アリアは私の用意した料理を何のためらいもなく食べた。
半分くらい食べた所でアリアはその手を止めた。
何かをためらっている感じだ。もしかしてニンニクや銀の食器で食べた事で体調を悪くしたのか?
もしそうなら此方も少し後ろめたさが出て来て別に残して良いと言ったら謝罪しながら礼を言って来た。
後で妹紅に聞いて見たら別に料理自体で体調を悪くした素振りは窺えなかったとの事だ。
夕飯も少ししか食べなかった。
もしかして本当に体調が悪いのか気に成り、聞いて見たら普段からこの位しか食べないのだと言う。
普通この年くらいの子ならば食べざかりの頃だろう。
そんなんでは背が伸びないぞと言ったら「ほっとけ」と言って拗ねてしまった。
気にしていたのかも知れない。
しかし、私の食べる量の3/1位しか食べて無いぞ。
そう言えば驚いたのはアリアは顔に似合わず箸の持ち方がちゃんとしていた。
まぁ、箸の持ち方がちゃんとしていただけで物を箸で掴んだり等は出来なかったが。
芋の煮っ転がしを掴もうとしては左右にコロンコロンとして最終的には箸で刺して食べて居た。
行儀は宜しく無いが微笑ましい光景だった。途中フォークを出そうかと聞いたがむきに成って「要らない」と言って使おうとはしなかった。
こう言う所を見ているとアリアが悪魔である事を忘れてしまう。
本当に見た目相応の人間にしか見えない。
悪魔にあると言われる傲慢な態度も見受けられない。
礼儀はちゃんとわきまえて居る。所々、上から物を言うが気にはならない程度だ。
悪魔の中でも上階級の者なのかもしれない。一動作一動作に気品と優雅さを感じる。
悪魔なので夜に成ったら活発に成るのかと思いきや早めに布団に入って眠りについた。
接している時間が短いが下手な事をしだす事は無いと言うのは解って居るが、万が一という言葉がある位だ。油断はできない。
夜も何度かアリアが寝ている部屋を覗くが特に何かがある訳でもなく普通に寝続けて居た。
妹紅も見張りとしてこの家に泊まってくれていて、交代を申し出たりしてくれるが、私とて半獣とは言え妖獣なのだ。一日二日寝なくても生活に支障はない。
妹紅にはもしもの時の為に寝て万全の状態で居て欲しいと願ったが、妹紅もアリアの様子を見に来ていた。
しかし、アリアは起きる事は無く。すやすやと寝て居た。
妹紅が不意に人差し指を立てて寝ているアリアをつつき出した。
「何をやってんだ、妹紅」
呆れ半分の声で問いかけるが等の妹紅は楽しそうに
「慧音もやってみろよ、プニプニしてて気持ちいいぞ?」
そう言われてつつかれ続けて居るのに起きる気配は無い。
好奇心に駆られて私もついつい人差し指で恐る恐るついて見る。
ふにっ
確かに柔らかく滑らかな肌の感覚が伝わってくる。
指を離そうとすると指に張り付いたかのように張りき伸びるモチモチとした肌に女性 として羨ましいと思う。
流石にやり過ぎたのかアリアは「う~ん」と言って寝返りをうってしてしまった。
それでもつつこうとする妹紅。
すると、ひどく弱弱しい声で「お母ぁさん」と呟いてアリアの閉じた目から涙の雫が落ちる。
幻想郷の今日の月は満月なので月明かりでアリアの顔がはっきり見える位に明るい。
アリアの顔は不安に歪んでいた。
見た目相応の素振りを見せられて思う処はある。
幻想郷に来たのは初めてだったと言う。
見知らぬ土地で、いきなり一人放り込まれたのだ、不安で無い筈がない。
例え悪魔でも例外では無いだろう。
見た目相応の歳なのかもしれない。
優しく撫でてやるとアリアの不安に歪んだ顔が少しだが緩んだ。
何だろう、母性本能が激しく刺激される。
暫く撫でて静かな声で「御休み、アリア」と言って妹紅も部屋を後にした。
太陽が東から昇り、顔を覗かせた頃にアリアは部屋から出て来た。
そのまま庭の物干し場で何をしたのか物干し竿が浮かび、アリアの手に収まった。
素振りを始める。
アリアが所持していた武器は短剣を除いて、アリアの身の丈に合わない武器ばかりだった。
長槍よりも物干し竿は短いが、見事に扱いこなしているのが窺える。
突きに払い、それの繰り返しだが流れるような動作で振り回す姿あれだけの敵を仕留めたのに納得がいく。
暫く振り回してたら振るうのをやめて
「霊夢と言い二人と言い、見てて楽しい物か?」
不意に発される言葉。
気がつかれて居たのか。
「何時から気がついた?」
「部屋を出た辺りから」
さらりと普通に言ってのけるアリア。
と言う事は最初からばれて居たのか。
そう思っていたらアリアは物干し竿を元の場所に戻した。
「もう良いのか?」
それにああと答えながら
「見せるものでは無いし、第一、凶器に成りうる物を振り回していて気持ちの良い物では無いだろう」
そう告げる。
夜の事とアリア自身が人間くさい為に、アリアが悪魔だと言うのを忘れて居た。
確かに人間でも物干し竿で人を殺す事が出来るのだ。
悪魔であるアリアが扱えば間違いなく人が簡単に殺せてしまう。
それを考慮してやめたのだと言う。
これならば私か妹紅をつけてならば阿求に会わせても大丈夫だろう。
昨日からお礼がしたいと私の家に訪ねて来ていた。
阿求は幻想郷において重要な役割を担っているのとアリアが正体不明なのと阿求が来た時にはアリアは目を覚まして居なかったのを含めて会わせなかったのだ。
「アリアに会いたいと言う者が居るのだが良いか?」
「ん? 私に会いたいと言う者がいると・・・・・また随分と物好きな者が居た物だ」
「聞かないのか?」
「私は生憎人里の者に知り合いは居ないんでね、居るとすれば助けた譲ちゃん位だよ」
しかし、と続けるアリア。
「ちゃんと生きて帰ってこれたのだな」
とても小さくて聞き逃しそうではあったがちゃんと聞こえた。
それと同時にアリアから安心したような表情が一瞬だが垣間見える事が出来た。
「随分と優しい悪魔だな」
そう言うと聞こえてたのかと頭をかきながら
「目の前で死なれたら目覚めが悪くなるからな」
そう答えた。
「是非とも礼がしたいそうだ」
「要らねーよ、勘違いされてるようだが、私は私の心情に肩入れをしただけだ。礼を言われるような立派な事は何一つしていない」
一蹴りにされてしまう。
だが、そう言葉が続いた。
「貴方達を見て居れば断ってもしつこく来る事は目に見えてる。だから一度会ってその間抜け顔を拝むとするよ」
そう言いながらアリアが寝て居た客間に戻って行く。
全く、素直ではないな。
人間くさく、心優しい悪魔の騎士様は。