11月4日
………………ふぁぁ……よく寝た……。
いつも通りの朝。ベッドから出ようとして、左腕が重いことに気づく。左を見てみると、チノがくっついていた。……あれ?なんでこいつ俺の部屋で寝てんの?
昨日なんかしてたっけ?部屋を見回してみる。
……あ。見回して分かった。ここ俺の部屋ちゃうわ。
可愛いぬいぐるみがいろんなとこにあるし、壁紙もウサギ柄ということは、チノの部屋だ。んんん……俺昨日チノの部屋で何してたんだ…?思いだせない。
「………?………おはよぅおにいちゃん……」
思い出そうとしてる間にチノも起きてきた。
「おはようチノ。昨日俺たち何してたっけ?」
「……ぇ…?なにって……なにしてたっけ?」
ぼーっとした顔でチノが言う。
おいおいお前もか。自分のことを棚に上げて俺はチノに半眼を作った。なおチノは無反応である。目をこすって大口あけてあくびなどしている。かわいい。
とりあえず部屋戻って着替えよ。
朝食後。
「弘紀~、今日は甘兎庵ってお店に行くわよ!」
いやいきなりだなおい。
「なんで?」
「今度ね、コラボすることにしたのよ♪それでそのコラボメニューの1つができたから、これでどうかって店主さんに見せに行くのよ」
良かったちゃんと理由あった。………んん?コラボ?甘兎庵と??あれ?なーんかひっかかる……。
「そのコラボメニューってなに?甘兎庵って和菓子の喫茶店だよね?うちコーヒーが主なのにどうやってコラボするの……?」
「ふっふっふ……私は天才だからね♪今回のコラボメニュー(予定)は……コーヒーあんみつよ!」
あっ!!原作で読んだぞそこ!ライバル関係ってこの時はまだ続いてたんだ…。
「ああなるほど、それで試作品を見せに(食べさせに)行くってことね」
「そういうこと♪相変わらず理解が早いわね~さすが私の子♪」
そう言って俺の頭を撫でてくる。
こういう絡みされると中身が子供じゃない俺としてはひっっっじょーーに対応に困る。
この母親が可愛すぎる(高校生目線で)のも問題だ。必死に愛想笑いするしか俺には手段がない。しかし…にやけてしまうのだ。笑いたければ笑えよ!男100人が同じことされてみろ、98人はにやにやしちゃうからな。残り2人はロリコンガチ勢とガチホモだから。
幸いなことに、母さんはにやにやしちゃった俺の顔でも嬉しそうにしていると勘違いしてくれたようだ。いや、勘違いじゃないか、嬉しいし幸せだし?
それに今から甘兎庵に行くってことは、あの子に会えるかもしれない。これがテンション上がらずにいられようか。早く行こうぜまいまざー!!
「あれ、でも俺だけなの?」
チノとかおじいちゃんとか来るんだろうか?父さんは喫茶店あるからこないだろうが。
「チノは今日は外にでたくないそうよ。理由はわかんないけど。おじいちゃんは……甘兎行くとおばあちゃんとすぐ喧嘩するから置いてくわ~」
………歩くこと10分。
甘兎庵に着いた。母さんが入り口をあける。和風だがスライドドアで、滑らかにするすると開いた。
見たところ客はいない。まだ朝早いし当然か。
「いらっしゃいませ~……ってあんたかい」
俺たちを出迎えてくれたのは、少し剣呑な空気をまとったおばあさんだった。千夜のおばあさんである。やっぱり10年以上前だと原作で見たときよりもしわが少ない。ん?原作よりしわ減らしたらそれもうただのおばさん?細かいとこは気にしたら負けだよ。
千夜は………見える範囲にはいない。働いてるわけがないのだが。リゼの時みたいに隠れてるわけでもなさそうだし……。
「おばあちゃん、今度のコラボメニューの試作品できましたよ」
母さんがそう言って箱をおばあさんに渡す。
なんて呼ぶか…千夜婆?千夜おば?
千夜おばは箱をあけ、中身をテーブルに取り出した。
「ふむ……これはあんみつかい?コーヒーの香りもするが…」
ふむ。俺もまだ見てなかったので覗いてみる。
なるほど。ぱっと見普通のあんみつ…だが、コーヒーの香りも確かにする。これのどこにコーヒー要素が……?
「これはみつにコーヒーが入ってるんですよ。お団子もふつうのものとコーヒーが入ったものがあります。あんこは何も混ざってませんよ」
母さんの説明を聞いた千夜おばは、スプーンで一口食べてみた。俺も食べたかったので千夜おばにもう1つ貰って食べてみる。
………美味い。コーヒーの仄かな苦みとあんこの強めの甘さがここまで綺麗にマッチするもんなのか。特にこのあんこ、さすがは和菓子の喫茶店と言うべきか、舌触りも素晴らしく、そこらのあんこのようなくどさも感じない。母さんには悪いが、これは原作で特性あんこが美味しいと言われるのも無理無いわ。
コーヒーがあんこの引き立て役になっている。
うん。神作。
それは千夜おばも同じだったようで、少々驚いた表情をしながらも満足げに頷いた。
「…うむ、これならかなり売れそうじゃな」
千夜おばのお墨付きをもらった母さんは嬉しそうだ。
「では、これでいきますか?」
一応母さんは確認をとる。
「うむ、いいだろう。日は来週の月曜からじゃったな?」
「そうです。レシピ渡しときますね」
そう言って母さんはファイルを出した。
千夜おばは礼を言ってそれを受け取る。
「……さて、折角来たんだし、何か食べて帰りましょうか、ね、弘紀♪」
母さんが少しうずうずしたかんじの声で言ってくる。
俺も食べたかったのですぐに同意した。
「この子、歳は幾つだい?」
不意に千夜おばが尋ねてきた。
「再来週で5歳です」
母さんがすぐに答える。
「そちらの子……千夜ちゃんは今幾つでしたっけ?」
「今4歳じゃよ………ふむ」
なにやら千夜おばが考え込み始めた。
すぐに考えがまとまったのか、小さく頷くと
「千夜ーーー!!おいでーー」
結構な大声で千夜を呼んだ。
おっしゃあ!鬼畜和菓子ちゃんとご対面だ!!
身だしなみ身だしなみ……ガキの服に身だしなみもくそもなかったわ。
俺はわくわくしながら千夜を待った。
「千夜ーーー!ちーーーやーーーー!おいでー!」
千夜おばが何度も呼ぶが、千夜はやってこない。
「外にでちゃってるとかじゃないですか?」
母さんが聞いてみるが、千夜おばは首を横に振った。
「確かにあの子はやんちゃだが、1人では外にでたがらないのでな。家にいるはずじゃ。ちょっと見てくるか……」
そういって千夜おばはカウンターの奥に入ろうとした、そのとき。
「…………ばあっ!!!」
「うわっ!!」
勢いよく飛び出し、おばあちゃんを見事にびっくりさせて小さな影が飛び出してきた。
「こら、千夜!な~にしとる!寿命が縮むかと思ったわ!」
「えへへ、だいせいこうね!!」
すでに鬼畜か。さすがです宇治松さん。
やり遂げた笑顔でそう言って、千夜はおばあちゃん放置してこっちに来た。
「あなたはだれ?わたしとあそびたいひと?」
「いや、べつにそういうわけじゃ」
「じゃああそびたくないひとなの…?」
「いえあそびたいひとですはい」
「じゃああそびましょ!どこいく?どこいく!?」
テンションたけえ…………。
「千夜、少し落ち着きなさい。すまないね、騒がしくって」
おばあちゃんが謝ってくる。
「いえいえ、むしろ子供ならこれくらい元気じゃないと!うちの弘紀はなかなか遊ぼうとしなくって……」
母さんにもっと遊べよって目を向けられる。
たしかにあんま外で遊んだりしないけど。
チノとはほぼ毎日遊んでるだろ!室内で!
元々闇の生き物(インドアゲーム中毒)だった俺には太陽の光は少々眩しすぎる…。
それに室内で遊んだ方が楽しいじゃん。外で遊ぶ?運動苦手な俺が?おにごっこで自分が鬼になったとき周りみんな早くて全然追いつけなかった俺の気持ちわかる奴いんの?
仕方ないからってわざとスピード落として鬼交代してくれる人の心遣いきっついのよ?
そんなことが前世に数回あって以来おにごっことか外で遊ぶことはほとんどしなくなった。
これだけだとただの豆腐メンタル奴かと思うかもだが、なにもおにごっこだけの話じゃない。
全部語るのめんどくさいので割愛。
今の甘兎庵は完全に俺と千夜で外に遊びに行けという空気になっている。
え、これほんとに外行かなきゃだめなん?
(´・ω・`)そんなー
「…千夜ちゃんに任せるよ」
俺には一縷の光を信じてこう答えるしか選択肢がなかった。
「なんでわたしのなまえしってるの!?」
!?
予想の斜め上をいく返事が返ってきた。
「え、いや…君のおばあちゃんが千夜って言ってたからね」
「ふ~ん……まあいいや!いきさきはきめてないけどてきとーにいきましょ!」
ガッと腕を掴まれる。
「え?いやどこに…」
「しゅっぱ~つ!おばあちゃんいってきまーす!」
そして腕を掴んだまま走り出した。
もちろん俺も引きずられて走る。
「どこ行くんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺の叫びが虚しく響いた。
「はあ……はあ………死ぬ……」
結局散々走り回らされたあげくついたのは何のことはない普通の公園だった。
めっっっちゃ遠回りした。わけわかんない道突っ込んだ。くっそ疲れた。
原作でロリ千夜がロリシャロ掴んで連れまわす姿は何度か目にしたが…普通についていけてたシャロすげえ。
そしてチノの時も思ったが、なんで疲れが見えないん...?やっぱ子供補正的な?疲れを感じない(疲れないとは言ってない)能力とか欲しい。
「ねえ疲れちゃったの?」
千夜が聞いてくる。
「いやいや〜全然疲れてないよ!」
謎の意地で疲れてないアピールをする。
「で、ここに来て何をするの?」
これでただ走ってただけだったら心折れるぞ。
「ふっふっふ、みておどろきなさい!」
そういった千夜の手には和菓子がにぎられていた。いやでも家から出た時手ぶらじゃなかった!?
「そのお菓子どっかr」
「そんなことはいいの!いくわよ!」
千夜は目一杯息をすい、そして
ピィィィィィィーーーーー
綺麗に口笛を鳴らした。
・・・数秒後、
一番近くの茂みからうさぎが1羽跳ね出てきた。
直後に茂みの後ろのベンチからもうさぎが。
次々とうさぎが出てきては千夜のもとに集まってくる。
「うわ、うわわっ」
俺はどんどんやってくるうさぎを必死に避けた。
そして、周りからうさぎが出てこなくなる頃には、約50羽ものうさぎが千夜のもとに集まっていた。
「おいで〜おいで〜」
千夜はそういって和菓子を少しずつ出しては撒いている。ほんとにそのお菓子どこから出てきた。
千夜が軽く走るとうさぎ達もついてまわる。
その様子はさながらうさぎの女王であった。
「……すげぇ」
ただ餌を撒くだけではここまでは集まらないだろう。そもそも餌目的なら千夜を見つけた時点で寄ってくるはずだ。
「すごい?すごい?」
千夜が少し自慢気にうさぎの群れの中から胸をはってくる。
「すごいよ。うさぎの国の女王みたい」
素直にこう答えるしかなかろう。
俺ではこんなこと絶対できないし。
「えへへ〜、そお?」
千夜はとても嬉しそうだ。
「しかたないから、……しかた……ないから……あっ!わたしまだあなたのなまえきいてない!」
そういや自己紹介とかなんもしてなかったな。
会ってすぐ引きずり出されたせいで。
「あっ、ああ、俺の名前は香風弘紀だよ」
「しかたないから、こうきくんもわたしのけらいにしてあげるわ!」
お、おう。
「よろしくね、こうきくん」
そう言って千夜が空いている手をこちらにだしてくる。
握手を求めているのだろうと思った俺は、その手を握り返した。
◇
・・・・・・夜中。のはず。
寝てるときにさ、意識が半覚醒してるようなときってたまにない?寝てる途中、目は開いてないし寝てるんだけど、ぼんやり意識はある感じ。寝ぼけてるとは違う、夜中に来るやつ。
すぐ深い睡眠に戻るんだけど。
その日の俺はその状態だった。はずだ。とにかくぼんやりしてるため、あいまいなのだ。
俺は惰性に任せてそのまま寝続けようとした。
・・・・・・・ねぇ
意識の奥?遠くから何かの声がした気がした。
・・・・・今の世界、楽しい?
………そうだな、割と楽しい方だな
80%くらい眠りについていた俺はぼーっとこう答えた。
・・・・・・・そう。
・・・・・・・・じゃあ、
謎の声、なんとなく女性っぽさのある声は
・・・・・・・今の世界と元いた世界、どっちが楽しい?
……………!!!
意識が一瞬で覚醒した。
俺はガバッと身体を起こす。
辺りを見回すが、もちろん誰の姿も見えない。
「なんだ……今の」
最後の声があまりにはっきりしていて、まるで耳元で囁かれたかのように俺の頭に残り続ける。
内容もとてもスルーできない内容だ。
「………ここと、元……か」
胸の奥が少し……、痛む。
「………悪い夢だな。まだ真っ暗だし、寝るか」
俺は布団をかけなおし、眠りについた。
そして、弘紀が寝付いた数分後。
・・・・・・ふふっ
……小さな、しかしはっきりした、女性の笑い声が、弘紀の部屋でした。
鬼畜和菓子さんさすがっす。
マジぱねえっす。愛してるっす。
最後のは、うん☆