ナイトメア・オブ・ライ   作:兜割り

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蹂躙

――さぁ、どうでるチャンピオン。

 

 

仮面の下でアラン――ライは心中でひとりごちた。

対峙するジュリアンはむやみに突撃するということはせずに、不適な笑いを浮かべた顔をこちらに向けていた。纏うエクス・ワイアームは武装である鉄槌を、腰を捻り破壊力が最高になるように構えている。

 

その判断にライは、ジュリアンの実力を確認する。

ジュリアンは神装機竜ほどではないとしても、性能が高く負荷が大きいエクス・ワイアームを完全に使いこなしている。それも装甲を厚くし自重を高め、正面からのぶつかり合いを想定した改造だ。

 

陸戦機竜(ワイアーム)は、近接戦闘に特化した汎用装甲機竜だ。両脚より伸びた車輪による滑走(ドライブ)や、積載重量を生かした武装、装甲の厚さによる耐久力が特徴だ。操作も比較的簡単であるが、反面戦闘スタイルでやや個性が出しにくい所がある。

しかし、近接戦闘のみの闇コロシアムでは陸戦機竜(ワイアーム)は最良の機竜となる。

 

ガイから聞かされた話では、この闇コロシアムが開催された時から機竜で戦っていた男だ。機竜の戦闘経験ではこちらを軽く上回るだろう。

何より評価するのが、自分が操る《ランスロット・クラブ》の入場を見た際に浮かべた恐怖や動揺は完全に消えていることだ。

 

入場した際のアクションは、《クラブ》の性能を見せつけるためのパフォーマンス。

この闇コロシアムが開催され、連戦連勝の街道を進み続け、チャンピオンになった男。《クラブ》が装甲機竜(ドラグナイト)とは全く別の代物とまではいかないだろうが、己の機竜よりも性能が上であることには気づいたはずだ。

おまけに素顔も見せない得体の知れない男が、その得体の知れない機竜に乗って相手として戦うということは、精神面に大きなプレッシャーをかける。

 

だが、ジュリアンはそのプレッシャーを跳ね除けている。

この半年間で似たようなことをされた相手は、プレッシャーを振り払おうとして無暗やたらと攻撃を行ってきた。自分はその隙をついて、幻創機核(フォース・コア)を狙うパターンで勝利してきた。

そのパターンが通用しない相手。それだけで、ジュリアンが歴戦の戦士であることが解った。

 

 

――チャンピオンとしての矜持か、歴戦の持ち主としての余裕か。

 

 

仮面の下で、冷や汗が頬を伝う。

扱う武器の性能はこちらが格段に上だが、あちらには積み重ねてきた経験というアドバンテージがある。

おまけにこちらが持つ武器は、手加減の難しい殺傷力高めの武器で迂闊に使うことが出来ない。

仮面で視界が狭まり、身に纏う『装衣』を改造した『装甲衣(アーマー)』の重量で確実に動きが鈍る。高速戦闘を行う機竜を扱う(・・・・・)には、ライの格好は邪魔以外の何物でもないのだ。

 

顔を隠すのには、もちろん理由がある。

闇コロシアムの観客は貴族などの上級階級の人間だ。今は、機竜使いがどこもかしこも不足している。もし、顔を見られてしまったら、自分をスカウトするために権力を使って探す可能性が十分ある。いや、チャンピオンを倒した人物として報復をかけてくる可能性もある。

そんな権力者たちの魔の手に怯えながら過ごすなど御免被りたいので、顔を隠している。

 

 

――まぁ、本来の使い方(・・・・・・)を抜いても性能が高いのは認めるけど……。

 

 

仮面には変声機能のボイスチェンジャー、ガスや異臭などを防いでくれる高い防毒性、暗視ゴーグル、サーモグラフィーといった仮面のカテゴリーとしては至りつくせりな超性能だ。おまけに手動だが、下顎部分を外すことで被ったまま食事が出来る。

 

装甲衣(アーマー)』は倍力機構などを装備していないが耐熱耐寒は完備、耐G機能、耐衝撃性能に優れ、防刃性、防弾性といった装甲の名に恥じないスーツだ。

欠点を上げるならば、甲鉄のせいで重量がかかることと、厚手のため細かい作業が出来ないこと、重量故に泳ぐことが出来ないことがあるが、それを抜きにしても破格の性能を持つ。

 

仮面と『装甲衣(アーマー)』。この世界に相応しくない性能を持った道具(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

何らかの嫌がらせがあると想定していたライは、この二つのお蔭で拷問部屋のような控室で三時間も耐えることができたのだ。

 

 

――けど今の状況じゃ邪魔になるだけっ!!

 

 

内心叫んだ時、ジュリアンが動いた。

足元で、甲高い金属音が響く。腰を捻り続けた体勢でこちらに弾かれたように突っ込んでくる。滑走(ドライブ)だ。足を動かすことなく、滑走(ドライブ)の勢いだけで向かってきているのだ。

試合開始から溜めに溜めた鉄槌の一撃を振りかぶる。防ぐことはナンセンス、回避を選択。鉄槌を見切り、クラブを右に最小限流す。空振りした所に一撃を決めようとした――が。

 

 

『っ!?』

 

 

鉄槌が――伸びた。

最小限の回避では直撃コースを免れない。慌てて背後に跳ぶ。

空ぶった一撃は空気を打ち、軽い衝撃を放つ。

挑戦者が、後退する光景に観客を興奮の声を上げ、野次を飛ばした。

 

 

――どういうことだ?

 

 

完全に見切っていたはずだった。鉄槌の頭部の大きさ、柄の長さ、エクス・ワイアームのリーチで届くはずがない。

 

 

――ちょっと見てみるか。

 

 

再び、ジュリアンが突撃してくる。先ほどと同じ、滑走(ドライブ)を使用して。

振るわれる鉄槌を余裕持って……しかし、エクス・ワイアームを観察できる距離まで後退する。

疑問はすぐに解けた。ジュリアンは、エクス・ワイアームの腕部の伸縮性を改造しているのだ。通常時の長さは変わらないが、重量のある武器を振り回した時だけ、延長するようになっている。長くなった腕に振るわれる鉄槌は破壊力を上げ、そのリーチを伸ばしているのだ。

 

 

――改造をしていると聞いたが、こんな細かい所まで。

 

 

笑みが零れ、身体が熱くなる。

このジュリアン・モートンは戦士だ。彼の行いを卑怯と罵る者がいるかもしれないが、ライはそうは思わない。寧ろ、内心彼を褒めていた。

勝つために考えを巡らして、辿り着いた戦術。それを導き出した執念は敬意を称さねばならない。

 

 

――そして……。

 

 

ジュリアンの戦法も、大体だが掴めた。滑走(ドライブ)によるロケットスタートの突進で相手の虚を衝き、一撃を振るう。破壊力の高い鉄槌を前に回避をする者をじわじわとなぶり殺しにするのだ。

確かに急な高速突進を前にすれば、驚き回避を試みるのが常道だろう。咄嗟に行った回避というものは、案の定隙を見せやすい。その隙に手傷を負わせないなど考える甘いチャンピオンではないだろう

 

 

――ならそのメソッドを崩すか……。

 

 

ジュリアンが三度目の突撃を仕掛けてくる中、ライがとった行動は回避でもなければ、防御でもなかった。

《クラブ》に差し込まれた機攻殻剣(ソード・デバイス)に触れ、指示を送る。主の命令を感じ取り、両脚の横に備えられた車輪――ランドスピナーが降り、大地に触れる。幻創機核(フォース・コア)からのエネルギーを効率的に伝導させ、ランドスピナーが唸りをあげた。

地表に擦り付けられたランドスピナーは、巨大な駆動力を発生させ、エクス・ワイアームの滑走(ドライブ)に遜色ない高速走行を行った。

 

 

「なにっ!?」

 

 

ライへと突撃し続けているジュリアンが、驚愕の声を上げた。無理もない。粉砕しようとした獲物が、これまでの獲物とは違う選択で迎え撃ってきたのだ。

 

 

――さぁ、どうするチャンピオン!!

 

 

このまま滑走(ドライブ)を続ければ、激突は火を見るよりも明らか。いきなり急激な加速を以って、突っ込んでくる相手を迎撃するなど至難の技。それを己の力量と機竜の性能を信じて行うか。無理と判断して滑走(ドライブ)を中断して体勢を立て直すか。

激突までの時間はたったの……2秒。

選択する余裕など存在しない。

 

 

「くっ……くそ!!」

 

 

ジュリアンは悪態をつき、観客たちも驚く中、両者が激突する――と思われた、その刹那。《クラブ》が、その体を右側へとドリフトさせ回転する。右足を回転軸にし、急激な回転運動を可能としたのだ。

 

 

『――!』

 

 

ライは機攻殻剣(ソード・デバイス)を握り、右腕に装備された《スラッシュハーケン》をメッサーモードへと《クラブ》に指示する。そしてすれ違いざま、相手の肩部――幻創機核(フォース・コア)――に向かって閃かせる。

鋼と鋼がぶつかる激しい音が響いた。

 

 

 

 

 

――◆◆◆◆◆――

 

 

 

 

 

エクス・ワイアームが激しく揺れ、自分がダメージを負ったと気付いたジュリアンは愕然となった。愛機を見れば、肩部の装甲が破壊され、守られていたはずの幻創機核(フォース・コア)が剥き出しになっていた。

 

 

――嘘だろ!装甲を何重にも重ねていたのにっ!

 

 

幻創機核(フォース・コア)は機竜を動かすための動力源だ。機竜の動きを停止させるには、そこを破壊するのが一番手っ取り早い。もちろん闇試合も幻創機核(フォース・コア)を破壊されたらその時点で勝負がつく。

そのためにジュリアンは肩部を中心に防御を高めていた。それなのに……。

 

 

――こいつはヤバい!

 

 

アラン・スペンサー。

今まで戦ってきた機竜使い(ドラグナイト)で間違いなく最強だ。先ほどの攻勢で今更だが気付くことができた。

観客の中にはアランの戦闘を称えるものがいるが、多くの者が連戦連勝のチャンピオンに戸惑いや不安の声を上げていた。

 

 

――俺が、俺が敗けると思っているのか?……ふざけんなっ!!

 

 

軍から逃げ、泥を啜りながら惨めに生きてきた人生。

そこで運良く辿り着いた闇コロシアム。

ただ勝利を重ねるだけでいい仕事場は彼にとって楽園だったのだ。

自分の内にある、積み重ねてきた物ががらがらと揺れ始める音を確かに聞いた。

敗北。

この一言がジュリアンの胸に泥のように纏わりついてくる。

『敗北』を振り払うためジュリアンは『禁忌』を使用した。

 

 

 

 

 

――◆◆◆◆◆――

 

 

 

 

 

――手加減し過ぎたな。

 

 

ジュリアンに一撃を見舞ったライは、与えた感覚から致命傷まで届いていないことを悟った。

強化型であるエクスとは、飛翔機竜(ワイバーン)しか戦ったことがないのだ。だから、陸戦機竜(ワイアーム)の装甲を基準として大体の力を籠めて放った。結果は、幻創機核(フォース・コア)まで届かず。

 

 

――まぁ、後一撃入れれば……っ!!

 

 

瞬間、ジュリアンの機竜が閃光を発した。轟音が響き渡る。

機竜息砲(キャノン)?禁止されている重火器を使用したのだ!

右に跳んで避けたので、被弾することはなかった。機竜息砲(キャノン)の軌道の先は壁。だが、汎用機竜の装備で最も威力の高い機竜息砲(キャノン)は爆発力も高い。壁の上にある観客席の高さまで優に届く。

壁に当たる直前に観客がこちらを見ていた。何が起きているのか解っていないといった表情だ。

的を外した光弾は壁へとぶち当たり、観客を飲み込んで爆発した。観客席の一角をフェンスすらも消し飛ばし、塵埃をまき散らす。

 

 

――知ったことでは……ない。

 

 

機竜息砲(キャノン)に巻き込まれた観客たちは即死、運よく生き残った者がいても体に何等かの怪我を負っただろう。これは闇試合の宿命、客もそれを覚悟で見に来ているのだ。

 

 

――知ったことではない。知ったことではないんだ。

 

 

機竜使い数名による防御障壁を張り、銃器を使うことを許可された試合ならともかく、この闇コロシアムでは重大な違反行為だ。本来ならばここで試合中止。

だがこの試合、流れてしまっては困る。この闇試合が流れてしまっては、ジュリアンからあることを聞く機会が失われてしまう。

だが、その心配は杞憂に終わった。

 

 

()れっ、チャンピオン!!よそ者なんかぶっ殺しちまえっ!!」

 

 

声の持ち主――ガイに触発され、観客が喚声を上げている。罪深き人間をいたぶることを許されたかのような狂気を孕んでいた。

 

 

「どうだ、アラン・スペンサー。この場所にお前の味方なんかいねぇ。多くの人間に死ぬことを望まれるのはどんな気分なんだ?」

 

 

笑いながら、ジュリアンが鉄槌を捨て空いた手に持たせた機竜息銃(ブレスガン)機竜息砲(キャノン)の銃口を向けてくる。

 

 

「安心しな。すぐにあの世へは行かせねぇ。四肢を打ち砕いて、自分がどんなに惨めな人間なのか、死んでも忘れないように魂に刻み込ませてからだからな」

 

 

ジュリアンの表情は陶酔と嗜虐の混じったものだった。

その姿を見て先ほどまで浮かんだ敬意を消え去っていった。代わりに胸の奥から冷え冷えとした物がせり上がってくる。

 

 

『ジュリアン・モートン、貴様言ったな。多くの人間に死ぬことを望まれるのはどんな気分と』

「ああ、それが?」

『……足りない』

「はぁ?」

『この程度では足りないと、そう言っているんだ』

「何を……」

()は知っている、世界中の反感と憎悪をその身に背負うということを。魔王と共に全てを背負った。その僕に、これだけの憎悪で死ねだと。ハッ、ハハハ――』

 

 

 

『――笑わせるな』

 

 

 

その声に。その音に。その響きに。

ジュリアンが、ガイが、観客全てが……静まり返った。言葉と共に吐き出された重圧に押しつぶされて、口を閉ざされたのだ。

 

 

『――加減はない、全霊だ』

 

 

クラブが一歩、一歩と進んだ。

それだけでジュリアンは言い知れぬ恐怖に襲われた。巨大過ぎる存在が、自分に向かって迫ってくるそんな感覚だ。

 

 

「く、来るな……」

 

 

相手は武器を持っていない。反対にこちらは機竜息砲(キャノン)機竜息銃(ブレスガン)

傍から見れば、有利なのは自分のはずだとジュリアンは理解していた。

それなのに、それなのに突きつけている銃口の震えが止まらない!

 

 

「来るなっ!」

 

 

悲鳴のような叫び声をあげ、引き金を引く。

吐き出された大型の光弾とばら撒かれる小型の光弾。それらは真っ直ぐに進み、目標に命中――しなかった。まるで相手の体を通り抜けるようにしかジュリアンは認識できなかった。

 

騎士が駆けた。

迫りくる恐怖に臆したジュリアンは二丁の銃からがむしゃらに引き金を引いた。

しかし、全ての弾は当たることはなかった。

どんなに正確に狙いを定めていても弾は相手の体をすり抜けるだけ。まるで実体を持たない亡霊に撃っているようにしか感じなかった。

 

その光景がジュリアンの脳裏に焼き付き、とある光景に重なった。

かつて軍に所属していた頃、自分は正体不明の機竜を纏った仮面の機竜使い(ドラグナイト)に襲われた。

機竜の状態は酷く、満身創痍という状態をそのまま体現していた。もう元の形すらも分からないほどに。飢えた獣の如く襲い掛かってきたそいつは、自分の僚友たちを次々に葬っていった姿が記憶に焼き付いた。

どんなに抵抗しても、白い影だけを残して避け、殺戮を続ける姿は死神そのものだった。恐怖に押しつぶされて……自分は仲間を捨てて逃げたのだ。

ようやくジュリアンは理解した。

自分が相手にしているのは――

 

 

「しっ……白い死神っ!!」

 

 

あの死神と同種の存在だと!

弾幕を掻い潜った《クラブ》はあっという間にジュリアンの懐に入り込む。

手刀が機竜息砲(キャノン)機竜息銃(ブレスガン)を破壊する。

 

 

「ひ、ひぃっ!!」

 

 

武器を失い、ジュリアンは半狂乱になった。

そこで転がっていた鉄槌を慌てて手に取った。今まで何度も振り回していた武器がこれ程頼もしいと感じたことはなかった。

目の前にある悪夢を振り払おうように横に鉄槌を振るう。

振って、下がる。振って、下がった。振り続けて、下がり続けた。

こうして鉄槌を振れば、悪夢が近づくことがないから。

下がれば、悪夢から少しでも離れられるから。

 

だが、悲しきかな。

獣に松明を振れば近づかないのは、松明が驚異であることを理解しているからだ。振られる物が脅威たりえないと理解すれば、獣は簡単に襲い掛かるのだ。

 

 

『――煩わしい』

 

 

まるでボールをキャッチするように軽く鉄槌の頭を片手で鷲掴みされた。

 

 

「……っ!?」

 

 

受け止められた鉄槌を、必死になって引くがびくともしない。

鉄槌を鷲掴む五指が喰い込み始める。深く沈みこむにつれ、罅割れる音が悲鳴のように響いた。まるで主に助けを求めるように。

 

 

「ひっ……!」

 

 

その音を耳にした時、逃げるように後退するが、背後には壁。つまり、後がない。

機竜の背が壁にぶつかるのと鉄槌が粉々に砕け散ったのは、同時だった。

もう武器がない。そのことにジュリアンは、慟哭した。

残っているのは、機竜の四肢のみ。それでも振り払おうと試みた。

 

左腕で足掻いた。

握り潰された。

砂糖菓子のように。

 

右腕で抵抗した。

引き千切られた。

綿のように。

 

左足で逃げようとした。

踏み潰された。

虫のように。

 

右足が崩れた。

へし折られた。

小枝のように。

 

もう何も出来ない。

幻創機核(フォース・コア)を引きずり出された。

処刑するように。

 

 

 

幻玉鉄鋼(ミスリルダイト)の残骸となったエクス・ワイアームと共に、ジュリアンは闘技場の中央に正面を天に向ける形で転がされた。

ガチガチと歯を鳴らし、髪を情けなく乱し、顔を体液塗れにした姿にチャンピオンの面影は欠片も存在していない。

 

 

『どうした、さっきまでの勢いはどうした』

 

 

男か女かも判別できない声が鼓膜に突き刺さる。その声に感情は無く……いや。これは感情が無いのではない。冷えているのだ。絶対零度の領域で。

 

 

『貴様には聞きたいことがある。そのためにここまで来たのだからな』

 

 

その声には、冷たさと焦がれるように熱い何かが入り混じったものだった。

ジュリアンは一縷の望みを見いだした。

 

 

「は、話せば助け――」

 

 

そこから先は続かなかった返答として、機竜の手がジュリアンを圧したのだ。

 

 

『――これは交渉ではない命令だ。別に話す気がないのならそれでもいい。その時はこちらも手段を選択するまでだ』

 

 

ジュリアンからは言葉は返ってこない。

だが、ライは構わず聞いた。

 

 

『貴様、先ほど白い死神といったな。その死神は白と金の幻玉鉄鋼(ミスリルダイト)を持った『悪夢(ナイトメア)』のことだな?』

 

 

首肯。

 

 

『こことは別の闇コロシアムで聞いた。“ジュリアン・モートンという機竜使い(ドラグナイト)が『悪夢(ナイトメア)』を見た”と』

 

 

首肯。

 

 

『どこで見た!答えろ!』

「……そ、こ……」

『――何?』

 

 

抑揚がなく、か細い声でジュリアンが答えた。震える手で指し示すのはライ。ふざけているのかと苛立ち、最後の手段――声に宿る『力』――を使おうと仮面の下顎部を外そうとすると――。

 

 

『!』

 

 

そこでライは気付いた。ジュリアンが見ているものを。自分ではなく、天にある『何か』を指し示していることを。

それに気づいた瞬間、《クラブ》の操縦桿を握り締め、動いていた。

それは、幾多の戦場を駆け抜けたことで培われ、鍛え上げてきた反射神経のなせる業だった。第六感が騒ぎ立て、最善の行動をライに取らせたのだ。

 

ライが突撃する先は壁。

《クラブ》の両腕を盾にするように出し、ブレイズルミナスを展開する。突撃を受けた壁は容易く破られた。

観客席真下に潜り込んだライの行動は止まらない。

ブレイズルミナスを展開した両腕で頭を守るようにその場で待機した。まるで天井から落ちてくる物から身を護るように。

それと同時――。

 

 

コロシアム全体に赤黒い雨が降り注ぎ、大地に弾けると火と衝撃を生み出した。

 

 

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