話し合いが終わり、三日ほどたった頃。あれから何の進展もなく途方にくれていたが、ヘスティアが気晴らしに、新しい着物でも見てくるといい、と言うので素直に従い店へ行く。店につけば、あのときの女性店員がいた。
「いらっしゃい、また来てくれたのね。」
「ああ、着物にもなれたし、新しいものも見てみたいと思ってな。そう言えば今更ながら気がするが、店の名前はなんと言う?」
「そんなものないわ。強いて言うなら万屋ね。」
「割りと適当なんだな。」
という他愛のない会話をしていると、女性店員から
「そういえば、神聖文字のことはわかった?」
と、声をかけられる。別にひけらかすことではないが、きっかけをくれたのはこの女性なのだから、答えるのが筋だろう。
「ああ、それに関しては少しの進展とともに手詰まりさ。」
「へぇ、進展とは?」
「んー、説明が難しいのだが…。どうやら俺の体にはもうひとつ魂がある可能性があってな、そうだとしたら間違いなくそいつの仕業なんだけど、如何せんそこからどうすればいいかわからん。」
「あら、それならうちの泉を使えばいいじゃない。」
ここいらは説明を端折る風習でもあるのか。
「どういうことだ?」
「ここの泉は魂に干渉し、魂をみて武器を選ぶの。泉に入れば自分の闇の部分とかと対話できるのよ。天目一箇神のファミリアは皆それを乗り越えて、ここで働いているの。うちの主神の方針よ。だからその泉に入ればもうひとつの魂と対話出来るかもね。」
「なるほどな。」
最初からそういってくれ、と言いそうになるのを堪えて頷く。
「それじゃあ借りてもいいか?」
「どうぞ、その代わり気を付けてね。2つも魂を持った人が入るのは初めてだから、なにが起きるか私でもわからないわ。」
「ああ、わかったよ。」
「服は濡れたらうちで買っていけばいいわ。」
ちゃっかりしてるな、と苦笑いを浮かべながら泉に入る。
すると、目眩がする。倒れそうになるのを堪えて、頭をふる。顔を上げれば、そこは真っ白な空間。足元には水が張られているのがわかるが、如何せん見ることは出来ない。歩くたびにパチャパチャと、小気味いい音をたてる。すると人影が現れる。自らが命を奪ったあいつの姿。格好はラグナロクの時のままだ。
「よう、じいさん。久しぶりだな。」
「…。」
「おい、返事してくれてもいいだろ?」
すると突然振り向き槍で襲いかかる。寸でのところで避け、距離を開けるがすぐに詰められ、凄まじい槍捌きで襲われる。大口真神を抜き、刀と鞘で猛襲をなんとか防ぎきり、思いきり蹴飛ばして再び距離を開ける。
「てめぇ…。」
「これが返事だ。」
「クソじじいが。」
思わず悪態をつく。それにしたって何故自分は獣人のままなのだろうか。という疑問を浮かべるがすぐに切り替える。オーディンが再び襲ってきたのだ。
「じじい!話くらい聞けっての!」
槍を防ぎながら叫ぶ。
「貴様と話すことはない、さっさと死ね。」
「てめぇ!この頑固じじいが!そもそも俺の体だろ!出てけ、バカ野郎!」
その間も攻撃は止まず、苛烈をきわめた。
「そもそも貴様が産まれたことが間違いだったのだ。邪悪な存在、この世に不幸をもたらす害悪なのだ。」
「なんだと?」
戦いながらも会話は続く。
「だったら何ですぐ殺さなかった!」
「それはな…
アースガルズの地が、穢れるからだ。」
「んだとぉ…。」
頭に血が昇る。
「そもそも!俺がてめえに何したんだ!いきなり目の敵にしやがって!」
「言っただろう、産まれてきたのが間違いだったと。」
互角に見えた攻防に綻びが生まれ、フェンリルの左肩を槍が切り裂く。
「ぐっ!」
「貴様ら兄妹は災いそのものだ。この世界にもいずれも災いを呼ぶだろう。」
「だからここで死ね。」