ナイトメア・オブ・ライ   作:兜割り

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皆さん、本当にお久しぶりです。
楽しみにして下さった読者の方々、お持たせしてしまって誠に申し訳ございません。
今年は色々と忙しく、それが祟ったのか体を壊してしまいました。
見舞いに来てくれた友人から「そんな状態じゃ、『最弱』の新刊読めないだろうけどさ。相変わらず面白いから早く体直して二次書いてくれ。楽しみにしてるんだから」という励ましも切っ掛けの一つとなりなんとか回復できました。
けれど、PCに触れるのも久しぶりで「自分はどんな風に書いていたっけ?」と積んでいた最新刊の情報とが重なってスランプに陥り、何とかまとめたのがこの話です。所々、粗を感じる部分はあるでしょうが楽しんでいただければ幸いです。

では、どうぞ。


悩ましい過去

パンパン、と学園長室に手拍子が響く。音を生んだのは、レリィ・アイングラムだ。

 

彼女は一度、ルクスとライを交互に見て――

 

 

「はいっ。五年振りの再会に浸るのはいいけど、私を置いてきぼりにしないで」

「なら迷わず参加すればいいじゃないか。けど、ルクスを弄るのは程々に。僕と二人で弄ったら最悪泣くぞ」

「いっ……!?」

 

 

過去に口勝負で連戦連勝を収めているライ、天性のお祭り女であるレリィからの集中弄り砲火……!その意味に戦慄するルクスだが、レリィはライへとにんまりとした笑みを向け、

 

 

「あら?私がルクス君ばかりを狙うと思ったら大間違いよ。……自分に被害が来ないと思っている人を背中から脅かした時の反応を見るの好きなのよね~」

「…………」

 

 

変わらず笑みを浮かべたまま、机に肘をつき組んだ手に顎を乗せた姿は、獲物の首に牙を突き立てようとする雌豹の姿を錯覚させた。

 

ライはそんな彼女の姿勢に目を閉じ、自身の腕を深く組む。……どこからでもかかってこいと。そうヒシヒシと伝わってくる体勢だった。

 

 

――な、なんだかこの二人、歴戦の好敵手な空気が……!

 

 

お互い解り合っているが、油断も隙も見せつけない空気を形成する二人にルクスは戦慄するが、直後レリィがふうと息を吐くとライも体から力を抜いた。

 

 

「私も本当は昔話に花を咲かせたいけど、ルクス君にはお仕事の話があるのよね」

「あ……」

 

 

レリィの“仕事”でルクスはようやく思い出した。自分が頼まれていた依頼のことを。ライとの再会で浮かれてしまい、自分が『咎人』として依頼を受けなければならないという立場まで忘れたことを恥じた。

 

そのためルクスは慌てて、

 

 

「あ、あのそれじゃ早速……」

「仕事に取り組もうとする姿勢はいいけれど、そんなに慌てなくていいわ。第一……」

 

 

立ち上がるルクスをレリィが微笑でやんわりと抑える。

 

 

「昨夜の事件がまだ解決出来てないから。貴方まだ覗きの容疑者なのよ?」

「あ、ああ!!」

 

 

そうだった。またもてっきり忘れていた。自分が昨夜、覗き又は下着泥棒の容疑をかけられ学園中を生徒たちによってかけ回された。極め付けに機竜三機によって追われたことを。

 

 

「覗きって……。どうして独房なんかにいたのか疑問に思っていたが、まさか性犯罪に手を出すとは。君のことは少なからず人畜無害の真面目な少年だと思っていたのに……。健全な男子として異性に興味を持つのは解るが犯罪に走るは駄目だろ」

「違うんです!ライさん!事故、事故なんです!」

 

 

ライの悲しげな表情に浮かぶ軽蔑の視線がルクスに突き刺さる。

 

尊敬している人物に軽蔑されるのは流石に堪える。当時の状況をありのままに伝えようとしたが、

 

 

「まあ、ルクス君が有罪か無罪か。また後で決めましょう」

「後にしないでください!今、無実を晴らしたいんですっ!」

「はいはい。貴方に押し倒された生徒が来たらね」

「押し倒したって、覗きだけじゃ飽き足らず手まで出したのか……。激しく幻滅したぞルクス、一年前なら即有罪で生徒たちによって女性恐怖症にされていたところだが……現生徒たちも中々厳しいぞ」

「違うんです――っ!!」

 

 

ルクスの無実を訴える声が虚しく響いた後、レリィがコホンと咳払いをした。

 

 

「それじゃあルクス君の裁判が始まる前に、一つ疑問を片付けさせて」

 

 

そう言ってレリィが視線を向けたのは、

 

 

「――?」

 

 

これまでの会話に一言も発せず、ただひたすらに机の上の菓子を、さらに机の下に配置されていた菓子の補充すらもたった今喰い尽した――ライに酷似した少女。

 

レリィはスッと目を細め、

 

 

「ライ。――その子は何者?」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

遂に来たか、とライは胸中で独り言ちる。

 

横に座る少女へと首を向け、視線を注ぐ。三人の視線を注ぐ中、少女はその意味も解っていないようでただコテンと首を傾げるのみだった。

 

人形のように整った美形が繰り出す幼く愛らしい動作。ルクスやレリィにはその見えるだろうが、ライには堪えようのない悪寒を身体の深いところに伝えていく。

 

今でも彼女に否応無しに理解させられるレベルの本能的不快感がある。

 

ふと少女がライへと振り向いた。少女とライの視線がぶつかり合う。

 

自身に似通った顔が、自身そっくりの白銀の髪が、白銀に一房混ざる水色の髪が、灰と蒼の左右対称に輝く瞳が――おぞましくて仕方がない。

 

 

「――ッ!」

 

 

湧き上がった忌避感にライは力強く視線を逸し、重苦しい口を開いた。

 

 

「この子について……この子の正体は何だと思う?」

 

 

まさかの疑問にルクスとレリィは揃って、え、と呟いた。

 

 

「ごめん。僕自身、この子についてさっぱりなんだ」

「さっぱりって……貴方の親戚、――『妹』とかじゃないの?」

 

 

――『妹』。

 

その言葉に左胸の奥で、何かが動いたような感触が生まれる。苦痛だ。それも、鉄条網で喰い込むほどに縛られたような、万力で握り潰されるような、軋みの苦痛。呼吸が止まる。背や脚にじっとりとした脂汗が噴き出てくる。

 

 

「……ッ」

 

 

このままいけば顔は蒼白になるだろう。しかし、そこで歯を噛み合わせ、さり気ないように胸に右の手を左胸に当てる。レリィやルクスに自身のそんな姿を見せない為に。苦痛を胸に当てた手で無理矢理押し込むようにして堪える。額に浮かび上がった汗も胸に置いた手を鼻から上にずらし顔を隠すついでに拭った。

 

止まっていた呼吸を再開させ、

 

 

「――違うよ。第一言っただろ。僕は天涯孤独の身。妹は……いないよ」

 

 

ぶっきらぼうな、けれど小さな、本当に小さな震えを帯びた声で、彼女が自身の妹ではないと否定した。心の軋む音がまた聞こえる。嘘とはいえ『あの子』の存在を偽ったことに心が削れていく。踏ん張りが功を奏したのか、体調の不良を隠すことが出来、レリィは一応の納得をしてくれた。

 

 

「どうして彼女が僕に似ているのかはさっぱりだ。少なくとも僕の身内にこんな子はいない。けど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。限りなく正解に近い、この子の正体を」

 

 

やれやれと首を振ったライのその顔には疲れと嫌悪が浮かび上がっている。

 

不可思議な言いように顔に疑問符を浮かべるルクスに顔を向け、

 

 

「とりあえずルクス」

「は、はい」

「万が一、億が一の可能性にかけて、一応聞いてみるが……君の親類、アーカディア皇族にこの子はいたか?誘拐されたとか、神隠しにあったとかそう言う噂。行方不明になった話も思い出してみてくれ」

 

 

懇願するように、願うように質問を投げかけるライ。自身の頭に浮かび上がる、彼女の正体を否定するために縋っているのが誰の目からも伝わってくる。

 

しかし、

 

 

「いいえ。アーカディア皇族に、僕の姉妹にも彼女のような子に見覚えはありません。誘拐といった話も当時には聞いたこともありませんし、そもそもアーカディア皇族は――僕と妹、行方不明の長兄以外死亡が確認されています」

 

 

答えは即座の断定。

 

確かに彼女の水色が一房混じる銀髪と左の瞳の色は、ルクスたちアーカディア皇族のものと酷似している。

 

ルクスは幼い頃の宮廷生活でアーカディア一族全員の顔を見た覚えがある。だが、この特徴的な髪も瞳も一度目にしたら忘れないほど印象的である少女の顔に覚えは全くない。

 

誘拐の話も男尊女卑の風潮を持つ皇族でも、皇女が行方不明になれば一応の捜索はするが、そんな騒動はルクスの聞いた話にはなかった。

 

そもそも五年前のクーデター、“血染めの革命”でアーカディア一族はルクスと妹を除いて死に、他に生きている皇族はいないはずだ。新王国のラフィ女王の話では、城内にいた皇族はもちろん、関わっていた要人のほとんどが暗殺されている。唯一、長兄の消息は不明だが、他に皇族が生きているとは到底思えないのだ。

 

 

「……そうか」

 

 

ライは、一縷の望みが絶たれた、諦めの表情で目を閉じ、天井を仰いで呟くだけだった。予想出来た答えだった。もしかしたら、という僅かな可能性に縋ったがやはり予想通りに外れた。

 

 

――誘拐され、あのグロテスクな悪夢(ナイトメア)に閉じ込められていた。精神はそれによる幼児退行。そんな馬鹿馬鹿しい線は消えたな。

 

 

「とりあえずこの少女について言えることだけ、話そう」

「あ、あの……重要な話なら僕は席を外しましょうか?」

「いや、ここまで聞いたんだ。ぜひ、聞いて欲しい。君になら安心して話せる」

 

 

――違う。この少女のことを知るのが自分一人など荷が重すぎるのだ。秘密を共有する存在が、共犯者として巻き込みたいのだ。

 

 

限りなく薄い、荒唐無稽な可能性に縋ったが駄目だった。認めたくないが、もう受け止めるしかない。この少女の正体について。

 

 

「どこから話していいのやら。僕もこの子が“どうして”誕生したのかはまだ分からない。けど“どうやって”作られたのかは大体察しているんだ。取りあえず分かっていることから話すよ」

 

 

――コレはやばい。危険だ。解ってしまうんだ。荷が重い。

 

――僕は君たちを巻き込もうとしている。二人とも、すまない。

 

 

胸中で二人に謝ったライは重々しい口を開き語り始めた――。

 

 

「――学園長!あの下着泥棒な痴れ者をぶち込んでいた牢屋が破壊された!腹に爆発物を埋め込んでいたのか、特殊な機竜操作を持っているのか解らんがとにかく脱走されたぞ!このまま野放しには出来ないため機竜を使用する許可を――って貴様ぁっ!!」

 

 

――がドアを突き破りかねない勢いで入室してきた王女様によって、出鼻を挫かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……。つまり、貴方はポシェットを奪った猫を追いかけていたら、足場にしていた屋根が壊れて下の浴場に落ちた。そして、落ちてくる破片から彼女――リーズシャルテさんを助けようと押し倒して、思わず逃げてしまったと。そんなところかしら、ルクス・アーカディア君」

「はい。大体そんな感じです」

 

 

朝っぱらからのごたごたから幾分か過ぎた頃。

ライに連れて来られたルクスは、昨夜の騒ぎに至った経緯を学園長、旧アーカディア帝国の元皇族である自身の、数少ない顔見知りなレリィ・アイングラムに説明していた。

 

 

「おい、そんな建前なんか必要ない。本当は覗きをしたくてたまらなかった。それが本音だろ。正直に吐いてしまえっ」

 

 

ルクスの隣に立ってすっぱりと嘘だと決めるのは、昨晩にルクスが浴場に落ちた際、勢いで組み伏せてしまった、件の少女――

 

 

「まぁまぁ、リーズシャルテさん。この国の王女ともあろう方が吐くなんて言葉を使うのはどうかと思うわよ」

「ふんっ」

 

 

――うう、やっぱり信用されてない……。

 

 

リーズシャルテ・アティスマータ。新王国の王女である彼女が持つ、真紅の瞳によく合う燃えるような敵意にルクスはへこんだ。

 

猛犬のように敵意剥き出しの彼女をライとレリィがなだめることで、一旦引いてくれたようだが、彼女の凄まじい怒気を含めた自己紹介を受けることになった。正直、その時に覚えた驚愕と同時に発生した背筋を伝う冷や汗の感覚が離れない。

 

まさかよりにもよって、押し倒し、彼女曰く『素晴らしい口説き文句』を放ってしまったのが、五年前に帝国を滅ぼした新王国の姫とは運命の神をたまらず呪ったものだ。

 

 

「なぁ、ライもそう思うだろ?そんなふざけた嘘が通用するかっ」

「あーいや、僕の友人に隠しておきたい大事な物を猫に掻っ攫われた経験をした奴がいて、嘘だとは強く否定できないな。それと彼の性格から、頭ごなしに嘘と決めつけられない」

 

 

リーズシャルテの言葉にライは苦笑して答える。

その隣には満腹になったのか、ソファーに備えてあったクッションを枕にして眠りこける少女がいる。

 

この少女の存在にリーズシャルテも驚愕していたが、ライの“後で話す”で一先ず置いとかせた。

 

 

「なんだ、ライ。貴様この没落覗き魔皇子と知り合いなのか?」

「あーうん。といっても腐れ縁ってやつかな」

「腐れ縁……。具体的には?」

「『落とし物』――《蒼月》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を勝手に大会の優勝賞品にされて、素性をばらされたくなければ鍛錬に付き合えと脅迫された関係」

「ちょっ……!?」

 

 

何気ない返事にルクスは驚愕の声を上げてしまった。脅迫という盛り付けを加えられた事実は、この状況にとって劇薬でしかない。

現にリーズシャルテの視線がより厳しくなって睨まれている。

レリィはあらあらと微笑む。

 

 

「懐かしいわねぇ。私たちが機竜使い(ドラグナイト)の強盗団に襲われていたのを救ってくれたライを護衛として雇った頃ね。それで帝都に行った際、ルクス君主催の装甲機竜(ドラグライド)トーナメントの優勝賞品に落としたっていう機攻殻剣(ソード・デバイス)と《蒼月》がでかでかと飾られていたのよ。――それを見た時のライの表情は忘れられないわ」

「笑いごとじゃないぞ。目立ちたくなかったのに表舞台に立たされる気持ちになってみろ。――しかも、ルクスっ!」

「は、はいっ!」

 

 

悩ましい過去を思い出している顔に表情を歪めているライがルクスを指さす。

 

 

「なんだあの――『復活した終焉神獣(ラグナレク)『ポセイドン』を命をかけて滅ぼした名も無き勇者の神装機竜』っていうふざけた宣伝はっ!!それを聴かされ、民衆は噂を変な解釈して広めるわ、神装機竜の魅力で出場者が増えるわで……僕は大いに頭を抱えたぞっ!」

「す、すみません!すみません!」

「目立つのが嫌だったから、アーカディア皇族が持つっていう目立つ銀髪を隠して黒色のウィッグを被って偽名で参加しなければならなかった……。同じ理由で《クラブ》も使いたくなかったから、《ワイアーム》の外見だけをしたガチガチにチューニングと改造、最早別物としか言えない機竜で優勝したんだよ。いや本当に――大変だった」

「私もフィルフィと一緒にVIP席で観戦してたけど、試合のたびに本当にハラハラさせられぱっなしだったわ。多分、観客席にいた誰もが当時の手に汗握った試合と言えば貴方の試合を上げるわよ」

 

 

そう、行われたトーナメントでのライの試合にはルクスも目を奪われた。力を欲し、血反吐を吐きながら鍛錬を続けてきたことで作り上げた自分の技術(テクニック)とはまた違う洗礼された技術(テクニック)

 

それらの難易度は高いが決して出来ないものではない。幾つかはルクスも自分の癖が混じるが再現できる。しかし、試合の最中に彼が行った行為に自分には到底できないことがあった。

 

それは――。

 

 

「ファンサービスの出し際も完璧だったしね。――父が驚いていたわ。素人が出来るパフォーマンスではない。人の見慣れられ過ぎている。この観客席の人間よりも多くの人間の視線を受け止めたことがあるって――どう、ライ?」

 

 

勝利を積み重ねたことで集まる注目にライは最高の形で応えてみせていた。特に決勝戦の際は、ボロボロの汎用機竜で神装機竜を使用した公爵家の一人息子を地に這いつくばらせたことで、観客のカタルシスは限界を超えて万来の拍手が鳴り響いた。

 

あの時だけ、圧政に苦しむ民衆に多くの笑顔が浮かんでいた。苦痛と恐怖を忘れ、歓喜に浸る人が持つ明るさ。そんな心を動かす才能にルクスは尊敬の念と……ほんの少しの嫉妬を抱いた。

 

 

「無我夢中だっただけだよ。あの時は初めて乗る機竜、しかも設計直後のろくに起動テストもしていない改造機竜だったから試合の緊張感といつ不備が出るか分からない不安とかで勝った時には自棄になってたから出来たんだよ」

「ふーん。そういうならそれで納得してあげる。でも~迫り来る銃撃を亡霊のように回避する不気味な戦い方、公式記録ではそのトーナメント一回しか記録に残らず、行方すらも掴めなかったことから――」

 

 

そこまで言ったレリィは目を細め口角を上げた。でた、とルクスも良く知っている人をおちょくる顔だ。それが向けられているライは、思い出したくないと顔を両手で塞いだ。

 

 

「『蒼黒の幽鬼』なんて異名が付いちゃったのよねー、ジュリアス・キングスレイ」

「う、うああああ~~~~っ」

 

 

自身の恥ずべき過去を口に出され、両手を顔で塞いだまま身悶えるライ。

目立ちたくなかったはずなのに、妙な異名がついてしまったのだ。頭を抱えるはずだろう。

 

 

「なにっ!?ライがあの『蒼黒の幽鬼』だったのか!」

「ってリーズシャルテ気付いてなかったのか!僕はてっきり『ワイアーム・ライ』でもう気付いているものかと……」

「あ、ああっ!言われてみれば……っ!?」

 

 

今更気付いたリーズシャルテとそのそんな彼女に驚愕するライ。

 

目の前に広がる光景だけでライのこの学園でも立場についてはたまた疑問に感じた。

 

レリィとライが知り合いであることはルクス自身も知っている。しかし、それだけでこの学園に『男』であるライが要られる理由には足りない。現に今も、王女であるリーズシャルテと親しいようだし、閉じ込められていた牢獄の崩壊の件も聞きつけてやってきた三人組の生徒に後片付けを頼んでいた。それだけでこの学園の生徒と親交を持っていることが見て取れた。

 

 

「あのー聞き忘れてたんですが、ライさんはどうしてこの学園に?生徒たちや王女殿下と親し気ですし、もしかしてここの教員を?」

 

 

その疑問に答えたのは、ライではなくレリィだった。

彼女はチラッとライを一瞥した後、

 

 

「ええ、ライは王立士官学園(アカデミー)の教員よ。ここが設立しての四年間、機竜整備士として士官候補生の教官をしてもらっているわ。“王都親衛隊”も“狂犬部隊”もライの教え子なの」

「ほっ、本当ですか!?」

「違う違う違う。嘘を教えないでくれ。僕は教員になった覚えはないぞ」

 

 

ライが機竜戦闘だけでなく機竜整備にも精通していることは驚いたが、何よりルクスを驚愕させたのは、“王都親衛隊”と“狂犬部隊”の教官を務めたという事実だ。

 

この二つの部隊は新王国の機竜使い(ドラグナイト)のみならず、他国までその名が轟く、新王国の未来の双璧とも言えるビッグネームだった。

 

“王都親衛隊”は不死身の鉄鬼、悪夢(ナイトメア)に四度も襲われながら誰一人欠けることなく生還したこと。他国同士で行われる一騎打ちの交流模擬戦ではブラックンド王国直属の騎士団、それもそこの団長と副団長以外では全てに勝利を収めるなどとんでもない成績を上げている。

 

“狂犬部隊”は設立してまだ二ヶ月ほどだが先輩たちで構成される“王都親衛隊”に負けず劣らず……いや、こちらは悪評が立っている分、“王都親衛隊”よりは名が馳せている。

 

真偽の分からない噂が多々あるが、間違いないのはルクス自身も目にした、団長を務めるルティア・フェラーのエピソードだ。

 

“王都親衛隊”は貴族子女で構成されているが、“狂犬部隊”の女性は平民も混ぜて構成されていた。それをまだ男尊女卑の思想を抱き、機竜は高貴なる貴族が操るものと考えていた貴族子息が馬鹿にする発言を吐いたのだ。

 

それに怒りを覚えた団長に任命されたばかりのルティア・フェラーは謝罪を求め、口論の末に決闘騒ぎにまで発展。

 

決闘場所は王都の闘技場で行われ、掃除の雑用で偶然その場にいたルクスも興味本位でつい野次馬の中に加わってしまった。

 

相手である貴族子息は上位汎用機竜を使用、対するルティア・フェラーは汎用機竜で決闘を始めた。結果はルティア・フェラーの完勝。武器も使用せず徒手空拳、出力差など恐れもせず取り付き、放ったのは関節技(サブミッション)。相手の四肢を折り砕き、無傷で相手を完封してのけたのだ。

 

それだけなら若く才能溢れる女性機竜使い(ドラグナイト)としてと謳われるだけだが、問題はその後だ。

 

結果に納得いかなかった貴族子息の取り巻きたちが逆上し、自分たちも機竜を使用して彼女を袋叩きにしようとしたのだ。だが、彼女は決闘を見守っていた隊員たちが加勢しようとするのも制止して襲ってきた取り巻きたちも全員相手にした。

 

迫る相手に憶することも慌てることもなく、ルティア・フェラーは自身の機竜の手に取り出した武装を装着させた。五年前に機竜について貪欲に学んだルクスはその武装について知っていた。

 

武装の名前は『電光烈拳(スパークナックル)』。

 

機竜の犯罪鎮圧用に使われたとされる稀少武装である。撃ち込んだ相手に電撃を流し込むことで機竜の機器をマヒさせ、機竜使い(ドラグナイト)を殺さずに機能だけを停止させる武装。しかし、電撃の破壊力は機竜が発動させる障壁もやぶることが出来ないほど低く、相手に押し付けなければならない為、相手の不意をつくだのをして、動力源である幻創機核(フォースコア)に直接打ち込まない限り機竜同士の戦闘でまともに使えるものではない。

 

そんな産廃な武装をルティア・フェラーは正確に、寸分の狂いもなく相手の幻創機核(フォースコア)に叩き付けた。接近戦では機竜牙剣(ブレード)を振り上げたところを雀蜂のような速いカウンターの一撃で停止させ、距離をとった相手が放つ砲撃をゆらゆらと幽霊のような、すり抜ける機動で接近し鎮圧させた。

 

そんな鮮烈なエピソードから彼女がどれほどの実力を有するか、その彼女たちと同格である部隊員の力量が広まり“狂犬部隊”の名は発足して僅かな内に名を轟かせたのである。

 

――ああ、そうか。

 

彼女の機竜の動きを見た際、ルクスは強い既知感を覚えている。彼女の機竜操作にどこかライの面影を感じていたのだ。まさかとは思っていたが、彼女がライの教え子なら似るのは納得の道理だろう。

 

――羨ましいな……。

 

ルクスもライに機竜の訓練をしてもらったことがある。三週間、その毎日欠かさず模擬戦をした。しかし、一度も技術については教わったことはない。いや、そもそも訓練といえるものではなかった。

 

最初の模擬戦の際にライは、

 

『君は既に自分の戦法……言うなればルクス・アーカディア流というものを構築し練り上げている。ここで私が口を出してもその戦法の発展を阻害するだけだ』

 

『だから、私は君に指導も助言も一切行わない。ただ、潰す。君がぶつけてくる技術全てを迎え撃って潰していく。その粉々になった技術をなぜ破れたという疑問と共に集め、答を持って再構築し磨き上げろ。何処までも鋭く、深く、頑強にな』

 

その言葉の通り、ライはルクスの戦い方に一切口を出すことはなかった。

 

そんな自分と違い“狂犬部隊”……いやここの生徒たちは少なからずライに師事され、自分より長い月日を共に過ごしているのだ。そんな彼女たちに嫉妬している自分に気付き、小さく苦笑を浮かべてしまった。

 

――五年ぶりに再会したけど、相変わらず謎な人だ。

 

そして、ルクスはそんなライよりもある意味でもっと謎に満ち溢れている人物へ視線を移す。

 

ライの隣で穏やかに寝息をたてる銀髪の少女。一房の水色を抜けば、自分たちアーカディア帝国の皇族が所有する鮮やかな銀髪。左右対称の鋼色と蒼色の瞳。肉体にそぐわない幼稚な精神。そして、ライに似た顔立ち。

 

とてもじゃないが、彼女がまっとうな人間には見えなかった。

 

――ライさんは生まれたばかりと言っていたけど……。

 

彼女についてルクスも聞きたいことが出来たが、ライ自身が後程伝えると言ったのだ。ならばそれを信じて待つことにした……。

 

 




最新話、いかがでしたか?
全然進んでいませんが、きりのいいところなのでここまで。
今年中にはもう一話投稿したいなぁ……。
以下、解説です。

・王都親衛隊、悪夢とのとある攻防内容 ※あくまでイメージです
 ~交戦から三分~
 一般兵「こんなの機竜じゃない、ただの不滅の悪夢(ナイトメア)だよ!!」
 親衛隊「だったらやればいいでしょ!!」
 ~交戦から五分~
 一般兵「駄目だ……!機竜息砲(キャノン)機竜牙剣(ブレード)を受けても再生してしまう……!」
 親衛隊「壊れるんだったら殺せるはずよ!!」
 ~交戦から十分~
 一般兵撤退、親衛隊殿中
 親衛隊「来なさい!どうした!やってみろ!殺せ!どうした、来い!私たちはここだ!さぁ、殺してみろ!殺せ、殺してみろぉぉぉぉ!!」
 狂王「――待たせたな」
 親衛隊「よし、撤退!!」

 因みに彼女たちが戦った悪夢は順に蟷螂、白昆虫、赤鬼昆虫、白兜虫。
 全機、ライが登場した途端、逃げ出すため仕留められていない。

・『電光烈拳(スパークナックル)
 大雑把に解説すると機竜用のスタンガン。悪夢には勿論通用しない。
 ライのお土産であるこの武装にルティア・フェラーはロマンを感じ、ライの繰り出す体術を生身と機竜で受け続けながら自分の物としていった。二年生の頃には現在のフィルフィとテュポーンと同等の実力に至ったが、新入生の公爵令嬢が持つ神装機竜の武装がこれの完全上位互換であったため、かなりへこんだらしい。その後、被るのはいやと使用を控えていた。

・『蒼黒の幽鬼』
 たった一度の公式模擬戦(トーナメント)にしか記録されていない謎の機竜使い(笑)。
 名前はジュリアス・キングスレイと参加名簿に記録されているが、調査したところそんな人間など痕跡の一つもなく、偽名だと判断されている。
 異名は蒼と黒のカラーリングに染めた機竜を使用し、亡霊のような敵の攻撃をすり抜ける機竜操作で近づいてくることが由来となっている。
 本来はそんな機竜使いは、日々更新されていく記録の中で埋もれていくはずの存在だったが、ある日、自身が『蒼黒の幽鬼』と名乗る機竜使いが優勝賞品であった『蒼月』を模した機竜で公式模擬戦に姿を現した。だが、次の日にその機竜使いはコロシアムの入り口に全裸で吊るされボロ雑巾のような状態で見つかり、『私は嘘をつきました』と書かれた板を首から下げていた。機竜は更に酷く、一見機竜とは見えないほどの修復不可能なレベルでスクラップにされていた。
 それから似たようなことが数度あり、吊るされた機竜使いは蒼色を見ると敗北のトラウマが蘇っているという。
 その容赦のなさから影の実力者として機竜使いの間では有名になっている。

どこぞの狂王『名前や功績とか興味も未練も全くないけどさ。やっぱり自分の愛機を外見だけ不細工に再現して好き勝手に扱われるのは腹が立つんだよな~』
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