ウラギリモノの英雄譚   作:ぬくぬく2

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タビダチ――九重里里ノ決断

 要(カナメ)の家の最寄駅まで、要をグイグイと引っ張ってきた莉子(リコ)だったが、

「準備があるから先に行っとって」

 突然、矢の如く消えていった。

 

「ていうか、何であの人は僕の家を知ってるんだよ……」

 門を潜る。

 玄関のドアを開けようとしたところで、鍵が開いていることに気がついた。

「あれ? 閉め忘れたのかな……?」

 要は、何気なく玄関の引き戸を開いた。

 カラカラカラ、と子気味の良い滑車音(かっしゃおん)と共に扉が開き。

 

「兄さぁぁぁん!」

 家の中から、目の色を変えた里里(サトリ)が飛び出してきた。

 鍵が開いていると思ったら、里里が家に来ていたのか。

 

 グワシッ!

 思いっきり肩を掴んだ里里(サトリ)が、要の顔を覗き込む。

 

「聞いたよ。昨日、怪人に襲われたんだって? 怪我しなかった?」

「は、はい……。あの、ちょっと肩が痛いです……」

「夜に一人歩きなんてしたら危ないじゃん。バカ。今度からは夜に一人歩きなんかしちゃダメだよ。どうしても出なきゃいけない時は、私が付き添うからね」

「それじゃあ、僕が里里さんを送った意味が……痛い! 肩が脱臼(だっきゅう)しそう!」

 

 そして里里は要の体をパンパンと触り、外傷がないことを確かめるとハァとため息を吐いた。

「怪我がなかったなら何よりだけど……本当に気をつけるんだよ」

「心配してわざわざ見に来てくれたんですか?」

「畜生……わたしの家族に手を出すなんて許せねぇ……。許さねぇ……」

「話を聞いて下さい」

 里里の目は逝っていた。

 

「兄さん!」

「は、はい!」

 この場における兄さんとは、兄弟子の意味だ。

「突然で申し訳ないのですが、一身上の都合により、九重 里里(コノエ サトリ)はこの道場を卒業したいと思います」

「え……っ」

 突然の申し出に、要が目を丸くする。

 今まで要が何度勧めてもこの道場から去ろうとしなかった彼女が、いったいどういう風の吹き回しだろう。

 

「そんな顔しないでよ。別に要兄さんと縁を切るって言いに来たワケじゃないんだから。ここを辞めた後も、遊びには来てもいいよね?」

「ええ、それは構いませんが、急だったもので少しびっくりしました。いったいどういう風の吹き回しですか?」

「はは……大したことじゃないんだけどさ。ちょっとヒーローになろうと思って」

 ヒーローになる。

 それはつまり、既にヒーロー認定試験に合格している彼女が、プロヒーローとしての活動をするという意味だった。

 しかし、里里はプロヒーローになることにそれほど積極的ではなかったはずだ。いったいどうしたのだろうか? 要が問う。

 

「本当は大学を卒業する頃に考えればいいやと思ってたんだけど……、ちょっとぶっ飛ばしたい怪人が現れちゃったからね。……わたしの家族に手を出したら、どういう目に合うか……教えてやるんだ……」

 里里の目がギラリと光った気がした。 

「だから、要兄さんを襲った仮面の怪人。あれを討伐(とうばつ)するための編隊(へんたい)に入れてもらうことにしたんだ。しばらくは私も銃の腕を磨かなきゃになるから、道場はしばらくお休みしようと思ってね」

「それは……」

 要に気を使ってのことなのだろうか。

 少しだけ、言葉を選ぶ。

「里里さんの意思ですか?」

「うん。自分のため」

 里里は即答した。

「別にヒーローになるかならないかは置いといても、私の家族に手を出されたのは我慢ならない……。だから、私は私の敵をぶん殴りに行くんだ」

 それだけ言うと里里は玄関で靴を履き、要の家から一歩外に出た。

「じゃあ、兄さん行ってくるね」

 振り返らずに手を振られる。

「分かりました。気をつけて」

 

 その背中に、「いってらっしゃい」と声をかけると、里里は歩き出し、去って行った。

 

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