春休みが終わってからリアルが忙しくなりましてね……。中々、執筆する時間が取れなかったんです。これからの更新もかなりの不定期になってしまいます。楽しみにしている方々申し訳ございません。
では、今回の話について説明を。
今回の話は、タイトルの通り過去編です。他の執筆具合は、本編は6割、番外編は4割といったところで……。
時系列としてはライがギアスの遺跡で目覚めて数か月後の話で、レリィたちアイングラムに出会うほんのちょっと前です。
この話が後々、レリィたちやルクスに出会うきっかけとなっています。
過去編 -復活ー
色があった。
青の色だ。深く濃い青の色が、上方に大きく広がっている。そして対する下方には同等の濃さを持つ緑と薄く鮮やかな緑の色が広がっている。
天の青は雲一つない空、地の緑は木々が生い茂る森と太陽に輝く草原だ。
そんな青の中を、空の中央を行くものがあった。
それは竜と人を合わせた存在、
だが陽光を反射する
人よりも巨大な姿。空よりも濃い蒼いと穢れを集めた漆黒で塗られた存在は、身を作り上げる
角を持ち、鋭い双眸を持った蒼黒の騎士。四肢は長く、背部にはそれぞれ対の翼である《フロートユニット》が横に張り出して、翼の先から翡翠の光が伸び、加速のための陽炎がより強く吐き出される。
加速に押され、騎士は往く。
騎士の中心部には人がいた。鎧を兜を身に着こなしているのではなく、騎士のぼっかりと空いた部分に人が入り込んでいた。
黒い仮面、黒い鎧に身を包む――ライは風の壁にぶつかるのを感じながらも、騎士の操縦桿を強く握った。
主の意思を感じた騎士、《クラブ・クリーナー》は主を守るための障壁を強固にし、更なる加速を試みる。
耳に届く多くの音は、より強くなった空の風を切る大音。その音に重なるように響くのは、機体の金属的な軋みや、加速噴出の轟音だ。
飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。
『っ……!』
加速のGは《クラブ・クリーナー》が抑えてくれるが、操作と出力上昇の負担が身体の苦となって蝕むがしかし、ライは動くことをやめない。
再び、《クラブ・クリーナー》に命令を下す。
《クラブ・クリーナー》の両肩部が開く。そこに埋まっていた《ファクトスフィア》が露出する。さながら眼球にも見えるそれの中心が光り、球体に光の波が走る。
光の波が走るたびに騎士の翡翠色の双眸が光り、同調した主の仮面も光が走る。
仮面と装甲衣が持つ能力が、接続された《クラブ・クリーナー》が感知する全てをライに流し込まれてくる。
前方、《クラブ・クリーナー》が捉える存在をライは視認することに成功した。
自分たちより先を劣らぬ速度で駆けていく鋼の巨体。
引き離そうと振り向くことなく、背を見せ続ける存在。六つの羽の《フロートユニット》を背負い、《クラブ・クリーナー》よりも一回り巨大な黒と黄金の騎士の名は――
『ガウェイン――ッッ!!』
追いかける獲物の名を叫び、武装《ゼルベリオス》を召喚する。
手持ちハドロン銃砲である《ゼルベリオス》は
ハドロンショットを連射可能な
《ゼルベリオス・ツヴァイ》から放たれる一点集中のハドロンブラスターを直撃すれば《ガウェイン》の大破は確実。それも今見せているがら空きの背中に当たれば、その確率は膨れ上がる。
加速を続行しながらも両手で《ゼルベリオス・ツヴァイ》を構えるが、
『……くそっ!』
撃てない。引き金を引けない。狙いを定めることが出来ない。
《クラブ・クリーナー》が《ガウェイン》を《ガウェイン》として認識出来ていないから。
仮面と装甲衣のお蔭でライは人間では到底認識できない世界を認識できる。その世界は、《クラブ・クリーナー》が認識している世界だ。
精密機器の集合体が、己の性能をフルに活用して感知する世界は人間よりも広く、深く、鮮明としている。その世界を共有できるお蔭でライ自身、これまでの戦闘で大いに助けられてきた。
先ほども離れた距離にいる《ガウェイン》を確認することが出来た。しかし、それはライの認識。《クラブ・クリーナー》には、離れて飛んでいる《ガウェイン》を《ガウェイン》と認識出来ていない。
人間であるライが認識できて、機械である《クラブ・クリーナー》が認識出来ないその謎は、
――
《ガウェイン》とその同機を発展・改良した《蜃気楼》に搭載された電子解析コンピュータシステム《ドルイド》。それが《クラブ・クリーナー》の目と耳、レーダーすらも欺いている電子戦装備。
今、追っている《ガウェイン》も似たようなことが出来てもおかしくはない。
そもそも《ガウェイン》を発見したのは、空を飛行しているのを偶然ライが発見したことによるものだ。《ファクトスフィア》のレーダーに映らずに。
展開していた《ファクトスフィア》にも感知されずにくぐり抜ける
ここで今、仕留めておきたい。しかし――
『オ、オオォォ――――ッッ!!』
徐々に、徐々に《ガウェイン》との距離は縮まっている。だがそれは、なおも続けている加速によってのもの。長時間の加速がライの疲労となって蓄積している。
このまま続けていけば、いずれは《ガウェイン》に追いつけるだろう。しかし、その時のライの疲労は如何ほどに。これは追いかけっこではない。戦闘だ。
《ガウェイン》と戦うには体力も整備も万全でなければならない。自分が破壊すべき対象はそれ程に強大なのだ。
消耗した状態で戦えば自分は間違いなく苦戦、最悪死ぬ。自分の死、それは奴らを破壊することができる者がいなくなること。この世界に自分より優れた技術を持つ人物や兵器があったとしても絶対に彼らを滅ぼすことはできない。
それだけは絶対避けなければならない。
諦めるしかないのか、と思った時、
『っ!?』
先を進んでいく《ガウェイン》が加速を止めた。ただし、停止することはなく、振り向きの勢いを持って薙ぐ右足をこちらに放って――。
『感謝する――!』
切り上げてくれた追いかけっこ、ようやく始まってくれた戦闘に感謝の声を出しつつ、ライが向かってくる右足に出すのは、右膝。
《クラブ・クリーナー》となって追加された両膝の《ニードルブレイザー》。
打ち砕かんと迫る右足と返り討たんとする右膝がぶつかった。
打ち砕かれたのは――右足。
ブレイズルミナスを応用したエネルギー場を展開して打ち抜く《ニードルブレイザー》と薄く障壁が張られた勢いだけの回し蹴りでは勝負は見えていた。
脛部分を貫通されても《ガウェイン》は、動揺することも後退することなく次の行動に移る。
自身に突きつけられた《ゼルベリオス》。《クラブ・クリーナー》が右腕一本で構えられるその銃口から一撃を吐き出そうとすでに赤い輝きが零れていた。
発射。しかし、《ガウェイン》は沈黙せず。
臆することなく銃口を右掌で塞いで、強引に射線を被弾コースよりずらしたのだ。阻止をしたわけではないため、右手が手首よりも先を吹き飛ばすことになったが、相変わらず後退の気配無し。
《ゼルベリオス》発射の直後、《ガウェイン》の左指の《スラッシュハーケン》が空気を切り裂いて発射する。
《ガウェイン》の《ゼルベリオス》の対応に僅かに硬直したが、《クラブ・クリーナー》のブレイズルミナスを展開して防御しようとするライ。しかし、
『ぐぅ……っ!?』
自慢の防御力を有する盾が貫かれて、仮面の下で苦悶の表情を浮かべた。
《スラッシュハーケン》はブレイズルミナスを発生させる左腕すらも貫通。振り払う時間も与えずに、高速で巻き戻される《スラッシュハーケン》。
《ガウェイン》と《クラブ・クリーナー》、使い手である白い仮面と黒い仮面の距離が瞬間的にほぼ零となる。
先ほどまで行っていた追走劇とは全く真逆の状況。一秒にも満たない接触を打ち破ったのは――《ガウェイン》。
人間であるが故に持つ驚愕による意識の硬直に縛られるライ。そんな彼を侮蔑するように、次の行動を起こしていた。両肩を上下に割って、現れるのは二つの巨大な目を思わせる巨大な砲口。
この武装も《ハドロン砲》。
今にも、吐き出さんと先ほどの《ゼルベリオス》と同じように紅いスパークを生むが比べてみると様子に差があった。砲口に集まるエネルギーが、爆発しかねんばかりに火花を散らして不安定だ。
暴走か、と警戒するライ。しかし、不安定でありながら膨れ上がるという矛盾は続けられ、巨大化するエネルギーに《ガウェイン》の行動を察した時のライの行動は迅速を優った。
《ガウェイン》の両肩で溜め込まれたエネルギーが解放された。
それは紛れもない《ハドロン砲》だった。ただし、《ゼルベリオス》が放ったような直線に飛んでいくものではない。膨れ上がったエネルギーは風船のように弾け、短いけれど広範囲を烈火の勢いで打ち叩いた。
本来、集束して放つ《ハドロン砲》を《ガウェイン》は敢えて行わなかった。火力を高めるためにエネルギーを蓄え、限界点ギリギリのところで破裂させることによっての高火力拡散ハドロン砲。拡散しているため距離の離れた相手には期待できないが、そこは《スラッシュハーケン》で引き寄せることで解決する。
《スラッシュハーケン》を打ち込んだまま放たれた拡散ハドロン砲は、刺さったままの指を巻き込んでライと《クラブ・クリーナー》を赤で包み込んだ。
圧倒的ながらも短い砲撃を終えた《ガウェイン》の体に光が走る。胸の紋章が輝いて、生まれた光が破損した両腕と打ち抜かれた右足を時を巻き戻すように修復される。
――神装《
内蔵される《ギアス伝導回路》がアクセスする『エデンバイタル』。
そこから流れる無限のエネルギーを再生に活用することで、朽ちることも破壊されることもない敵対する者にとって悪夢としかいいようがない神装。
全快となった《ガウェイン》は、その場を動くことはなかった。
なぜならまだ相手は生きているのだから。
拡散ハドロン砲で生まれた白煙が晴れた先、逃げ場のない至近距離で包まれたにも関わらず《クラブ・クリーナー》は健在だった。
《ブレイズルミナス》を全身を包むルミナスコーンとして使用することで、被弾を防いだのだ。しかし、高い防御力を持つ《ブレイズルミナス》でも拡散ハドロン砲は破ってのけただろう。それほどの威力を持っていたのに、防御できたのは《ガウェイン》と同様の神装《
まだ一分も経っていない状況で行われた戦闘。
これだけで終わらせるほどお互いの胸に満足はない。
この戦いの終了は、どちらかが鉄屑になるまで。
――◆◆◆◆◆――
《クラブ・クリーナー》の右に《ゼルベリオス・アイン》、左に《可変アサルトライフル》を構えさせたライはハドロンショットと連射される銃撃を浴びせかけた。
自身目掛けて飛んでくる弾丸に《ガウェイン》は、回避運動を行うが、それらは装甲に張られる障壁を掠めていった。これまで《ドルイドシステム》の力で、射撃補正といったものを無力化していたが、とうとうそれも効果を失ってきたのだ
別に《ドルイドシステム》の能力が停止したわけではない。現に今もなお、《クラブ・クリーナー》の電子兵装を誤魔化し続けているが、ライという百戦錬磨の戦士は、これまでの戦闘から直感という確かにあるもので射撃を修正しているのだ。
――大体コツは掴んだな。
一瞬でフロートユニットで加速させると、ライは《ガウェイン》の予測進行方向の上位に飛翔し、宙返りで方向転換、上方の死角で《可変アサルトライフル》をスナイパーモードに変えて、狙撃する位置を取った。
《ゼルベリオス・ツヴァイ》よりも破壊力は劣るが弾速は優る銃撃が火を噴く。移動予測地点へ動いてくれた《ガウェイン》の猫耳に似た頭部のセンサーを綺麗に吹き飛ばす。
『ああ、くそっ……!』
頭部をまるまる吹き飛ばせれば、体勢を崩せた。その隙に、『ザ・ゼロ』を叩き込む予定だったのに――!
一隅のチャンスを逃した隙を見逃す《ガウェイン》ではない。頭部センサーを回復させて、フロートユニットをで急上昇を仕掛けて、《ハドロン砲》を充電させながらライの背後に回り込む。
『――ッ!?』
背後を振り向きながら距離を少しでも取ろうとするライの目に発射間際の《ハドロン砲》が映り込む。《ハドロン砲》はまたも異常なエネルギーの溜めを行っている。直線状でも拡散でもない、球体状に溜め込まれるエネルギーが葡萄のような集合体になっていた。
そして《ハドロン砲》が発射された。拡散ハドロン砲と同じく直線ではなく、飛び散るように出たエネルギーには烈火の勢いはない。だが――
『《ハドロン砲》でオールレンジボマーを再現かっ!』
集束されなかった《ハドロン砲》は
すでに交戦から十分が経過している。行われる激闘は空中にただ留まることなく激しく動いているが、状況はライの優位に傾いていた。
それは使用している
元となった
調整することで変幻自在な砲撃が可能な《ハドロン砲》。
電子戦で圧倒的な優位に立つことができる《ドルイドシステム》。
機竜の半分以上の巨体と比例する出力が繰り出す徒手空拳。
しかし、これらの性能で《クラブ・クリーナー》を相手にするのは不足だった。
『おおおおおぉぉぉぉ――――ッッッッ!!!』
ライは自分の体力が尽きる前に怒涛の攻撃を《ガウェイン》にぶつけていく。
――《
――《ゼルベリオス》。
――《可変アサルトライフル》。
――《スラッシュハーケン》。
――《ニードルブレイザー》。
――《ロンゴミニアド》。
《ガウェイン》も負けじと《ハドロン砲》を《
受けたダメージは《
そしてついに――
『貰ったぁっ!!』
発射しようとしていた肩部の《ハドロン砲》にスナイパーモードに変形した《可変アサルトライフル》の弾丸を撃ち込む。相手の砲口が砲撃を発射する直前に弾丸を撃つ神技。狙撃用に一発の速度と威力が高い弾丸は吸い込まれるように直撃した。
発射しようとして蓄えられていたエネルギーが与えられた銃撃に暴走し、《ガウェイン》の左肩部を吹き飛ばす。仮面の使い手と《ガウェイン》の顔すらも焼き尽くして、体勢を大きく崩すこととなった。
この戦いに終止符を打ち込むためにその隙を逃すことは決してしない。
《可変アサルトライフル》をしまい、抜いていた《
拒絶の意思表現として、後退しながら右肩の《ハドロン砲》を発射。連射が出来るハドロンショットの弾幕を形成するが、それら全てをライは巧みな操作でくぐり抜けていく。
止まらない仇敵に《ハドロン砲》での迎撃を諦め、激突の瞬間に《ガウェイン》は拳を引きながら力を溜め、ライにカウンターを叩き込もうとする。
乾坤一擲、突撃してくる相手にタイミングを合わせての反撃。確実に倒すために、《ギアス伝導回路》をフルに、神装すらも使用して拳一つに『エデンバイタル』のエネルギーを集中させる。
――――――――!!
稲妻の轟音を思わせる拳打が放たれた。空気の層をぶち抜いた一撃は、必殺のものへと昇華されて、自身へと迫りくる存在を打ち砕いた。しかし、それは目標ではなかった。
《ガウェイン》が打ち砕いた物。《クラブ・クリーナー》の武装、《ロンゴミニアド》だった。
《ロンゴミニアド》は推進機構を内蔵したランス。カウンターの態勢をとった《ガウェイン》目掛けて、推進力全開で投擲したのだ。その突撃力は装甲を間違いなく貫通する威力を秘めていた。
そのために《ガウェイン》はこれが囮であることを承知した上でカウンターを打ち込んでしまった。
穂先が砕け散った《ロンゴミニアド》は破片を空中で四散させるが、ひったくる勢いで回収される。
無論、その者は《クラブ・クリーナー》を纏ったライ。
とうとう《ガウェイン》の懐に入り込んだ。片手に《
横に《
狙うは《ガウェイン》の胴体。
黙って斬られようとする《ガウェイン》ではなく、残った右腕を盾にして構える。切断力が高い《
『《
呟いた言葉とほぼ同時、構えられた腕すらも切り裂いて、《ガウェイン》が分かたれた。
――◆◆◆◆◆――
――うまくいったな。
神装《
だが、まだ気を緩んではいけない。
《ガウェイン》共々奴らは不死身だ。倒すには、『ザ・ゼロ』をぶつけて『エデンバイタル』との接続を無効化しなければならない。例え、下半身が無くなろうが、使い手の頭が吹き飛ぼうが決して死ぬことはない。そのために追撃を――
『なに……?』
《ガウェイン》が落ちている。
フロートユニットを使用して降下しているのではない。それすらも停止させて、重力に引かれて落下している。
余りにも損傷を受けたために、機能停止かと思ったが胸部の装甲に浮かぶギアスの紋章は未だなお輝いている。それなのになぜ、神装で再生することなく、落下しているのだ?
疑問を浮かべながら神装で《ロンゴミニアド》を修復させて、墜落していく《ガウェイン》を追いかけた。
――◆◆◆◆◆――
上空から静かに降下した地点は、沿岸だった。交戦した時には、緑と土の大地しか広がっていなかったが、戦っている内にだいぶ移動してしまったようだ。
《
太陽からの光を受けて空よりも深い青色を輝かせる大海原。
同じく太陽の光で砂の一つ一つが宝石と見間違えんばかりの砂浜。
これだけなら他愛もない自然の風景と思えるだろうが、異物といえるものが存在していた。
――何だ……これ?
小さな島と見紛うほどの巨大な岩。周囲の岩場と一体化するように、その姿を大海から覗かせている。その巨岩に下半身と左肩から下が吹き飛んだ《ガウェイン》が斬り飛ばされ先を失った右腕を巨岩に突っ込んでいた。
油断なく《ガウェイン》の挙動を観察しながら、《クラブ・クリーナー》のセンサーを利用して、《ガウェイン》を拡大。よく見れば、がら空きの背中は墜落の衝撃か六つのフロートユニットの翼が粉々に砕け散っていた。翼の損傷により飛行出来なくなった体を右腕を杭にすることで支えたといった状況か。
しかし、
――まだ再生していない?
大破以上ともいえる損傷を受けているのに未だに《ガウェイン》は自身を回復させていない。その気になれば巨岩に墜落する前に完全再生することも十分に可能なはずだった。
――何を企んでいる……?
《ガウェイン》が何等かを企んでいることは、傷ついた身を再生を行っていないことから疑う余地もない。これまでの同類との戦闘で、彼らは戦闘続行に支障が生まれるほどのダメージを受けた場合、すぐに神装で再生を開始する。
だが、当の《ガウェイン》は再生どころか行動の素振りさせ見せず、ただ巨岩に先の無くなった片手で落下しないように支えているだけに見えるが――その胸部装甲に浮かぶギアスの紋章からは、猛り狂うエネルギーの渦動が、周囲の空間を歪めるほどに滔々と溢れ出ている。
――まさか自爆か?
一ヶ月ほど前に撃墜した《ガニメデ》という機体が似たような行動をしていた。
元となった
《蒼月》で戦った際、同等の技術で再現されたが元となった機体の性能差から簡単にねじ伏せることが出来た。しかし、最後の最後、『ザ・ゼロ』をぶつけようとした時、手痛い反撃を受けた。
《ガニメデ》は神装で引き出した『エデンバイタル』のエネルギーを自身を包む障壁に限界を超えるほどに注いで暴走、爆発させたのだ。その破壊力は《蒼月》の盾として展開した左腕すらも吹き飛ばす破壊力だった。
すぐさま神装で回復して倒したが、その一件はライにとって苦い過去となっている。今の《ガウェイン》も自爆しようとした《ガニメデ》と同じように、ギアスの紋章を輝かせている。
過去の経験が降下しているライを少し後退し、《ガウェイン》とほぼ同じ高さまで来て――
『――――ッッ!?』
巨岩の正面を伺うことで、声にならない驚愕が口から飛び出た。
巨岩には顔があった。
風と潮と風化の自然が作り上げた崩れた顔ではない。まるで深海に潜む海魔を思わせる醜悪な顔があった――!
過去の経験に囚われ過ぎた。何故、攻撃しなかったと自分を罵りながら、展開した《ゼルベリオス》の引き金を引こうとした時には――手遅れだった。
突っ込まれている腕周辺の岩肌が、罅割れ崩れ出す。その下にあったのは黒い軟体の肌と日の光に照り輝く粘液だった。それらは一斉に騒ぎ出し、やおら夥しい数の触手を一斉に突き出して――あろうことか、腕を突っ込む《ガウェイン》の姿を飲み込んでいくではないか。
触手の束に総身を巻き取られていく《ガウェイン》自身は、抵抗する素振りも見せずに触手の束に取り込まれた。
『なっ……お、おい!?』
まさかの《ガウェイン》の末路に慄然となるライの眼前で、崩れた岩肌から覗く軟体の何かが、激しく蠢く。まさかこの沿岸一帯を征服する巨岩の中に、そのサイズに見合う軟体の何かがいるというだけで想像するだに恐ろしい。
「グ、ォオォオオオオォォオオォオオォォォォォオオオオオオン!」
天災の凶兆を思わせる、聞いたことのない異音が辺りに響く。ライの直感に警報が最大となって鳴り響いたと同時に、凄まじい地鳴りとともに、沿岸一帯がガタガタと揺れ始める!
『一体なんだ――?』
とポツリと漏らした、その刹那。地面から、柱のような数十本の触手が、一斉に這い出てくる。
『うお……ッ!?』
襲い掛かってくる触手を咄嗟に回避し、改めて巨岩を見る。
自身を覆う岩肌を邪魔だと、下の何かが大きく震えている。その振動で岩肌が大きく割れ始めとうとう――
「グオオオオォォォォォオオオオオオオォオオォオオオ!」
吐き気を催すほどに穢らわしい粘液に濡れて光る、深海の覇者たる鯨や大王烏賊でさえ、これほどの巨体は誇りはすまい、この世ならざる領域の海を支配する邪神を思わせる姿。まさに『海魔』と呼ぶに相応しい水棲巨獣。
その冒涜的な姿に、ライの欠けた記憶が知識を呼び起こし、その名を呟いた。
『
海神の名を冠する――終焉を体現せし神の獣が、今ここに蘇った。
はい、そんなわけで後編に続きます。割ととんでもないことになってしまいました。
解説と補足として《ガウェイン》は、搭載されているシステムのお蔭でロックオンはされず、レーダーにも映らないドレイク泣かせとなっています。
更には、ハドロン砲も調整することで様々な形態で発射できます。
後、《ガニメデ》の自爆については超時空要塞の全方位バリアの暴走をイメージしてください。……柿崎ぃぃぃぃ――――っっ!!(無言の十字)
ポセイドンは、《ガウェイン》に流し込まれた『エデンバイタル』のエネルギーで活性化、復活といった感じです。