東方アリア伝   作:仙儒

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3話

城の自室にあるテラスに出て月を見上げる。

生前よりも馬鹿みたいに大きな月が二つ浮かんでいる。

それらが放つ輝きは神秘的で蒼銀に輝いている世界を見て思う。

月の輝きとは此処まで明るく美しいものだったのか。

この体は背こそ5歳から成長をやめてしまったが、私が転生してから20年の月日が過ぎて居た。

太陽が昇らないこの世界では朝と言うのは分かりにくいが気にはしなくなったよ。

この身は既に人間と言うカテゴリーから外れているので殺されない限り、妖怪には寿命と言うのはあって無いような物らしい。

しっきーはもう生まれてから数えるのも億劫に成るほど昔から生きているらしい。

見た目からはどう見ても想像ができない。

魔界、本当の名前は不思議の国、魔法の国と呼ばれるらしい。

そして極めつけは私の母さんの名前。アリス。

間違いなく生前に童話で読んだ不思議の国のアリスだろう。

立体交差世界論やパラレルワールドと言われる類の世界なのだろう。

その内、クトゥルーとか出てきたりしないだろうな?

嫌だぞSAN値がガリガリ削られるのは。

まぁ、既に角が生えた奴とか尻尾がある奴とか翼がある奴とかも居るので既にSAN値はガリガリ削られているんだろうけどもう慣れたよ。こんな自分が嫌に成る。

文句を言っても世界が変わる訳では無いので口には出さないが、心の中で思う事は許されるだろう。

一陣の風が吹き肌に当たり心地よい。

どうでも良いが風の数え方は一陣ニ陣と言って単位は陣というのだ。また一つ賢く成ったな。

魔界の中には他にも法界と言う場所もあるのだと言う。

何時かは行ってみたい物だな。だがまずは城の部屋の全部を把握する事から始めないとな。

未だにトイレと自分の部屋に食事の部屋。大図書館の場所としっきーの職務室位しか知らない。

この城にもう20年も住んでいるのにそれは無いだろうと言う指摘は勘弁してくれ。

大抵メイドが案内してくれるので覚える必要が無いのだ。

そう言えばちょうどいい機会だからレインフォースとの出会いを語ろうか?

レインフォースとは補強材を指す言葉だ。

響きが良いからつけたのだけどもう少し良く考えて名前を付けてあげた方が良かったかな?

まぁ、本人は気に入ってくれたらしくそれ以来レインフォースを名乗って居る。

それで良しとしよう。

やたらとレイは私に尽くしてくれているがどうしてだろうか?

そんなレイとの出会いは最悪と言ってもいいかも知れない。

ナイフを手に襲いかかって来たのを隣にいた夢子が撃退した所からの仲だ。

まぁ、今に成って聞いてみれば殺す気は無かったと言う。

その日はたまたま暇に成り、夢子が買い出しに出かけると言うので無理を言ってついて行った事から始まる。

夢子が撃退したレイの身だしなみはボロボロのローブにローブの間からちらりと見えた汚れたボロボロの服でお世辞にも普通の生活を送っているとは思えなかった。

しっきーは魔界の全てと全ての住人を愛しているが、階級社会が存在する以上、どんなに愛していてもその愛が届かぬ者もいるのだと再確認した瞬間だった。

その同情で買い出しで買った物を全て彼女の前に置いた。夢子にもお願いと言う名の命令で買った物が入って居る袋を彼女の前に置かせた。

終始渋い顔をしつつ、何かアクションがあったら対応できるようにナイフを握って居た。

彼女はナイフから手を離し、入って居たパンを食べながら涙を流していた。

其れほどまでに腹がすいて居たのか、可哀想に。

彼女に手を指しだす。

 

「私の名はアリア。どうだ、その萎えた魂に私の名を口にする気骨は残っているか?」

 

気分は金ピカ。この世の全ては冗談抜きで私の物と言っても過言では無いので言っても間違いは無いだろう。

少し戸惑った後、私の名を口にしながら私の手を握ってきた。

救いの手を差し伸べたのはこちらなので此方が見捨てると言う選択肢は無い。

夢子に頼んで家のメイドとして雇う事を頼む。

こうなった私は折れない事を夢子は理解しているので溜息を吐きながら「解りました」と返事を返して来た。

それから厳しい修業を耐え抜いて今では立派なメイドさんだもんな。

因みに他にもアリア騎士団と言う私の騎士団が出来て居た。

レイはそちらの才能があったのかアリア騎士団の団長も務めている。

因みにアリア騎士団は200人からなる親衛隊の事だ。

大半は何らかの問題を抱えた奴らを集めた騎士団だ。無論私を守る騎士団なので兵なのは絶対条件だ。

所謂エリート騎士団と言う事。

何故か何時も士気が高い。まぁ、やる気があるのは良い事だから何も言わないけどね。

 

「アリア様」

 

後ろから声をかけられた。

噂をすれば影と言った所か。

勝手に入って来た事を詫びる言葉を口にした。その程度の事は気にしないので気にしてないよと告げる。彼女の性格と言うか、メイドの嗜みを夢子に叩き込まれている筈なのでノックも無しに入ってくるとは思えない。おそらくテラスに居たからノックの音が聞こえなかったのだろう。

 

「どうなされたのですか?」

 

「嫌、ちょうどレイとの出会いを思い出していた所だよ」

 

そうすると恥ずかしそうにしながら謝って来た。

それに苦笑いで気にするなと告げる。

出会ったころは私よりも少し小さかったのだが今や大人の女性へと姿が変わってしまった。

スタイルも抜群でかなりでかい胸に目が行ってしまうのは男の性と言う物だろう。

一応相手を不快に思わせないため胸を見るのは一瞬だけだが。

 

「風も冷たく成って来ましたし、そろそろ戻られた方がよろしいかと」

 

それに頷きながら部屋に戻る事にする。そうだ。何故私なんぞに忠義を貫いてくれるのか解らないが礼を言わなければ。しかし、素直にありがとうと言うのは照れ臭い。

 

テラスの入り口に来た時に後ろを振り向かずに立ち止まり

 

「忠道大義である、努そのあり方を損なうな」

 

そう言って気がつく。やべぇ、これって厨二病じゃね。急に恥ずかしく成ったので足速に部屋に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノックをしても返事が返ってこない。

居ないのか? そう思ったがこの時間は自室に居る事は解って居るので失礼だが勝手に入って行く。

広い部屋の中にアリア様の姿が無い。

何処かに行かれたのか? と思ったら風が吹いてきた。

アリア様の部屋には窓はテラスに続く所のみだ。

テラスに行くと月明かりに照らされて風に靡く金に輝く絹糸のような髪の毛が揺れて、正に女神の絵を見ている感覚に陥る。

アリア様は殿方なので失礼だとは思ったが奥様にそっくりな顔つきなので女神にしか見えないのだ。

声をかけてみると昔を思い出していたと言う。

しかも、私の事だと言う。

今思い返しても殺されても文句を言えない事をしでかしたのを思い出し、重ね重ね無礼を詫びる。

それに笑いながら気にするなと言われる。

あれは私の中での汚点だ。

物心ついたころから親がおらず、金を稼ぐ術を知り得なかった私は窃盗を繰り返す事で何とかその日を生き抜いて居た。

そんな中である時であったのはアリア様だ。

正直良い鴨が居ると思いナイフを構えて食料を奪おうとした。

しかし、アリア様の後ろに居た金髪のメイドに返り討ちにあった。

メイドを連れているのだ。おそらく貴族だろう。そう思った。

そうであるならばここで殺されても文句が言えない状況だ。

メイドはナイフを構えて近づいてくる。

 

「夢子、ストップ」

 

そのアリア様から止めの言葉がかけられた。

アリア様は無様に座りこんで震えて居た私の手に買い物袋からパンを取り出し私の手を取り私の手に握らせた。

餓えて居た私はそれを口にする。

美味しい、美味しいよ~。

涙が伝う。

 

「それほどまでに腹がすいて居たのだな、まだまだある、遠慮せずに食べると良い」

 

そう言って買い物袋を私の前に置いて差し出した。

 

「アリア様!」

 

メイドが声を上げる。

 

「夢子、食材はまた買えば良いけど命だけは幾ら金を出しても買えないんだよ。この子も河原に落ちている石ころでは無いのだ。ちゃんと息をした同じ血が流れる生き物なんだよ」

 

その言葉にひどく感動したのを今でも鮮明に覚えている。

その後に私に救いの手を差し出した。

 

「その萎えた魂に私の名を口にする気骨は残っているか?」

 

試すような物言いい。

私はその差し出された手を握りしめた。

 

「名は何と言う?」

 

その問いかけに私は答える事が出来なかった。

アリア様は黙ったままの私に「そうか」と告げる。

その後両手を私の両頬を優しく包み込むように、しかし、しっかりと存在を確かめるようにしっかりと掴むと口を開く。

 

「汝に新たな名をあげる。強く支える者レインフォース」

 

その日から私に名前が出来た。どこの誰とも知れない、誰でも無い私にレインフォースと言う名を、存在をくれた。

それから私はメイド見習いとして夢子様にこってりと絞られた。

どんなに厳しい修行にも耐えた。レインフォース。アリア様がくれたこの名が何時でも私の誇りであり心の支えだった。

あのアリア様の恩義に報いるために。

それに才能があったのか剣を鍛えてアリア騎士団の団長にまで上り詰めた。

アリア騎士団の殆どは私同様に拾われた者達が殆どだ。

故にアリア様への忠誠心は半端じゃない。

最後に部屋に戻る様に言ッた時にテラスの入り口で立ち止まった。

如何したのだ? と思っていると

 

「忠道大義である、努そのあり方を損なうな」

 

労いの言葉が私の身に言われる。

体が好尚するのがわかる。他の誰でも無く、私の身にかけられた言葉。

喜びが体の底から湧きあがり溢れて来る。

こんな気持ちを持つ事は許されないのだが、私は救われたあの日から救いの神であり、尊敬できる人物であり、惚れた人物なのだ。

ああ、神奇様、この淡い心を持ち続ける事をお許し下さい。

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