「こうやって履帯を仮固定しておくの。そしたらピンを打ち込んで・・・そう、これで完成」
「やっと出来た、助かったよ」
操縦手の椎名は整備班の女子生徒に頭を下げた。
「私達でもティーガーの履帯の交換は結構苦労するの、また困ったら呼んでね」
練習試合当日、俺達は他のチームよりも早く車庫へと来ていた。
日々の戦車の整備はその乗員で行うのが基本。しかし俺達のチームは戦車を弄った経験がないため整備班からのアドバイスしてもらいながら手探りで作業している。
「先輩、砲弾はこれくらいで大丈夫ですか?」
1年の瀬戸浦が砲弾運搬車に乗って来た。彼は自ら装填手を志願した。
「大丈夫だ。それにしても大した筋力だな・・・」
弾頭重量だけでも7キロはあろうかというティーガーⅡの砲弾を2つ軽々と抱えて車内に積み込んでいく。1年ながら俺達のチームで一番腕力があるだろう。
「えぇと・・・ティーガーⅠが隊長車、副隊長車が俺たちと同じヤツ、それでパンターが――――」
無線手になった北里はそれぞれの車輌を覚えるのと無線機のチェックに忙しそうだ。
「永斗、副隊長がお呼びだぞ。作戦会議だとさ」
遅れて倉庫に来たのは砲手の秋月だ。
「分かった、ちょっと行ってくる」
残った雑務を秋月に引き継いで俺は車庫を後にする。
今回の試合形式の練習は10対10のフラッグ戦、隊長チームと副隊長チームに分かれて試合を行う。
俺たち男子チームは副隊長チームだ。副隊長チームの本部であるODカラーの簡易テントの中に入った。
「ティーガーⅡ、3号車の妙典寺永斗だ。」
「待ってたわ、空いている所に座って頂戴」
一番奥に座っていたのは黒森峰の副隊長で今回のチームでは隊長を務める逸見エリカだ。
テントの中には大きなテーブルが据えられており今回練習するフィールドのマップが開かれていた。
「今回の車輌は各チーム10台なので3両ずつで1小隊、フラッグ車はパンター1号車にするわ。」
「了解です!」
パンターの車長と思しき女子生徒が元気よく返事する。
小隊の編成と各小隊のルートを確認してブリーフィングは終了した。
車庫へと戻ろうとした時・・・
「ちょっといいかしら?」
逸見エリカに呼び出された。
「チームの練度はどう?」
「まだ触って1週間しか経ってないんだ。お世辞にも高いとはいえない」
戦車を受け取ってから1週間、朝は早くから始めて授業が終わって放課後には夜遅くまで練習してきた。しかし他のチームに比べて経験値が低いのは仕方がないことだ。
「少し見させてもらったけど1週間であれだけ動かせれば大したものよ」
「そうか、まぁいざとなったら盾になって隊長車を身代わりになるさ」
「そのときはよろしく頼むわ」
エリカと冗談を交わした後俺は車庫へと向かった。
俺が戻る頃には戦車の整備は完了していた。エンジンを掛け開始地点へと向かう。
開始地点に到着すると各員が最終チェックを行う。目の前にはエリカのティーガーⅡが待機していた。
「いいか椎名、目の前のパンターに付いて行くんだ。前の車輌に速度を合わせて隊列を崩さないようにしろ」
「了解です」
『開始5分前』
アナウンスが聞こえた、いよいよ試合が始まる。
「各員、状況報告」
「エンジンの出力安定、何時でも行けます」
「照準装置異常無し」
「無線機チェック、問題ないぜ」
「弾薬庫及び砲閂、正常です」
各搭乗員からの報告が聞こえてきた。これで準備完了だ。
練習とはいえ男子戦車チームの初試合、戦車道に新しい歴史を刻む第一歩である。
俺は咽頭マイクを抑えながら叫んだ。
「戦車前進!」
ティーガーⅡが唸り声を上げて前進し始めた。