加筆しました。
これにて、やっとやっと本編へと戻れます……!
「白ロシアで共に戦い続けたサザーランド……。それを改造したのが《ランスロット・クラブ》だ。ずっと乗り、戦いと改装を続けて《ランスロット・クラブ・ベルゼルガ》となり――世界最強へと至った」
そう、最強。《紅蓮聖天八極式》、《ランスロット・アルビオン》の二体を正面から打ち破るために作られた機体。最強になるための機体。
「カレンが黒の騎士団に、スザクがシュナイゼル陣営につき、さらには、黒の騎士団に所属していたラクシャータは兎も角、ロイド・アスプルンド、セシル・クルーミーもシュナイゼル陣営に加わってしまったことで俺たちは頭を抱えたな」
「うん。第九世代一機でも、単騎で戦況を左右し兼ねないのにそれが二機も敵になった。《ランスロット・クラブ・クリーナー》と《蒼月》にエナジーウィングを取り付けるなど改造すれば一機は相手になる。だが、とても二機を倒すのは性能を持たせるには、どんなに頑張っても不可能だった」
天才
一応、
嚮団が壊滅した後も、ライに、いや正確には自分たちが作り上げた《ランスロット・クラブ》についてきてくれたのだ。
だが、そんな彼らもあくまで技術者としての腕は一流を超えなかった。超一流の天才である三人にはどうしても届かなかった。
『ゼロレクイエム』の完遂には、どうしても第九世代に乗り込む彼女らが障害となり、更には“ダモクレス”も控えていた。
計画の為に、勝つために、どうしても第九世代二機を打ち破れる性能の、最強の機体を開発することが計画の完遂には必要不可欠だった
そのためにライは――かつて手に入れた禁断の技術に手を出した。
その技術こそが、
「“マッスルフレーミング”と“ギアス伝導回路”。――オカルト技術だよな。一体どこで手に入れたんだ?」
「それは僕の工作員時代の説明で詳しく話すよ」
開発班が資料を元に開発させたエナジーウィングを組み込み第九世代へと至った両機。
その両機に“マッスルフレーミング”とそれによって形成される“ギアス伝導回路”を組み込み、《蒼月堕天九極型》、《ランスロット・クラブ・ベルゼルガ》と最強を体現する機体が完成した。
ライはかつて《ランスロット・クラブ・ベルゼルガ》を眺め、目を細め、ふう、と吐息を一つついた。
次に横に視線を《蒼月堕天九極型》に向ける。
その目は、哀しみの色が湛えてあった。
「こいつには悪いことをした。まだ《月下・先行試作型》だった頃は、戦場を唯一の愛機として駆けまわっていた。だが《蒼月》としては初陣のみしか、それも刃を振るった相手は“黒の騎士団”。不名誉を背負わせてしまった」
更には、念のためとして“マッスルフレーミング”と“ギアス伝導回路”を組み込んだが、碌に活躍はさせていない。というか、初陣も迎えておらず、一度動力に火を入れ、僅かなテストのみしかしていないのだ。
ライは不憫な思いをさせ続けている《蒼月堕天九極型》から視線を戻し、ルルーシュへと向き直った。
そして再び語り始める。新たな戦いの記録を。
「刺客としての初任務は美術品の強盗だった……」
「ほう。今までに比べれば、随分と
「何でも、美術品の多くにはギアスの紋章などが描かれた作品が多少なりともある。嚮団はそう言った作品を昔から回収してきた。近々、有名な美術館のある国が戦場になるからその中の美術品を避難させるところを奪ってこいって」
「有名な美術館か……。名はなんだ。心当たりがあるかもしれん」
アッシュフォードに在学中、ルルーシュはほぼ首位を独占していた。その中には当然、美術もあり自身がモデルとして描かれたこともあるなど、知識はある。
だが、自信あり気なルルーシュと違い、ライはやれやれと首を振って口を開いた。
「――エルミタージュ」
「……!」
ライが告げた美術館にルルーシュは息を呑んだ。
エルミタージュとは、サンクトペテルブルク市街の中心にあるエルミタージュ美術館のことである。その美術館にはダ・ヴィンチ、ラファエロ、ベラスケスにルノワールといった美術の鬼才、天才が残していった作品、18世紀半ば以降にコレクションされた様々な作品が収納されている。その価値は、まさに人類の宝と呼ぶにふさわしいものといえる。
だが――
「白ロシア戦線に決着がついた時期のサンクトペテルブルクと言えば、E.U.の部隊が立てこもりブリタニア相手に籠城戦を展開していたはずだ……」
そもそもサンクトペテルブルクは、ヨーロッパ北部最大級の大都市。バルト海に通じるフィンランド湾に面した港を擁し、E.U.にとって通商交易上の重要拠点なのはもちろん、軍事的要衝としてその価値は計り知れない。もちろんそれは、ブリタニアにとっても同じことであった。
「そう、また最前線送り。しかも、今度はただ目の前の敵を倒す単純なものじゃなく、美術品全てを奪ってこいだったから余計に神経を削ったよ」
サンクトペテルブルクを包囲したブリタニア軍が籠城したE.U.軍と衝突するまで一週間。その前に全ての美術品を盗まなくてはならず、ライは急いで現地に向かい任務を開始した。
幸いにもサンクトペテルブルクの近くには『遺跡』があり、随分と道をショートカットすることが出来た。
ライ自身の素性の誤魔化しは嚮団がやってくれた。流石はブリタニア帝国の上層に巣食う組織。ライは特務の人間とあっさり設定、認識させてくれた。行きと搬送と帰りの安全は保障されたのだ。
美術品を運ぶ為に嚮団から与えられた人手と共にエルミタージュ美術館に潜り込むと先客がいた。
先客の正体は、裕福な芸術愛好家達が国家・民族・主義主張の壁を超えて設立した、美術品を戦火から保護するための秘密組織だった。その組織は豊富な財力に物を言わせ、戦災で焼失する恐れのある美術品を片っ端から回収・保管するのだ。
組織はここ数週間に渡り、間近に迫ったブリタニア軍とE.U.軍との衝突からエルミタージュの収蔵品を守るため、精力的に活動してきた。が、彼らの予想よりも速くブリタニアの総攻撃が近いことを知り、収蔵品の搬出チームを送り込んだのだ。
ライは搬出チームに『収蔵品を遺跡まで持っていけ』とギアスをかけることで極短時間で美術品を奪取していったのだ。
「思ったより順調じゃないか。正直なところ、美術品を奪うために激しい戦闘があると予想していたんだが」
「あーうん。順調だったよ。けど、最後の最後でね……」
洗脳した搬出チームのお蔭で工作員としての初任務は、だいぶ楽をさせてもらった。
そして、最後の美術品専用の耐衝撃コンテナを運び込もうとした時、『敵』が現れた。
『敵』は
「ブリタニアとE.U.両軍が動き出すのにまだ時間はあったはず。余裕ぶって作業を遅らせるなんてお前はしないはずだから――その二機は傭兵か」
「噂では、傭兵業界にも美術品専門のチームがいるそうだからね。もしもの為に雇っておいたんだろう」
搬出チームには“異常なし”と告げるよう洗脳していたが、運び出されたはずの美術品が一つも届いていないのだ。何かあったとして戦力を送り込むぐらいはするだろう。
「だが、たった二機か。これまで“白ロシア戦線”を含めた修羅場をくぐり抜けたお前からすれば、取るに足らない数だろう?」
「……それが思いの外、苦戦しちゃって」
ライは苦笑を浮かべて、天を仰いだ。
「白い塗装が施された“グラスゴー”がね。動きというか反応というか、少なくとも旧式なんかじゃあり得ない機動をしていた。僚機の“サザーランド”はどうやらブリタニアから奪ってきたノーマル機、その動きを比べると徹底的にチューンナップされているって解るよ。まさかランスロット系列のパーツを組み込んだ僕の“サザーランド”と互角にやり合うなんて……。あれは“グラスゴー”じゃない。“グラスゴー”の皮を被った第七世代機だよ」
おまけに先端にドリルが付いたチェーン駆動四砲身ガトリング砲なんかを装備していたから最初は弾が切れるまで逃げ続けるしかなかった。
「更にパイロットの腕もいい。“サザーランド”の方は喧嘩殺法のような癖の強い戦い方だったから、正規の訓練を受けたパイロットじゃないね。けど、死線をくぐり慣れてる者特有の気配だから、パイロット歴は長いと思うよ。問題は“グラスゴー”のパイロット。機体が超一流ならパイロットも超一流だった」
「お前が言うのなら相当だな。――どれくらいだ?」
「ナイトオブラウンズ級だね。まさかあれ程の技量の持ち主が、傭兵としていたとは」
最初はガトリングの弾幕で逃げるしかなかったが、弾薬が切れてすぐに接近戦に持ち込んだ。そのまま
そのまま“グラスゴー”を追い詰めようとしたが、パイロットの本職は接近戦。ライの“サザーランド”が繰り出す剣技を躱し続け、カウンターの高周波ナイフを突き立てようとしたのだ。
コクピット目掛けて迫るカウンターにライは、白ロシア戦線では味わったことのない、蛮族に胴体を抉られかけた時の恐怖を思い出す程、肝を冷やしながら後退。
長物である
お互い武装はスラッシュハーケンのみとなったが、変わらず接近戦を継続。
お互いの機体の装甲を破損させ、機体駆動が鈍ったのを見計らい、その生まれた隙に必殺のスラッシュハーケンをお互いに撃ち込もうとした。
あの時ライは“殺った”と確信したのと同時に“殺られた”と理解した。それはあの“グラスゴー”のパイロットも同じはずだ。
お互いの命を
爆発の正体は、ブリタニア軍がサンクトペテルブルク市内に立てこもるE.U.軍の兵士を眠らせないための砲撃だった。それが偶然、たまたま、近くに撃ち込まれたのだ。
爆発の衝撃でお互いの機体は、何とかランドスピナーで走れる有様だった為、これ以上の戦闘は無理と判断し、撤退。勝負は打ち切りになった。
「結果から見れば、美術品は全部そっちが回収したから勝ちだが……」
「だが?」
「閉まらん最後だ。どうせなら勝って見せろ」
「うう、面目ない」
「それにしても傭兵でお前とやり合える相手など――ピースマークの“一本角”ぐらいだと思ったがな。もし生きているなら黒の騎士団にスカウトとはいかなくとも協力関係を結んでいたかもしれない」
“一本角”――“紅蓮弐式”の試作機、“紅蓮壱式”のカスタマイズ機体“白炎”のことである。流石に実物を見たことはないが、その戦闘データは“蒼月”の開発に使われており、内臓データベースに詳細が載って拝見したことがある。
「ピースマークの“一本角”……戦ったことはあるよ」
「あるのか!?」
「うん。まあ、その話は追々。取りあえず、工作員として初任務が終わった後、休む暇もなく次の任務を言い渡されたよ」
次の任務は、地理的にも近いためかE.U.でスパイとして派遣されることとなった。無論、素性はE.U.出身、それも軍人としての偽装を施して。
“サザーランド”は置いていった。潜入するのに、敵地であるE.U.にブリタニア軍の
先の戦闘でボロボロになったのを機会に、提供された第七世代パーツを本格的に組み込もうと、技術班が張り切っていたので任せることにした。その機体こそが《ランスロット・クラブ》である。
目的はあるシステムの奪取。
その名前は
開発者はソフィ・ランドル博士。
複数の脳をネットワーク化することによってさらに大きなシナプスネットワークを構築することで複合知性を開発する、と研究費を得るため各所に提出したレポートには書かれている。
脳と脳の複合、つまりは意識同士の繋がりを可能とするシステム。
『ラグナレクの接続』、また研究の足しになるとV.V.と嚮団員たちは判断し、ライに
「ランドル博士はヴァイスボルフ城という基地にいた。僕はその補充兵として潜り込んだけど……早々、基地は大騒ぎになってたよ」
「…………」
スパイとしての活動を語るライとは対照的にルルーシュは硬直したまま、沈黙している。
「『方舟の船団』を名乗るテロリストが北海の発電所を爆破したネットで放送してね。まあ、結局はデマだったけど。しかし、酷い悪戯だよ。たった一つの映像だけで、国一つを崩壊寸前まで追い込んだんだ。悪辣ともいっていい」
「…………」
「そもそも政治主張が滅茶苦茶だった。無政府主義なのか教会復古主義主義なのか自然回帰主義なのか終末主義なのか……ってどうしたルルーシュ?さっきから黙っているけど。――水、いる?」
沈黙を続けるルルーシュにライは気遣うように声を掛けると――
「……俺だ」
「え?」
どこか引きつった顔でか細い声を出した。
「……俺なんだ」
「えーと何が?」
「……だから、その『方舟の船団』は俺なんだ……!」
臓腑から搾り出すような言葉を耳にしたライは、ネットで流されたムービーを思い出し、
「ゑっ?え。……あっ。あ、アアアアっ――!!??」
言葉を脳に届かせるのに一秒、その意味を理解するのに三秒、そしてそこから当時のルルーシュの状況を察するのに五秒かかった。
全てを理解し、察したことでまず思ったことは――。
――ルルーシュにとって屈辱の黒歴史でしかない!!
ルルーシュもシャルル皇帝によって洗脳されて、あんな謀略をさせられたのだ。プライドが高く、誇りも高い彼にとって当時のことを屈辱以上の何物でもない。
ライはこの話は速く終わらせた方がいいと直感し、
「でっでね!ヴァイスボルフ城の司令官は、『方舟の船団』がユーロ・ブリタニアの策であることを見抜いて方舟への強襲作戦を決断!けど、作戦中、黄金の
早口で当時の自身近くで取り巻いた状況を簡潔に説明した。
口角沫を飛ばすように話続けた口内はカラカラに乾き、コーヒーで潤す。
そして、一息つき、
「僕はまあ、怪しまれないよう軍人らしく動いていた。対
目的であるランドル博士とスタッフの拉致は出来なかったが、貯め込んだデータとシステムそのものを手に入れたのだ。
その成果にV.V.たちは概ね満足してくれた。
――けど……あれは一体何だったのだろう……?
実はライはヴァイスボルフ城で荒唐無稽な現象を三つ目にしているのだ。それはV.V.やC.C.――更にはルルーシュにすら話していない。
一つ目は、激しい戦闘を行う“ヴェルキンゲトリクス”と“アレクサンダ・リベルテ”が一時、消滅したこと。
二つ目、これが特に印象に残っている。
あれは、ヴァイスボルフ城に侵入を果たそうとしていたユーロ・ブリタニア兵士を迎撃していた頃だ。
ライは対
その感覚が解かれると、何と迎撃したはずの兵士が生き返っていたのだ。慌てて、再びライフルを向けたが、感覚に襲われたためリロードに遅れてしまった。だが、ライフルの弾数は兵士たちを殺害する前と同じ数に戻っていた。そして、そのまま彼らを再び殺した。
何故、彼らは生き返った?何故、弾が切れたはずのライフルに弾が戻っていた?
まるで、
そして、弾の切れたライフルにリロードをしている最中、背後に視線を感じた。
振り向いた後ろにいたのは、暗闇の中でさえ陰ることのない美しさを持った女だった。だが、その姿にライは――果てしない恐怖を覚えた。
細胞全てが悲鳴を上げるようにして、構わず手に持ったライフルの銃口を女に向けた。
どうしてかは未だに分からない。女の正体すら分からないのに。ただ一つ言えることは、あの女は人間ではない。あの女に比べれば――C.C.やV.V.の方がまだまだ全然人間だ。
女は、凪のように冷たく、何の感情も映していない目で自分を暫く見つめ、ふっと消えた。停戦交渉の申し出が城に響いたのはそのすぐ直後だった。
最後は、“アレクサンダ・レッドオーガ”が突如、天に生まれた渦に吸い込まれ姿を消した後すぐに、再び生まれた渦から数機の“グロースター・ソードマン”を引き連れて戻ってきたことだ。
話した方がいいのか散々迷ったが、ライは生涯胸に秘めることにした。少なくとも、深く関わらない方がいいことに決まっているために。
そして、次々と与えられた任務を語っていった。
ルルーシュに匹敵するギアスの素質を持つとしてV.V.が“飼っていた”双子のブリタニア皇子、キャスタール・ルィ・ブリタニア、パラックス・ルィ・ブリタニアが反乱を企てようとしたため、行動を起こす前に完成した《ランスロット・クラブ》に搭乗し暗殺した。
「キャスタールとパラックスを殺したのか……?というよりパラックスは生きていたのか?」
「パラックスはキャスタールに殺されたって言われてるけど、本当はその高い素質を惜しんだV.V.に保護されていたんだ。けど、皇帝になろうとして皇族全員を殺そうと企んだから、僕に始末するように命令してきた。……何か試作型っぽいゲテモノ
「いや、寧ろ感謝してるよ。あの鬼子はナナリーをカリーヌよりも苛めていた。許すに許せない奴らだったからな」
そして、次の任務は脱走した嚮団員の排除。
この嚮団員はかつてライを
ライはその嚮団員、かつてはシュナイゼル直属のバトレー将軍の部下、大佐として特殊名誉外人部隊を率いていた男。そして――眠りについていたライを発見した人物。
禿頭で両目に義眼をはめた男――マッドを数ヶ月かけて探し出した。
探し当てた研究室に突入し、目にした研究は――狂気に染まっていた。
“ワイアードギアス”の発動の見込がある
「増やすとは、どういうことだ?」
「簡単だ。僕の遺伝子を使って、人造ワイアードを作り上げようとしたんだ」
ライの顔が凄まじいまでの嫌悪に歪む。
マッドはクロヴィスが死亡し、バトレーが本国に移送された後、独自に研究を進め、ギアスの存在に辿り着いた。その実力を見込まれ嚮団にスカウトされた経緯を持つ。
研究を続け、“マッスルフレーミング”と“ギアス伝導回路”を完成させるなど、有能さを見せつけたがギアスの力に憑りつかれてしまった。
「マッドの研究が進んでいたと思うとゾッとするよ」
「遺伝子によって作り出す……。クローニングによる複製か、嚮団の資料に同じようなことが過去に何度か行っていた。なるほど、もう少し遅ければ『お前自身』か『子供』が生まれていたのか」
「ルルーシュ、そんなものは僕の子供でも、まして僕自身でもない」
「研究室で培養された細胞片だとでも?」
いや、
「もっとおぞましい『何か』だ。自分の複製を勝手に作られた。誰だってクローンなんか受け入れられないよ」
「そう……か。それでそのマッド大佐は始末出来たのか?」
「…………」
「ライ?」
「いや。殺そうと研究室に乗り込んで追い詰めたが、研究室を地下に隠してたサクラダイトで自爆しようとして。慌てて自爆から逃げ出したから、最後は見ていない」
「死体は確認したか……」
「研究室丸ごと吹っ飛んだんだよ。確認のしようがない。生きていれば……」
「生きていれば?」
「必ず――殺す」
崩壊した研究所のブラックボックスを秘密裏に回収し、それを解析して“マッスルフレーミング”と“ギアス伝導回路”の技術を手に入れたのが真相だ。
その後の任務はハンガリーに流れ込んできた、E.U.軍残党とブリタニア軍の掃討。
ハンガリーにはギアス遺跡があり、その場所を知られるわけにはいかないために《ランスロット・クラブ》の新装備をテストしながら遂行していった。
「この任務が一番穏やかだったと言えるかな。ハンガリーの田舎は牛や馬が沢山いてね。任務続きの日々を癒してくれた。けど」
「やっぱり何かあるのか」
「やっぱりって何さ。略奪を働くブリタニア軍を始末していると、《蒼月》のデータベースにあった“アマネセール”と《ランスロット・クラブ》のデータベースにある“アグラウェイン”って
次の任務は龍門石窟で戦闘を行う特殊隠密部隊“プルートーン”の援護。
その任務に当たる際、《ランスロット・クラブ》を改装、《ランスロット・クラブ・クリーナー》へと強化させ、出撃したが……。
「その任務は失敗に終わったよ。中隊規模の“プルートーン”は全滅。グリンダ騎士団とピースマークの“一本角”によってね……」
「ようやく出てきたな。ピースマークの“一本角”」
“プルートーン”が全滅した後、グリンダ騎士団とピースマークはライに襲い掛かった。
ライとしては任務失敗と判断して撤退しようとしたが、グリンダ騎士団とピースマーク、彼らの連携によって逃げるに逃げられず相手になった。
結果、《ランスロット・クラブ・クリーナー》を大破寸前のところまで追い込まれたが、“月下紫電”、“サザーランド・アイ”をパイロットは脱出されたが大破、“ゼットランド”、“ブラッドフォード”中破、“ランスロット・グレイル”、“烈火白炎”を小破させて撤退してやった。
改装したばかりの《ランスロット・クラブ・クリーナー》をボロボロにして帰ってきたため開発班は悲鳴を上げ、元々機嫌が悪く、任務失敗により腹を立てたV.V.に精神感応によるトラウマほじくりの罰を与えられた。
新しい任務はトウキョウ租界に送り込まれたジェレミアの監視。
彼のギアスキャンセラーで記憶を取り戻さないように、離れて任務を行っていた。
そのジェレミアを追う途中で少女――シャーリー・フェネットに話しかけられた。極秘に付けられたライの監視員はライが記憶を取り戻すのを防ぐため、シャーリーに発砲。理由も解らず激高したライは監視員を殺害。シャーリーに応急処置を施し病院へ。
「……本当に彼女には悪いことをした」
「ライ。言ったはずだぞ。お前がいなかったら、シャーリーはロロに殺されていた。お前がいたからこそ、彼女は今も生きているんだ」
「……うん。そう。そうだね」
監視員を殺害し、監視対象だったジェレミアを見失ったライは、もはや専属の開発班になった彼らと合流、嚮団と連絡を計った。
丁度、その頃、ルルーシュ=ゼロによる嚮団殲滅作戦が行われているのも知らずに。
連絡がつくまでエリア11に待機していたライに嚮団が壊滅したこと、V.V.が死んだことを伝えたのは、シャルル皇帝だった。
「その後は、知っての通りだ」
「お前は第二次トウキョウ決戦に参加し、ジェレミアのギアスキャンセラーで記憶を取り戻すもそのショックで気絶した」
「それも『フレイヤ』が爆発した頃にね。《ランスロット・クラブ・クリーナー》から脱出しても、もう少しで巻き込まれそうになったところをカレンが助けてくれた。そして、記憶を取り戻し黒の騎士団に帰ってきた時には、君は――いなかった」
そのことに気付いたライは、カレンたちの制止を振り切り、追放されたルルーシュと合流。共に『ラグナレクの接続』を阻止。シャルル皇帝とマリアンヌを抹殺した。
そして、ルルーシュは第九十九代皇帝となり、ライは“ナイトオブゼロ”となり、シュナイゼルのダモクレスを制圧、超合衆国もその手に収めた。
ライはルルーシュに歯向かう存在を一切合切容赦なく抹殺していき、最終決戦から一ヶ月後、病によって亡くなった、と表向きにはそう発表されたのだ。
長い長い少年二人の会話はとうとう終わりを迎えた。
既に時計の短針は五時を指し、ピザは全て平らげられていた。
「ライ」
「なんだい?」
「――楽しいな」
短い呟きだった。ポツリという例えが相応しい、しかし、万感の思いが詰まった呟きだった。
「こうして何の気兼ねもなく、世界のことも考えることもなく、一個人として生きることがとても楽しい」
ふふっ、小さな笑い声を出し、
「それにその楽しさを共有できる親友にも出会えた。楽しさだけではない、喜びも怒りも苦しみも俺たち一緒に味わっていった」
だが、
「それももう終わりだ」
名残惜しかった。
もっと続けていたかった。
この一時を味わい尽くしたかった。
けれど、もう終わり。
ルルーシュとライは、ただの十代ではないのだ。世界を手に入れ、破壊尽くした意思と願いと責任がある。それらが彼らを十代の少年から『世界を動かす者』へと切り替えさて行く。
もう終わった。終わってしまったのだ。少年たちが他愛もなく話せる時間は。
楽しく温かい
ルルーシュはふっと息を吐き、懐からマイクロチップを取り出し、ライへと渡した。
「……これは?」
「俺の、いや“ゼロ”の活動記録だ。2017年と2018年の活動内容が全てそれに詰まっている。“ゼロ”が自分の行ったことを知らなければ話にならないだろ?」
ルルーシュの言葉にライは答えない。ただ沈黙して、マイクロチップを見つめていた。
ルルーシュはピザの空き箱を重ね、空いた机の上のスペースに、足元に置いてあったトランクケースを乗せた。
「……」
開け口を向けられたライは、黙って留め金を外し、開けた。中に収められていた物を見て、予想していたとはいえ無意識に唾を飲み込んだ。
ライトの光を浴びて鈍く輝く、一個の闇色の仮面。濃い紫の衣服。漆黒のマント。
おそらくそれらの備品を見た者は、誰もが既知を感じるだろう。これらを纏った人物は常に驚きの的であった。『正義』の名のもとに、数々の奇跡を成し遂げた英雄/魔人。
ライがトランクを開けた時から沈黙がしばらく続いた。チェスをしていた時のような重量のある沈黙ではない、静かでどこか哀しみを覚えさせる雰囲気を持った沈黙だった。
ライがゆっくりとトランクに収められた仮面を取り出し撫で、仮面に移る自分の表情を見つめる。悔いと恨みの面構えだった。来るべき時が来てしまった。時間の残酷さを恨む表情。
やがて、ルルーシュが口を開いた。
「ライ。計画通り、お前が俺を殺せ」
その言葉にライは一瞬体をビクッと震わせ、それでも、平静の装いをした狂おしいばかりの感情を秘めた声で問い返した。
「やるのか。どうしても」
ルルーシュはああ、と頷いた。
「予定通り、世界の憎しみはいま、この俺に集まっている。フレイヤは俺とお前が秘密裏に
「…………」
「黒の騎士団には、ゼロという伝説が残っている。シュナイゼルもゼロに仕える。これで世界は軍事力ではなく、話し合いという一つのテーブルにつくことが出来る」
「それが――」
「ゼロレクイエム」
「“Cの世界”で僕らは知った。人々が明日を望んでいることを」
「ああ。――なあ、ライ。ギアスとは個人の願いがその形になって表れるものだ。だが、必ずしも個人の願いだけがその形の真実でもない。そう思わないか?」
ライは一瞬、キョトンとした顔になったが、その意味を理解してゆっくりと頷いた。
ルルーシュはそれに笑って言葉を続けた。
「自分の力だけでは成し遂げられないことを誰かに求める――」
「願い、だね……」
「そうだ。俺は多くの人々の、ギアスという名の願いにかかろう。世界の明日のために」
そこで、ルルーシュは己の両目にそっと手を当てた。ライも同じように己の喉に手を当てる。彼らはそこに宿る力で多くの意思を踏みにじってきた。多くの人間をもてあそんできた。
故に――
「「撃っていいのは……撃たれる覚悟のあるやつだけだ」」
二人の口から同じ言葉が地下空間に響く。
暫くして、満足そうに頷いたルルーシュは椅子から立ち上がった。
「……行くのかい?」
「ああ、何せ来週には愚かにも俺たちに反逆した者ども――スザク、ナナリー、シュナイゼル、黒の騎士団どもを処刑しなければならないからな。盛大なパレードにするつもりだ。“死んでいる”お前と違って忙しいんだよ、俺は」
「……警備は頑丈にした方がいい。現場担当者はジェレミア卿に。
「ああ、無論そうするつもりだ。それらをくぐり抜けて俺を殺せば、そいつは奇跡の体現者。英雄、救世主と呼ばれるな」
ルルーシュはライへと右手を差し出した。
ライはその手を握り返して握手する。
「――ありがとう、ライ。お前がいたからこそ俺はここまで来れた」
口にしたのはライにとっての最高の賞賛。
ライはその賞賛を真正面から受け止め、
「ルルーシュ。感謝するのは僕の方だよ。記憶を封印されて、何度も死に瀕した時、ふっと頭に浮かんだんだ。顔も分からない誰か……僕に手を指し伸べてくれて、友達だと言ってくれた人がいたと。その人のために僕はまだ死ねないって、何度も奮い立たせてくれたんだ」
――君のお蔭で僕は生き延びることが出来たんだ。
口には出さず、伝えるようにその手を強く握った。
そして、握手してから二分ほどが経過し、
「ライ…放せ……」
ルルーシュが呟くように頼む。だが、それでもライはルルーシュの手を放そうとしなかった。腕力はルルーシュよりライの方が圧倒的に強い。一度は手に力を籠めて振り解こうとしたが、ライは放さなかった。
――行かないでくれ、行かないでくれ。
そう、手の感触から痛いほど気持ちが伝わってくる。
ライは計画に理解を示してくれている。そうでなければ八千万の人間を共に殺したりなどしない。だが、最後のルルーシュの死については――まだ拒否があるのだ。
故に、ルルーシュは仕方がなさそうに微笑んだ後、目を閉じた。握られる手をまた強く握り、開けられた目には覇者としての鋭い眼光が迸っていた。
そして、ライへと威厳を籠めた――残酷な言葉を口にした。
「……無礼だろう。我が騎士、“ナイトオブゼロ”ライよ」
途端にライの手から力が抜けた。力強く放さんと握っていたルルーシュの手は解放される。
ライの右手は胸に付け、片膝を床につけて頭を深く垂れた。形作った姿勢は全ての騎士の手本となるような一部の隙もない臣下の礼。
これでいい。ここから先の言葉を向き合って話すのは、ライにとって酷すぎる。
「我が騎士、ライよ」
「はっ」
腹の底から力を入れた、張りを持った声がライの喉から絞られる。
ルルーシュは堂々と、この最高最強の騎士が仕えるべき主君として、そして何よりこんな自分を支え続けてくれた親友のために一世一代の王の演出を振舞った。
臣下の礼を維持するライの肩が微かに震える。
――やめろ、やめてくれ。聞きたくない。
と、主張しているように見えた。
その親友の姿を目に収めたルルーシュは告げた。
「俺を――殺せ」
――消えていった命の為にも。ここまで歩んできた道のりの為にも。多くの許されない罪の為にも。それら全てがお前の手にかかっているんだ。
地下空間に静寂が満ちる。ルルーシュは待った。
そして、
「――イエス、ユア・マジェスティ」
頭を下げたままのライに背を向け、出口に向かう。出口の扉の前で一度だけ止まり、首だけ後ろを向けば、ライは未だに礼の姿勢のままだった。
その姿に年相応の微笑みを浮かべ、
「――さらばだ、ライ。後は託した」
数歩の足音がして、扉が開き、そして、閉まる。シュンという機械的な無機質な音。
それでルルーシュの気配は完全に消えた。
広大な地下空間に残されたのはライただ一人だけ。
礼は未だに解いておらず、頭を俯かせたまま。
その顔からはハラハラと涙が零れていた。とめどなく溢れる涙をライは拭おうともせず、ただただ零す。
――もう、彼のことで涙を流すことも許されないから。
一週間後、ライはルルーシュを“魔王”として殺す。
そこからはもう、彼のことを一生『悪』として扱わなければならない。彼のことを思って泣くことすらできなくなるのだ。
だから、せめて今だけ彼のことを思って泣き続けよう。涙腺が枯れ果てるまで。ずっと、ずっと。
そうして、銀髪の少年は涙を流し続けた。
間違っている世界を破壊し、再生しようとした偉大なる“魔王”のことを思って――。
・『
元ネタは『ナイトメア・オブ・ナナリー』。
契約なしにエデンバイタルにアクセスし、ギアスを行使する者。魔王の素質を持つ者。契約に縛られるギアスとは違い神にも匹敵する力を持つ。
と、元ネタの『ナイトメア・オブ・ナナリー』では設定されています。
独自解釈を加えたこの作品の『
集合無意識である“Cの世界”と“時空の管理者”(亡国に出て来る謎の存在、意識の集合体らしい)と呼ばれる『神』と『神』が、人間の意識の停滞を防ぐため、人間に強力なギアスの因子を埋め込んだ限りなく“自分たち”に近い存在。
意識の集合体である『神』は人間の意識がなければ存在出来ない。だが、ただ生きていればいいのではなく、感情や意思を持って生きること――つまりは人間の意識をより活性化させることで冷えて、停滞し死滅することを防げるのである。
多くの『
『神』と『神』――特に“時空の管理者”は、『暴走』していく『
全てを破壊に導きかねない、いや、自分たち『神』の領域に踏み込み、自分たちを滅ぼせる“ワイアードギアス”を持った者すら現れ始めたのだから。
結果、『
ちなみにこの一部の人間が、『亡国』のジーン・スマイラスの先祖、シン、アキト兄弟の先祖である。
まだ『暴走』していない『
それが後のブリタニア皇族や日本皇族といったギアスの因子を持つ者の原点である。
『
――というとんでも設定にしてしまいました。
この設定上、ルルーシュやナナリー、ブリタニア皇族は全員『
最も修羅場を潜っているルルーシュでも、覚醒するのに百を必要とするなら、多く見積もって五しかありません。
ライは、古代の日本皇族とブリタニア皇族との間に生まれて『
因みにライの怨敵である蛮族も祖先が『
なお、“神装機竜”の世界にも末裔はいます。