フェンリルとリリルカは10階層まで来ていた。
白い霧が視界を邪魔する。全くではないが、見えにくい。
「ふむ、危ないからな、離れるなよ。」
「…はい。」
元気のない返事をするリリルカ。きっとオーディンの言う通りなのだろう。
すると、前方から低い呻き声と、大きな影が見える。
少しずつ姿を表したのは、大型モンスターのオークであった。
「でかいな。」
「逃げないでくださいね、フェンリル様。」
「まさか。」
オークがアクションを起こす前に、開いた鉄扇に魔力を流す。勢いよく振ると、数多の黒い魔力が、40センチほどの、鋭利な刃のような形をとり、オークを襲う。
「足りんか。」
鉄扇を閉じ、今度は一本の、大きな刃を作る。振りかぶると同時にオークの頭へ飛来し、命を絶つ。
「フェンリル様!もう一匹来ました!」
絶命したオークをよそに、リリルカの言葉に振り返る。すると、通路の反対側からオークがやってくる。
閉じた鉄扇を、オークに向けてルーンを紡ぐ。
「ケナーズ」
フェンリルの魔力の影響か、炎は紫炎となり、オークを灰塵となす。
「逃げたか…。」
気づけばリリルカの姿がない。
リリルカの探索をしようと、少し走れば、異臭がする。
それは、モンスターを呼び寄せる匂い。足元にトラップアイテムが転がっているのを確認したところで、強い地響きがする。
「面倒だな、これは。」
やってきたモンスターは、オーク4匹。
鉄扇でどう立ち回ろうか、攻撃を避けながら考えていると、リリルカが見えた。
大口真神を抱えたリリルカは霧の中に消えていった。
大口真神を抱え、リリルカは走る。罪悪感を押し殺しながら、ただ走る。
「嬉しいねぇ、大当たりじゃねぇか。」
「えっ?」
腹部の痛みとともに、リリルカは倒れこむ。
「そろそろあの男を見捨てる頃だと思ったぜ。こうして網張ってりゃ、絶対会えるってなぁ!」
「あ、み?」
「協力者と一緒にな!」
と、笑いながら見下す、この間リリルカを追いかけていたヒューマンの男に、リリルカは青ざめる。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。ぶっ殺す前に、落とし前つけさせてもらうぜぇ!」
男は、リリルカのローブをはぎ取り、装備品を取り上げる。
「魔石に、金時計…おいおい、魔剣なんか持ってんのか?それにこの刀、良いもん持ってんじゃねえか!ひゃはは!これも盗んだってわけかぁ!」
高価な刀や魔剣に、男は上機嫌に笑う。
「いいぜ、許してやるよ糞パルムゥ。こんなもん貰っちゃ、俺も器のでかいところ見せねぇとな…おらぁ!」
「あぐ!」
二度にわたる腹部の衝撃に、リリルカは悶絶する。
「派手にやってんなぁ、旦那。」
唐突に、第三者の声が聞こえる。
「…っ!?」
「おー、早かったな。」
声の方を見ると、幾度となくリリルカから金品を巻き上げた『ソーマファミリア』の冒険者がいた。
「きけよ、こいつ魔剣なんか持ってやがってよ、お前らの予想通り、たらふく金を溜め込んでるみたいだぜ。」
「…そうですかい。」
「旦那、一つ提案があるんですがね。」
「なんだ?魔剣よこせってか?おいおい、これくらいの役得は…
「いえ、魔剣だけじゃなく、奪ったもん全部でさぁ。」
は?と、ヒューマンが問い返す前に、上半身だけのキラーアントを放った。
いつの間にか合流した二人も、それにならい、キラーアントを放つ。
その行動に、後ろで見ていたリリルカも、顔面を蒼白にさせた。
「し、正気か!?てめえら!」
「俺たちとやりあってる間にこいつらの餌さなんていやでしょ?旦那。」
「ひっ!」
既に、後ろから5匹のキラーアントが迫っている。
「くそったれが!」
悪態をつき、リリルカから奪った荷物を投げて、一目散に逃げていった。
去っていく背中を見送ったあと、リリルカに近寄る。
「来てやったぜ、なんせ同じファミリアの仲間だからなぁ。」
ぬけぬけと言う男に、リリルカは悔しそうに顔を歪め、手を握りしめる。
「俺の言いたいこと、わかるよな?」
「…。」
「おい!早くしろ!ホントにやべえ!」
「わかってる!…おまえ、昨日は金がないっていったよな?もうネタはあがってるんだ、ごまかそうってんなら…」
「わかりました!わかりましたから!」
出し惜しみしている暇はないと、鍵を渡し洗いざらい吐く。
すると、薄ら笑いをうかべ、リリルカを持ち上げる。
「っ!?何を!?」
「ちょっとヤバイんでな、囮になってくれや。」
「!?」
驚愕の眼差しで男たちを見るが、全員下卑た笑みを浮かべている。
「金がねぇならもういらねぇよ。最後に俺たちを支援してくれよ、サポーター。」
投げられるリリルカ。
「っ、ははは。」
天井を見上げながら、渇いた笑みをこぼす。これが、今までの行いの結末ならば、酷いもんだと思った。
そういえばあの男はどうなったのだろう。不思議な黒い狼人。
数えきれないキラーアントが、押し寄せる。
逃げ場はどこにもない。
「寂しかったなぁ。」
零れた最後の言葉に、リリルカ自身驚く。
「そうですか、リリは…」
誰かと一緒にいたかった。気の許せる誰かが欲しかった。
(ああ、リリはやっと。)
死が迫る。
(やっと、死ぬのですか?)
「虫けらどもが、そいつは俺のサポーターだ。」
黒い魔力の刃が、キラーアントを貫く。
声の方を見ると、黒い狼人が口から炎を漏らしていた。