ガンゲイル・オンライン ザ・ドミネイターズ   作:半濁悟朗

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第0章 プロローグ
対人童貞ファイヴ


「あ、そうだファイヴさん。今日来た運営からのメール見ましたか? なんか《ドミネイターズ》とかいう大会についてのやつ」

「ドミネーター? ……敵を爆発させる光学銃でも実装されんのか?」

「いや、それはゲームバランスぶっ壊れますしグロすぎんので無いと思いますけど……。でも実装されたら欲しいッスよね」

「どうかな……俺は実弾銃以外担ぐ気にはなれねぇな。あんなプラモみたいなオモチャはごめんだ」

「Mob狩り専にあるまじき発言ッスよそれ。いやでもロマンあるじゃないスか、喋って変形する、対人でも使える光学銃とか」

「シカゴお前バカ野郎そしたら光学銃全盛になっちまうだろ。ゴツい装備に着られてるような女アバターが見られなくなってもいいのか?」

「それは嫌ッス!」

「だろ? …………まぁ、そんな姿を見せてくれる女の子の知り合いなんて居ないけどなー」

「そうッスねー……」

「悲しいなぁ……」

「そうッスねぇ……」

 

 灰色の街の中に、二人の男がいた。

 そこは、密林の木々のように不規則的に立ち並ぶ高層ビルの群れ。廃墟はところどころ鉄筋を飛び出させ、氷柱のようなコンクリートの突起を至る所にぶら下げている。

 空にはその廃材を成した事を誇るかのように、毒々しい緑色の雲が厚く空を覆っていた。

 

 バイオホラーの舞台のような不気味かつ殺伐とした廃墟の十字路。そこに放置された赤錆だらけの乗用車の上に、二人は並んで腰掛けていた。

 

「……話を戻そう。ドミネーターが何だっけ?」

「《ドミネイターズ》ッスよ先輩。そういう名前の大会が開催されるっつー話です」

「最近バレット(B)オブ(o)バレッツ(B)だのスクワッド(S)ジャム(J)だの大会があったっつーのにまた大会か。確かここの運営、結構腰が重いとかお前言ってなかったっけか?」

「そのはずだったんスけど、SJと同じでまたスポンサーが現れたっぽいんスよ」

「世の中暇な金持ちは居るもんだなぁ。少しは恩恵に預かりたいところだ」

「そう! それですよファイヴさん! だったら出場して景品頂いちゃいましょうよ!」

「……あのなー、シカゴ」

 

 片割れを呆れた声で呼んだファイヴだの先輩だの呼ばれている男は、一旦言葉を区切ってズボンのポケットから紙袋を取り出す。手を軽く一振りすると一本の煙草が飛び出し、それを銜えてライターで火を点けた。

 

 男の背は175センチ程。彼は煙草の煙を細く吐きながら、深い彫りの奥にある鋭くも光のない目を細めた。

 色味としては非常に暗く地味な服装である。彼のお気に入りであるキャスケード型のレザージャケットやブーツは、艶を意図的に消した黒。

 ジャケットの上から着込んだソフトアーマーやタクティカルベスト、カーゴパンツは枯草のように暗い緑であった。

 

 まるで目立つことを忌避しているような配色の怪しげな服装と、伸びるままに放置したかのごとき黒髪。さらに上から作業帽を目深に被ったその風貌は、全体として工作員か麻薬のブローカーであるかのような小悪党の風体を成していた。

 

「余所当たった方が良いと思うぞ。俺は戦力にならん」

「大丈夫ッスよ、優勝って言ってもネタみたいなもんですし。大会まで時間あるからファイヴさんのレベリングも十分イケますって」

 

 無愛想なファイヴににこやかに話しかける男はシカゴと言う。背丈は190センチ近く、中肉中背なファイヴとは対照的に均整の取れた筋肉質の巨漢である。

 彼は上下ともに迷彩柄――いわゆるマルチカムという、全体的に見て明るい茶色の服に身を包んでいた。屈強そうな肉体と相まって、まるで本物の軍人のようである。

 表情もファイヴとは対照に柔らかく豊か、おまけに元が西洋風のイケメンだ。目の下に横一線の大きなサンマ傷があったが、しかしそれを特に気にする風もなく明るい茶髪を顔に掛からないようニット帽で押さえている。

 

 悪人面の猫背の男と傷持ちのイケメン青年が、世紀末な廃墟で和やかに日本語で歓談する。そんな違和感を感じずにはいられない絵面に説得力を持たせるものが、二人の手の内にあった。

 

「俺はコイツが撃てさえすりゃそれでいい。何で銃ブッ放すのに人間関係やらなんやらきにせにゃいけねーんだ」

「そんなに重く考えることでもないと思うんスけどねー。やってみたら割と平気ッスよ、人ブッ殺すのも」

 

 マットブラックの金属塊――火薬の力で弾丸を飛ばす兵器、すなわち軍用銃だ。

 

 ファイヴの煙草を持つ方と逆の手には、米国シグアームズ社の傑作サブマシンガン《SIG MPX》が握られている。

 AR-15系ライフルの機関部をぎゅっと詰めたような機関部が特徴の、如何にも軍用銃といった面構えの短機関銃だ。

 ファイヴの持つそれはコンパクトサイズの銃身を備えており、更に取り回しを求めてかストックさえも取り払われていた。簡単なパーツの組み換えにより様々な用途に対応出来るMPXとはいえ、これでは短機関銃(サブマシンガン)どころか機関拳銃(マシンピストル)である。

 

 一方で、シカゴは得物もファイヴとは対照的であった。

 彼の両手に保持されているのは、シンセティックストックを備えた黒一色の軽量散弾銃《イサカM37》。

 のっぺりとした機関部と抜群の信頼性を誇る、ポンプアクションショットガンである。流石に軍用としてはいささか古いものではあるが、ポンプ式散弾銃としては類を見ない速射性を秘める銃だ。

 

「いやぁだって人間って怖いぜ? 連中は気に食わねぇ奴を攻撃するのに手段は選ばない」

「先輩は人生経験偏りすぎなんスよ……とりあえず試しで良いんで――」

 

 シカゴの弁は、最後まで続かなかった。

 あちこちに立ち並ぶビルの残骸、その一角から炸裂音と共に砂塵が舞い上がったからだ。

 

「かかった!」

「突っ込むぞ!」

「了解!」

「ブッ殺してやる!」

 

 先程までののんびりとした空気はまるで幻であったかのように鳴りを潜め、男二人は会話で殴り合うかのように互いの声を被せ合って言葉を交わしつつ廃車から飛び降りて突撃してゆく。

 ファイヴが地を舐めるような前傾姿勢で土煙へ直進していく最中、シカゴはM37を構えながらファイヴを射線に入れないように斜め前方に展開。

 

「来ます!」

「わかってる!」

 

 ファイヴの身が煙の中へと突っ込む寸前、砂埃を切り裂くように金切り声を上げる巨大なダンゴムシが姿を現した。

 体長は優に5メートルを超え、背中の甲殻は岩盤のように分厚い。脚や触覚は、子供の腕ほどはありそうだ。

 

「喰らえオラ!」

 

 そんな恐ろしい化け物に対してファイヴは全くひるむことなく銃を向け、フルオートで発砲。

 9mm弾が巨大ダンゴムシの頭部に着弾し、所々に赤いライトエフェクトを作る。

 

「やれ! シカゴ!」

「がってん!」

 

 言うが早いか、シカゴはM37のストックを肩に押しつけて発砲。まとまって放たれた大粒の散弾がダンゴムシの脚部を吹き飛ばす。

 シカゴは引き金を引きっぱなしでショットガンのポンプをスライドさせるスラムファイアにより、次々と脚を破壊していく。手動装填ながら素早い連射が可能なことが、イサカM37最大の強みだ。

 

 拳銃弾の嵐と散弾の突風を受け続けたダンゴムシの巨体が傾く。触覚や複眼などの感覚器官と片側の脚を失った結果、横転しようとしているのだ。

 

「ダウンします! 追撃を!」

「おう!」

 

 ダンゴムシに接近していたファイヴは転倒に巻き込まれる位置にいたが、彼は返事をしつつ軽く身を屈めてから、跳んだ。

 

 一気に4階程の高さまで跳躍したファイヴは、ダンゴムシの巨躯を易々と回避する。空中で機械の如き速度と精密性でMPXの弾倉を交換し、左腿のホルスターから新たな銃を抜く。

 それは、彼が右手に持つ短機関銃と同じ、ストックを廃したMPX。つまり、二挺拳銃ならぬ二挺サブマシンガンだ。

 

「いくぞ……!」

 

 ファイヴは空中で上下逆さまになり、両手に持ったMPXをひっくり返ったダンゴムシの柔らかい腹部に余さず撃ち込んでいく。

 左右両操作対応(アンビデクストラス)であるMPXの特性を生かした、高速かつ正確な二挺同時射撃であった。

 

 ダンゴムシは何とか丸まって銃撃を防ごうとするも、断続的に脚を地上のシカゴに吹き飛ばされて動きを妨害されてしまう。

 

 為す術もなく三挺の銃による鉛の暴風を受け続け――巨岩の塊のようなダンゴムシは、自由落下してきたファイヴが衝突する直前に光り輝くポリゴンとなって爆散した。

 

 

「チームは俺の方で何とかしときますよ。大会の詳しい説明とか諸々ありそうなんで、明日の20時からで大丈夫ッスか?」

「おいちょっと待ていつの間に参加決定してんだよ」

 

 化け物ダンゴムシから得た戦利品を整理していたファイヴは、一足早く帰り支度を終えたシカゴの言葉に目を剥いた。

 

「あ、あと俺も人脈狭いんで、メンツには少し不足があるかもしれません」

「おい」

「クセは強いッスけど、良い人たちなんで。よろしくしてやってください」

「聞けよ」

「それから先輩は対人戦にしろフレンドにしろ、もう少し壁を無くした方が良いと思いますよ個人的に」

「撃つぞコラ」

「んじゃ、お先失礼します。お疲れッス!」

 

 ファイヴが拳銃を向けたところで、シカゴは軽く敬礼してから先ほどのダンゴムシと同じように光の粒子となって消えてしまった。

 

 ファイヴは煙草を一本取り出そうとし、やめた。この世界の煙草はかなりリアルにできたダミーであり、ファイヴ個人の感想を述べるなら「良くできた電子タバコ」と言った具合だ。正直本物には至らない。

 

「…………『ログアウト』」

 

 手の動作と音声の入力により、ファイヴの仮初めの肉体は、荒廃しきった仮想未来の廃墟から消え失せた。

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