勝負は一瞬で終わった。只食らい付き、引きちぎる。それだけで全てが終わる。モンスターの傷口から溶解性のある体液が漏れるが、フェンリルには影響がないようだ。ペッ!と口内の異物を吐き出し、周りを見る。ロキファミリアの面々は呆気にとられている者も居れば、こちらを警戒する者、怯える者もいる。それらをなるべく見ないようにして、ヘスティアの近くへ行く。
『ヘスティア…。』
「フェンリル。」
『俺が…怖いか?』
恐る恐るたずねる。1階建て家屋ほどの高さもある狼は、まるで何かに怯えているように見えた。
「怖くないよ。怖いわけないじゃないか。だってフェンリルはボクたちを守ってくれたし、それに家族を恐れる理由なんてないからね。」
ヘスティアは真っ直ぐ目をみて伝える。
「それにしても格好いいじゃないか。その背中に乗って街を駆け回ってみたいな。」
笑顔ではしゃぐ少女。その言葉はフェンリルにとって救いだった。また家族に捨てられるかもしれない。また独りになるかもしれない。知らぬ間に感じていた恐怖も、少女の笑顔で安らぎと入れ替わる。
「おい、のんびり話してる場合じゃねえ。まだ逃げ出したモンスターがいるかもしれねえぞ。」
いつものように話しかけるベート。そこに恐れはなく、さも当然のように。
『あ、ああ。そうだな。』
声をかけられたこちらが戸惑ってしまうほど、自然体なベート。
『お、お前は俺が…。』
「怖いかって?怖かねえよ。キレたら怖いけどな。」
ああ、かなわないな、このふたりには。
『残りのモンスターを片付ける!ヘスティア、しっかり捕まっててくれ。』
尻尾で優しく掬い上げ、そっと首もとに乗せる。伝わる温もりに、心安らぐ。
魂に誓おう。ヘスティアは俺が守る。何と引き換えることになっても守り抜こう。
漆黒の狼は街を駆ける。その背に女神を乗せて。
怪物祭の騒動を終え、フェンリルはダンジョンに潜っていた。矢を射りながら考え事をする。
(原点回帰。真の姿に戻る。だがどう考えてもあれは小さすぎる。)
原点回帰を使った際に気づいた異変。真の姿とは程遠い力に思考を巡らせる。
(原点回帰を使っても大した魔力は消費しない。それでも魔力値は上がる一方だ。)
まるで常に魔力で何かを無理矢理押さえつけているようだ。と、そこまで考えたところで引き絞っていた弓が壊れる。遂に限界がきたか、とため息をつく。取りあえず地上に戻るとしよう。新しい武器にしてもいいかもしれない。
出会いの予感がする。何となく、皆が使っているヘファイストスでも、ゴブニュでもなく、ただ何となく裏路地を進む。すると一つ目のマークの建物へ、導かれるようにたどり着く。周りの建物とは違う作りをしている。噂に聞く東洋の建築物だろうか?考えていても仕方がない、とりあえずはいってみよう。ガラガラと心地のいい音をたてながら引き戸を開ける。
「あら、人が来るなんて珍しい。ようこそ、天目一箇神のファミリアへ。」