ナイトメア・オブ・ライ   作:兜割り

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投稿が遅れました!申し訳ございません!

今回もかなりの難産でして、ルクスとの話まで持って来られませんでした。


着替え

再会したルクスを学園長室に放り込んだライは、現在工房(アトリエ)内に少女と二人っきりでいた。

 

本当はすぐにでもレリィにこの少女について相談したかったが、話せば長くなるのは確実で二人が着こんでいる装甲衣を生徒に見られるのは好ましくなく、予定を変更して一旦工房(アトリエ)に戻っている。

 

独房の崩壊を聞きつけて来た三和音(トライアド)にある程度話をつけてもらい、独房の崩壊が襲撃といった事件ではないこと、頼み事が出来たことも幸いだった。

 

工房(アトリエ)の主であるリーズシャルテはいない。初めて出会った時のように、よく自室に戻らずここで寝泊まりしているが、今日は幸いなことにいないようだ。

 

こちらにとってもその方が都合がよい。何せ今ライがしていることは、

 

 

「よし、そのまま大人しくしていろ。彼女たちが頼んだ物を持ってきてくれればすぐに解いてやるから」

「~~~~っ!」

 

 

顔を嫌そうに歪める少女を無視して、中身がない形だけの宥めの言葉を吐きながらその両手首にジャラジャラと鎖を巻きつけて拘束する。

 

存在そのものが得体のしれないとはいえ、外見は少女である存在を鎖で縛り上げているのだ。もし、第三者が見れば非難をライにぶつけるはずだろう。

 

しかし、そんなことなど気にするつもりもなく少女の拘束を続け、終える。それについ先程彼女が起こした独房崩壊を踏まえて、機竜の武装やパーツが収められている工房(アトリエ)で自由にさせるのは危険と考えての配慮だ。しかし――

 

 

「――ッッ!!」

 

 

両腕の自由を奪う鎖を煩わしいと感じた少女は何度か腕を動かした末に、両目を黒と金に染めた瞬間、人骨ほどの太さから考えられる鎖の強度などなかったように引きちぎった。

 

バラバラになり床に落ちる鎖を見てライは嘆息する。

 

 

「せめて一分くらいは我慢してくれ。今時の幼児でもそれぐらいの聞き分けはあるぞ」

 

 

しかし、その言葉は虚しく少女には届くことはない。自由を取り戻した少女は、鎖の無くなった両腕をぶんぶん振り回して工房(アトリエ)を彷徨い始める。

 

ああ、もういい。このまま放しておこう。何をやっても徒労にしかならない。注意するのは彼女が機竜などに触れ始めたらでいいだろう。もの凄く疲れているし。しかし――

 

ライは足元に転がる千切られた鎖の破片を摘まむ。力を入れてみてもびくともしないし、歪むこともない。機竜整備のために使用する頑丈な鎖のはずなのに、それを彼女はあっさりと壊して見せた。

 

 

「おい」

 

 

フラフラと徘徊する少女へ向けて一声放つ。その声を耳に入れてこちらを振り向いた少女の瞳は、灰と蒼の非対称に戻っている。

 

 

「君は一体なんなんだ?」

 

 

ただただ純粋な謎で形作られた疑問を口に出す。しかし、少女は投げかけられた疑問を疑問と認識しておらず、それに含まれた気持ちも理解も感じることもなくライを数秒見つめた後、再びフラフラと徘徊行動に戻る。

 

予想通りの反応にライは一息吐いて、着込んでいる装甲衣の右グローブを外す。中から現れた手、正確には手首には万力で圧迫されたような大きな痣が出来上がっていた。その痣をそっと撫でるとピリッとした痛みが走る。

 

この痣は彼女によってつけられたもの。流石に全裸のままはまずいとして装甲衣を身に付けさせようと伸びていた髪を切ろうとした際に、嫌だったのか瞳を金色にした抵抗により片腕を掴まれ握り潰されかけた。もし、側に控えていた《M・ザ・リフレイン》が神装――幻術を使用して彼女を眠らせなければ手首から先は無くなっていたはずだ。

 

 

幻神獣(アビス)……なのか?)

 

 

黒く染まった双眸に黄金の瞳、それによって現れる人外の怪力。

 

身近に一人、これらと全く同じ力を持った人間を知っている。だが、その人物は正確に言えば幻神獣(アビス)ではなく、幻神獣(アビス)の力を持った人間だ。

 

この少女に至ってはそのどちらかすらも分からない。

 

 

(使うか――?)

 

 

ライは喉に手を当て、封印してきた力の使用について考える。『この世界』では一度も使わず、眠りにつかせてきた絶対遵守の『ギアス』。これを使えば、彼女を支配し情報を引き出せるかもしれないが――無意味だとすぐに結論した。

 

赤ん坊に命令を下しすようなもので、ライの命令を理解していなければ『ギアス』の効果はない。

 

 

(また別に彼女の今後については――?)

 

 

もし彼女が幻神獣(アビス)の力を持った人間ならば一先ず生かしておく。そうすればライが探し求めている情報の一つ、幻神獣(アビス)化の治療法の手がかりがつかめるかもしれない。

 

だが、もし彼女が未だに確認されていない人間型の幻神獣(アビス)であるのならば、その時は――。

 

 

「ラーさん!頼まれた通り持ってきましたよー!」

 

 

少女のもしもの対応について考えていた最中、工房(アトリエ)の入り口から明るい声が響いた。入り口には、手に紙袋を持った三和音(トライアド)が来てくれていた。

 

どうやら頼んだ物を持ってきてくれたようだ。文句も言わず持ってきてくれたことに感謝の念を抱きながらも、時間も押しているので若干小走りで向かう。

 

 

「わざわざすまない。それで、生徒たちは独房の崩壊音で騒ぎになったりしていなかったか?」

「No.大きな混乱は見られず皆さん、普段通りに食堂で朝食をとっていました。リーズシャルテさんの爆発騒動で慣れていますからね。またやったのかと勘違いしていたのでしょう」

「そう勘違いしてすぐに、食堂にやって来たリーズシャルテ姫殿下の姿を見て、『じゃあさっきのはっ!?』と大騒ぎになる寸前だったけど私たちが問題無しと伝えたら取りあえず落ち着いてくれました」

「慣れって怖いな……。このままだと本当に襲撃があっても反応が薄いのは洒落にならない。いや、パニックになるよりはマシ……なのか。それで頼んでいた物は?」

「Yes.ここに」

「ちゃんと持ってきましたよ」

 

 

そう言ってティルファーとノクトが手に持っていた紙袋から取り出したのは、この学園の制服だった。シミや皺といったものはないので洗濯などはされたのだろうが、若干の埃を被っている。

 

 

「これが去年の学園祭で催された一般客への試着用の制服です。倉庫に押し込められていた物を言われた通りたくさん持ってきました。ついでにネクタイ三種類、ニーソとハイソックスも完備です」

「制服だけでよかったのに――でもありがとう。この前、手形アートを片付ける際に見かけたからあるはずだと思ってたんだ」

「けどラーさん。どうしてわざわざ試着用のなんかを?頼んでくれれば新品のを持ってきたのに?」

「新品なんて勿体ない、試着の物で十分だよ」

 

 

二人に持って来させた制服は、無論ライ自身が着るものではなく、少女のためのものだ。何度もいうが装甲衣でこの学園内を連れ回すのは非常に良くない。そのために二人にこの学園の制服を持ってきて貰った。

 

ティルファーの言う通り、頼めば新品を持ってきてくれるだろうが――あんな奴に人間の服を着させるなんて上等過ぎる。それにもしかしたらすぐに『処分』することになるかもしれない。

 

時間が経ってなお大きくなり続ける忌避や嫌悪が彼女に対する扱いを悪くしていっている。たった一人の少女にこうも心を荒らされる感覚、そんな自分の弱さに心中で舌打ちした。

 

胸に燻る感情を表情に出さずに押し込んでる最中、シャリスが抱えていた紙袋を渡してくれた。恐らく中身は――。

 

 

「それでライさん、これが下着です」

「下着?なんでそんなものが倉庫にあるの?」

「去年の学園祭、その準備の忘れ物だよ。ほら、手形アートといった催し物はインクとかで服が汚れるだろ。その確率が高いから、それのために、予備の下着を買っておいたけど――」

「前にも言ったが、手形アートは中止となった出し物だ。学園祭まで完成させるのに一々汚れとかを気にするのも惜しいから、狂犬部隊(彼女ら)は全裸でやっていた。そんなわけで結局いらなくて、そのまま買ったことも忘れて放置された……のだと思う」

 

 

妥当な可能性を語ると、なるほどと首を動かして納得してくれた。誇りある王立士官学園の生徒としてどうかと思うが、ツッコミは入れない。入れても疲れるだけだと、この場の四人は共有していた。

 

服を着る以上下着は必要となる。別に彼女のことを思ってのことではない。制服だけ着替えさせて、ノーパン少女を連れ回すなんて噂が立ってしまったらライのここでの信頼はガタ落ちとなり、下手したら追い出される。そんな未来はごめんだ。

 

 

「けどライ先生がいきなり、制服と下着を持ってきてくれと頼んだ時は本当に驚いたきましたよ」

「そうそう。それも悪夢(ナイトメア)絡みで浮かべる真剣な表情で言ってきたし、何かあるんじゃないかって身構えて損しちゃった」

「Yes.私はこれまでのストレスがピークに達した結果、新たな道に進んだと思いました」

 

 

思い思いに言う三和音(トライアド)にライは苦笑を浮かべて、シャリスに渡された下着の入った紙袋に手を突っ込み、取り出すと――

 

 

『…………』

 

 

四人が取り出された下着を見て固まった。心なしか空気すらも固まったように感じる。

 

それは確かに下着、パンツだ。包みから開けられていない。左右には解けた紐を備えているから、それを結んで穿く紐パンだと解る。それだけだったら四人とも空気と一緒に固まったりはしない。

 

男性であるライからしても、幼少時代は下着にはゴムといった便利なものがなかったため、基本は結ぶなりして穿いていたから、紐パンにはこれといって驚きはない。

 

問題はその生地だ。色は白といった清潔感を感じさせる色ではなく真紅。目に見えて解るほどに局部を隠せる布の面積が小さい。止めがスケスケであることだ。余りにもスケスケで袋から取り出して掲げると布越しにシャリスの顔がはっきりと見えた。

 

一体どうやって編み込んだのか。恐らくは腕利きの職人が血も滲むような努力と技術によっての編み込んだのだろうが、どうしてそれらをもっと別のことに使えないのか。まぁ人それぞれ趣味がある。一々他人の自分が言うことではない。武道を六十年嗜んだ老人が拳を打ち込んだ茶葉すら売っている世なのだ。深く考えないことにしよう。

 

これらの持ち主であろう狂犬部隊(彼女ら)には、とりあえず今度模擬戦を申し込まれたら《ケイオス爆雷》を大量に放り投げて、そこに小型化され携帯武器となった《超電磁式榴散弾重砲》を撃ち込んでやる、絶対に。

 

問題の赤紐パンを紙袋の奥底に突っ込み、封印。変わりに無難な白――と言っても恐ろしいほどにフリフリの装飾がついたショーツを取り出す。

 

 

「よし、それじゃ行くか」

 

 

右手に白のショーツ、左手には無造作に紙袋から取り出した、これまた先ほどの紐パンに負けず劣らず下着の定義として議論が必要な派手な未使用ブラジャーを持って少女の元へ――。

 

 

「ちょ、ちょっと待って下さい、ライさん!?それで、そんなものでいいんですかっ!?」

 

 

ようやく硬直から回復したシャリスが慌ててライの肩を鷲掴んでくる。首だけを動かしてその顔を見れば、視線が僕の顔と下着、少女と忙しなく動いている。下着に視線が移るたび僅かに頬が紅潮するのが、普段のシャリスとは違って新鮮に感じた。

 

 

「なんだ。僕はこれから腕一本持っていかれるかもしれない着替えを行おうとして内心ハラハラしてるんだ。正直、溜まりに溜まった疲労からかなり余裕がないぞ」

「こっちは尊敬に値する方が過激な下着を着させようとする暴挙にハラハラしています!」

 

 

シャリスの言葉にティルファーとノクトがうんうんと首を縦に振っている。自分たちが着るわけでもないんだ。別にいいだろ?

 

 

「君は、君はこんな下着でいいのか!?未使用とはいえ、一発でも見られれば即アウトな代物なんだぞ!」

 

 

シャリスの忠告も虚しく相変わらず少女は、自分に向けられた言葉とその意味を理解しておらず、首を軽く傾げて、再び徘徊する。今だけその単純さが助かる。

 

 

「別に構うな、気にするな。第一、彼女はこの学園の生徒ではないんだ。正直、今学園長室で学園長と客を待たせているから、これ以上待たせるのも悪いし、もうこれでいいだろ?」

「いいえ、駄目です!いくらこの学園の生徒でなくとも、風紀を守る者としてそんなハレンチな下着を許すことは出来ません!」

「じゃあどうする。僕に制服だけを来た少女を連れ回せというのか、そっちの方が問題があるように感じるが?」

「えと、えと……保健室!確か保健室に変えの下着がいくつかあったはずです!今すぐ取ってきます!」

「あ、ちょっと――!」

 

 

そう言ってシャリスはライの声が届く間もなく、ティルファーとノクトを置いて猛急ぎで工房(アトリエ)の外へと出て行った。

 

 

「どうしたんだ、シャリスは?正義感が強いのはいつものことだが、今日は何やらより熱が入っているけど」

「Yes.実は昨日の夜、ちょっと騒ぎがありまして。私たちもその騒ぎを止めようとしましたが、余計に騒ぎを大きくしてしまい、先ほどまで反省文を書いていたんです」

「へぇ君たちが反省文を書くなんて珍しいな。特にシャリス」

「うん。確かシャリス初めて反省文書かされたから、変に責任を感じて熱くなっちゃったんだと思う」

 

 

なるほどと頷く。シャリスは、新王国軍の副司令官を務める偉大な父親の背を見て育った少女だ。育んできた強い正義感と責任感を後悔の思いが刺激し彼女をより動かしている――な感じか。

 

 

「ところでラーさん。――なんか雰囲気変わってません?」

「雰囲気?それはあれだ。疲れがたまっているからだろう。今日だって碌に寝てないし、腹にも入れていない。おまけに嘔吐するは、頭の中をかき回されるような頭痛に襲われるはで倒れようになったからな」

「No.違います、ライさん。普段の貴方は疲れていることがあってもそこまで変化はありません。しかし、今の貴方は、その……ピリピリした近寄りがたい気配をだしています」

「それは、本当か――?」

 

 

普段は明るくムードメーカーであるティルファー、そしてノクトの二人が不安と心配の色を混ぜた目で小さく頷く。

 

ライは軽く目を閉じ、自身が変わった原因について見やる。

 

その原因たる少女は、ライの苦悩など知ったことか能天気に機竜のスクラップの山に手を突っ込んで、光物といったものを探して遊んでいる。

 

それが無償に――腹が立つ。

 

ティルファー、ノクトもライの今まで見せたことがない鋭い視線の先にある少女へと視線を向けるが、あくまでそれだけで彼女についての疑問などは口にしない。

 

独房の崩壊に駆けつけた際に、シャリスを含めて二人は彼女の存在について認知している。しかし、彼女については頭を深く下げたライの――

 

 

『だだ何も聞かず、ただ黙っていてくれ』

 

 

――の言葉に込められた重量すら感じさせる強い思いをくみ取って、聞かないことにしている。

 

だが、この少女の正体については、ライと深い関わりがあるのだろうとなんとなく二人いや、この場にいないシャリスも察している。服装が装甲衣であるからじゃない、両目の色が違うことでもない。水色を一房混ぜた銀髪を持っているからでもない。

 

似ているのだ。

 

少女の顔とライの顔。

 

感じさせられるのだ

 

少女の内側から溢れる魅力とライの内側から溢れる魅力。

 

同等なのだ。

 

少女の存在感とライの存在感。

 

だから、もし尋ねることが許されるのならば聞いてみたい。

 

 

『その子は貴方の家族なのではないか?』と。

 

 

少女二人が胸に疑問を抱いていることなど露知らず、ライは少女へと舌打ちして手にとっていた下着を紙袋の中に押し込み、再び少女の方へと振り向く。すると、徘徊を続けていた少女が立ち止まっていた。

 

見れば、工房(アトリエ)の隅にある山に気が向いているようだ。山といっても自然が作り上げたものではなく、せいぜい二mel(メル)程度のものに布を被せた小さな山だ。

 

 

「あっ!おい――」

 

 

ライが制止の声を最後まで上げるよりも速く、少女が山に被せられた布を取り払う。

 

そして姿を現したのは、機竜だった。

 

外見は全身に纏う幻玉鉄鋼(ミスリルダイト)の装甲を蒼と黒色に塗った《ワイアーム》に見えるが、過酷な戦闘を繰り広げたと容易に想像させる損傷と剥き出しになった地金の鋼色、身体中から噴き出した機械油によって大きく精彩を欠く。

 

特に酷いのが巨体を支える両脚であり膝から下が砕け散っている。地面にへたり込む姿はさながら糸を切られた操り人形、遠くから見れば不細工なオブジェにしか見えなかった。

 

この機竜(スクラップ)の名前は――

 

 

「《ワイアーム・ライ》。――一年前にやったセリスティア先輩との対抗試合から変わってないね。ラーさん、まだ修理してなかったんだ」

「こいつはもうダメだと言っただろ。元々、崩壊寸前だったものを唾を付けた程度の応急修理だけで戦わせた。そこに出力全開の機動と微量とはいえ『雷閃』を受けて、内側はもう焼き切れている。修理するなら新しいのを作った方が早いし、解体するのも面倒くさいからこのままにしているよ」

「初めて作って乗った機竜っていうから思い入れが強いと思ったけど?」

「生憎と機竜に注ぐ思い入れがあるのなら、こいつらに注がせてもらうよ」

 

 

そう言って腰にある《月下・先型》と《ランスロット・クラブ》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を軽く撫でる。『あちらの世界』と自身のかつての愛機たちの名と面影を残すこの二機はライの愛馬。間違っても目移りするつもりなどない。

 

姿を現した機竜から過去を話題とする二人に置いてきぼりのノクトが声を上げた。

 

 

「すみません。二人とも、何やら昔話で盛り上がっているようですが、私を置いていかないでください。ライ先生、あの機竜は貴方のものなんですか?」

 

 

そういえば、ノクトを含めた現一年生には()()()()と違い見せる必要も機会もなかったため、知らなくて当然だった。

 

 

「そうだ。僕が設計して一時期乗り込んだ機竜だ。名前は僕が《ワイアーム》呼ばわりしていたのをリーズシャルテが紛らわしいって、(ライ)の《ワイアーム》という意味で《ワイアーム・ライ》だ」

「《ワイアーム・ライ》……。先ほどセリスティア先輩との対抗試合と聞きました。今年の春に行った試合が始めてではなかったのですか?」

 

 

ノクトの疑問にライは《ワイアーム・ライ》に視線を注ぎながら苦笑する。春に行ったセリスティアとの()()()の試合はライにとって後悔の一つだ。その過去を思い出し、重くなった口を開く。

 

 

「あぁ……うん。そのほんの少し前、卒業間近の騎士団(シヴァレス)団長がセリスティア・ラルグリスと真剣勝負をして、負けてね。その際、私より僕の方が強いって台詞を吐いて……」

「ああ、なんかもう解りました。その話がどんどん大きくなってセリスティア先輩と試合をすることに……あれ?ライ先生はその頃も指導を先輩方にしていたんですよね?それならセリスティア先輩とも何度か試合をしていてもおかしくありませんか?」

「いや、正直に言うと僕は、現三年生とはそこまで指導で関わったことがないんだ。セリスティアたちへの指導は、指導能力を育てるとして当時の三年生といった上級生に任せていたから」

 

 

今まで教えられてきた側が今度は教える側になったから試行錯誤の連続でよく相談の声をかけられた。その経験もあってか王都親衛隊となった一期卒業生たちは、ただ戦うだけの猪武者ではなく、他の軍人を教導できる実力を得ている。

 

その当時のことを思い出していると、待ち望んでいた声が聞こえた。

 

 

「すみません、ライさん!保健室から下着を持ってきました!」

 

 

どれだけ急いで来たのか容易に解るほど息も絶え絶えなシャリスが入り口から飛び込むように入ってくる。その手には四つ目になる紙袋が抱えられている。

 

「急いで来てくれたのは本当に助かるけど……無理はしなくていいのに」

「い、いえっ、こ、これは……私がやりたいと思ってやったことですからっ!」

 

 

滝のような汗と荒い息を吐きながら紙袋を渡してくれるシャリス。その肩を軽く叩いて労り、座らせる。そして、紙袋の中から取り出したのは――。

 

 

「おお、凄い!前例が前例だったから凄いまともに見える!」

 

 

取り出した上下の下着は飾りっ気がなく、いかにも安物に見える白い下着だが、スケスケやフリルなどよりも随分とまともに見えた。

 

早速着替えさせようとした時――!

 

 

「ゥゥゥゥゥゥ――――」

 

 

少女が獣のような低い唸り声を上げてこちらを、正確にはライが両手に持つ白の下着を睨んでいる。それも両目を黒く染めて、瞳を黄金色に変えて。更にはその両手には巨大な鉄塊が構えられている。

 

よく見ればそれは数日前、リーズシャルテが実験の失敗で、幻創機核(フォースコア)から火を噴き出し、解体された《ワイアーム》の片腕だ。

 

 

「あ、あのーラーさん。なんかあの子凄い警戒心剥き出しにしてるんですけど?」

「多分、下着を自分を拘束するモノと認識しているらしい。ついさっき鎖で拘束しても嫌がって破壊したし、今身に纏っている装甲衣も最初は凄い嫌がってたからな」

 

 

《M・ザ・リフレイン》の幻覚によって眠っている最中に着替えさせたのだが、目覚めた時に反応はすごかった。着せられた装甲衣が不快だったのか、幻神獣(アビス)化して暴れ回ったのだから。その後は疲れてきって眠り、慣れてくれたのか落ち着いてくれた。

 

だが、今度はそうもいかない。《M・ザ・リフレイン》はコンテナで待機中、さらには装甲衣を脱がさないといけないし、その後下着を付けさせ、制服に着替えさせないと。

 

 

(あれっ?これめちゃくちゃ難易度高いぞ!?)

 

 

《月下・先型》や《クラブ》を使って着替えさせる――いや、駄目だ。もし、使ってしまえば、彼女は腰にある機攻殻剣(ソード・デバイス)で《ヴィンセント》を召喚しかねない。

 

遺跡を出る際、彼女はライの《クラブ》の召喚を見様見真似、それも無詠唱で召喚している。もし、召喚されてしまえば更に手が付けられなくなる。

 

《ザ・ゼロ》も今の疲れ切った身体ではとても無理だ。くそっ、彼女の《ヴィンセント》を停止させるのに使ったのがこんなところで響いてくるとは!

 

《月下・先型》や《クラブ》が使えればだいぶ楽になる。そうするためにまずは、彼女から《ヴィンセント》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を奪う。それが最優先事項だ。

 

 

「シャリス」

「は、はいっ!」

「《月下》や《クラブ》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を預かっていてくれ。取っ組み合いをするにおいて、この二本は邪魔だ」

「わ、解りました」

「彼女の腰にある機攻殻剣(ソード・デバイス)が離れたらすぐに、放り投げてくれ。どちらでもいいが、細かい作業は《月下・先型》の方がしやすいから、そっちを頼む」

「ライ先生、一体何を?」

 

 

説明する時間はない。

 

少女の視線は下着と制服に移っている。どうやらライよりも制服などを敵として集中して認識している。囮として十分に使えそうだ。

 

両手に下着と制服を携えたライが腰を僅かに落とす。

 

身構えたことに少女がより低い唸り声を上げる

 

 

 

 

 

そして――

 

 

「いっくぞおおおおおおおおおお!!!」

 

 

「――――ッッ!!」

 

 

『ライさん/ラーさん/ライ先生……!!』

 

 

強大な怪物に立ち向かう勇者の如く、覚悟を決めた顔つきで少女へと突撃するライ。しかし、その両手に持つのは剣でもなければ盾ではない、女性物の下着と女子学生制服を構えて。

 

そんな変質者(勇者)目掛けて少女は黄金の瞳で睨みつけ、構えていた機竜の腕部で迎撃する。

 

二人が繰り広げる、内容はくだらないが人間が持つ勇気と技量、怪物が持つ単純と暴力が合わさったことで繰り広げられる戦いに三和音(トライアド)は驚愕やら感動を織り交ぜた表情で見守ることしかできなかった。

 

そして五分後、何とか少女から《ヴィンセント》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を離すことに成功したが、達成感を得たことが隙となり、不意に放たれた少女のボディブローが腹に突き刺さる。腹部を貫いたと錯覚する衝撃が走ったが装甲衣の破損と引き換えに意識を繋ぎとめる。

 

渡された《月下》を展開して纏い器用に操作し、それから十分かけて三和音(トライアド)から下着、制服の着替え方のアドバイスをもらいながら、『お着換え』という激しくも虚しい戦闘は終わりを告げた。

 

しかし、ライはせっかく持ち込んできた装甲衣の破損に激しく落ち込み、これまでの疲労が祟って倒れそうになり、三和音(トライアド)はその姿を見て、ライへのより一層の敬意と深い労りの気持ちを覚えることとなった。

 




機竜紹介

《ワイアーム・ライ》

かつての激戦で手放してしまった《蒼月》を優勝賞品とした公式模擬戦(トーナメント)に参加する際、ライが使用した黒と濃い蒼の装甲を持つ装甲機竜(ドラグライド)

名前を付けたのはリーズシャルテ。『ライのワイアーム』という意味だったが、ライは『嘘ワイアーム』との意味合いで呼ぶことにした。それまでは普通にワイアーム呼ばわり。

元となった機竜は、ライが暇つぶしに回収したスクラップパーツで組み上げた《ワイアーム》であり、『詠唱符(パスコード)』を認証してくれる頭部と動力部の幻創機核(フォース・コア)、装甲はそのままに内部に悪夢のパーツを追加した、まさに『機竜と悪夢の融合』した機竜。
《ランスロット》系列の蹴りや跳躍といった人間らしい動きが出来るとして《ヴィンセント・ウォード》の脚部シリンダー、反応速度が高く接近戦に優れる《月下》の腕部を組み合わせたことで驚異的な格闘戦が可能。


と、言えば聞こえはいいが無茶苦茶な機竜。


本来は外見を黒と濃い蒼で塗装した《ワイアーム》の装甲で被せ、上半身《月下》、下半身《ヴィンセント・ウォード》で済ませるはずだったのだが、実際作ってみると到底誤魔化すのが無理であったためしぶしぶ機竜に悪夢パーツを追加する形となる。

だが、汎用機竜のフレームと悪夢二体のパーツが干渉し、高出力を実現することに成功したがその引き換えに途轍もない負荷と負担をもたらすことに。

装甲とフレームも機竜の物のため、長時間の戦闘もすれば悪夢のパーツの出力で強い負担がかかってしまうので継戦能力が限りなく低い。強すぎる筋肉の動作が薄い皮、骨に激痛を与えているといった感じに。

更に突貫工事であったこと、基本的な機竜整備知識しかないためにきちんとした設計も出来ず、バランスとしては戦闘が出来るギリギリの水準。そんなわけで全力戦闘なんか一度しか限界、二度目はもう知らない。おまけに負荷のためか装備の召喚ができないので、両手で持てる数しか装備できない。

運良くて機竜の崩壊、悪くて機竜使い(ドラグナイト)も巻き込んでの出力上昇の暴走による大爆発といった《バハムート》も真っ青な酷い機竜。

対戦相手の殆どが阿呆であったこと、《ワイアーム・ライ》の性能、ライが機竜相手の戦闘について貪欲に学んでいったことでダメージを受けることはなかったが、決勝戦の際には負担により装甲は所々罅割れ関節部には火花が散ると一撃を喰らえば崩壊しかねない有様だった。

そもそもどうしてこんな機竜になってしまったのかというと、時間の無さとライの機竜との戦闘不足が原因。目覚めてから戦闘は悪夢(ナイトメア)幻神獣(アビス)しか相手にしておらず、悪夢(ナイトメア)しか乗ったことがないので機竜、神装機竜がどれほどの性能か分からなかったために、出来るだけ強く速攻で終わらせるという考えで設計された。

公式模擬戦(トーナメント)優勝後は遺跡内で損傷したまま放置される。学園に雇われた際に暇つぶしに応急修理されるがそのまま工房(アトリエ)で埃をかぶり続けた。その後に当時二年生だった神装機竜の機竜使い(ドラグナイト)と模擬戦を行う際に使用。

変則的な戦いで後一歩まで追い詰めるも、限界を迎えて両脚が粉砕。さらに装甲版の隙間や駆動系の各部から油を噴き出すなど凄絶な状態から降参。その後は修理されないまま放置されている。

この機竜についてリーズシャルテは、『鑑賞用の機竜じゃないのかっ!?』と驚愕しており、公式模擬戦(トーナメント)で使用し優勝したことを話すと『一生分の運を使い切った』と言われることとなった。

武装については遺跡を漁っている途中で見つけた刃を持たない刀身の剣とナックルガードを備えた盾(モデルはザ〇シ〇ルド)。どちらも頑丈で使い勝手がいいと理由で使用したが、実は剣に関しては希少武装。

名前は『透光棒剣(インビシブル・ブレード)』。
エネルギーを注ぐと刀身を不可視のエネルギーが包み、汎用機竜のエネルギー程度を纏った武装ならあっさり切れる強力な切断力を生み出す。長さの調整も可能で最大五mel(メル)まで伸びる。軽い力で振って触れれば斬れるのが最大の長所。この性能にライが気が付いたのは決勝の途中だった。
刀身自体も頑丈で何度も機竜の装甲にぶつけても歪みもへこみもなく、幻神獣(アビス)ディアボロスの甲殻も打ち砕けるらしい。
欠点は不可視のエネルギーの威力が強すぎ手加減が出来ないこと。また、使用と持続には莫大なエネルギーが必要となるが暴走特級で速攻向けの《ワイアーム・ライ》とは相性がよかった。
ぶっちゃけ透明なラ〇ト・セ〇バー。機竜息砲(キャノン)機竜息銃(ブレスガン)といったエネルギー射撃も跳ね返せるぞ!ルクスのような見切りに優れた機竜使い(ドラグナイト)が使用すればジェ〇イのような戦いが出来る。

ストックが豊富なため狂犬部隊隊長に卒業祝いとして二振り譲られおり二刀流で大活躍している。刀身のエネルギーが見えないため共に前衛を務める隊員たちは斬られるんじゃないかと内心ハラハラしている。

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