アリアが誘拐されてから1夜が明けた。
大分落ち着いたがアリアが辛い目にあってはいないだろうか?
痛い目にあってはいないだろうか?
お腹を空かせてはいないだろうか?
それらが頭の中に渦巻いて気が気で無かった。
そう言えばアリアは私の作ったクッキーが大好きだった。
私の入れたストレートティーが好きだった。
甘いものに目が無かったアリア。
おやつを食べすぎて夕食を食べられなくて夢子に怒られていたアリア。
作れば案外ひょっこり出てくるのではないだろうか?
そう思い、おぼつかない足取りで調理場に向かう。
「アリス様!」
夢子がふらついていた私を受け止める。
「大丈夫よ夢子、それよりも早くクッキーや紅茶を用意しなくちゃ。アリアが欲しがるから」
抵抗するがそれを阻止される。
「アリス様落ち着いて下さい! アリア様は誘拐されて居ないのです! お辛いでしょうが現実を受け入れて下さい! それにそんな体でどうなさるおつもりで「黙りなさい!!」っ!」
「アリアは私の作ったお菓子が大好きなのよ、お茶の時間に成れば必ず帰ってくるわ! だから準備しなくちゃいけないの! あの子の大好きなお菓子と紅茶を!」
ふらつきながら夢子をどかそうと魔法の糸を使う。
夢子は私を羽交い絞めにしたままナイフで糸を全部切り落として見せた。
「すいません、アリス様」
その声と同時に意識が無くなった。
アリア様が誘拐されて1夜が明けた。
用意した朝食もアリス様の部屋の前に置いておいたが手をつけた形跡は無かった。
何度も扉を叩いて呼ぼうとも返事一つ帰って来なかった。
せめてお食事だけでも口にして頂かないとアリス様のお体にさわる。
朝食を乗せたトレイを下げて昼食を変わりに置く。
神綺もあれからピリピリしていて何時もなら様子を見に来る筈なのに来る気配が無い。
何もできない私自身が恨めしい。
私とてアリア様が気に成らない訳では無い。
今や1夜しか開けて居ないのに魔界中がアリア様誘拐事件が広がり、混乱状態に成っている。
アリア様がどれだけ魔界の民に愛されているかが窺える物でもあった。
アリス様の部屋の前で扉をたたき続ける。
呼びかけにも答えず静まり返った開かない扉だけが私の前に立ちふさがっていた。
お茶の時間が近づき、お茶を持ってアリス様の部屋に向かうとアリア様が居なくなってから初めてアリス様の部屋の扉が開いた。
何時もの凛々しい姿は無く、余裕が全くない顔で、乱れに乱れた髪の毛。
眠っていらっしゃらないのか目の下にはクマが出来てその目には狂気だけが宿っていた。
ふらふらと危なっかしい足取りで何処かに向かおうとしていた。
私はお茶の乗ったトレイごと蹴飛ばしてアリス様を取り押さえる。
そうするとアリス様は大丈夫だと言う。
今のアリス様はお世辞にも大丈夫とは思えなかった。
1夜でこうまで変わってしまうとは。
アリス様はアリア様の為にお菓子を用意すると、おっしゃい出した。
アリス様には悪いがアリア様は誘拐されてしまったのだ。
現実を受け入れてもらわないといけない。
アリス様の為にも。
しかし、言葉の途中でアリス様が声を張り上げた。
アリア様はアリス様の作ったお菓子が大好きだった。だから作れば絶対に帰ってくると言いだす。
それと同時に魔力で出来た糸が私を襲う。
アリス様を抑えながらナイフを念力で動かし全てを斬り落とす。
しまっ!
一本だけ見逃した糸が私を襲う。
私だけならば私が真っ二つに成るだけで済むが、今の体制でくらったらアリス様も一緒に真っ二つに成ってしまう。
しかし、後ろから飛んできた針に止められる。
その隙にアリス様に謝罪をして首に魔力を落とす。
アリス様は気を失って力無くもたれかかってくる。
「礼は言わないぞ、人間」
「助けてあげたのに随分な態度ね、まぁ、ご飯出してくれるから良いけど」
正直アリア様の件で許した訳では無い。
ただ、主である神綺様の命令で仕方がなく奉仕してるだけだ。
「何だか大変な事に成ってるみたいだね。あのアリスが此処まで取り乱すとは」
「魅魔様・・・・・」
魅魔様は主の友人であるため失礼な態度は取れない。
口を開いて説明しようとしたが、魅魔様が人差し指を突き出して「みなまで言わなくても解っているさね」とおっしゃられた。
人間二人も解っているのか態度を変えない。
「アリアに何かがあったんだろう? あの時感じた妖力に覚えがある」
それを聞いた瞬間に魅魔様に飛びついて「それは本当ですか!」と言う。
魅魔はいったんゴホンとわざとらしく咳払いをした。
それに自身が今何をしているのか失態に気がつく。
主のご友人に飛びつくとは従者に有るまじき行為だ。
従者の失態は主の失態も意味する。
「も、申し訳ございません」
慌てて離れて謝罪をする。
それを笑いながら「まぁ、良いってことさね」とカラカラ笑いながら告げてくれる。
これは闇に無かった事にしてくれたと言う事だ。
それに、と言葉は続く。
「よっぽどの事態があったんだね、あんた程の従者がこんな事をする程に・・・アリア関係かい?」
首を縦に振る。
それよりもあの妖力の正体を知っているとの事だ。
これはアリス様と神綺様に朗報が届くかもしれない。
「妖力の正体を窺っても?」
「構わないけどアリアに何かあったのかい?」
「・・・・・・アリア様が誘拐されました」
「「何だって!」」
声を上げたのは人間二人。魅魔様はどこか納得がいったような顔をしている。
そうかい、と呟いて
「隙間妖怪だ。おそらくそいつの所にいるよ」
魅魔様にしては大雑把な答えが返ってくる。
場所は? と聞いたところ、バツが悪そうな顔をして
「すまないね、場所までは知らないんだよ。何時もふらっと現れる神出鬼没な奴なんだ。ただ」
「ただ?」
少し首をかしげるような動作をして
「あいつは何を考えているのか解らないけど、幻想郷を愛している妖怪の賢者だ。魔界を敵に回して幻想郷の平穏を崩すような真似は絶対にしない妖怪何だけどね。」
幻想郷? 聞き覚えのない単語だ。
その話に巫女が反応する。
「魅魔、あんた知ってんの?」
数少ない情報を元に整理してみると幻想郷と呼ばれる地に住んでいる妖怪らしい。
幻想郷とは魔界に現れたゲートの先にある世界だと思って間違いないだろう。
先ずはゲートの向こうに行く必要がありそうだ。
「失礼します」
そう深く頭を下げて立ち去ろうとしたら巫女に止められた。
「人間、邪魔をするな。今から軍をゲートへと派遣する命令を出しに行かねばならないんだ」
「それはつまり、幻想郷に戦争を仕掛けると言う事? だとすれば幻想郷を守る巫女として行かせる訳にはいかないわ」
たわけめ。
「アリア様が誘拐されたのだぞ? いずれ魔界の神と成られるお方が。黙って引き下がる訳にはいかない」
鋭い眼光が人間を射抜く。
すると巫女と魅魔様の弟子がそれぞれ札とマジックアイテムのような物を取り出し、構え始めた。
「悪いが遊びでは無いのだ、お前らのルールとやらに付き合うつもりは無い。来ると言うのなら覚悟して貰うぞ」
そう言って召喚魔法で大量の銀のナイフを展開して睨みを利かす。