「椎名、少し遅れているぞ。もう少しスピードを上げろ」
『すみません、加速します!』
『偵察班からの連絡、敵未だ発見できずだそうです』
「分かった。謙也いつでも撃てるようにしておけ」
『了解です、車長殿』
試合を開始して15分、両陣営は未だ敵車輌を見つけられないでいた。
各小隊からⅢ号戦車、Ⅳ号駆逐戦車を偵察やアンブッシュ要因として先行させて残りがそれぞれフィールドの左右中央から北上していく形になっている。
その中で俺達はフィールドの右、東ルートを進んでいた。
『先行した偵察班さえも接敵しないってことは相手も待ち伏せしている可能性が高いわ、各自周囲に気をつけて』
混線していた無線に割り込んできたのは逸見エリカの車輌の無線だ。
「了解!周囲の見張りを――――」
ゴォン!
突如不快な金属音とともに車内が激しく揺さぶられた。
柔らかい地面に足をとられ滑りそうになる車体を何とか立て直す。
『先輩、弾が当たりました!』
「安心しろ、掠っただけだ」
キューポラから顔を出して双眼鏡を覗く。跳弾したということは正面ではなく少し左か・・・
「見つけたぞ。10時の方向、丘の上の茂みだ。謙也、見えるか?」
『確認した。撃っていいのか?』
「発砲を許可する、
ズドォン!
発砲した時の衝撃が体全体に伝わってくる。
「弾着・・・今ッ!」
丘の上で土煙が上がった。しかし奥に見えるパンターは無傷のように見える。
『クソッ、もう一発・・・』
「慌てるな、落ち着いてよく狙え」
『装填完了です!』
瀬戸浦が言い終わったのと同時に秋月は発砲した。今度は後ろの木に命中、大木が1本倒れるが敵車輌に損害を与えることは出来なかった。
奇襲してきたパンターは前を行く小隊長車が撃破してくれた。秋月は自分で敵を倒したかったらしく少し落ち込んでいるようだ。
「気にするな、低速とはいえ走行中の射撃だ。大戦時の戦車で行進間射撃をするのは難しいんだ」
『フォローありがとよ。でも、当てたかったぜ・・・』
『さっきのパンターは恐らく敵の偵察車輌です。向こうの規模がわからない以上このまま進軍するのは危険なのでA18地点でラングと合流しアンブッシュします。3号車はA21地点の崖で偵察をお願いします。主力を見つけ次第攻撃して構いません』
小隊長車からの無線だ。A21地点は少し急な斜面を登り崖から見下ろすことが出来る場所だ。そこから見えた敵を狙い撃つ作戦らしい。
『ティーガーⅡ3号車了解』
進路を森に向け地点を目指す。他の小隊も数両の敵車輌と接敵しているが主力ではないらしい。
つまり敵主力は経験の浅い俺達が居る小隊の方を叩きにくる可能性が高いという事だ。
斜面を登り崖の上へと到着した。俺達は一旦戦車から降りて崖のギリギリの場所から双眼鏡を使って偵察する。
崖下には森が広がっているがその向こうには広大な平原になっている。森に隠れられていたら見つける事は困難だ。
「前方敵ティーガーⅠ発見」
平原を西住まほの隊長車を始めとする敵主力が平原を進んでいるのを秋月が捉えた。
パンター、Ⅲ号戦車はフラッグ車のティーガーⅠを囲むようにして一糸乱れぬ隊列を組んでいる。
「まだバレてないっぽいな・・・」
「でもバレるの時間の問題だろうな、なんたって隊長車だし」
「どうします車長?」
乗員が一斉に俺の方を見た。
「1発撃ったら後退するぞ、総員準備に掛かれ!」
「「了解」」
客員が一斉に戦車の中に戻る。エンジンを始動させ砲塔を敵の方へ旋回させる。
敵車輌を見下ろせる場所まで来て車体を180度転回、無線で小隊長へ連絡を入れた。
「準備完了だ。謙也、好きなタイミングで撃っていいぞ」
『了解、今度は外さねぇぞ・・・』
今度は慎重に照準を定めて引き金を引いた。
秋月の放った88ミリ砲は隊列を組んで進軍するパンターの側面に命中した。
「命中、ナイスショットだ謙也」
続けて下の森で待ち伏せしていたパンターと3号戦車が発砲それぞれ3号戦車2量を撃破した。
『よっしゃ、もう一両・・・』
「ダメだ、撤退するぞ。椎名、崖を降りろ」
『え・・・わ、分かりました』
ティーガーⅡは急発進し斜面で徐々に加速し始める。
『なんでだよ!?もう一両撃てたのに・・・』
「始めに言ったろ?1発撃ったら下がるって。それに相手の隊長、完全にこっち気付いてた・・・」
パンターの命中を確認した後、ふと隊長車の方に目をやるとキューポラから顔を出していた西住まほ隊長は完全に此方を見ていたのだ。
恐らく偵察班の連絡から平原から俺達の進軍ルートを予想、正面から来るものだと予想していたが側面からの砲撃。
彼女は咄嗟に崖上からの砲撃だと判断したのだろう。人並み外れた判断力だな・・・
撤退する途中、此方のⅢ号戦車がティーガーⅠに撃破された。他のルートを進んでいた別小隊も隠蔽に優れる駆逐戦車隊に少しずつ戦力を削られているらしい。
「状況はかなり不利だな・・・」
『此方パンター小隊長車、撃破されてしまいました。すみません!』
小隊長車の喪失を知らせる無線で俺達は危機的な状況に立たされたのは確実となった。
『何やってるのよ!そっちの小隊はもう3号車しか残ってないじゃない!』
逸見エリカ副隊長からの喝が飛ぶ。
『ティーガーⅡ3号車、私達が援護に向かうからそれまではなんとしても持ち堪えなさい!』
「了解」
とは言ったもののどうするか・・・
ティーガーⅡの装甲は傾斜込で200ミリオーバー、正面から抜かれる可能性は低いが此方が残り1両に対して相手は3両だ。
俺が考え倦ねていると・・・
「なぁ永斗、これ使えるんじゃないか?」
「これって・・・」
秋月が指差したあるものを見て俺の頭のなかに1つの作戦が思いついた。
「ティーガーⅡのでかい車体ではいささか不安が残るがやってみるか・・・」
俺は乗員に指示を飛ばした。
「皆、ちょっと聞いてくれ――――」
時系列はアニメの後、劇場版の前ってカンジです