ナイトメア・オブ・ライ   作:兜割り

8 / 38
朱の戦姫

……一年前。

 

深夜を迎え、闇の底のように真っ暗な城塞都市を、ライは彷徨っていた。

 

風景の色に溶け込む闇色の仮面と『装甲衣』を纏う姿は、闇に潜む怪人と人は思うだろう。しかし、その怪人には活力や精力といった内側から溢れる要素が欠けていた。怪我を負っているのか、よろめくような足取りは酔漢に近い。ふらふらと冷たいレンガ造りの壁に手を置きながら、しかし、その足だけは歩みを止めない。

 

闇の中、ライの腰が雲から零れ出た月光を浴びて光る。光の正体は備えられた四振りの剣。二本は、ライの愛刀、愛剣である《月下》と《クラブ》の機攻殻剣(ソード・デバイス)。他の二本は、銅色の鍔を持った中華剣型機攻殻剣(ソード・デバイス)と桃色の鍔を持った西洋剣型の機攻殻剣(ソード・デバイス)。この二つは鞘に包まれておらず、刀身が剥き出しだった。

 

その四つの剣は激しい疲労を見せる主とは反対に自らの意匠を欠けさせておらず、新たに得た二本が今回のライの戦果だった。

 

 

『しんどい、まさか連戦となるなんて……。《鋼髏(ガン・ルゥ)》なんかなんだよ、アレ。弾薬がエデンバイタルから供給されて無限だからって、バカスカ撃って。倒したら突然《ランスロット・フロンティア》が飛び出してくるし、空気を読めよ。全く……ぐぉっ!?』

 

 

闇の中、仮面の横から鮮やかな火花が散った。それと共に、金属が罅割れる音、金属が擦れあうと思える怪音までが立ち昇っている。仮面に内蔵されていたサーモグラフィーが死んだ。人目に付くのを避けるために使用していたが、とうとう限界を迎えたようだ。ならば顔を覆う圧迫感から解放のため脱ごうと思ったが、仮面の暗視ゴーグル機能なしで、この闇をくぐり抜ける自信はないため、着用したままに。

 

 

『ああ、まったく……このポンコツ。いや、ポンコツなのは僕の方か。道具をこれだけの状態にしたのは使い手……僕の責任だ』

 

 

自嘲の笑み、自嘲の言葉は零し、被っている仮面を撫でる。その仕種は愛用の道具を慈しむ情が垣間見えていた。だが、撫でている途中、仮面から罅割れるような音が零れる。

 

 

『流石にあんな激戦を繰り広げると損傷も馬鹿にならないか。修復も厳しそうだし、これは替え時とするしかないか。ストックは工房(アトリエ)に置いてないから、後で遺跡に……まったく、休む間もないとはこの事だな』

 

 

罅割れた仮面を軽く小突きながらぼやく声には、嘆きよりも今この状況を愉しむような諧謔の色が濃い。むしろ端的に言って、その言葉は病んでいた。自傷行為によって自己を散発的に奮い立たせるのとまるで同じ。身を蝕む痛みは他者から与えられたものだが、皮肉にもその痛みこそが少年は現実へと繋ぎとめていた。

 

 

工房(アトリエ)まで後少し。《月下》を使えばすぐに着くけど解除した瞬間、倒れそうだな。ああ……本当にどうしてこうなった』

 

 

どうしてこうなった、その言葉が胸を抉る。

記憶の欠けた自分では、どうして、『この世界』に来たことすら分からない。

よろめきつつも盲目的に前だけを目指す。その足取りは文字通り、亡霊のようなものだった。それでもまだ死ぬわけにはいかないと己に叱咤し、体を動かす。

 

 

『はぁ……』

 

 

もう何度目かもわからないため息を零す。ため息をすると幸福が逃げるというが、マイナスの領域に突っ込んでそうな自分ならば何度もしても文句はいわれないだろう。

空を見上げれば冴え冴えと浮かぶ月が目に入る。人が作り出した眩きに侵されていないその姿は、夜の女王に相応しい美しさと煌めき、優しさがあった。

 

 

――ああ。本当に綺麗だ。

こうも美しいと大地に寝転び、夜が明けるまでずっと眺めていたい誘惑に駆られるが、堪える。頭を振り、襲ってくる睡魔を振り払う。

 

 

『あと少し……あと少し……』

 

 

住み着いている王立士官学園(アカデミー)の『工房(アトリエ)』までは確実に距離を縮めているのだ。言葉を絞り、意識を繋げさせ歩くこと、二十分。ようやく王立士官学園(アカデミー)正門までたどり着いた。

 

普段は生徒たちの騒がしいと思える明るさに包まれ学園のイメージを主張しているが、深夜に映し出される姿は城か要塞と思わせる。深夜過ぎのため、明かりをつけている場はない。一つの例外を除いて。明るさのない王立士官学園(アカデミー)に一つだけ明かりをつけている建物があった。

学園敷地内にある、大きめの一戸建て。ライが拠点としている『工房(アトリエ)』である。

 

明かりのついていることに首を傾げる。『悪夢(ナイトメア)』討伐に出撃する前に戸締りの確認はしたし、鍵は学園長のレリィに預けていた。となると――

 

 

『……盗人か』

 

 

工房(アトリエ)』には装甲機竜のパーツなど多くの貴重品が置かれている。過去にそれを狙った盗人が何人も忍び込もうとしたこともあったのを思い出す。

ライは身体に鞭を入れ、『工房(アトリエ)』まで走る。入り口まで近寄り、耳を立てて内部の状況を確認。物を探る音や話し声、足音すらも聞こえない。

 

扉のドアノブを見てみると壊されていない。軽く回してみると鍵はかかっていなかった。試しに、内側に向かって石を投げてみる。入り口近くの鉄板に当たり、軽い音を響かせるが、反応もない。恐る恐る入り口を確認すると荒らされた形跡は特に感じさせなかった。

 

どういうことだ、と頭に疑問符を浮かべながら、足を踏み入れると――

 

 

 

いた。

何かいる。

持ち込んだソファの上にある毛布。軽い山を作っていて、下に何かがいる。

 

「……」

 

《月下》の機攻殻剣(ソード・デバイス)を鞘に収めたまま、腰から音もなく静かに抜く。山の正体次第では容赦なく打ち込むつもりで。そっと、細心の注意を持って軽く毛布をめくった。

 

 

『……は?』

 

 

不審者が寝ている、そう思っていたのだ。しかし、目の前の現実はライの想像したものを軽く超えていた。まさか、背を自分に向けた王立士官学園(アカデミー)の制服を着た少女が転がっているとは!

そんな現実にライは機攻殻剣(ソード・デバイス)を構えたまま固まった。仮面の下でまじまじと少女を見ると、僅かに上下する体、規則正しいリズムで吐かれる呼吸の音からは寝ていることを教えてくれる。

 

 

『…………』

 

 

ライは目を閉じて、深呼吸。何気ない手つきで毛布をもとに戻す。

 

 

『いかん、仮面の故障がここまで深刻だとは……』

 

 

仮面を軽く叩いて状態を確認。

 

 

『まさか、体力の消耗から現実への認識能力が下がって幻覚を見始めたのか……?』

 

 

幻覚の中には人間の隠された欲求を元に構成されたものがあると聞く。ならば、自分が心の奥底で求めているのは、金髪の少女だということか。それも、学園の制服を着たというオプション付きで。そこまで女に飢えていたのか。自分がこの学園の生徒たちに欲情していたのかという可能性にライは死にたくなった。

 

 

『どうかめくった先に彼女がいませんように……』

 

 

祈りを込めて、1、2、3と掛け声一つ。再び毛布をめくると、今度は寝返りを打ち、ライに顔を向けた姿勢の彼女がいた。金髪を有した彼女の瞳は伏せられ、表情から余分な力は感じさせない。固まるライを無視して眠り続けている。

 

 

『……どうすればいい』

 

 

泥棒なら話は速かった。侵入者として叩きのめし、衛兵に突き出す簡単な対応で解決できた。しかし、目の前にいるのは制服を着た少女。どう対応すれば良いのか。

 

 

「ぅ……んん……」

 

 

少女は、明かりがまぶしいらしく、目元を軽く歪ませながら小さな声を漏らす。ライが今ぶつかっている現状など知ったことかの態度に、ため息を吐いて毛布をかけようとする。しかし、彼女が抱きしめている物に気付き表情を一瞬で厳に変えた。

 

彼女が抱きしめているもの、赤い鞘に収められた機攻殻剣(ソード・デバイス)。汎用機竜の機攻殻剣(ソード・デバイス)が持つ白の鞘ではなく朱。

 

 

『神装機竜……だと?』

 

 

今のところ王立士官学園(アカデミー)に在籍する生徒で一人しか所有していない神装機竜をなぜ持っている?

 

 

『待て……こんな子、見たことないぞ』

 

 

不本意ながらも生徒たちと装甲機竜(ドラグナイト)を用いた指導をしているため、生徒の顔は全員覚えている。寝ている彼女の顔は見たことがない。ということは制服を盗んだ侵入者かと警戒し、機攻殻剣(ソード・デバイス)を構えるが、その警戒はすぐに打ち消された。

 

制服に備えられたネクタイの色が赤なのだ。その色をかけていた三年生は、『悪夢(ナイトメア)』討伐に出かける前に卒業している。

つまり彼女は――

 

 

『新入生か……』

 

 

もうそんな時期になったのかと今更ながら気付くと衣擦れがした。

無言のままに音の元に向くと、そこには体を起こしつつある彼女がいた。

一部を黒のリボンでくくった金髪を身体にまとわりつかせながらゆっくりと眠そうに起きる。ただただ薄ぼんやりとした表情ながらも、機攻殻剣(ソード・デバイス)は片手にしっかりと握っている。

 

 

「……ん」

 

 

僅かな吐息を漏らし、表情に意思がゆっくりと宿っていく。顔が動き、赤い瞳を有した目が、まだ眠そうにライを見た。彼女の視線が仮面の下の視線と合った時、小柄な大きく震え、硬直した。

 

 

――しまった……!

ライは自分が置いている状況を改めて確認し、己を罵った。

左手には彼女にかかっていた毛布。

右手には構えられた《月下》の機攻殻剣(ソード・デバイス)

姿は闇色の仮面と、『装甲衣』。それも二つともダメージバージョン。

彼女から見て、第三者から見ても、眠っていた少女に襲い掛かろうとする怪人にしか、見えない!

 

 

(どうする……!どう言い訳する!彼女を怯えさせずにする方法は!ご教授を母上!!)

 

 

悪夢(ナイトメア)』の戦闘で疲れ果てた身体とイレギュラー過ぎる状況は、心身共に極限まで追い詰めていき、暴走する動力機関のようになった頭は文武の師である、最愛の母に思わず問い掛けてしまう暴挙にでた。

 

危機的状況を感知したことで、脳内麻薬が溢れはじめる。それによってライは時間の流れを限りなくスローに感じた中、記憶で形成された母を脳裏に描いた。

 

武の顔を持った母から返ってきたのは、鉄拳だった。

――自分で模索せよと!?そんな殺生な!!

 

文の顔を持った母から返ってきたのは、言葉だった。『話せば解る』と。

――いや、こちらのフェイズで解決するものを!相手フェイズに回ればこちらはゲームオーバーなんです!!

 

最後、親の顔を持った母から返ってきたのは、仕草だった。口元に笑みを浮かべて、握り拳に親指を立てていた。

――い、いったいどうしろと!?死ねと!死ねというのですか!?

 

思えば、妹を泣かした際に死刑宣告を言うような女性だった。頼ること自体間違いだろう。

 

縋れるものもなくなった今、頼れるのは己のみ。

自分の正体を説明するには、彼女の警戒心を解かなくてはならない。そのためには、事実を含めることが有効だと学んでいる。

警戒心を解く言葉と事実。警戒心を解く言葉と事実!警戒心を解く言葉と事実!!

 

 

『警戒しなくていい。――子供に手を出す趣味はない』

 

 

悩みに悩んだ末、零れてしまった言葉にライは目を閉じた。

――ああ、死んだな。

ライのターンは終わり、少女のターンへ。

怯えを帯びた悲鳴と共に振り抜かれた機攻殻剣(ソード・デバイス)が損傷した『装甲衣』へ吸い込まれ、肉体へダイレクトアタック。

ライは膝から崩れ落ちた。

 

 

――これがリーズシャルテ・アティスマータとライの出会いである。

 

 

 

 

 

 

 

――あの時は大変だったなぁ……。

黒煙が完全に晴れ切った工房(アトリエ)で、ライは被っている仮面を取り外した。取り掛かるのはザックから取り出した『装甲衣』の点検。リーズシャルテに見えないように行いながら、当時の出来事に感慨を耽っていた。

 

工房(アトリエ)で仮面と『装甲衣』の点検を行えば、当時のことを思い出させてくれる。

リーズシャルテの悲鳴は工房(アトリエ)から離れた学生寮まで響き、当時の『騎士団(シヴァレス)』をベットの上から跳ね上がらせた。目覚めた『騎士団(シヴァレス)』の三年生が寝間着姿のまま機攻殻剣(ソード・デバイス)を帯剣し工房(アトリエ)へと飛び込む。すると、繰り広げられていたのは、涙目のリーズシャルテが叫びながら機攻殻剣(ソード・デバイス)を地面へと崩れ落ちている黒い怪人に何度も振り下ろしている奇妙な光景だった。

 

ライの事情を知っていた一部の三年生は、しばしの硬直の後、我に返り急いでリーズシャルテの行為を止めた。それでも三発ほどライへと打ち込まれ、それが止めとなったのか仮面と『装甲衣』は完全に機能停止してしまった。

 

四年間共に『悪夢(ナイトメア)』や幻神獣(アビス)装甲機竜(ドラグナイト)の戦闘を繰り広げた仮面と『装甲衣』が、まさか少女によって止めを指される結果に終わったのは、当時としては軽いショックを受けた。

 

ライが目覚めたのは、翌朝のことでリーズシャルテに関してはレリィや三年生が誤解を解いてくれたことで一先ず騒動の終わりを見せた。

最悪の出会いであったため、リーズシャルテの敵意は凄まじいものであったが、王立士官学園(アカデミー)の機竜整備士であること、機竜に関して豊富な知識を持っていることを知って、敵意を和らげてくれた。

 

仮面のことなどは、いずれ『騎士団(シヴァレス)』に入隊すること、王女であることから、隠さずに教えた。彼女に秘められた技術者の才能を見込、『悪夢(ナイトメア)』についても触り程度に説明した。……異世界関連は抜いて。

 

 

 

そんな感じでこの一年間、友好を結んでいったのだ。

 

 

点検を終了し、腕を軽く回して凝った肩をほぐす。

仮面に問題はなし。問題は『装甲衣』の脇腹――《ランスロット》のスラッシュハーケンで抉られた箇所は大きく、身を護る物としては無理そうだった。《蒼月》と《クラブ・クリーナ》の反動は凄まじい。小さな穴でも、そこが原因で肉体を壊してしまうかもしれない。

 

――新品にするしかないか。

ライの刷り込まれた知識には、機竜整備はあるが、仮面や『装甲衣』の修理に関するものはなかった。備えられている機能については知っていたが、修理は出来ない。この五年で軽いメンテナンスは出来るようになったが、本格的な修理は無理。工房(アトリエ)に備えていた予備は切れているため、『装甲衣』が作成された場所で補充しなければならない。

 

――ついでに『彼ら』も置いてくるか。

腰に備えた抜き身の機攻殻剣(ソード・デバイス)――《サザーランド・ジーク》のものに軽く手をやる。背後へ振り向くと、肩部に穴を空け、装甲に焼かれた痕を残した機竜をバラバラにしているリーズシャルテがいた。

 

リーズシャルテの機竜関係技術について天才、いや鬼才だ。ライが教授した技術を乾いたスポンジが水を吸収するが如く、身に付けていった。一を一として学ぶのではなく、一を十へ、十を二十へと伸ばしていく閃きは恐怖を覚えたほど。

 

ライは五年間、『悪夢(ナイトメア)』の討伐と共に、刷り込まれた機竜の知識を研鑽していた。その五年の研鑽をリーズシャルテは一年で辿り着いた。いや、すでに超えている。

 

ライも機竜の改造は行う。しかし、機竜の知識は自分で得たものではなく、刷り込まれたもの。それも、アイディアは殆どが『あちらの世界』の模倣。リーズシャルテは一から学び、ライ自身も想像もつかなかった二種類の機竜の融合、機攻殻剣(ソード・デバイス)の二刀流を成功させた。

どちらが優れているなど比べるのも馬鹿らしい。

 

 

「リーズシャルテ。そっちはどうだ?」

「ちょっと待て……あー、ダメだな。完全に焼け焦げて、使い物にならなさそうだ」

「そうか。なら修理じゃなくて、使える部品を取り出して廃棄コースだな」

「う……すまない。折角くれた《ワイアーム》を……」

「気にするな。元々、戦場でバラバラになった機竜を繋ぎ合わせたゾンビ機竜だ。《ワイアーム》にしても十機残っているし問題はない」

 

 

会話を続けながら、慣れた動きでバラバラのパーツを使えるか使えないかに分け始める。ただでさえ高価な機竜が『とある事情』により価値が高騰している今、使用できるパーツを組み合わせるなどのやり繰りをしなければならない。

慣れた手つきでリーズシャルテが分別作業をし続ける中、ライが口を開いた。

 

 

「この二週間、留守にしていたが問題は特になかったか?」

「ない。セリスティアも居たし、賊や軍の嫌がらせもなかったよ」

「そうか……まぁ、嫌がらせに関しては当分ないだろう。前回ので懲りただろうし」

「……ずっと気になっていたんだが、あのボンボン軍人の馬車に嫌がらせをした犯人は誰だったんだ?」

「私……なんだ?」

 

 

口を開く際、リーズシャルテが不満をにじませた視線をぶつけていた。なぜそんな顔をと考えると原因に気付き、軽くため息を吐いた。

 

 

「別にいいだろ?私と君は機竜整備士と生徒なんだ。公私の境界をはっきりさせるために……」

「…………」

 

 

不満の色をより濃くしたリーズシャルテの眼力がぶつかってくる。

やれやれといった感じで再び、ライはため息を吐いた。

 

 

()じゃない。あれは機竜使い(ドラグナイト)不足から候補生の段階で唾をつけようとしたことにキレた前団長の仕業だ。生徒たちを配下にしようと脅迫まがいのことまで行っていたからな」

 

 

ライが改めたことにリーズシャルテが満足そうに頷いた。

 

 

「そうかそうか。あれは前団長の仕業だったのか。ならば、奴らが懐に溜め込んでた不祥事の暴露は誰がやったのかは言及しないでおこう」

「それがいい。解っていることはいちいち言わない方が得だぞ」

「前団長かぁ……。部隊全員で学園祭に来るんだろうなぁ……」

「遠い目をするな、リーズシャルテ。彼女たちも今は軍人だ。在学時代のように騒いだりはしないだろう。セリスティアをストレスで暴走させ、屋上で騒いでいる所を蹴り落されるような事件は起こさないよ、きっと」

「ああ、普通の軍人だったら私も安心できたさ。――『狂犬(ラビドリードック)』なんて無法地帯もいいような独立部隊で活躍していなければなぁ……」

 

 

どこか疲れた表情で呟くリーズシャルテにライは苦笑した。

 

――『狂犬(ラビドリードック)』。

王立士官学園(アカデミー)の『騎士団(シヴァレス)』であった二期卒業生で構成された特殊部隊である。

有力貴族の娘であり、実力を軍の上層部に知らしめていた『騎士団(シヴァレス)』団長を隊長としている。メンバーの殆どが未成年だが上級階級(ハイクラス)以上の実力者、戦力は一期卒業生で構成された王都親衛隊と同等で、他国にも名を轟かせている。

 

そう言えば聞こえはいいだろうが『狂犬(ラビドリードック)』の名前の通り、部隊員の本性はかなり凶暴。攻撃は最大の防御の言葉を人間にしたような連中が集められた部隊は、不祥事を起こして居場所を失った軍人の流刑地扱いになっているほどだ。

 

 

「規則やルールは守ってくれるんだ。無法地帯は言い過ぎだろ」

「いや、その規則とルールで自分たちがどうやって上手く暴れられるかに頭が働くのがタチが悪い。軍の上層部も一つの部隊に纏めたのは英断だと思うぞ」

「軍に配属してすぐに独立部隊を任せられ、活躍する。聞こえはいいが、自分たちの手に負えないから一つに纏めてしまおうって上の魂胆が見え見えだよな」

「王都親衛隊の第一期卒業生と比べてみろ。本当に同じ学園と教師に学んだのかと疑うほど雰囲気に差があるぞ」

「一期の子たちは貴族子女が中心だったんだ。だが、広がっていた男尊女卑の風潮のせいで貴族女子そのものが少なかった。そこで試しに、平民も混ぜてみたのが二期生だ。雰囲気が違うのは当然だろう」

「親衛隊の先輩に聞いたぞ。彼女たちが突き抜け始めたのは、貴様の指導を受けた半ばと。いったいどんな教え方をしたんだ?」

「いや……なんと言うか。やっぱり、平民の子が多かったからかな。攻撃力過多のパワフルな戦法をする子が多くて。そこを伸ばしていったら、あんな感じに」

「なんだそれは、貴様の教えは人格矯正が無自覚に入っているのか……?」

 

 

そんな長話もパーツの分別が終わったことで終了。使用可能な物は三割ほど、残りはスクラップとなった。

 

 

 

 

 

パーツを片付け、改めて対面する二人。

最初に口を開いたのは、ライだ。

 

 

「また爆発を起こして……これで何度目だと思っている。学園長に頼んで『工房(アトリエ)』に入ることを禁止するぞ」

「なっ……ちょっと待て!?そんな横暴通るか!私はより知識を深めていただけ……爆発を起こす以外は誰にも迷惑をかけていない!」

「その爆発が一番の問題だということを理解しろ。何も知らない新入生がここに近づいて吹き飛ばされたことを忘れたか?」

「あれはすまなかったと思っている!」

「そもそも知識を深めるだと?ドリルに推進機をつけることのどこに深める要素がある。そのドリルで君は墓穴しか掘っていないぞ!」

「うまいこと言ったつもりか!私はやめんぞ!推進器付きドリル、名付けてブーストドリルを開発するために!上手くいけば、ブーストドリルを背中に装着して飛んだり、拳に装着しドリルブーストナックルを、いや、頭につけるのもありか……」

「と、止まれ!吼え猛る巨人でも作るつもりか君は――!?」

「いずれ《クラブ・クリーナー》のルミナスコーンとドリル対決を申し込むぞ!」

「いやしないから!」

 

 

――これは仮面だけでは済まないかもな。

彼女の情熱を甘く見ていた。機竜に触れるのを禁止すれば、溜めに溜めた情熱が暴走して何をしでかすか分からない。

 

床に転がる仮面を見る。ライが愛用している仮面より幾分か小型。性能は同調機能がオミットされた以外は変わらない代物。ライの目覚めた遺跡で偶然発見したものだ。機竜関係になると思考がアクセル気味になる彼女のために渡した。お蔭で今回のように黒煙に包まれた状況でも安全だ。

 

かつては屋根を吹き飛ばす経験があり、過去が枷となって自重するようになったが、心なしか爆発の規模が日に日に増しているような気がする。時が過ぎて枷が緩くなったやもしれん。

そんな彼女に言うべきことは――

 

 

「わかった……」

「いいのか!よし!私の作り上げたドリルが勝つからな!」

「いや、違う!『工房(アトリエ)』禁止は下げよう。だが、一つ約束しろ」

「…………」

 

 

ライのただならぬ雰囲気にリーズシャルテが黙る。

 

 

「――無茶をするな。君が無茶をして傷つけば、悲しむ人がいることを忘れるな……いいな」

 

 

その言葉にリーズシャルテは強く頷いた。

ライのターンは、終わりリーズシャルテのターンに移る。

 

 

「さて、それじゃ言いたいことを言わせろ。――この二週間どこに行っていた!三日ほどと聞いていたのに、帰ってこなくて皆心配してたんだぞ!」

 

 

怒りと心配と安堵の感情を混ぜた目でリーズシャルテが詰め寄ってくるのをライは人差し指で止める。腕一本分の距離でリーズシャルテと目を合わせる。目の感情は、未だに収まっていない。そんな目で見られることに心苦しく思いながら。

 

 

 

「書置きは残した。問題はないだろう?」

「問題?ほぉ~問題か。……こんな書置きで安心できると思ったら大間違いだ!」

 

 

制服の上に羽織ったガウンのポケットから一枚の用紙を取り出す。

そこには――

 

 

『『悪夢(ナイトメア)』の討伐成功。途中、他の『悪夢(ナイトメア)』の目撃情報を入手したため行ってくる。倒した『悪夢(ナイトメア)』の機攻殻剣(ソード・デバイス)は置いていくので、管理をよろしく頼む。――ライ』

 

 

と書かれている。ライの残した書置きだ。

 

 

「あ、そうだ。置いていった機攻殻剣(ソード・デバイス)はどこに?」

「学園長が保管してるよ。秘密の場所に隠しているらしい。それよりもこれ!これでいいと思っているのか!」

「必要なことは書いている。問題はないじゃないか?」

「~~~っっ!」

 

 

変わらぬ姿勢の言葉に、リーズシャルテが両手で頭を抱え天を仰ぎ、唸る。胸の内に湧き上がった感情に落としどころがついたのだろうか、深々とため息を吐いた。

 

 

「まぁいい、この一年で貴様の人柄も大体解っている。今回も無事に帰ってきたんだ。それで許してやる。けどいいか――」

 

 

今度はリーズシャルテがライを指で指した。

 

 

「ライ。貴様は皆に心配をかけないように努力していることは解る。大抵の者たち……付き合いの長い学園の生徒でも上手くいくだろう。お前は優しい嘘つきだからな」

 

 

続く。

 

 

「だが、貴様の嘘はライという人物をよく知る人の心配を煽るものだということを理解してくれ。『悪夢(ナイトメア)』との戦闘。それが簡単にすむことじゃないことを知っている者からすれば、努力は空元気にしか見えない」

 

 

続く。

 

 

「だから言わせろ。――無茶はするな。貴様が無茶をして傷つけば、悲しむ人がいることを忘れるな……いいな」

 

 

紡がれた意趣返しの言葉にライは小さく震え、苦笑。

先ほどのリーズシャルテと同じく力強く頷く。

頷きを見た少女は、愛らしい表情に合う明るい笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 




狂犬部隊は国民に優しく、身内(軍人、候補生)に厳しく、敵にはもっと厳しくをモットーにした『リドールナイツ』(絶対服従なし)、『レッドショルダー』(共食いなし)、『ベーオウルブズ』(アインストなし)。

配備されている機竜はライの改造で攻撃力は馬鹿高く、幻神獣相手に活躍しています。
悩みは女所帯であるため、出会いがないこと。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。