まずは剣を断ち切る。つもりだったのだが、予想に反して防がれてしまった。甲高い金属音をたてて、傷一つない大剣を見る。
「なんだそれ?確実に切ったと思ったんだけどなぁ。その剣、普通じゃねぇ。」
刀を肩に担ぎながら問いかける。
すると目の前の大男は冷や汗を滴ながら応える。
「その通りだ。だが答えてやる訳にはいかん。」
「つれないこと言うなよ。こっちは別に殺すつもりは無いんだぜ?」
どうだか、と猪人は内心こぼす。先程の攻防、たった一度剣を交えただけで手が痺れる。これ以上受けるのはまずい。
「まぁ、答えられないなら―――」
右目が赤く染まる。
「―――あの塔にいる者に聞くしかあるまい。」
まずい!と、剣を狼人に向けて振るうつもりが、手から剣がこぼれ落ちる。狼人は刀を持っていない左手で、猪人の鳩尾を突く。肺の空気をほとんど吐き出し、軽く吹き飛ばされる猪人。それと同時に異常な空気は霧散する。どうやら道は元に戻ったようだ。
『殺さぬのか?』
自分の中の老神が訪ねてくる。
『殺さないよ、今のところは。』
『ほう?いつかは殺すのか?』
その問いに、ふぅっと息を吹き出してから答える。
『ヘスティアや、他の大事な人たちに危害を加えるなら、容赦なくな。』
応えながら歩き出す。刀を手に入れたファミリアに向けて。
『とりあえず、リリルカのこともあるし、用事済ませて、帰って飯食って寝ますかね。』
刀を鞘にしまいながら、明日のことを憂いながら。
猪人と戦闘があった翌日、ダンジョン前にて小人を発見、捕獲する。
「よ、リリルカ・アーデ。」
昨日のやり取りなど無かったように、能天気に声をかける。
「フ、フェンリル様!?どうして!?」
驚いた小人は逃げようとするが、簡単に捕まってしまう。
「匂いだよ。それより、酷いじゃないか、昨日約束したのに逃げようとするなんて。」
「す、すみません…。」
諦めたのか、項垂れて謝る小人に、黒い狼人は気にせずに言う。
「いいよ。それじゃ、今日もサポートよろしく。」
本当に何を考えているんだ、と狼人の顔を見る小人。
その目はとても黒く、何も映してなどいなかった。
ダンジョンに潜ると、いきなり大口真神をリリルカに渡す。
「こ、こんな大事なもの預けていいんですか?」
恐る恐る訪ねる小人。
「今日は新しい武器を試したくてね。」
そういって取り出したのは、鉄扇。
扇を開くと、大きく「咎」と書かれているが、小人には読むことが出来ない。
「そういうわけで、頼んだよ。リリルカ・アーデ。」
黒い瞳は何も映さず、ただ敵を見ていた。