ガンゲイル・オンライン ザ・ドミネイターズ   作:半濁悟朗

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#02 ライトエフェクトが出るなら殺せるはずだ

 チーム《VICN》の面々が『訓練』を終えた数十分後、GGOのとあるダンジョンでレザージャケットの男が踊っていた。

 

 彼の周囲からは無数の青白い光線や赤いレーザーが投射され、男はそれらに照らされながら地面や壁を蹴って自在に舞う。

 その姿は正に、GGOというSF世界にふさわしいパフォーマンスショーであると言えよう。

 

 閃光を盛大に浴びながら、その主演たる男は猛々しく、叫ぶ。

 

 

「アカーン! 死ぬ! マジで死ぬゥ!!」

 

 

 主演の男――ファイヴは、悪人面に脂汗を浮かべながら余裕のない顔で宙を旋回していた。

 

 そう、彼は決して踊っているわけではない。

 彼の周囲を飛び交う光線は光学銃によるエネルギー弾と、その弾道予測線。

 

 四方八方から放たれるそれらを回避するための一挙一動が、ファイヴを踊り狂わせているのだ。

 

「マジで! ヤッバイ! 誰か助けてくれー!!」

 

軽業(アクロバット)》スキルと体勢補正能力を総動員して動き回るファイヴに、それでも捌ききれなかった光線弾が驟雨がごとく襲いかかる。

 だがそれらの大半は、ファイヴに着弾するすんでのところで透明な障壁に阻まれて拡散した。

 

 これは、《防護フィールド》という防具の効果である。

 光学銃の威力を射程に応じた割合でカットするため、GGOに於いて広く流通する必需アイテムだ。

 

 だが、その高性能な防護フィールドを持ってしても、ファイヴのHPは既に三割を切っていた。

 

 理由は2つ。一つは、ファイヴの交戦距離が近すぎること。

 防護フィールドは被弾する距離が遠ければ遠いほどダメージを防ぐ。通常の交戦距離であれば光学銃などカスダメも良いところだが、これがファイヴとなると話は変わってくる。

 

「クソッ! まだか、シカゴ!」

『もーちょい待ってくださいよー』

「クソッタレェ!!」

 

 無線越しの暢気な声に対する苛立ちを発散するかのように、ファイヴは近くの小型宇宙人Mobをサッカーボールのように蹴っ飛ばす。

 

 ファイヴが死にかけのもう一つの理由――それが、この猿とゴブリンの間の子のような敵NPC。

 一体一体の戦力は大したことはない。体力は極少、攻撃手段も手にしたレーザーガンをチマチマ撃ってくるのみ。

 だが、この手のモンスターとしてはお約束の、群れで人海戦術を取ってくるタイプの敵だった。

 

 そして厄介な事に、連中は無限湧きするのだ。

 無限湧きを止めるには親玉を倒せばいいのだが、宇宙生命体という設定からか親玉Mobは光学迷彩を装備しているというのも更に厄介だ。

 

「ア゜ッー!? HP赤行ったぞ赤!」

 

 もう何十発目かもわからない被弾の末、遂にHPが二割を切ったファイヴが素っ頓狂な悲鳴を上げる。

 

『死なんでくださいよー。今ここでファイヴさんに倒れられたら俺ら全滅確定ッス』

『ご、ごめんなさいファイヴさん!』

『ふぁいと』

「生き延びたら後で全員ブッ殺しちゃうからなぁ!!」

 

 

 ……そもそも、いくら厄介といえども本来であればこれほど苦戦する予定ではなかったのだ。

 

 発端は、「時間あるなら、狩りに行かない?」というのべ助の発言である。

 そしてどうせなら、時間当たりの狩り効率が良い無限湧きを狩ろうという話になった。

 

 そこで件のモンスターといざ実戦、というところで光学迷彩を無力化するためのEMPグレネードがまさかの不発という事故が発生。親玉は光学迷彩を起動して広大なダンジョン部屋のどこかへと消えてしまった。

 そうして計画がオジャンになり、各自散開してのアドリブ銃撃戦が勃発。そこにアイリスが弾切れを起こすという不幸も重なった。

 

 結果、シカゴがアイリスを援護しながら広場全体にEMPを仕掛けるまでの間、こうしてファイヴが囮をする羽目になってしまってたのである。

 

 

『……じっとして』

 

 ファイヴが「無理!」と応える前に、銃声と共に彼の背中へ軽い衝撃が走った。一拍置いて、彼のHPバーが即座に五割手前まで伸びる。

 

「助かった!」

『ん。……これ以上回復使うと、赤字』

「承知! 急げよシカゴ!」

『モテる男はツラいッスねぇはっはっは』

 

 HPと一緒に精神も少々回復したファイヴは、もう一度無線に悪態を投げてやろうかと考えたが、やめた。

 余裕綽々な態度を取っている後輩も、かなり危ない橋を渡っているはずだ。

 

 先程まで一心不乱にファイヴに銃を向けていた宇宙人達は、何に駆り立てられるかのように背を向けて走り出していた。

 彼らの行く先には、伏せて待機しているのべ助がいる。ファイヴを回復したことでヘイトを取ってしまったのだ。

 

 その行動を予測していたファイヴは、腿のホルスターから二挺のMPXを抜く。先程までは無駄弾を播かず回避に専念するため、銃を抜いてすらいなかったのだ。

 

「相手間違えてんじゃねぇぞッ!!」

 

 叫びながらファイヴは跳び、空中で独楽のように回りながら9mm弾をまき散らす。

 直上から頭部に弾丸の雨を浴び、SFゴブリンの群れの半数ほどがポリゴンとなって砕け散る。

 ファイヴはそれで止まらない。群れの中心に着地してから滑るように身を翻し、二挺の短機関銃で回転斬りでもするかのようにエネミーを薙ぎ払う。

 

 あっという間に、彼は数十体もの敵を殲滅してしまった。

 

『……ありがと』

「こっちこそ! ……って湧くの早いなちくしょーめェ!!」

 

 柱の影からぞろぞろと現れた新たな敵に、ファイヴは罵詈雑言を上げて吶喊する。

 

『EMPレディ!』

「これも失敗したらリアルで殴るからな!」

『今回は材料ケチってないッス! 全員耳を塞いで口を開けろォ!!』

「それ今必要ねぇだろ!!」

 

 シカゴからの返答はなく、代わりに短い破裂音が広場に響き渡った。それと同時に、広い部屋の隅にジャギーの掛かったエネミーが現れる。

 その影は、一昔前のSFに登場するような鎧を纏った人型――プレデターと呼べば万人に伝わる姿をしていた。

 

「いた……! のべ助ェ!!」

 

 無線がEMPにより一時使用不可となったため、ファイヴは代わりに大声で叫ぶ。

 

「――」

 

 彼女は、銃声で応えた。

 

 放たれた7.62mm弾は、狙い違わず綺麗に人型の頭部へと吸い込まれる。

 銃声に負けない程に大きく甲高い着弾音。取り巻きよりも数段大柄なエイリアンが、大きくよろめく。

 

「硬いッ……!」

 

 着弾の音から、のべ助は第一射がエイリアンの防具を破砕したのみであることを悟る。素早く膝射の姿勢に移りつつ、ボルトハンドルを引く。

 

 が、ライフルを構え直した彼女に小型のエイリアン達が襲う。光学銃がEMPにより封印されたためか、親玉を撃ったのべ助に素手で飛びかかってきたのだ。

 筋力(STR)値も最低クラスの敵であるが、それはAGI極ののべ助も同じ。多勢に無勢で、のべ助は抑えつけられてしまう。

 

「離してっ……うう……!」

 

 地面に倒されて拘束されるのべ助は、恨みがましく親玉を睨みつける。敵はアルゴリズムに従って動いているだけではあるが、自身を羽交い締めにするよう命じているのがあの大きなエイリアンであると思うと腹が立つ。

 

(このままじゃ、EMPの効果が切れる……!)

 

 その前にこのキーキーうるさいエネミーを振り解き、とどめを刺さねば、今度こそ取り返しのつかないことになる。

 

(――――仕方、ない)

 

 のべ助の手が、何とかホルスターの相棒に触れた――その時、押し潰される視界に、レザージャケットの男の姿が映る。

 

 ファイヴは、背に吊っていたライフルを矢をつがえるかのように掲げた。

 左手を前に突きだし、照準代わりと言わんばかりに親玉宇宙人へと向ける。当然、そのようなメチャクチャな構えでは当たる理由もない。

 

「行くぞ……!!」

 

 短く息を吐いたファイヴは、トリガーを引かずに走り出す。

 今にも倒れ込みそうな前傾姿勢のまま徐々に加速し、トップスピードへ。瞬間、彼は弾丸のように飛び出す。

 

「セイヤァアアアッ!!」

 

 親玉の危機を察知して飛びかかる子分を突進で蹴散らし、猛烈な刺突が如くSU-16Cの銃口を突き出す。

 銃口は親玉のガードを縫い、狙い違わずプレデターのヘルメットの亀裂へと吸い込まれた。

 

 5.56mmの銃声が響きわたる頃には、ファイヴは敵を追い越して着地していた。

 閃光と轟音に一瞬遅れ、短く痙攣した敵はまるで雷に撃たれたが如し。

 

「――――」

 

 のべ助はもがくことも忘れ、銃床が折り畳まれたままのライフルを器用に回す男の背中を、唖然と見ていた。

 

 

「フッ、決まった……でぼらっ!?」

 

 ライフルを肩に担いだファイヴのキメ顔は一秒と持たず、生き残っていた小型エイリアンに体当たりをくらってマウントを取られる。

 すかさず拳銃を抜いてしがみつく宇宙人達を射殺していくが、いかんせん体の自由が利かず全てを駆除するには至らない。

 

「このっ……アピール中は手出し無用だろうが!」

『先輩逃げてくれ! ソイツ爆発する!』

「なぬ!?」

 

 復活した無線から届くシカゴの叫びに顔を上げると、ぐったりと倒れた近未来宇宙人から不吉な電子音が吐き出されていた。

 

「畜生! 本家プレデターはこんな陰湿な手使ってこなかったぞ! 放せや!!」

 

 シカゴがアサルトライフルで雑魚の駆除を試みるが、広場の遮蔽物でうまく射線が通らないのか全てを散らすには至らない。

 アイリスは弾切れ、のべ助も拘束されて行動不能。

 更に、下手に暴れたことが災いしファイヴは拳銃を取り落としてしまった。

 

 ――これ死んだな、とファイヴは銃が硬い床に跳ねる音を聞いて脱力した。

 

「くそー……どうせなら美少女と心中が良かったぜ。サル軍団にハグされながらリア充爆発とかねーわぁ」

『ファイヴさん!!』

『ファイヴっ……!』

 

 目を閉じれば、仲間達の悲痛な声と神経を逆なでするアラート音のみがファイヴの脳に伝達される。

 電子音の間隔がどんどん短くなり、遂にフラットな長音になる。それはまるで、自身の心電音を表しているようだ――とファイヴは感じた。

 

「てやぁッ!!」

 

 それは、ファイヴの諦観を文字通り斬り裂く一閃であった。

 裂帛、と称するには少々可愛らしすぎる声。舞踏のようにくるくると舞うアイリスは、遠心力を乗せた銃剣の斬り払いでファイヴにまとわりつくエイリアン達を両断した。

 

「投げます!」

 

 ファイヴがアイリスの言葉の意味を理解する前に、アイリスは彼の首根っこを掴んで放り投げた。

 見た目以上に高い筋力(STR)と竜巻のような回転を可能にする敏捷(AGI)によって、ファイヴはカタパルトに射出されたと錯覚する速度で弾き出される。

 

「ちょっと雑すgぴげッ!」

 

 空中に放り出されたファイヴは、背に轟爆の煽りを受けて更に吹き飛ばされる。あと一歩遅ければ、自爆に巻き込まれバラバラになる雑魚の仲間入りしていたところだ。

 

 彼を救出したアイリスはといえば、こうして吹っ飛ばされるファイヴよりも速く駆け、爆風の殺傷範囲から逃れているから末恐ろしい。

 ファイヴはそんなアイリスの速さに余裕がないながらに感心していた。そのため、着地の際に受け身を取るのを忘れて頭から地面に突っ込んだ。

 

「あびゃあああぁ」

 

 海老反りになりながら、ファイヴはゴリゴリと床を数メートル滑って止まる。現実(リアル)ならまず顔面がなくなる大怪我であるが、ファイヴのHPはミリ単位で残留していた。

 

「無理心中を美少女に救われた感想は?」

「自分で言うと魅力20%オフだぞ。……顔が削り取られて死にそう。あと背骨なくなったかも」

「ふふ、人間には215本も骨があるんです。一本くらい何ですか」

「多分胸椎は一つでも致命的な致命傷だぞ……」

 

 もはや慣れつつある満身創痍の痛みに、ファイヴは力なく微笑む。

 訓練をしたり、こうしてエネミー狩りをしているうちに、アイリスとも冗談を言い合える仲になった事が嬉しかったからだ。初対面で怖がられた時とは大違いだ。

 

 一人しみじみとしていたところに、大口径の砲音がファイヴの意識に水を差す。虚を突かれたことで彼はビクリと肩を震わせた。

 

 あわてて首を回すと、シカゴがショットガンで雑魚の黒山を撃っていた。のべ助を救出しているのだ。

 

「周囲確認は、習慣づけておくと良いそうですよ?」

「……言うねぇ」

 

 意趣返しを食ったファイヴは、仰向けに寝直して煙草を銜えた。

 一仕事終えた後の一服は、幻想(バーチャル)といえどもやはり良いものだと再確認するに彼は至った。

 

(ていうか、シカゴがさっき『今回はケチってない』とか言ってたな……)

 

 クールダウンした思考で、なるほど自分が死にかけてるのは後輩が初手のEMPをケチったせいか、と結論を叩き出す。

 

「おーい、せんぱーい。生きてるッスかー?」

「……おつかれ」

 

 M37片手に良い笑顔で手を振るシカゴと、並んで小さく手を振るのべ助に、ファイヴもそこそこに良い笑顔を返し寝転がったまま手を挙げる。

 

「おーう。のべ助も、お互い大変だったなぁ」

 

 しかし彼の良い笑顔の裏に尋常でない殺気がこもっている事は、誰の目にも明らかであった。

 シカゴは良い笑顔のまま「あ、やっべーなコレ」と目を泳がせ始めるも、時すでに遅し。覆水盆に返らず。

 

 ワープポータルまで帰路の最中ずっと――とは言っても数分間であるが――シカゴが延々と恨み言を聴く羽目になったのは、語るまでもないだろう。

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