――ああ、しまった。
アルトは床にうつ伏せに倒れ込んでいた。
放すことのなかった
初撃として高速で接近しタックルをかまし、ライの態勢が崩れたところをすかさず幻獣神化で組み着こうとしたが相手は既に読んでいた。結果、腹部に
――考えてみれば当然ですよね。私の技術は『お父さん』の技術なんですから。
アルトはライの技術をコピーし継承しているが、それを再現してもライ自身ではない為諸々の要因が存在し、完璧に使えるわけではない。アルト自身の手でそれらの技術を昇華しない限り、
アルトが自分の全てをコピーしているとはいえ、それらを十全に使いこなせるとはライも思っていないはずだ。使用してもズレが生じ、
ならばどうやって『父親』と戦うか思考を巡らすと、
「あ、あのー……」
ふと、優し気な気遣うような少年の声が聞こえた。
――ルクス・アーカディア……?
声の持ち主を脳裏に浮かべた途端、記憶と感情がフラッシュバックする。アルトのものではないライの記憶と感情が胸の内に湧き出てくる。
――ああ、ダメ……。
ライがルクスに抱く感情は兎も角、記憶からルクスがどんな人間かが解る。早朝、牢屋に閉じ込められていた彼を見たときと同じように、心の中で彼がとても好感が持てる人物であることが分かってしまう。
――『お父さん』の記憶っていう色眼鏡なしで見たかったですね……。
とりあえず心配をかけてくれる彼に手を上げ、大丈夫であることを伝えようとする刹那、心胆を凍てつかせ氷壊させる気配が迫ってくるのを感じた。
「はぁっっ――――!!」
反射即応で体を跳ね上げる。近くまで寄っていたルクスが素っ頓狂な声を上げていたが、命の危機でそれどころではないアルトには気にする余地はなかった。
学園長室から自身目掛けて真っ直ぐに宙を奔る黒い影……鋭い突起のついた鉤爪、《スラッシュハーケン》。
襲い掛かるハーケンを手放すことのなかった
血溜まりの上に危なげもなく着地すると、構わず血を零す鼻を軽く抑える。
正面、《クラブ》を完全に纏ったライがいる。
抜き身の
軌道を変えられたハーケンはわずかに空中を泳ぎ、すぐに巻き戻される。その直後、《クラブ》が弓のように体を撓め、高出力のランドスピナーで矢のように撃ち出される。向かう先がアルト以外にあろうはずがない。
これを迎え撃つ。逃亡など以ての外。
いかなる未来もその先にしか存在はしない。
ライは《スラッシュハーケン》をメッサーモードに展開。
アルトは脳に受け継いだライの記憶を掘り返す。ライの技量と《クラブ》の出力が合わさったその一撃はディアボロスの
とてもではないが、
正直、出来るかどうかは不安はあるが《ヴィンセント》の実例がある。心の隅に生まれた恐怖と不発による一抹の不安を吹き飛ばすように、構えた
「――《月下・先型》!」
通常ならば、ほぼ不可能な難易度の操作術。生まれてからまだ数日。たった数分程度でしか目覚めていない自我。父親から一方的に受け継いだ経験と記憶、技の技量に実力が伴っていない卵の殻を被った少女。
ありとあらゆる要素から万人がアルトの試みを一笑に伏すだろうが、現実が違った。
背後の空間を割り砕いたかのような音と同時に少女の背後に《月下・先型》が現れる――それは愛馬が主の子を守るために駆けつける光景に似た瞬間だった。
蒼い武者の召喚成功に思わず空いた手で握り拳を作ってしまう。しかし、それで満足してはならない。まだ命の危機から一歩も逃げ出していないのだ。
全身接続するよりも先に《ランスロット・クラブ》の左腕は自分に届く。そのために部分接続、《月下・先型》の左腕だけを纏う。そして呼び覚ます。自身に眠る獣の力を――。
「…………ッ!!」
アルトの目が黒く染まり、瞳が黄金色へと変貌する。
――幻獣神化。
まだ名付けられていない頃の自分は何度か行った際。感情の高ぶり、不快感への拒絶といった本能で使用してきた。その後の体の疲労からすぐに解除していたが、確固たる意志を持った今なら平常時との差がはっきりとわかる。
幻獣神化のスイッチを入れた途端、全身の血が燃えたぎるマグマに変わったかのように駆け巡る。その熱はあっという間に脳を茹で上がらせ、思考能力を一気に蒸発させてくる。更に厄介なのは、また同時に湧き上がるどす黒い感情。
それは、目の前に迫る青年を狩られる前に狩り、完膚なきまでに叩き潰して切り刻むこと。この学園の生徒たちを虐殺しその快感を教え込まそうと茹で上がった脳へ刷り込んでくる。それこそ正に
湧き上がる衝動が破壊と殺戮を行わせようと囁いてくる。
そこから生まれ、得られる赤黒い悦びに身を委ねようと本能が逸らせる。
しかし――
「――――っ!!」
アルトの口から少女のものとも思えぬ裂帛の声が、体中の熱を吐き出すような、衝動を吹き飛ばす抗いの咆哮が吐き出される。
踏み出された右足。その震脚たる一歩が
左腕で渾身の一撃を入れるには、右足の踏み込みは必要不可欠。
子供でも本能的に理解している攻撃行動。
準備は整い、間に合った。
『騎士』と『武者』。
蒼い機体が、主を共にし『あちらの世界』でも『こちらの世界』でも一度もぶつかり合うことのなかった両機が、今ここで一撃を交わした。
激突、激音が響き、廊下が震動した。
――◆◆◆◆◆――
《クラブ》の左腕から伸びる刃に対して、《月下・先型》の貫手が真っ直ぐにぶつかった。刃と拳。振り下げと振り上げ。結果は無論――。
「…………」
「よしっ!」
ぶつかり合いの結果にライは無言。アルトは笑みを浮かべた。
一撃の重なり合いは、《クラブ》のメッサーモードの《スラッシュハーケン》が《月下・先型》の貫手を砕いて手首まで割り、喰い込んだ形に終わった。しかし、結果としてライの一撃は失敗に終わり、ほんの僅かな膠着状態が生まれる。その隙をアルトは逃さない。
「
すかさずアルトは残りの《月下・先型》を纏う。
ライはそうはさせるかと言わんばかりに《クラブ》の空いた右腕の《スラッシュハーケン》をメッサーモードに展開。速攻でアルトの胴体を真横に割らんとする。しかし、振るわれた手刀は纏った《月下・先型》の右腕をぶつけられ停止される。ならばと右脚の直蹴りを放とうとするも、同じように相手の右脚で繰り出す前に阻止された。
両人とも上がった右脚が地面に着くと、《月下・先型》に喰い込む左腕を勢いよく捻じる。嵌っていた《月下・先型》の左手を砕くとすかさず攻撃。《クラブ》の四肢が間合いに捉えているアルトに殺到する。
畢竟、剣林弾雨の勢いで打撃が唸る。一打一発が重火器にも匹敵するそれを、身に受けるアルトいや《月下・先型》に一切の構えはなかった。自然体という無防備のまま、その猛威に身を投じたようにしか見えはしない。
だが。
「あれは――」
そこで突然行われた蒼の機体同士の戦闘から距離をとったルクスは、その光景に呆然としながら異常に気付いた。
逸らされている。流されている。打撃の芯を捉えさせていない。
蒼い騎士の猛撃に《月下・先型》の装甲が削れているが、確かに少女は直撃を許さず回避し続けていた。更にアルトの両腕、操縦桿を握る手が尋常ではない速さで動いている。攻撃を繰り出すライの操作に匹敵……いや、やや劣る速さで《月下・先型》に回避運動を行わせている。
《月下・先型》の回避動作、彼女の操作技術。
その二つが生み出す機動にアルトにルクスは強い既知感を覚え、その正体に気付いた。
「あの動き……ライ先生の……」
ルクス同様気付いたのか、隣でアイリを守るように前に出たノクトが目を見開いていた。
そう、彼女の操作は今襲い掛かっているライの操作のソレなのだ。
多い時は1秒間で12回もコマンド入力して生まれる《月下・先型》、《クラブ》の機動は攻撃を放った相手に亡霊だと錯覚させるほどのモーションとなる。……必殺、必中と思っていた一撃がすり抜けたように避けられ、接近される恐怖と焦燥。それらはライと戦ったことがある人物なら味わったことがあるはずだ。
ルクスとノクトが相対した時に見せたライのソレと比べれば、操作速度と同じように僅かに遅いが既知感を感じさせるには十分に完成されていた。
激流に外縁を削られようと、決して朽ちず有り続ける木の葉のように。ライの猛爆に対抗せず紙一重で回避し続けるアルト。
脳裏に刻み込まれた『
それなのに戦えるのは、初の実戦であるにも関わらずライの技術を既知感を感じさせるほどに再現できる恐るべき才覚の持ち主であることと、ほぼ同格の性能である
そして、攻撃の全てを把握しきった瞬間――遂に反撃に出た。
優れた見切りを持ち、ライの戦闘方法を熟知しているルクスよりも早く。
そうライがアルトの技を読めるように、アルトもライを知る故に技を読み切ることが出来るのだ。
身を沈め、高機走駆動輪で廊下を滑走。横へ潜り抜けざま肘を《クラブ》の脇腹、あわよくばライへと突き込む。しかし、それを呼んでいたかのように《クラブ》の腕から翡翠色の障壁――《ブレイズルミナス》が発生する。
直撃は防がれたが高出力の《月下・先型》の渾身の一撃は《ブレイズルミナス》ありとはいえ《クラブ》の態勢を崩すには十分の威力があった。そこに追撃の蹴りを撃ち込む。
「ッぐ――――」
《クラブ》が衝撃を逸らす為、自ら大きく理事長室から離れるように横へ身を投じる。威力は軽減したとは言え蹴り飛ばされた屈辱に、ライが遠ざかる空中で身悶えした。
「
知らずの内に変化した呼称を叫び、突進するアルトの非対称の双眸はライを真っ直ぐに射抜き、再び叫ぶ。
「――《甲一型腕》!!」
『――ッッ!!?』
その武装を耳にしたルクスとノクトは声にならない驚愕を上げ、すぐさまアイリを抱えて逃げる。理事長室にいるレリィも例外ではなく、ないよりはマシだと机の下に隠れる。
未だに砕け散った左腕外装に突如空間が展開し、甲一腕型と呼ばれた武器がパーツ分解状態で姿を現す。様々なパーツが左腕フレームにロックをかけ、包みこんでいく。変化した腕の指は三本で、それぞれ真紅の色に光っていた。完成まで一瞬だ。
これこそが生物、機竜、
異形の魔手を突きつける。
赤黒い電光が迸る。
一撃必殺。それ以外の何物でもない攻撃をアルト・ランペルージはライへと放っていく。
迫りくる輻射波動にライは、
「それかァッ!!」
「これだァッ!!」
憤怒の叫びと共に迎え撃ったものは、左肘。
《クラブ》の両肘に内蔵される《ブレイズルミナス》の斥力を攻撃へと使用した特殊武装――《ニードルブレイザー》。
これもまた一撃必殺の武装である。その破壊力は陸戦型神装機竜を装甲、障壁を合わせても貫通させ、
《クラブ》と《月下・先型》の一撃必殺同士が、ぶつかり合う。エネルギーの力場同士のぶつかり合いに悲鳴のようなスパーク音が響き渡る。
「――――く」
「ぐうッ――――」
お互い進まず退かずの元で、装甲が割れ、パーツが潰れ、フレームが歪む。二人の視界に各々の機体の状態を知らせる表示枠が浮かび上がる。機体が伝えるのは、ぶつかり合う左腕の
しかし、二人はそんなもの見ずとも彼我の機体が破壊される感覚を、スローモーションのように己が神経へと焼きつけながら……互いの必殺は相殺され、その左腕が火花を飛び散った。
「…………」
「チィ――ッ」
お互い左腕の肘から下を失いながらも、共に継戦の様を演じる両者。
ダメージに関してはほぼ互角。だがライだけが先行攻撃を繰り出せてみせたのは、
「く――――」
すぐさま猛禽の如く正面から襲い来る跳び蹴り。足を使っての回避――無理、足らない、間に合わない。故に、右腕に障壁を纏わせて受けた。衝撃が五体を攪拌する。全体重を落下する鉄槌と変えて、重量加速をも味方に付けた重爆攻撃――にしては軽すぎる手応えに、アルトは一瞬の戦慄を覚えた。
「――捕らえた」
しかし既に遅く、直撃と同時に《クラブ》の肉体が変移する。リボンが解けるさまのように、蒼の騎士が流れるように絡み付いてくる。
それの正体に脳内の知識がその意図を報告した。
『あちらの世界』でロシアという国がまだソ連と呼ばれていた時代。その国が国力を挙げて、中央アジアの諸民族に伝わる技を統合させた徒手格闘技『サンボ』……よりも人体破壊に特化したライの母、つまりアルトにとって
魔術のように絡み取られ、重心を崩され引き倒される。跳び蹴りは、この
「ぐァ……!」
鉄枷で固められたかのように動けぬ《月下・先型》の人体を極めて模したマッスル・フレーミングの右アキレス腱に当たる部位に、凄まじい異音が爆発した。関節技で腱を断裂させられたのだ。次いで餌食と狙われるは右肘関節。
「なめないでくださいっ、
捕らえられた状態のまま、《月下・先型》が唸りを上げる。絡み付く蒼騎士で強引に振り払おうと
廊下に
「…………」
「くっ……あぁ……!」
その均衡も僅か二十秒で崩れ去った。
ライは無表情であり、徐々に徐々に締め上げる。
アルトは拘束されながらも、歯を食いしばり抵抗する。
本来ならアルトがなめるなと言ったように、
ならば何故、振り払えないのか。
それは《
まずインド・日本製のKMFは原点ともいえる“紅蓮弐式”から分かるように外見的な特徴として、人型から離れたスタイリングと動きを優先させた装甲にある。
元々、“紅蓮弐式”や“月下”はテロリスト組織『黒の騎士団』で運用される為、隠密裏に運ぶ必要性があった。そのため車両に積載しての移動など、機体がコンパクトに収納されるような構造で開発された。結果、防御性能が低下したが軽量化により機動性を重視するようになったため、最小限の装甲に覆われたよりコンパクトな印象になった。装甲が最小限になったが、防御能力の低さは軽快な運動性でカバーする。
こうした機体設計は、機能をギリギリまで切り詰めることで洗練されており、刀一本で攻撃も防御も兼ねる“侍”的な思想もあり日本人にはすこぶる良い印象を持たれていた。
ブリタニア製のKMFの根底には、騎士にとっての甲冑という意味合いが強い。“サザーランド”や“ランスロット”などの機体は、頭部に双眼があるなど、人間の意匠が残っているという特徴もあり、イメージとして騎士の姿が根底にある。前線に立って指揮する騎士がその身を守るために着る鎧=KMFであることから、まずは防御性能が重視されている。各装備も防御性能を補うという形で、外部に取り付けられており、その外観はまさしく重厚な鎧騎士のようである。
“守護”という姿勢を体現したブリタニア製のKMFの全身を覆うように配置された装甲は、まさに鎧そのもの。運動性、機動性についてはインド・日本製のKMFには劣るが剛性と防御に優れている。
――つまり、
幾ら、機竜の技術、マッスルフレーミングによって設計されて剛性が上がっても、それは相手も同じこと。差に変わりはない。
殴られ蹴られるのとは次元を異にする暴力が襲う。そして、肉体を解体されるという恐怖。脱出の為に振るう渾身の力は、砂地に浸み込む水の如く吸収されていく。アルトの五体は蜘蛛の巣に囚われていた。
――このままじゃまずい!
脱出不可能の破壊劇を、しかしその実行者は左腕が破損しているにも関わらず器用に拘束。昂揚も達成感もなく粛々と遂行していく。
解体される機体と焦燥がアルトを苛むが、五体はぴくりとも動かせない。
受け継いだライの記憶にこの拘束から逃れる手段はある。
しかし、それは両脚かもしくは両腕が健在であればの話だ。
左腕は肘から先が吹き飛び、右脚は自由に動かせなくされた。
これは鉄の檻にして枷。脱する事も解く事も能わない。
故に、アルトは躊躇いもなくそのカードを切った。
「
機竜では
主の指示を受けた《月下・先型》は、《高機走駆動輪》といった脚部の装甲以外の蒼の装甲を射出した。
「がああああ……ッ!!」
結果、技を極めてたライは装甲の散弾を至近距離で被弾、吹き飛ばされる。
その好機をアルトは見逃さない。
無事な《月下・先型》の左足を出力全開にする。
踵の《高機走駆動輪》が唸らせ、片足だけで器用に突進するアルトの双眸は、着地したばかりの『父親』を再び射抜く。
装甲を外しての軽量化により、通常時よりも加速を得た《月下・先型》は軽く跳ぶ。左足を矛先にライへと迫る。
飛び蹴りの姿勢にライは右腕の《ブレイズルミナス》を展開し防ごうとする。いくら加速を身につけたとして蹴りなどの体術の威力には重量が必要。軽量の《月下・先型》が、更に装甲を棄てた姿で飛び蹴りを放っても、それは速く鋭いだろうが総合的な破壊力は十分に防御できるものだ。
槍のような脚撃が《ブレイズルミナス》に正面からぶつかる。その一撃は《クラブ》を僅かに後退させたが、姿勢を崩すことも盾を破壊することはなかった。
《ブレイズルミナス》の斥力で弾かれる《月下・先型》の姿を見てその中心。操縦者であるアルト目掛けて止めの腰部の《スラッシュハーケン》二基を撃ち込もうとした際、信じられない光景が映っていた。
「ああああ――――ッッッ!!!!」
叫びと共にアルトが《月下・先型》を
「なに――ッ!?」
アルトの思いもよらない行動にライは瞠目する。
《月下・先型》の操縦部を思いっきり蹴り、弾かれるようにして空中から突っ込んでくるアルトの目は幻獣神化の色に変貌している。
この五年間、
その隙はアルトがライの懐に入り込むには十分なものだった。
《クラブ》の右腕で払いのけるのも間に合わず、生身の拳が振るわれる。《クラブ》の障壁を易々と貫き、ライの顔面目掛けて迫る。
それをライは反射即応で頭を下げて回避する。後頭部――その直上の空間を通過する一撃は、間違いなくライの頭を砕く威力を秘めていた。
拳は《クラブ》の頭の下、人間で言えば喉の部分に突き刺さる。そして、目標から外れた拳を素早く引き抜く。手には幾多のケーブルが掴まれていた。
それらのケーブルがどういったものかは分からないが、《クラブ》にとって重要だったらしくライの目の前に映った表示枠には、出力が急激に下がったことを伝えてくる。
「ちっ――!」
してやられた、と自分への苛立ちを込めて舌打ちすると共に、
アルトは、自分が引きちぎったケーブルがどんなものか分からなかったようで、ライが《クラブ》を戻すことに驚愕していた。その様子に躊躇うことなく
そのがら空きの胴に横薙ぎの剣閃が確かな手応えと共に、刃がアルトの身体に喰い込む。
「あ――――」
アルトに刃が入った瞬間、呟きが零れた。
それは誰のものであったかは分からない。
離れた場所で戦いを見ていたルクスたちか、理事長室の壊れた扉から伺うレリィのものだったのか。
まず違うと言えるのは、
「怪物が……っ!」
呪うように叫ぶ、『娘』である少女に
「捕まえました」
『父』の刃を受けながら、他者を圧倒させる凄みのある笑みを浮かべる『娘』――アルト。
アルトは、
アルトの笑みにライは背筋に凄まじい寒気を感じ、
ライは抜けないなら更に刃を進めようと考えたが、感触からしてこれ以上は出来ないと判断。幻獣神化という強化があるアルトの間合いから一刻も離れることを優先し、
「逃がしませんよ」
ライが手放すよりも早く、アルトは
その濡れた感触に生理的な嫌悪が湧き上がり、すぐさま払おうとすると、アルトが自由な手をゆらりと上げる。そのすぐ手が輝きを放った。
ワイアードギアス、そう思ったが違う。
紋章が発生したのは、手の甲ではなく、手の平だ。
そして、その紋章にライはアルトに対してもう何度目かになる驚愕を得る。
浮かび上がる紋章、そこには文字があった。
その文字が浮かび上がるワイアードギアスは――!
「《ザ・ゼロ》だと――!?」
「ええ、そうです。父さんのワイアードギアス。森羅万象全てのものを
「なぜ!!?貴様は既にもう一つ持っている……!?」
「解りませんよ。『あちらの世界』では覚醒せず、『こちらの世界』で目覚めたときには覚醒していた父さんと同じように起きたら持っていたんですから」
アルトは離れようとするライを抑えながら、自身が発動させた《ザ・ゼロ》を見る。
アルトの姿を変えるワイアードギアスは子供のような大きな違和感があった。しかし、この手に浮かぶ《ザ・ゼロ》は、間違いなくライの《ザ・ゼロ》と遜色ない効果を発揮するはずだ。
その力をアルトは躊躇いもなくライに振るった。
迫りくる《ザ・ゼロ》にライは自由な方の手を上げ、間に挟む。
手には振るわれたアルトの《ザ・ゼロ》と同じ力、元祖《ザ・ゼロ》が浮かび上がっている。
《ザ・ゼロ》同士がぶつかる。
無に還す力のぶつかり合いは、甲高い金属音のような音と一瞬の閃光を放ち、打ち消し合う。
そして、力の担い手の『親子』は――
「が……」
「あ……」
肺から漏れるような声を出して、膝から崩れ落ちる。お互いが全ての体力を振り絞ってしまったかのように息も絶え絶えで、滝のような汗を噴き出す。
アルトも力を入れた脇腹を緩め
「嘘でしょ……たった一回で……体力全部が持って……かれた」
荒い呼吸でアルトは《ザ・ゼロ》の燃費の悪さを改めて理解した。
ライは通常時なら一日二発は持つ。今日はアルトが牢屋にいたルクスを引っ張り出そうとして《ヴィンセント》を使用した際に、それを停止させるために既に一回使っている。そしてアルトの《ザ・ゼロ》を防ぐために発動させた。
だが、アルトはたったの一回でまだ余裕もあった体力を全て消費してしまった。自分のワイアードギアスがどれほど燃費がいいか実感した。
アルトは呼吸を整えよう胸に手を置こうとした時、その首が鷲掴みされた。
相手は無論、ライだ。
アルトと同様、その表情には疲労の一色だ。しかし、目に浮かぶ殺意と怒気の気配は理事長室の頃から些かの陰りもない。それらを原動力にして、膝をつき上半身だけを起こした体勢で首を片手で締めあげている。
首に伝わる圧迫の感覚。それが死となるのを防ぐ、いや自分がやられる前にやると気力を以って両手でライの首を締めあげる。最早、幻獣神化する体力もないが、ライの記憶から効果的な首の締め上げ方を実施する。
「ぉぉぉぉ…………」
「ぁぁぁぁ…………」
『父』が『娘』の、『娘』が『父』の命を搾りつくすようなか細い声が漏れる。しかし、二人は止まらない。首に伝わる苦痛を取り除くよりも、相手の落とすことを優先としている。
そして、『親子』が相手を落とす後一歩と思ったその時、
「――いい加減にしなさいッッ!!」
そんな声と共に、ガツンと何かがライの頭に振り下ろされた。
「え」
緩んだ首の締め付けとガクリと崩れ落ちるライに呆然とするアルトは、その人物を見た。
「レリィ……さん……?」
「貴女も――!!」
アルトの頭部に涙目のレリィが手に持った分厚い辞書のような本の一撃が強打する。
その一撃でこれまで張り詰めていた緊張の糸が切れたアルトは、自分でも驚くぐらいあっさりと崩れ落ちた。
自身の意識が小さくなるアルトが最後に思ったことは――
――レリィさん……。泣かせてしまいました……。
『父』が恩人と思っている女性を泣かせてしまったことに、胸にずきりとした痛みを覚えながらアルトは意識を失った。
アルトのスペック現状まとめ
・親譲りの美形
・
・
・
・ワイアードギアス発動可能。現在level1(燃費はいい)。能力は容姿変化。オルフェウスのような周囲の人物の脳に自分を他人と誤認させるものではなく、自分の髪や肌、瞳の色を変化させる程度の能力。MAXはlevel3の予定。
・ライの記憶、技術、経験、感情を持つ(完全なイレギュラー)
・上記の感情や記憶からルクスたち、ライが好きな人たちは皆好き。ただし、一人の例外は除く。アルトの感情から増える可能性あり
・《ザ・ゼロ》を一回だけ使用可能。(完全なイレギュラー)
まだ開示されてないスペックあり。
ライの体力消耗まとめ
1.ギアスの遺跡からアルトを発見。嘔吐からそれまで水しか口にしていない。
2.全裸のアルトに装甲衣を着せようとして、腕を握り潰されかかる。
3.アルトを連れて行こうとするとGXシリーズまでついてきたストレス。
4.そいつらをコンテナに入れて警備隊に見つからないよう半日かけて《クラブ》を使用しての長距離移動。
5.学園長室まで行くもアルトが離れてしまったため、学園中を走り回る
6.アルトの《ヴィンセント》を使用しての牢屋破壊のストレス、及び停止させるための《ザ・ゼロ》の使用。
7.アルトを装甲衣から制服に着替えさせようと反抗させて、ボディブローをくらう。
8.アルトをレリィやリーズシャルテに『妹』呼ばわりされる
9.アルトの名前付けによる覚醒および『声』のトラウマ
10.アルトのトラウマほじくり返し、腹への蹴り、机に叩きつけられる。
11.今回の話の戦闘。結果、気絶
凄いなほとんどアルトが原因じゃないか。
ライ「なんか殺せない。傷つけることには問題ないから、とりあえず5/6殺しで」
アルト「こんなところで死ぬはずがないから、全力で殺しにいきました」
いずれ伝えようとしましたが、ライの《ザ・ゼロ》の覚醒は最弱世界に来るきっかけの事件。コードギアス世界でこの話のラスボスと戦う中、目覚めました。