「怪物祭?」
「そう!怪物祭!年に1度のお祭りで凄く賑わってるんだ!一番の目玉は闘技場でモンスターの公開調教を行うんだ!とにかく大きな祭だし一緒に行こうよ!」
はしゃぐ少女は自分の主神で家族のヘスティア。首を傾げる男は唯一の眷属。断られることを考えていないのかとても嬉しそうに誘うが、1つだけ問題があった。
「すまん、ヘスティア。そもそも祭ってなんだ?」
この男は割りと世間知らずなのだ。
「え、えっと…。とにかく行ってみればわかるよ!百聞一見に如かずってね!楽しいよ!」
無理のある言い分だが、その必死さが可愛らしかったようで。微笑みながら承諾した。デートだデートだとはしゃぐ主神をみて、歳相応の(見た目年齢)少女にしか見えないのが可笑しくて、つい笑顔になる。最近本人は仲良くなったと思っているベート、アイツとアイツの彼女(勘違い)も誘ったら楽しいのではないかと考える。すると思い出したかのように
「そうだ!そういえば最近ステイタス更新してなかったね!早速だけど更新しようか!」
思い立ったが吉日、とはこのことか。断る理由もないので服を脱ぎうつ伏せになる。
「上を全部脱いで更新するの初めてだね。」
「そうか?」
「ちょっと前までめくるだけだったからね。それにしても逞しいじゃないか。」
「まあ、肌を見せるのは抵抗があったからな。」
楽しそうに会話を交わしながらステイタスを更新する。
フェンリルLv1
力:SSS 100003
耐久:A 850
器用:F 425
俊敏:A 801
魔力:B 772
『レージング』
自分の半径5メートル以内の任意の空間から鉄鎖を呼び出し操ることができる
『ドローミ』
自分の半径5メートル以内の任意の空間からレージングの二倍の強度を誇る鉄鎖を呼び出し操ることができる
『原点回帰』
真の姿に戻る
「あれ?」
「どうした?」
「魔力が上がっているんだ。本来ステイタスは使った値が上昇するんだ。叩かれれば耐久が上がる、みたいに。フェンリルって魔法使えたっけ?」
「レージングとドローミは魔力を使うぞ?本当に微量だが。」
「それだとこの上昇率に辻褄が合わないんだよ。」
「む、そうなのか?」
「そうだよ。魔法をバンバン使っていれば話は別だけど…。」
「もしかしたら魔力を抑えていることが魔力上昇に繋がっているとか?」
「それはないと思うけど…。」
「けど、今のところそれしか考えられないしな。それに上がってしまったものは仕方ない。」
「んー、まあいいか。」
ステイタス更新を終えて服を着る。
「そういえば怪物祭とはいつなんだ?」
「明日だよ。」
「これまた急な話だな。」
少し呆れながら、それでいて嬉しそうに微笑みながら言う。本当に、この女神は愛らしい。明日は祭だ、今日は早く寝ようと、二人の床につき眠る。おやすみなさいと声を掛ければ、おやすみなさいと返ってくる。そんな当たり前の幸せを噛み締めながら、襲ってくる睡魔を受け入れる。
怪物祭当日、二人は屋台巡りをする。ベートとその彼女も誘おうと思ったが、よくよく考えれば彼女はわからないがベートはロキファミリアだ。まぁ、折角だし二人で楽しもうと二人で巡る。色々な国の食べ物を食べながらひとしきり楽しんだあと、目玉の公開調教へ足を運ぶ。
「凄い賑わいだね。」
「ああ。それに、あの調教とかいうのにも少し興味がある。」
「レージングやドローミを使えば出来るんじゃないかい?」
「ふむ、今度試してみるか。」
などと楽しそうに会話をしているとなにやら職員らしき人があわただしくしている。すると職員は声を大に避難誘導を始める。大人しく従うしかない。そう思ったふたりは離れないようにと手を繋ぐ。しかし人々は混乱に陥り思うように避難出来ない。人混みにもまれるなか、手が離れてしまう。
「ヘスティア!」
「フェンリル!」
叫びも虚しく離ればなれになってしまった。
「くそ!」
なんとか闘技場の外に出たが、ヘスティアは見当たらない。泣きそうになるのを堪えながらヘスティアを探す。塀や屋根の上など高いところへ登り、一刻も早く見つけるために、辺りを見渡す。
そのころヘスティアは白い毛並みの猿に襲われていた。なんとか逃げ出そうとしても、今のヘスティアはなんの力もない只の少女。シルバーバックの伸ばした右手にあっさりと捕まってしまう。ギリギリと締め上げられ、体は悲鳴をあげる。このままだと天界に強制送還され、2度と降りてこられなくなる。そんなの嫌だ!叫びたくても叫べない。想うは自分の家族。優しく不器用で、とても脆い。涙を浮かべ、青年のことを想う。フェンリル…。
すると締め付けられていた体が急に軽くなる。気づき辺りを見ればシルバーバックの右手が転がっている。そして、自分の家族の背中。
「ヘスティア、遅くなってごめん。」
フェンリルの右手も血に染まっている。手刀であれを切ったというのか。フェンリルの回りの空間が歪み鎖が飛び出す。シルバーバックを締め上げ、拘束する。
「獣ごときが。」
ゆっくり助走をつけ
「俺の家族に」
右腕を振りかぶり
「なにをしたぁ!!」
拳を腹に叩き込む。
吹き飛ばされることも、苦しむこともなくシルバーバックは消え、魔石が落ちる。それを無視してヘスティアにかけより、抱き締める。
「よかった、無事で。よかった、よかった。」
「フェンリル…。」
泣きながら自分を支えるフェンリルと一緒にヘスティアも泣いた。
ひとしきり泣いたあとは二人でがむしゃらに走る。すると戦闘音が聞こえ、足を止める。そして音のする方へ向かえばロキファミリアとモンスターが、戦っていた。どうやら追い込まれているようだ。
「っ!ベート!」
その場にいたベートに気づき飛び出していく。
ベートの足元から飛び出してきた触手を踏みつける。ロキファミリアの他の団員は驚き、こちらを警戒するが無視をする。
「フェンリルか!お前…
「後だ!こいつ倒さなきゃまともに話なんて出来ないぞ!」
ベートも何か言いたそうだったが今はそんな余裕がない。ヘスティアを早く安全な場所へ、という気持ちが強かった。
原点回帰
これしかない。武器もない今、早急に終わらせるには。ヘスティアにでさえ見せたことのない真の姿。少し躊躇う。しかし、ヘスティアを助けられるのなら。
嫌われたって構わない。
口の端から漏れる炎。怒りに支配されたときよりも一層激しく漏れ出す。唸り声をあげ、骨格が変わっていく。着ていた服は破れ、靴も弾ける。そして真の姿を表す。
「ワオーーーン!!」
大きく吠えればビリビリと大気を揺らす。そして、姿勢を低くし、悪評高き狼は目の前の敵へ飛びかかった。