そんな回。
……異次元に生まれて6ヶ月が経った。
…退屈だ。
………ほんと退屈だ。
なんでこう毎日を赤ちゃんベッドの上でガラガラなんぞ眺めながら過ごさねばならんのだ。
…そりゃ見た目が赤ちゃんだからか。
人間は3歳より前の記憶はほとんど残らないと言う。実際俺も前世の3歳以前の記憶はさっぱりだ。
これだけ退屈なのがあと2年半も続くなんて俺なら意図して忘れるね。うん。
……ため息をつきたいが、この体はそこまで大人になってはいない。赤ちゃんがため息ついたら不自然すぎる。そんなことしたらベッドの隣で育児の本を読んでいる母親が心配してしまう。
今、俺は香風家、ラビットハウスの2階にいる。
基本的に母親がいてくれる。いやあほんとかわいいなこの人。磁器のように美しい肌、サラサラで水色の、まだ産まれていないチノと同じ髪。タカヒロさん勝ち組すぎる。俺としては高校生レベルの知能を持つ超優秀な赤ちゃんとして、親に迷惑をかけないようにしたい。
………だが、この身体、いや、顔はとても素直だった。素直すぎ。
俺がおなかすいたなぁと思うと、顔が勝手に泣き出している。泣きやもうと努力した。だがとめることができない。逆にちょっとでも面白いことがあるとすぐ満面の笑顔になってしまう。オブラートに包むとか、ポーカーフェイスとか、この顔は全く知らないようだ。制御ができん。感情を抑えるにしても、本当にちょっとそう思うだけで思ったことが顔に出る。
本能?のようなものだろう。
まあ赤ちゃんはこうしないと親に伝えたいことが伝わらないんだろうけど。
あまり俺が泣きやまないと、香風家の切り札、おじいちゃんの登場だ。そうだ。ごちうさではティッピーの中に入ってたあのおじいちゃんだ。コーヒーの香りが最高に心地よい。
俺は個人的におじいちゃんが大好きだ。イチオシだ。きっとそれが顔にも出るのであろう。俺の顔がすぐに泣きやむ。それがわかっちゃうから、母親が少しムスッとなる。俺としては「大丈夫ママンもおじいちゃんと同じくらい大好きだよ!!」と叫んで抱きつきたいところだがそうもいかない。歩いて喋れるようになったらいっぱい甘えてあげようと決意する。
父親は基本的に下でおじいちゃんと交代で喫茶店とバーを経営している。俺も何度かカウンターに行った。カウンターに置かれた、という方が正確かもしれない。俺はそこで店を1日中眺めていたが、アニメのようなガラガラ状態では全然ない。満席こそないもののある程度の数の客が来ている。なかなか繁盛しているようだ。誰だっけ、経営が軌道に乗らんのう……とか言ってた人。ここも原作との違いだろうか。
繁盛しているのはいいことだ。おじいちゃんのカフェドマンシー(コーヒーの飲み干した模様で運勢を占うもの)を聞いているのは面白いし、父親にくる相談を聞いているのも面白い。
……さすがにバーの時間までは俺を置いておくことはできないから、家の中に戻される。
俺はリビングで、ただ母親の作るミルクが出てくるのを待つだけだ。
あのミルク、幼稚園の時に弟のミルクを舐めたときはゲロマズだったのに、今の状態ではそれが美味しいから不思議だ。
でもやっぱ普通のごはんが食べたいなぁ。毎日ミルク飽きちゃうよ~。
出来上がったミルクだが、もちろん自分で飲めるわけがなく、母親が飲ませてくれる。女神のように美しい顔の女性に対して、俺は身体は赤ちゃん、頭脳は男子高校生だもんだから慣れたとはいえ恥ずかしい。
お風呂も母親と一緒なのはほんと勘弁。見えてますよ、お姉さん!俺は赤ちゃんだけど中身高校生だから!合法とはいえ見えちゃうのはまずいから!とりあえず俺は風呂が終わるまで終始目を瞑り続ける。
不思議なのは美しい女性の身体を見ても全く性欲とかそういう類のものがないことだ。家族に欲情なんてしないから当然のはずなんだけど。
お風呂が終わってベッドに戻されると、すぐ眠気が襲ってくる。まだ8時だというのに全く眠気に逆らえない。これで次起きるのが朝8時だから驚きだ。
逆らっても無意味なので、大人しく瞼を閉じる。
……こんな感じで、のんびりと日々が過ぎていく。
次回はみんな大好き、あの子が登場。
まあ話の流れや場面的に、ね?
雪うさぎちゃんですよ。