ナイトメア・オブ・ライ   作:兜割り

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今回の話はかなり雑です。
解りにくかった申し訳ございません。
これが私の限界です。




変化、激闘、そして……

その雨は災厄そのものだった。か細い姿は、機竜の破壊力を見たことがある者なら、一水準兵器になり得ないと感じるかもしれない。

だが、その雨は対象にその身をぶつけ破裂することで、本性をさらけ出すのだ。中から現れるのは、どうやって身体に抑え込んでいたか分からないほどの火、音を超えた衝撃波だ。烈音の打撃はコロシアムの表面を包み抉り、一気に半ば近くまでに爪痕を送る。

 

鉄と岩石で構成されたコロシアムが半壊したのだ。コロシアム表面にいた観客たちがどうなったかは、想像に難くない。そこに、爆炎が襲い掛かった。炎は一瞬だが、熱波は砕かれたコロシアムを焼き上げた。衝撃波によって失われた大気が戻るや否や、持ち上がるように朱の火焔が走って残骸を焼き尽くす。

 

熱気が躍り、大地を舐めるように広がると新たな風が入って熱風へと成長する。熱風は豪風でコロシアムの破砕は風に踊り狂い、人間だったモノを焦がしながら宙へと飛ばした。

そして、再び雨が降ってきた。

足りないとばかりに降り続ける雨は、全て等しく破壊の権化だった。

雨の名は、ミサイル『オールレンジボマー』。

重火力に特化した『悪夢(ナイトメア)』の代表的な装備である。

 

 

 

 

 

――◆◆◆◆◆――

 

 

 

 

 

上には、巨人の瞳を思わせる雄大な満月、磨かれた黒色の大空。下には、人々の営みを表す小さな光、生い茂る森林の緑、広がり続ける大地の茶色。

天と地。その二つに挟まれた空間を冷たく強く、吹き荒れて止まない夜の風が夜に流れている。

風によって生み出される音の種類は多い。呼吸のように吹く音、切り裂くように薙がれる音、ぶつかりあって砕けるような音。それら全てが空気に質量を与えて、重さとなって低く轟く音となる。

 

轟々と飄々と幾重にもとれる風が紡ぎ上げていく響きに、異音が混ざった。

空気の壁を突き破り、風を打ち砕く調べ。射出音だ。

連続して放たれる音と共に、赤黒い光が放たれ続ける。

《オールレンジボマー》だ。

 

止まることがないミサイルは、吸い込まれるようにコロシアムに集中した。

鉱物を打ち砕く耳障りな音が続き、岩石を加工して作られたコロシアムを砕いて、生まれた塵埃が舞い上がった。

その光景をアティスマータ王国の人間が見れば五年前のアーカディア帝国を思い出すだろう。規模は比べものにならないが、この赤に染め上げられた世界は、同種の地獄だった。あれだけ広かったスタジアムの面影はなく、瓦礫と炎としか存在していない。

スタジアムだった物の中央を見れば、ジュリアンの存在は跡形もなくクレーターとなって消えていた。

 

兵器である光の源は、一つ。宙に浮かぶ、箱に似た影である。

《オールレンジボマー》の逆光、降り注がれる月光に照らされる姿は無骨に角ばっていた。身を装甲で作り上げた存在だった。

その大きさの感覚は、対比物のない夜空においては音によって作られる。

強固な装甲にぶつかり弾ける風の音は大きい。そして、空に浮かぶモノの体は壁となった風に幾度となく激突されようとも、揺らぐことはない。

 

要塞を思わせる姿だ。

 

装甲機竜(ドラグライド)の常識を覆すような四肢のない巨大な角ばったフォルムとオレンジを中心としたカラーリング。

 

前方に二つ、後方に三つ装備された円錐型の大型スラッシュハーケン。

 

体の真下に展開したロングレンジリニアキャノン。

 

その中央には紅い鳥が刻まれた仮面を被った者。

悪夢(ナイトメア)』であるが『KMF(ナイトメア)』ではない存在の名は――

 

 

『――サザーランド・ジークゥゥゥゥ!!』

 

 

オールレンジボマーが降り注ぐ瓦礫の山から、爆発するように飛び出してきたのは、《ランスロット・クラブ》。その背には折りたたまれていた赤い翼――フロートユニットが広がっていた。

襲い来る爆弾の雨を両腕に展開した《ブレイズルミナス》、機竜咆哮(ハウリングロア)――幻創機核(フォース・コア)のエネルギーを使用した波動障壁――で防ぎながら強引に空へと飛ぶ。己の身を衝突させるかの勢いで、攻撃を放ち続ける《サザーランド・ジーク》へと突っ込んだ。

 

《クラブ》の一直線の動きに対し、コロシアムを制圧爆撃していた《サザーランド・ジーク》が、《オールレンジボマー》のターゲットを変更し発射、《ロングレンジリニアキャノン》の連射による弾幕を張った。

前方百二十度に広がる破壊の幕は、突撃してくる《クラブ》に集中し相対速度を合わせて高速で激突する。その筈だった。

 

《クラブ》の右腕の先にある空間が歪む。空間から現れた物を躊躇することなく引き抜いた。それは、幻玉鉄鋼で作られた銃身の短いアサルトライフルだった。すかさず構え、引き金を絞ると幾つもの鋭い弾丸が吐き出された。

 

銃撃はミサイルとぶつかり合い、空間で多重に爆ぜて弾けた。連鎖的に爆発は続いて銃撃の弾丸は全て砕けた。ミサイルが爆発したことにより正面の空間が空いた。爆発の華に突撃し、迫りくるリニアキャノンを真横に駆け抜ける。

 

放たれる円錐の《スラッシュハーケン》の迎撃を紙一重で避けると、アサルトライフルの銃身が伸びた。突撃銃という姿から狙撃銃の形へと変形したのだ。

発射。先ほどの連射とは違う一発だけの発射音。しかし、重く大きな音は、強力な破壊力を秘めているものだった。

 

弾丸は不動の《サザーランド・ジーク》へと吸い込まれ、成果を発揮……しなかった。

命中するはずの弾丸は装甲に命中することもなく、突如展開された赤の障壁に止められ、弾かれていった。

 

発生した現象にクラブは戸惑う様子を見せることなく高度を下げ、《サザーランド・ジーク》の巨体に潜り込んだ。可能な限り接近をし、無防備な腹に向けて二発ほど見舞い、上昇。その間に後部と背部へも繰り返し、銃撃するが結果は全て先ほどと同じだった。

 

 

――通用しないか……!

 

 

六発の狙撃全てを防がれたことにライは舌打ちした。

防がれたタネは解っている。

 

《輻射波動障壁》。輻射波動機構と呼ばれるマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステムを防御手段として転用した代物だ。

ライは『あちらの世界』で輻射波動障壁を持つ機体と交戦した経験がある。可変ライフルが放った狙撃弾を防がれたことを覚えていたため驚愕はしたが、呆けることはなかった。

 

それでも『この世界』と『あちらの世界』では、自分と相手との性能が違うため、物は試しにやってみたが――

 

 

――詰んだな。

 

 

《クラブ》の装備は、両手と左右の腰に備えられた《スラッシュハーケン》。背中に付けられたMVS《メーザーバイブレーションソード》が二振り。肘の《ニードルブレイザー》が二つ。そして、今手に握る《可変式アサルトライフル》が一丁。《ブレイズルミナス》は使用できるが攻撃に使用できない。

 

《スラッシュハーケン》の威力、速度は狙撃よりも低いため障壁に容易く弾かれるのは目に見えている。MVS(メーザーバイブレーションソード)と《ニードルブレイザー》の威力ならば、障壁を切り裂き《サザーランド・ジーク》の身へと届くかもしれないが、無尽蔵に発射され続けるミサイルを掻い潜り辿り着くのは無茶な話だ。

 

つまりは《クラブ》が所有する武装で、最も火力のある一撃が簡単に防がれてしまった今、《クラブ》に《サザーランド・ジーク》を倒す手段はなくなってしまったのだ。

 

 

そう、クラブでは(・・・・・)――。

 

 

『駆逐せよ、絢爛を失いし青の騎士。その身は既に邪悪な処刑人、凶器を疼かせ闇に忍び、闇を消し去れ《ランスロット・クラブ・クリーナー》』

 

 

ライの口から紡がれるのは詠唱符(パスコード)。《クラブ》をより高い領域に生まれ変わらせる指令である。

符の一節を聴き取り、《クラブ》の体が唸るような軋みをあげ、ライの体を覆うように胸部装甲が新たに出現した。胸部に浮かび上がるのは、禍々しくも美しい真紅の鳥の紋章。

紋章から流れ出した力が身体中を駆け巡る。溢れ出る力が愛機の体を作り変えていく。純白の装甲を蝕み、漆黒が染め上げられる。一瞬の内に黒が白を食い潰していった。

 

《クラブ》が漆黒と青の騎士へと生まれ変わる中、ライは仮面に後頭部、『装甲衣(アーマー)』の腰からコードを伸ばし機攻殻剣(ソード・デバイス)の柄頭、鍔へと繋げた。その接続にクラブの翡翠の双眸が一瞬だが力強い光を発した。外から見える変化はそれだけだった。だが、ライの内には大きな変容が起きていた。

 

 

――……っ!

 

 

繋げた刹那、ライの視界が大きく広がった。広がる視界は、人間の目では決して見ることができないもの。

クラブには装甲機竜(ドラグナイト)には存在しない顔がある。備わっている両目は飾りではなく、きちんと機能をしている。ライが見ているのは、クラブが見ている世界なのだ。この仮面は、『悪夢(ナイトメア)』の知覚を主と同調させる機能を持っている。

 

身体にも大きな変化があった。

すーっと手足から力が抜け、流れ出していく。そのまま緩みに緩み切った身体が、筋肉が、骨が、神経が溶けていると錯覚させられた。それは心臓の脈動に合わせて、断続的に巻き起こる。

 

溶けた身体は、腰のコードを伝って機攻殻剣(ソード・デバイス)へ流れ出し、クラブの中へと広がっていく。骨がフレームに、筋肉はシリンダーや人工筋肉へと置き換えられ、自分が機械の血肉となる感覚が確かにあった。手足の先に温かな感触が広がっていく。そして、溶けた身体が金属の鎧を纏ったように凝固した。

 

手首を軽く振った。ライの肉体が操縦桿を動かしたのだが、ライからしたら自分の手首を振った感覚だ。神経そのものが《ランスロット・クラブ・クリーナー》に埋め込まれたと言っていい。

 

人機一体。

 

その完成形といっていい存在にライと《ランスロット・クラブ・クリーナー》はなっていた。

 

 

 

 

 

――◆◆◆◆◆――

 

 

 

 

 

敵の変化に《サザーランド・ジーク》は迅速の判断と行動により武装を向ける。

発射される《ロングレンジリニアキャノン》の連射、《オールレンジボマー》の大嵐。

 

だが、《クラブ・クリーナー》へと距離を縮めていた直後、《オールレンジボマー》が全て爆発した。放った数と同じ数の空気が破裂するような音が聞こえたことから、寸分違わずに射撃で全てを撃ち落とされたのだ。

 

《クラブ・クリーナー》との間に生まれた爆炎を切り裂いて、飛び出す物体があった。それは砲撃だった。高熱を宿した球体の一撃が嵐のような弾幕を突き破ってくる。

 

正面から迫りくる砲撃に輻射波動障壁を展開。その威力については、不確定のため出力を最大まで高める。輻射波動障壁と砲撃が衝突する。激しいスパークを起こすが、拮抗する時間は僅か。障壁を突き破り《サザーランド・ジーク》の左部装甲版を撃ち貫く。

 

内部を食い破り、背部まで貫通。左部分を吹き飛ばされながらも、《サザーランド・ジーク》は撃沈せず空中で崩れた体勢を立て直し、相手の姿を再び捕捉する。

 

月を背にして、《クラブ・クリーナー》はその場から一歩も動いていない。だが、左手には新たな姿へと進化していた可変アサルトライフル。右手は銃口から光と余熱を吐き出している機竜息銃(ブレスガン)に似た大型拳銃が握られていた。

 

《可変アサルトライフル》は、全体にフレームが増設され、より頑強さを上げていても面影を残していた。しかし、新たに握られた大型拳銃。その銃口は、拳銃というカテゴリーが持つには、化け物過ぎるぐらいに大口径。付け備えられた装甲により、鉄塊に腕を突っ込んでいるように見える。

 

左側は内部をごっそりと貫通させられたため、《オールレンジボマー》の発射は不可能。残った右側から己の装甲が自壊寸前になることも構わずミサイルとリニアキャノンを発射する。

 

 

『――《ゼルベリオス・ツヴァイ》』

 

 

その声に大型拳銃――《ゼルベリオス・アイン》が変形する。折りたたまれていた装甲が展開し、装甲機竜(ドラグライド)機竜息砲(キャノン)を思わせる姿――《ゼルベリオス・ツヴァイ》へと。

 

引き金が引かれる。

ハドロン・ブラスターと呼ばれる熱線が発射され、飛ぶ。

射線上にあったリニアキャノンを容易く破り、《サザーランド・ジーク》の右部装甲版に直撃したことで、莫大な熱量を持った一撃は右側を原型残らず破壊した。

 

身体の半分以上を消失した《サザーランド・ジーク》。それでもその体は宙へと浮かび、《クラブ・クリーナー》との交戦を望み続ける。

接触すれば瞬時に火の玉になるミサイル群。それを《クラブ・クリーナー》が躊躇うことなく駆け抜けていく。大胆さと繊細さを持ち合わせた機動は一見すれば優雅なものだが、普通なら、高Gで人間が意識を失うのは間違いない、悪くすると機体自体が分解しかねないほど無茶なものだった。

 

ミサイルを全て掻い潜ると両手に握った銃を空間へと仕舞い、新たな武器を引き抜く。手に召喚させたのは黄金の穂先を持った大型ランス――その名は、《ロンゴミニアド》。

《ロンゴミニアド》を両腕で突き出すように構えるとけたたましい、唸るような声を上げた。声が大きくなるにつれ、光の火を噴き出す。

今、《クラブ・クリーナー》は《ロンゴミニアド》という推進器と出力全開のフロートユニットによって、一発の弾丸となっていた。

 

《ロンゴミニアド》の穂先が、《サザーランド・ジーク》の操縦者の腹を穿った。

 

莫大な推力に支えられた弾丸は止まらず、地面へと圧倒する。損壊しながらも、《サザーランド・ジーク》の身体は《クラブ・クリーナー》よりも巨大、フロートユニットの推力も吹かして抵抗するが、それでも落下速度は緩むことはない。巨体が空気の壁を貫き、ソニックブームでズタズタにされる。

《サザーランド・ジーク》の巨体が逃げようと身悶えするが果たせず、

 

 

『――!!』

 

 

悲鳴のような破壊音を上げて地面へと激突した。

 

 

 

 

 

――◆◆◆◆◆――

 

 

 

 

 

そこは荒れた大地であった。

乾いた地面と荒れ荒れとした岩が無造作に存在する中、一つの異変が存在していた。ここ数週間水を浴びてない大地に広大なクレーターが生じていたのだ。

深く、発生した圧力によって、構造体を下へと圧縮したのではない。ただ強烈な勢いで巨大な何かが激突したのだ。

罅割れたクレーターの中央には、巨大な槍で獲物に一撃を与え続けている姿。

 

 

――生きているか。

 

 

ライが《ロンゴミニアド》で刺し貫く中、原型を留めていない姿で《サザーランド・ジーク》は機動し続けていた。

操縦者は腹に風穴を開けられ、要塞のような敵を圧倒させる装甲は砕け散り、巨体の中にあった《サザーランドJ》は四肢が砕け散っている。それでも無傷の胸部装甲に、爛々と輝く紋章の力が起動をさせているのだ。

 

何かが《ロンゴミニアド》に触れた。《サザーランドJ》の腕だ。

手首から先は壊れているため引き抜くことが出来ず、ただ穂先をひっかくのみに終わる。

その光景がライにとっては亡者の抵抗のように見えて仕方がなかった。

 

 

――もういいだろ。眠れ。

 

 

伸ばされたライの手から光が生まれる。

それは、《クラブ・クリーナー》と《サザーランドJ》の胸部装甲に映る紋章と同じ。しかし、その光には文字があった。

 

Deo Optimo Maximo(全知全能の神に捧ぐ)

 

光が胸部装甲に触れると紋章は瞬く間に消え、身悶え続けていた《サザーランドJ》はついに沈黙した。最早動くことのない残骸から機攻殻剣(ソード・デバイス)を引き抜く。その状態を確かめてみるが、ヒビ一つなくまったくの無傷だった。とても上空から墜落したとは思えない程に。

 

 

――いつも思うがこれだけは丈夫だな。

 

 

頑丈さに呆れながらも、機攻殻剣(ソード・デバイス)を操作する。転がる残骸が光の粒子となって分解し、消えていった。

取り残された腹に風穴を空けた仮面の人物は《ゼルベリオス・アイン》の砲撃で消滅させた。仮面も黒の鎧すら残さずに。

 

 

『さて……』

 

 

後始末を終えたことでライは一息つき――

 

 

 

 

 

 

《ゼルベリオス・アイン》の弾丸を背後の空へとぶちかました。

光弾は、空中に浮いた存在が放った一撃で相殺され、轟音と衝撃へとなり、ライを襲った。爆風に煽られながら、ライは《クラブ・クリーナー》の目でその向こうを睨みつけた。視線の先にあるのは純白の影。

 

『こそこそ隠れるな。その白の装甲は、《クラブ・クリーナー》のように隠れるためのものではないと解っているだろう』

 

ライは知っている。純白の影が何ものであるのかを。その実力を、性能を、知り過ぎる程知っている。

 

影の正体は『悪夢(ナイトメア)』だった。

 

全貌は《クラブ・クリーナー》の特徴的な角、片腕に握った青い銃砲――ヴァリアブル・アミュッション・リバルジョン・インパクト・スピリット・ファイアー、通称《V.A.R.I.S. (ヴァリス)》を除けば、生き写しといっていいほどに酷似している。全身を覆う金と白の装甲、フロートユニットで宙に浮く姿は優美で幻想的な雰囲気を表し、ライと《クラブ・クリーナー》を見下ろしている。

 

 

『――五年ぶりだな、《ランスロット》』

 

 

その言葉に《ランスロット》が突如小刻みに震え始めた。震えは次第に大きくなり、身体から悲鳴のような軋みが響く。胸部装甲の紋章も軋みが大きくなるにつれ、輝きを増していく。軋みと輝きが最高潮になった時、《ランスロット》の背部がいきなり砕けた。

 

それは滅びの兆候ではなく、進化の産声だった。

《クラブ》が《クラブ・クリーナー》へと進化したのと同質のものだと、ライは即座に理解したが時既に遅し。《ランスロット》の軋みと輝きは治まった。外見に大きな変化はない。背部の翼に新たな青色の装甲が追加されただけだ。だが、侮るなかれ。かの存在は己が内部の性能を格段に上昇させている。

 

 

エアキャヴァルリー(空の騎士)からコンクエスター(征服者)へと生まれ変わった。

 

 

右手に握り続けていた《ゼルベリオス》の銃口を突きつけたまま、空いた手で背中のMVS(メーザーバイブレーションソード)を引き抜く。だが、ただの抜剣ではなかった。

 

 

『神装――《無色の魔導器(ロスト・カラーズ)》』

 

 

握りに手をかけた際に呟かれた言葉に《クラブ・クリーナー》の紋章が輝く。体から陽炎のように溢れだした光がMVS(メーザーバイブレーションソード)を包む。

 

抜剣されるとMVS(メーザーバイブレーションソード)に込められた『力』と凄まじい速度の剣風とが絡み合い、巨大な衝撃波、いや斬撃波を形成する。

 

斬撃波が空中を駆け抜け、《ランスロット》目掛けて襲い掛かるが防ぐ素振りも避ける素振りもしなかった。ただ、《クラブ・クリーナー》と同じように背のを引き抜いて迎撃。

 

《ランスロット》のMVS(メーザーバイブレーションソード)にはこれまた《クラブ・クリーナー》と同じように光を纏っている。つまり《ランスロット》の神装も《クラブ・クリーナー》と同じ神装《無色の魔導器(ロスト・カラーズ)》を所有する。

 

 

『……!』

 

 

斬撃波と光を纏った《MVS(メーザーバイブレーションソード)》が激突した。

強大な力と力のぶつかり合いは爆発となって、圧力を全方位に広げていく。

降り注がれる圧力が《クラブ・クリーナー》の装甲を叩く中、飛ぶ。漆黒と青の装甲を輝かせながら、裂帛の気合いと共に《ランスロット》めがけて飛翔する。

限りなく近い場所で衝撃を受けながらも、傷一つない姿を現した《ランスロット》もまた宙を蹴り空を舞う。

 

二条の流星は天を駆け巡り交差しまた巡る。

ある時は勇猛に。ある時は厳かに。

剣戟が夜空を叩き、銃撃が夜空を渡る。

同じ名を持つ『悪夢(ナイトメア)』が全霊でぶつかり合う。

それは、戦闘とは思えない美しさを持った二重奏(デュエット)

 

だが、始まりがあれば終わりもある。

《クラブ・クリーナー》に《ランスロット》が破壊された。

双方の間に飛び交じった光条。お互いを必殺できる銃撃は、《ランスロット》からは一本描かれているのに対し、《クラブ・クリーナー》からは二本の銃撃が描かれていた。

 

放たれ合った光条は激突し、残った一撃が《ランスロット》の操縦者の身体を貫き、身悶えさせる。だが強引に、その身を抉られながらも《クラブ・クリーナー》の上へと回り込もうとする。

 

《クラブ・クリーナー》の両手に持った銃口は上に回った《ランスロット》を捉える。

だが、白い騎士は《V.A.R.I.S. (ヴァリス)》を仕舞い、一瞬で《MVS(メーザーバイブレーションソード)》を二刀構える。

銃撃と剣撃が交叉した。

二丁から放たれた銃撃に穿たれながらも、《ランスロット》は強引に下へと、《クラブ・クリーナー》の懐に飛び込む。

激突する。そしてそのまま、双剣を振り上げ、

 

 

『舐めるなぁぁぁぁっっ!!!』

 

 

そこまでだった。

ライの振り絞って出た叫びと共に《クラブ・クリーナー》の腰から放たれた《スラッシュハーケン》がこれまでの激闘で破損していたMVS(メーザーバイブレーションソード)に止めを指した。

 

――勝機!

 

勝利を確信し、《可変アサルトライフル》と《ゼルベリオス・アイン》を構えようとした時。

 

 

『がぁっ……!』

 

 

仮面から苦痛に満ちた声が発せられる。

《ランスロット》の腰から発射された《スラッシュハーケン》。二つの牙がライの腹と《クラブ・クリーナー》の右側を抉っていた。

 

痛みは灼熱となって闇コロシアムから続いていたライの気力を削り取ってしまった。

宙に浮く気力のなくなった者の末路は皆同じ。

ただ墜ちていくのみ。

 

《クラブ・クリーナー》は墜ちていく。ただただ、遥か眼下に見える大地へと墜ちていく。

それを見送るのは、『悪夢(ナイトメア)』――ランスロット。

己を操る操縦者は腹に風穴を空けられ、装甲を銃創や剣で破壊された姿に鮮麗された面影はない。ライと《クラブ・クリーナー》よりも激しい損傷のはずなのに胸部装甲を除けば唯一無傷なフロートユニットで宙に君臨していた。

 

《クラブ・クリーナー》が、ライがもはや上がってこないことを確認すると、

 

 

『――――!!』

 

 

空に叫ぶような軋みを響き渡らせた。軋みは胸部の紋章を輝かせ、光を溢れさせる。溢れた光が、《ランスロット》の傷ついた身に覆いかぶさっていく。光は次第に溶け出し消え去る。己の身体、操縦者の傷すらも完全に癒していた。

 

ライと《クラブ・クリーナー》に興味を亡くしたかのように背を見せ去っていく。後に残るのは日が昇り始めたことで明るくなった空と雲だけ。

 

そして、《クラブ・クリーナー》は、地面へと墜ちていく。

朦朧とした意識の中、ライは吼えた。

 

 

『まだだ……、まだだ……!』

 

 

一息。

 

 

『僕は生きている!生きている限り、負けたわけじゃない!』

 

 

その言葉は自らに言い聞かせるようにも聞こえた。だが、その言葉が起爆剤となり身体を無理矢理にも動かした。

 

 

『必ず、必ずお前たちを倒す!』

 

 

地面への激突まで間もない。その前に、《クラブ・クリーナー》に指示をし姿勢制御。落下の衝撃をフロートユニットの浮力で軽減し、軽減させる。

両脚が地面と接触すると殺しきれなかった負荷で悲鳴を上げるが、堪える。

血が流れ続ける脇腹を抑えて天へと向かってライは――

 

 

『――絶対にな!!』

 

 

誓いともいえる宣言を発した。

 

 

 

 

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