ナイトメア・オブ・ライ   作:兜割り

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本編よ!私は帰ってきた!と言ってもあんまり進んでいない!なんてことだっ!
そんなわけで明日も最新話を頑張って投稿します!……時間通りには難しそうだけど!


五年の歳月

『初めまして。アーカディア帝国第七皇子、ルクス・アーカディアです』

 

――手を差し伸べ、笑顔を浮かべる少年がいる。

 

悪逆非道、民草を踏み潰す圧政者。帝都の民ならば口を揃えて言う恥知らずの皇族。それが耳にしたアーカディア皇族の評判だ。

 

彼がそうだった。

そうであれば良かった。

そうであれば良かったのに。

 

帝都の民から聞いていった評判と違い、目の前の少年には噂通りの雰囲気や気配は微塵もなかった。

 

手を伸ばし、緊張を隠しきれていない顔には、微笑が浮かんでいる。自分の姿を映す瞳。何も知らず、ただ見せた武闘に魅入られ、曇りなき憧憬を抱いていることが解る。

 

彼が憧憬する人物が、如何なる悪行を行ったのか、如何なる悲劇に見舞われたのか、如何なる存在なのかを知ろうとも知らずに。

 

 

 

 

――◆◆◆◆◆――

 

 

 

 

 

既に五年も前になる。

 

力を持つ者たちが止まることを知らずに狂った歯車を回し続ける崩壊寸前の国。

誰も止めようとせず、誰も正そうとしない、権能を持つ血筋の人間はおろか、重臣や領主すらも汚職、格差、重税、弾圧、あらゆる腐敗に塗れ切った超大国――アーカディア帝国。

 

遺跡より目覚めて約一月。後に悪夢(ナイトメア)と呼ばれる機動兵器を追い、各地で勃発していた戦場を転々していく際、帝都ロードガリアを一度覗き見た。

 

ただ一目、そして国から漂う空気を肌に感じただけで全身の血の気が引いていったのを覚えている。アーカディア帝国の現状とそう遠くない将来を悟ってしまったから。いや、悟らされてしまったからだ。

 

――この国はもうじき終わる、と。

 

国民から覗き見られる暗く強張った表情や荒涼とした雰囲気から誰でもそんな未来を想像させられるはず。しかし、ライはアーカディア帝国の滅びは既に秒読みだと断言できた。権力者は腐敗と怠惰に沈んで、領民のことなど顧みず、気ままに暮らし、反発する領民を恐怖で押さえているという現状は頭で容易に想像できた。更には、そっくりだったからだ。

 

自分が率い攻め滅ぼした蛮族の集落、悪逆皇帝唯一の騎士として最強の機体を用いて蹂躙し崩壊させた国、そして――自分が誤り無様に滅んだ祖国。それらが放っていた崩壊の気配を感じ取ったことが最もな理由である。何度も経験することもない国の滅亡について異世界でも目の当たりにしてしまうとは、かえって運命的なものを感じて引きつった笑みを浮かべたものだ。

 

それと同時、ライの封じて来た『王』が痺れるような戦慄と歓喜を体内で駆け巡らせた。

 

――悪夢(ナイトメア)を追うには絶好の生贄である、と。

 

ライは悪夢(ナイトメア)を追っている。

 

『あちらの世界』の機動兵器であるKMF(ナイトメアフレーム)を模した外見を持ち、『この世界』の機動兵器の装甲機竜(ドラグライド)との二つ異世界技術でその体を成す、超常の力で猛威を振るう鋼の悪鬼たち。

 

恐らく『あちらの世界』の人間は、『この世界』では自分たった一人しかいない。記憶が欠けているため、どうして自分が『この世界』にいるのか分からない。たった一人で平行世界へ飛ばされた“異邦人”の現状は――孤独だ。

 

数百年の眠りにつき目覚めた際は、記憶を喪失しており孤独とはそんなに感じていなかった。しかし、『この世界』での目覚めたは中途半端な記憶のせいで強く感じてしまっている。

 

そんな孤独に震える心に『あちらの世界』の懐かしさを抱かせる悪夢(ナイトメア)

 

自身がどうして『この世界』に来てしまった謎を解く、更には『帰還』する手段を探ると同時に、手がかりになる可能性、孤独を埋めるため、ライは悪夢(ナイトメア)を追っているのだ。

 

――悪夢(ナイトメア)装甲機竜(ドラグライド)を獲物としている。

 

帝国に来る道中、幾つか試した実験からそれは確実。

 

これまで装甲機竜(ドラグライド)が活躍する場――戦場で悪夢(ナイトメア)はその姿を多く現している。つまりは、多くの装甲機竜(ドラグライド)を餌として出せば簡単に釣れるのではないか?

 

その餌場としてこの帝国は使えると思ったのだ。

 

この国はもうすぐ崩壊する。十中八九、有力貴族が内乱を起こす。帝国はそれに軍を動かし装甲機竜(ドラグライド)の力で押さえるだろうが、数は劣るが戦力を比べれば貴族の方が上。指揮官の采配次第で、勝利することは出来る。貴族側の勝利に呼応し、帝国に不満を持つ他の貴族の決起によって戦力図は変わるはずだ。

 

帝国側が数に頼り、押し潰して解決しても、そう長くは続かない。その貴族の反逆が小火となって貴族たちに少なくない影響を与える。小火は、それが何故起こったのか考え、直さない限りくすぶり続ける。アーカディア帝国にそれを考える人間がいるとは思えない。そもそもいたら、反乱など起きないはずだ。

 

国に忠節を誓うはずの貴族たちが反乱分子候補になる。その小火はくすぶり続けた後、新たなる(圧政)を加えられ、やがて一つとなり国を焼き尽くす大火事になる。

 

貴族同士の連合によるクーデターによる新王国の建立。それに失敗しても、アーカディア帝国に攻められ軍事力増強に励んでいる、ヘイブルグ共和国が漁夫の利で進行を始めるか。どちらにせよ想像に難くない。

 

どっちにしろアーカディア帝国は混沌とした地獄の釜の中身となる。

 

そこまでシミュレートしたライは、勿体ない、と思ってしまった。

 

貴族による反乱、革命戦争は必ず起こる。

 

その際、帝国側でなく貴族側に協力する。自分には、悪夢(ナイトメア)を倒すことで解放できる部屋で発見した、数百を超える装甲機竜(ドラグライド)がある。それを貴族側に提供し、大規模な戦争を起こさせる。その中で数多く戦う装甲機竜(ドラグライド)を察知し、殴り込んでくる悪夢(ナイトメア)を誘き寄せ、倒すのだ。それを継続させていく。全ての悪夢(ナイトメア)を倒すまで終わらない戦争。決着などつけさせない。

 

帝国が不利になれば帝国にも装甲機竜(ドラグライド)と武装を提供させる。帝国で最も力を持つ貴族たち――四大貴族、他国のヘイブルグを煽り、介入させ三つ巴にすることも考慮済みだった。

 

自分にならできる。これまでの人生で培ってきた腕と弁舌、切り札の絶対遵守の“ギアス”がある。内乱を影で操作することは十分に可能だ。

 

だがこの方法は、『この世界』の“命”を圧倒的なまで軽視しなければならない。文字通り、人間を駒として扱い、贄にしていく。最悪、アーカディア帝国は消滅し、貴族も死に絶え革命は起きず共倒れ。……その行いに、自分は強い嫌悪と抵抗を覚えてしまった。

 

 

――今更なにを言っている。『あちらの世界』で散々、人の命を、意思を踏みにじっておいて、よくそんな口が開けたものだ。

 

 

心の片隅で合理を追求し、あらゆるものを利用していった“王”としての自分が、その甘さを嘲笑し、罵る。

 

 

――利用すればいいのだ。『この世界』の人間は、所詮は異世界人。『あちらの世界』の“彼”に託された人々ではない。ゲームや漫画、フィクションの存在、利用する駒と割り切ればいいのだ。……かつて『王』として、“母上”と“妹”以外に無関心だったお前はどこにいった?

 

 

――悪夢(ナイトメア)も手強いぞ。帝国や貴族を利用せずに地道に探すなどしてみろ?世界中で活動し、災禍を振りまく。なら、いっそ利用して最短で処理していくのが遥かに効率的だ。

 

 

――そもそも“彼”との誓いはどうなる?お前は“彼”によって『英雄』の仮面を託された。そのお前がいない『あちらの世界』がどうなっているか……。こんな異世界で時間をかけるわけにはいかない。どんな犠牲を払っても最短ルートを選択するべきなのだ。

 

 

“王”としての自分が最善を勧め続ける。

 

 

――“彼”と結んだ誓いを優先するならばその方法が一番だ。平行世界故に、時間の流れがどうなっているか分からないが、すぐにでも戻らなければならない。

 

 

最善の手段。

 

そう、理解していたのに――自分はその手段を取らなかった。

 

放棄してしまった。理解しながらも、頭の片隅に残り続ける、自身は『この世界』の“異邦人(イレギュラー)”である、という思考ががなり立ててしまったために。

 

 

――ああ、なんて愚か。なんて無様。己が腕一つで解決していく。単純にして、最も過酷な選択をしたな。“世界”と“異世界”の割り切りも出来ない。“私”に比べて“お前”は――優しくなり過ぎた。

 

 

ライは亡霊の声から逃げるように、アーカディア帝国から離れた。貴族側に恩を売り、悪夢(ナイトメア)討伐の協力を約束させるメリットなどを頭から投げ捨てて――たった一人の戦いを続けた。

 

目覚めてから数ヶ月が過ぎた頃、悪夢(ナイトメア)討伐の日々に転換期が訪れた。

 

偶然にも発見した悪夢《ナイトメア》――《ガウェイン》。

 

終焉神獣(ラグナレク)“ポセイドン”を復活させ、融合するなど予想外のことを引き起こした末に、最後は地図を書き換えたほどの自爆で終わった激闘。

 

勝敗は引き分け……いや、勝ち逃げされた。

 

爆発に巻き込まれたライは、《ランスロット・クラブ・クリーナー》のお蔭で()()()()()()()()()()()()()()()()。自力で生に帰還したが、その隙を不死身である《ガウェイン》なら彷徨っている間にいつでも狙えたはず。しかも、囮として使った《蒼月》も行方不明という結果。

 

これを勝利どころか、引き分けと称せるだろうか。いや、ない。

 

そして、行方不明となった《蒼月》を捜索する途中に熱を出し、薬を購入しようとした際、帝国の脱走兵に捕らえられていたアイングラム一家を救助。……強盗と間違えられて独房にぶち込まれるなど誤解もあったが解決させ、《蒼月》らしきものの情報を頂いき、どうしてか共に帝都ロードガリアに行くこととなった。

 

一目見た際、二度と潜らないと思っていた正門を潜った先に探し求めていた物はあった。しかし、それは帝都で開催される公式模擬戦(トーナメント)の優勝賞品として。

 

その主催者はアーカディア帝国第七皇子、ルクス・アーカディア。

 

最悪だと胸の中で絶叫した。

 

よりにもよって崩壊一歩手前の帝国の皇族に回収されていたなんて、と。

 

共にいたアイングラム一家が主催者の皇子と顔馴染みであったため、印象について尋ねると、

 

 

――アーカディア皇族とは思えない程穏やか。優しく、お人好しな少年。

 

 

ここまでは良かった。例外の存在がいてもおかしくない。そんな気性で皇族として生まれた苦労と不運に少なからずの同情はした。問題は彼に身に起こった出来事、境遇についてだった。そのことを耳に入れた直後、聞かなければと激しく後悔した。

 

 

――父親である皇帝や兄からはいてもいないような扱いをされ、母を事故で失い、病弱な妹がいる。

 

 

その情報を耳に入れただけで眩暈に似た感覚に襲われたことを覚えている。似たような境遇をどこかで聞いたことがあったから。ルクス・アーカディアとは関わらない方がこれからの身のためと直感が叫んだ。

 

だが、《蒼月》は何としても取り返さなければならない。

 

本当なら王城を襲撃するなりして強引に奪還する案も考えていたが、いくら国家の寿命が風前の灯火だとしても、テロリストとして名を残すことになれば身動きはし辛くなる。

 

そのため公式模擬戦(トーナメント)に偽名を名乗り変装を徹底的に施してエントリーした後、遺跡に戻り、改造機竜を用意して参加し、優勝を果たした。……なるべく目立たないよう振舞おうとしたが、改造機竜の調子、祖国で武闘大会に参加した時のノリを思い出してしまい、結果派手になってしまったが。

 

後は主催者から《蒼月》を受け取るだけだった。受け取ってすぐにでも帝都から離れようとした。それなのに、なぜか主催者に部屋へと招き入れられることとなった。

 

そして、とうとう彼と面と向かって話す状況へ追い詰められた。

 

ああ、正直に言おう。

 

 

――ライは、ルクス・アーカディアと再会などしたくなかった。そもそも出会いたくなどなかった。

 

 

かつてレリィから腕利きの機竜使い(ドラグナイト)、それも自分の知己である人物を学園に来させるという話は聞いていた。もしやとは思っていた。けれどそうあって欲しくないと切に願い、選択肢から外した。

 

今でも思ってしまう。彼に出会わなければ良かった、と。

 

そう思わせる理由はたった一つ。

 

似ていたのだ。

 

初めて出会った時、彼の憧憬に満ち溢れた瞳。その奥に隠れていた光。

 

あの光をライはよく知っている。かつては自分もその光を宿し、そんな自分よりも激しく輝く光を覗いたことが過去にあるから。

 

ルクスが宿していた光。あれは戦う決意。間違った世界を破壊するという世界に対する反逆の光。それを十二歳の少年が宿していた。

 

その光を見た刹那、すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られていた。その光を宿した者の辿る道についてライは世界で誰よりも知っている。

 

反逆の意思を抱いて世界を相手にした者は、必ず運命に代償を支払わされる。

 

ライは母と妹を。

 

“魔王”はこれまで繋いできた友情と絆と自身の名を。

 

運命による残酷な裏切りは反逆者に容赦なく襲い掛かってくる。

 

『魔王』は裏切られ激しい喪失をうけたが立ち上がった。しかし、ライは立ち上がれなかった。運命に裏切られた喪失の痛みは、記憶喪失と眠りの逃避へ進めさせた。その時点で『王』のライは死んでしまった。

 

ルクス・アーカディアは近いうちに必ず運命に裏切られ、喪失の痛みを味わう。そんな人間をもう見たくなかった。だから、拒絶した。装甲機竜(ドラグライド)の指導を頼み込む、彼の手首を掴みぶん投げた。不敬罪など知ったことかと、無言で拒絶の意思を表した。

 

そのまま去ろうとしたが、彼は食い下がり、ライはまた投げた。何度も何度も彼を地面へと叩きつけ、とうとうライは折れた。……もうやめてくれ、と心が彼より先に折れてしまった故に。

 

だが、彼は決してルクスに心を開いたわけではなかった。

 

理由は彼が自分に抱いている感情。眩いものを見つめるような視線、憧憬の感情。

 

『かつて』の自分と同じ、反逆の意思を抱いた少年が自分に憧れている。

 

それがとても煩わしく、そんな巡り合わせを用意した運命に改めて激しい憎悪を抱いた。一体どれだけ自身に面倒事を持って来れば気が済むのだと。だから、ライはルクスが望んだ稽古や模擬戦を了承した。その嫌悪と怒りを含めて、汚らわしい現実を教えるため。機竜ではなく、《月下》で模擬戦の相手を務め、突きつけようとした。

 

お前の憧れている人間は所詮こんなものだ、と。

 

ライという逃亡者は憧憬を捧げる価値など一切ない、と。

 

彼の機竜を破壊したことも、重症とはいわないが怪我をさせたことも、一度や二度ではない。王族に対する無礼として、死罪になる可能性もあったが知ったことではない。彼の自分に抱く幻想を打ち砕くことをただただ願っていた。

 

けれど、機竜を調達し怪我を治療すると平然とやってきた。やがて無手で相手をしていた《月下》は、『銃』を扱うようになり、『刃』を使うようになり、最後には『爪』を使うようになっていた。それでも彼は再び現れた。

 

何故だ?

 

自分はこの少年に憧れられるのを恐れ、拒絶の意を込めた攻撃を放っているのに、何故、この少年は自分に関わろうとするのか。

 

口には出さず、胸の内で抱き続けた疑問の答えは――。

 

 

“皇子で、それも妾腹の僕に含みもなく相手をしてくれるのが嬉しいんです”

 

“貴方との戦いは自分が目を向けていなかったものに目を向ける切っ掛けになります”

 

“貴方との付き合いが楽しいから”

 

“僕は――貴方のようになりたい。僕の憧れ……英雄(ヒーロー)なんです”

 

 

ああ、確かに。あの当時、僕は君に突きつけるためだけに君を深く見て突きつけようとしていた。あの時だけは、異世界人といった苦悩も忘れられるほどに。

 

それに認めたくはなかったが楽しかったのも事実だ。レリィやフィルフィ、君と妹との付き合いは久しぶりに寂しさ、孤独というものを一時忘れさせてくれた。

 

だが、ルクスの放った最後の言葉だけは駄目だった。自分に憧れること。それを認めることが出来なかった。ライの否定にルクスも引き下がることはしなかった。そのまま喧嘩に発展し、ライは姿を消した。

 

――そして一月後、ライは帝都へと戻った。

 

悪夢(ナイトメア)によって燃え盛る帝都。蹂躙される帝国民、革命軍の光景に駆けつけて。

 

 

 

 

 

――◆◆◆◆◆――

 

 

 

 

 

そして今、王立士官学園(アカデミー)の学園長室の中に、四人の男女がいる。

 

遺跡から長距離を《ランスロット・クラブ》で飛び、“ザ・ゼロ”を一度使用した上、プロテクターとして上質である“装甲衣”を破損させたボディブローを受け胸に拳大の痣が出来た身体を深々と腰をソファに埋めさせるライが。

 

それに対して、細いテーブルを挟んで、ライが部屋に入室してから姿勢を正し続けながら。緊張した表情の中に僅かに喜びをにじませるルクスがソファに座っている。

 

そんな二人の様子を我関せずとライの隣に腰掛け、机の上に出された菓子を夢中になって頬張るライ似の少女。

 

目の前に広がる光景を懐かしみ、また少女に好奇心と興味の視線を注ぐこの部屋の主たるレリィ・アイングラム。

 

物音は先程から二つだけ。校舎の外で崩壊した独房の瓦礫処理に励む生徒たちの声と菓子を味わうことなく咀嚼する少女の口音。

 

それらを打ち消すように、ライがやれやれと肩をすくめて、

 

 

「……参ったな。改めて五年振りの再会だというのに、言葉が見つからない。君に少し位変わりようがあれば良かったんだがな」

 

 

ルクスはその言葉に照れの色を浮かべ、微笑んだ。

 

自身が主催した五年前の公式模擬戦(トーナメント)。そこで優勝した彼に抱いた憧憬は今も尚色褪せていない。これまでの『咎人』として行ってきた善行で少しは彼のように“人の思いを受けれる人間”になれたのかと思いながら。

 

 

「ライさんこそ、変わりないようでホッとしました。――五年の月日は、人を変えるほどではありませんでしたね」

 

 

ライはゆっくりと首を縦に振り、

 

 

「ああ、そうだな。本当に君は変わってないよ。――背とかね」

 

 

ルクスの中で生まれた和やかな空気がたった一言でぶち壊された。思わず上半身がつんのめってしまいそうになるほどタイミング、タメからして見事な上げて落とすであった。

 

ルクスはガバッと顔を上げ、

 

 

「ライさん、背ですか!?五年振りの再会で僕を見て変わってないと思ったのが内面じゃなくて背ですか!?」

「うん。だって五年だぞ。成長期だぞ。童顔のままだぞ。僕の母方の国の平均身長以下なんだぞ君は。まずは、基本的な“大きくなったな”から行こうと思ったのに、五年前とほとんど変わってないから困ったんだぞ」

 

 

う、とルクスは言葉に詰まる。

 

確かに自分は……同年代と比較して背が低いのだろう。だが、だがしかし――。

 

 

「伸びましたよ!数字は避けますが伸びました!この伸びた数字をないものなんて、ライさんでも許しませんっ。ちゃんとライさんに言われた通り、牛乳飲んだり、ぶら下がり運動をしたりして努力したんです」

「へえ、したんだ。ところで早寝、早起きは?」

「うっ」

 

 

追求に言葉を詰まらすルクスをライは逃さない。

 

 

「早寝、早起きはどうした?」

「……仕事の都合でそこまでは」

 

 

ばつの悪そうな顔のルクスにライはため息を吐き、

 

 

「ダメだな、ルクス。“寝る子は育つ”その言葉の通り、徹底すればまだ伸びたかもしれないのに……。――まあ、僕はそれらを試して身長伸ばしたことはないけど」

「――え?」

「僕が伝えたのは一般的な背の伸ばし方だ。僕の背は何にもせず、ここまで伸びただよ」

「…………」

 

 

あんまりな発言に大きく肩を落として項垂れる。

 

そんなルクスにライはやれやれと首をまた振り、

 

 

「ルクス」

 

 

名を呼ばれ、項垂れていた顔を上げるルクスの目にはライの優し気な顔が映った。小さく口角を上げる微笑、緩やかに細められる目は、老若男女誰でも警戒を解きほぐす魅力があった。特に女性に関しては、鋼鉄のハートでも容易く矢で貫く破壊力を誇っている。

 

五年前には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「君と同じ年齢の頃、僕の身長は百七十八cl(セル)だ」

「ぐふっ……!」

「現在は多分二十三だが、百八十三cl(セル)だ。――羨ましいだろ」

「かはっ……!!」

 

 

唯の止めと追い打ちでしかなかった。

 

どこまでも不平等な現実に崩れ落ちそうになるが、そこは堪える。そんな隙を見せてしまえば再び追い打ちをかけてくる可能性が十分にあったから。

 

 

「レリィさんといい、貴方といい……どうして僕をそんなにいじるんですかあ?」

 

 

落ち込みながら呟かれる言葉にライは、

 

――それは貴様が変わったからだよ。ルクス・アーカディア。

 

ライは嘘をついた。ルクスを見て、“変わってない”と。だが彼は大いに変わっていた。

 

五年前の彼には人ならざる支配者、倫理と感情を排す超越者の風格があった。ライと“魔王”も同じ風格を宿した。その風格は人を遠ざける。他者を圧倒する王気(オーラ)というべきものを感じ恐怖させ、持ち主を孤独へと導く。

 

その風格が消え去り、変わりにルクスの中に新たに宿っていた光があった。

 

光の名前は――『絶望』。

 

彼も自身と似た運命という絶対の現実に襲われ、反逆の結末を味わったのだろう。

 

――だが。

 

目の前のルクスを見つめる。

 

生きている。これまでの地位を奪われたが、『絶望』の光を宿しているが、彼は生きている。死んではいないのだ。『王』であった自分のように逃げてもいない。受け止め、“魔王”と同じようにその両脚で立ち上がって生きている。

 

参った。彼と再会などしたくなかったのに。そもそも出会うこと事態が間違いだったと思っているのに。どうしてか、彼の活き活きとした姿を見るだけで、喜びとも期待ともつかない感情に不思議と胸が打ち震えるのだ。

 

かの“魔王”とルクスが似ているからか?

 

確かに境遇が似ていると言えば似ているが、所々に差はある。まさか“魔王”恋しさに無意識にルクスを重ね合わせているのか?

 

そんなわけない。ルクスは“魔王”の代用品ではない。第一、ルクスがかの“魔王”の代用品?ルクス如きの器で足りるわけがない。彼が頂点、ナンバーワン。ライは生涯、彼の主として誇り続けるのだ。

 

――会いたくなかった。けど、会えて良かった、というのか?

 

結局はその一言だ。

 

再び、ルクスに視線を送ると目があった。

 

ぶつかる視線にルクスは若干硬直するが、すぐに微笑んだ。年相応の、かつて『王』だったライには浮かべることが出来なかった、少年の笑み。

 

その笑みを見て、またライの胸が打ち震えるのだ。

 

――ああ、なんか考えるのが馬鹿らしくなってきた。

 

喧嘩別れの理由となった彼の“憧れ”を許すつもりは未だにないが、これからは共に学園で同じ時間を過ごしていく仲になるのだ。笑い合い、ぶつかり合っていこう。そうすれば、新たに見えてくるものがあるかもしれない。

 

そうしていこう、とライは納得させるように心中に言いつけた。

 




解説

新王国ルート……アティスマータ伯に機竜を提供して革命に協力するルート。悪夢(ナイトメア)もライがいることを知るので、“血染めの革命”にはならず、寧ろライが強力するのでスムーズに進み原作よりも被害は少なくなる予定。だが、新王国建立後もライが新王国の戦力として数えられてしまい、自由に動くことが出来なくなる。そのため悪夢(ナイトメア)が新王国を避けて他国で機竜を喰い続けて進化してしまい、後に総攻撃され、新王国が崩壊する。

帝国ルート……そんなものはない。修復不可能な泥船に乗るなどしません。

暗躍ルート……貴族と帝国の影で暗躍するルート。どちらの勢力にも機竜や武装を提供し、悪夢(ナイトメア)を狩っていくと、当時の帝国で暗躍していた■■■が接触して、記憶を取り戻す。原作が崩壊し、ライのカルマ値がどんどん上がっていきます。


Q.わかりやすく言うとライはルクスをどう思っている?また逆にルクスはライをどう思っている。
A.ライ:同族嫌悪を抱かせ不愉快だが、なぜか気になり魅せられ目が離せない少年。
 ルクス:腐臭漂う帝国、その元凶である人間の中にいた自分にとって初めて“憧憬”を抱けた人。

Q.ルクスはライの弟子なの?
A.いいえ。弟子ではありません。よく言って訓練相手のようなものです。ですが、ルクスは技量面、精神面でライを追い詰められる特攻持ちになっています。
本文中に書いたようにライはルクスに全力、半殺し狙いで相手をしました。ルクスはその戦闘でボコられながら研究していくことで、ライの技を見切れるように。ついには《月下》を纏ったライを追い詰めるほどになりました。

Q.ライの身長伸ばし方法は?
A.ライ「大自然の中で一人のびのびと過ごすことだ。また熊、猪、蛇、兎、魚、鳥、食べれる物は生で喰うこと。勿論、喰っちゃ寝のぐうたら生活はいけない。母上もそれを考慮し、僕の気を引きしめるために鉈を二刀振り回して鬼ごっこをしてくれたよ。特に火とか使おうとするとどこからともなく現れてくるのには驚いたよ」
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