科学オタクと言った少女。

 

 そんな少女だが生徒会メンバーの中では世界の注目度、知名度は流石にルルーシュとライに及ばないが、テレビに映っているニュースキャスターのミレイ。

 

 黒の騎士団のエースである紅月カレン。

 

 ルルーシュの実妹であり真の第九十九代皇帝を僭称したナナリー・ヴィ・ブリタニア。

 

 その彼女を皇帝としそのナイトオブワンを僭称した枢木スザク。

 

 この四人を超えて三位といえた。

 

 二年前のブラックリベリオンの後、本国に帰国し、神聖ブリタニア帝国の技術局『インヴォーグ』に所属。そこで限定領域核兵器『フレイヤ』を開発。しかし、その『フレイヤ』が第二次トウキョウ決戦で圧倒的な破壊力を見せつけたため、世界中から開発者として狙われることに。身の危険を感じた彼女は幼馴染であるミレイに助けられて、アッシュフォード学園の地下で身を隠していたが――。

 

 

()()()()()()()だとゼロレクイエムに加わって、シュナイゼルが保有したフレイヤの対抗策として『フレイヤ・エリミネーター』とかいう反応棒を作った。そして、今の時期だと独房に入れられてるけど……」

 

 

 『この世界』ではニーナはゼロレクイエムに()()()()()()()。『あちらの世界』ではフレイヤ対策のために捜索されたのだろうが、『この世界』では捜索の必要がないため無視された。

 

 これは『フレイヤ』を無効化する術を持っていたわけではない。

 

 天空要塞ダモクレス。これが装備する《ブレイズルミナス・シールド》。KMF(ナイトメアフレーム)に装備されているものとはケタ違いの強度を誇る、絶対防壁。

 

 

 それを正面から打ち砕く術を持っていたから。いや、下手をしたら『フレイヤ』も凌駕しかねない切り札を所有していたから。

 

 

 ライの疑問にルルーシュはああ、と――

 

 

「彼女はまだ学園の地下にいるよ。恐らく、『あちらの世界』のようにけじめをつけるようなことは……もう出来ないだろう。開発することの恐怖を覚えてしまった。『あちらの世界』では『フレイヤ・エリミネーター』を作って恐怖も飲み込み、科学者の道へ改めて進んだが、『この世界』ではその機会がなくなってしまった」

 

 

 怒りも哀しみも同情もなにもない、物語の人物を語るように淡泊な声だった。

 

 そうか、とライは頷くと、胸に小さな痛みが走る。その痛みの名前を知っている。

 

 罪悪感。

 

 自分という存在で、シャーリーは救われた。しかし、ニーナは犠牲となった。

 

 これから彼女はどうなっていくのだろう。

 

 再び立ち上がり開発の道に進むのか、立ち上がることなく冷たい地下でただただ自慰行為のような研究を積み重ねるだけだろうか。

 

 だが、後者はいずれ終わりが来る。彼女が隠れているアッシュフォード学園だ。アッシュフォードは元貴族で貴族ではない。権力の持たない没落貴族が隠し続けれるわけがない。

 それに『フレイヤ』の爆心地となったトウキョウ租界とは目と鼻の先だ。きっとあの爆発によって亡くなった三千万人の遺族が嗅ぎつけることもあり得る。

 

 本当に――彼女はこれからどうなっていくのだろう?

 

 コーヒーが完成した。

 

 

 

 

 

――◆◆◆◆◆――

 

 

 

 

 

 コーヒーの入ったマグカップを二つ持ち、ライは先程まで白熱したチェスをした机へと向かった。チェス盤も駒は既にルルーシュに片付けられている。

 何も乗っていない机にライは無言でカップを一つ渡す。

 ルルーシュは座り込んだまま、カップを手に取り口に運ぶと――

 

 

「ちょっと待て、ライ。これ、本当にお前が淹れたのか?」

 

 

 黒の液体を喉へと流し込むと硝子細工のように整った表情が渋顔を作る。口元に運んでいたコーヒーを離し一瞥した後、咎めるようにライを睨む。

 

 もしこのルルーシュの視線を受けた人物が、彼の悪行を知っている者ならば恐れ、泣くよりも先に五体を地面に押し付け己の罪を謝罪するだろう。

 

――悪逆皇帝ルルーシュに睨まれた者は一族郎党全て処刑される。

 

 これは誇張でもなければ与太話でもない、実際にあった、それも既に何十も行われた事実からくるものだった。起きた事実は情報となり伝聞やネットという情報網を通り、世界中に広まった。結果、()()()なほどの速さで人々の間では、『バロールの魔眼』と言われるほど恐れられることとなった。

 

 しかし、そんな睨みにもライは謝ることも畏まれることもなく、ただ笑みを浮かべただけだ。

 

 

「何当たり前のことを言っているんだ。淹れてるの見ただろ」

「まずいな。これは、コーヒーなどではない。ただの温めた泥水だ」

 

 

 渋い顔になったルルーシュに、ライはそんな馬鹿なと自分でも一口飲んでみると、

 

 

「……うわ、本当だ。これは駄目だ、まずい」

 

 

 顔を見合わせ、二人は笑った。何の重荷も重責もない、年相応の笑顔でお互い笑いあった。

 

 

「世界を手に入れている俺にこんな泥水を飲ませるとは……お前でなければ親類縁者血縁全員処刑していたところだ」

「おお、怖い怖い。けど、僕はそんな男にインスタントのコーヒーを一杯飲ませられてご満悦だよ。――世界最強の騎士が淹れたコーヒーだ、残さず飲め。というか……僕の血縁を殺すとならば、それは君も含まれているんじゃないか?子孫よ」

「生憎と俺は例外だ。俺の身は世界を統べる秩序と法則の保護者、神聖にして不可侵の絶対領域に踏み入れている。例外といえば例外なんだよ。先祖よ」

「うっわー暴君、超暴君。傲慢中の傲慢だなー。いったい後どれくらいの血が流れるのかなー。こりゃ悪逆皇帝と呼ばれても仕方がないなー。こんな奴が末裔に生まれるのなら蛮族から守らなきゃよかったー。先祖は悲しーよ、しくしく」

 

 

 ライはルルーシュを笑みを浮かべたまま、棒読みの口調で非難する。しかし、その笑みは改めて口につけたコーヒーで消え去った。これはどんな笑い面でも泣きっ面でも一口飲めば、渋顔に早変わりするほどに不味い。

 

 

「飲めないこともない、絶妙な不味さ加減が質悪いな」

「そもそも何故こんなコーヒーがある?お前に届けられる食品にはこんな物を入れていないはずだぞ」

「ああ、コンビニの限定商品らしい。コーヒーならぬ麦琲(ムギヒー)とかいう奇をてらったような商品名だ」

「そんなコンビニ今すぐ潰れろっ!俺だったらもっとマシな物を作るぞ!」

「おお、いいな!君が店員を務めるコンビニかっ!――コンビニ店員を務めるルルーシュは近所の大手スーパー『ブリタニア』を潰すべくあの手この手で嫌がらせを行っていく!――どうだっ!」

「何がどうだ、だ!何故店舗の成長ではなく、他社を貶める方向に考える!」

「ぶっちゃけ君、育てることよりも相手に嫌がらせ――いや、弱体化させることに関しては天下一品じゃないか」

「くそっ!反論出来ん!」

 

 

 そこでふと、ルルーシュは会話にあった一言を理解して椅子を大きく鳴らして立ち上がった。

 

 

「コンビニ……だと!?お前、自分がどういう立場か解っているのか!?お前は一ヶ月前から世間一般では『死亡』したことに……っ!?」

「安心しなよ、ルルーシュ。外には出てないよ。僕は『死んだ』時からこのトウキョウ租界の地下で引きこもり生活を送っているから。僕を含めてたった三人しかしらないこの地下でね」

「なら、そのコーヒーは……」

「魔女からの差し入れだよ。一週間前にここに来て、珍しく気を効かせてくれると思ったら、こんな罠を張っていたとわね。苦みと不味さで感謝が吹き飛んだ――あっ、そうだ」

 

 

 思い出したかのように椅子から立ち上がったライは、再びキッチンへと歩を進める。

 

 ライの言葉にホッとしたルルーシュは動揺と焦りは消え去ったが、今度は頭痛に悩まされているように手を当てながら――

 

 

「――C.C.。あの魔女め」

 

 

 口調だけなら随分と忌々しいと悪感情を含ませているように察せるが、表情はしょうがないと苦笑、声色も懐かしむような、親愛を感じさせるものだった。

 

 そんなルルーシュを見てライも思わず微笑ましくなり、親愛なる魔女からの差し入れの品を冷蔵庫から取り出す。

 

 魔女の好物である――ピザだ。シーフード、ツナコーン、照り焼きチキンといった定番のトッピングが乗せられている。流石に三枚入るトースターなどないので、まずシーフードピザから入れ、タイマーをセット。

 

 

「それもあいつからの差し入れか」

「うん。正面は六段に重ねられたピザ箱を抱えて、背後はピザ屋のマスコットキャラのぬいぐるみを背負ったゴスロリ少女が入ってきた時は驚いたよ。――その後、ピザを持ってきてやった、感謝しろ、私がこんなことするなど滅多にないぞとか、色々と小言を言われたけど……」

 

 

 トースターから香ばしい香りが漂ってくると、チンと軽快な音が鳴った。解凍し終わったシーフードピザを取り出し今度はツナコーンピザを入れ、タイマーをセット。

 

 

「で入ってきて早々、服を脱いでワイシャツ一枚になって僕のベットの上でピザを食べ始めたんだよ。その後、飲み物持ってこいだとか、テレビのチャンネル変えろだと散々言って、ピザを一枚食べ終わった途端寝始めた。結果、僕はソファで寝るはめになった……」

「――分かる。ものすごく分かる」

 

 

 ルルーシュは心底ライに共感して力強く頷いた。

 あの魔女は協力者、共犯者としてはある程度期待に応えてくれている。しかし、同居人として見れば最悪の一言だ。面倒くさがりというか、物臭というか兎に角、私生活は酷いと認識している。

 

 またトースターからチンと軽快な音が鳴った。ツナコーンピザを取り出して、照り焼きチキンピザを投入。タイマーセット。

 

 

「それから……真夜中にソファで寝苦しくしていた僕を叩き起こして、『腹が減った。ピザを用意しろ。飲み物は炭酸飲料ならなんでも構わん。三分だ、いいな――?』って命令してくれたよ。その後、ピザ一枚食べてまた寝たよ。ピザ箱とか片付けずにね」

 

 

 ハハハ、と当時を思い出して乾いた笑い声を出すライにルルーシュはただただ、共感と同情の頷きをすることしか出来なかった。もし、今一度あったらライの代わりに嫌味の一つでも言ってやろう、と思ったが諦めた。ライには悪いがあの魔女には嫌味といった物は通用しない。付き合いが長い上での結論だった。

 

 三回目となるチンと軽快な音。ライは温まったピザを大皿に一枚ずつ乗せて、それらを一つのトレーに器用に乗せて机に持ってきた。

 

 

「そして早朝、またピザを用意させて食べた後、帰っていったよ。『残りのピザはお前とあの坊やで分けろ。私がこんなサービスするなど今までなかったからな』てね」

 

 

 そう言うとライに浮かんでいた微笑が途端に黒くなった。実際に黒くなったわけではない。まるで会話で出て来た魔女そっくりの意地悪を形にしたような笑みだった。

 

 まずい、いかん、と頭が警報を鳴らした時には遅かった。

 

 

「最後は『残ったピザはお前と坊やにくれてやる。頭を地面に擦り付けながら感謝するんだな。おっと、坊やはもう坊やではなかったな、私が相手をしてやったから』って。――よかったね、ルルーシュ!今すぐ赤飯用意するから待ってて!」

 

 

 喜色満面でキッチンへと走ったライが電子レンジで作れるパックの赤飯を取り出したのを見てルルーシュは――

 

 

「~~~~~っっ!!??」

 

 

 顔を紅蓮二式の装甲よりも真っ赤にして、かつてゼロの仮面を猫のアーサーに奪われた時よりも大きな奇声を上げた。

 




はいっ、せ~の、すみませんでしたっっ――――!!!!(ジャンピング土下座)

最近ボケ気味な頭がなんかインパクト欲しいと囁きまして、ルルCが鉄板だと思う私の思考回路が変な融合を果たしてこんなことに。(土下座継続中)

さて、皆さん。ルルーシュとライの口調どうでしょうか。なるべく違和感のないように書いてみたのですが。

ちなみにライの口調が明るいというか軽いのは仕様です。久しぶりに親友と話せてウキウキしてます。けど、『最弱世界』だと自分の全てを曝け出せる相手がいないため、暗くなっています。

中編に続く。
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