残念ですが、心機一転。頑張っていきましょう。
それでは、お楽しみください。
「…懐かしい」
落ち着いてきた俺はお父さんの書斎にあったCDを聴いていた。今思うと自分たちの曲をプライベートで聴くのは初めてで、ファーストシングルの曲なんかはとてもじゃないけど、聴けたもんじゃなかった。……この頃はよくこんな歌唱力でやってたな。
「もう8時か。」
最近、時間が経つのを早く感じる。外出も必要最低限しかしてないし、人とも会ってないからかもしれない。
俺は段々と腹が減ってきたので、昨日作った残り物のごはんを食べようと冷蔵庫の前まで歩いていくと、家の電話が鳴り始めた。
「はい、安達です」
「海意!?あなた大丈夫なの?」
電話から聞こえてきたのは30代前半くらいの大人びた声だ。
「成花さんですか。…すみません、今まで電話に出なくて。」
「本当よ、まったく!!私もみんなも本当に心配してたんだから。大体あなたは~」
ああ、またいつもの「説教モード」に入ってしまった。こうなると止まらないので、黙って聞いていることにした。
~30分後~
な、長すぎる
今回はいつもに増して長い。もう今なんて、成花さんが結婚願望について語っているだけだ。「年収は~」だの「性格は~」だの言っているから誰も、もらってくれないんだと思う。
「あ、あの……」
「でね、やっぱり今の時代はイクメンだと思うのよ。…あと、料理もできないとダメよ。男だって。それから、」
「そんなんだから、結婚できないんですよ!!」
「あ?」
やべ、これはまずいかもしれない。
「……まぁ、それぐらいの言えるぐらいには元気になってて、良かったわ。」
あれ?怒られなかった。いつもだとまた説教されるのに、やっぱり、相当心配をかけていたんだろうか。
「あの、成花さん…みんなは?」
「…事務所の上の人が、ヴォーカルを別の人に変えて活動しないか?って言ってきたのよ。」
「………はい。」
それは、しょうがないことだと思う。事務所は売れそうなバンドグループを輩出し続けて、利益を出さなければいけない。電話にすら出なかった俺を待っている余裕がないのも頷ける。
「でもね、海意?みんな考えは同じだったの。ヴォーカルはあなた以外に任せる気はないみたい…創也なんて上の人に向かって、ふざけんなって叫んでたのよ?」
俺は胸の辺りが熱くなるのを感じた。それと同時に、後ろめたくもあった。
「成花さん。でも俺は……まだ戻れないです。今戻っても、みんなに認めてもらえるような歌は歌えないです。」
みんなには本当に申し訳ないと思っている。一身上の都合で人気が出始めてきているこの時期に歌えないだなんて…
成花さんは俺のそんな様子を察してくれたのか続けて話してくる。
「まだいいのよ。私たちはみんなできることだけやって、あなたのことを待ってる。」
「ありがとう…ございます。」
「ところで海意はこれから何やるのか…とか予定ある?」
「いえ、ないです。」
活動を停止したが、俺にはやることがなかった。毎日続けてきたボイストレーニングも今は「やりたくない」という気持ちに勝てない。
「ならさ、海意。…高校に行ってみない?」
「え?」
俺はこの人が何を言っているのか理解できなかった。今から受験して高校に行けって言うのか?
「詳しく話すとね、私の友達に音ノ木坂学院で理事長をしている人がいるの。それで…」
「ちょ!?ちょっと待ってください。そこって女子校ですよね…そこに行けって言ってるんですか?」
「行けとまでは言ってないわ。…それで、共学化するための男の子のテスト生を募集しているって言うんだけど、その待遇が中々なもので、全然候補が見つからないらしいの。」
「一応、聞きますけど、その待遇っていうのは?」
俺が尋ねると成花さんが話してくれた。要約すると次のようになった。
① 共学化の必要がないと判断された場合、テスト生は他の高校に編入するか退学
② ①から高校に通っていない人に向いている
とのことだった。……うん、これは中々いないだろうな。今の時代で高校に行かない奴なんているわけがない。俺が言うのもなんだけど。しかも待遇はお世辞にも良いとは言えない。
俺が考え込んでいると成花さんが話し始める。
「あなたには時間が必要なんだと思うの。でも、それはただ何もせずに過ごす時間じゃなくて、色々な人と関わる時間。」
成花さんが唾を飲み込んで続ける。
「あなたの、お父さんを失った悲しみは私にはわからない。でも、この世の中には色々な人が色々な事情を抱えて生きている。私はあなたにそれを見て、感じてきて欲しい。」
俺は前に進めるんだろうか
いや、進めるかどうかは自分次第。そして、進むには自分から行動しなきゃダメだ。
…こんなの前から分かってたじゃないか。
「成花さん。俺、高校に行ってみます。」
「……決めたのね。なら、後のことはこっちでやっておくから任せて。」
成花さんが電話を切ろうとしていたので、俺はそれを止める。
「ん、どうかした?」
俺は1回、深呼吸してから続ける。
「必ず戻りますから。」
成花さんは黙り込んだ後に
「えぇ、待ってるわよ。」
と、優しすぎる返事をくれた。
俺は電話を切ると、まだ食べていなかった残り物を電子レンジで温めて少し遅い夕食を食べた。
別に作ったばかりの物ではなかったけど、その食事は久しぶりに俺に温かさを感じさせてくれた。
いかがでしたか?
感想を誰でも書けるようにしておいたので、ぜひ感想&アドバイスお願いします。
次回、第3話からいよいよ本編に入ります。
第3話もよろしく!!