ガンゲイル・オンライン ザ・ドミネイターズ   作:半濁悟朗

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#04 Get Ready to Rock 'n' Roll

 個人協賛大会・領地制圧戦《ドミネイターズ》は、14時になると参加者たちが特設の戦場(バトルフィールド)に転送される。

 それまでの15分間は、各員が装備を整える時間だ。見渡す限りの暗黒、だがしっかりと床の感触がある不思議な空間で、ファイヴはあぐらを掻いて仮想世界の煙草《パラベラム》を吸っていた。

 

「すはー……」

 

 何分、ファイヴは装備の量こそ多いものの、持ち物と言えば銃と弾倉ばかり。一応腰のポーチにはおまけ程度のミニネード――GGOにて広く流通するプラズマグレネードの小型版を入れてあるが、それだけだ。

 

 早々にアーマーと弾薬ポーチを装備した彼に対して、アイリスとのべ助――特にのべ助は、スコープの調整に余念がない。

 二人とも大会前にきちんと愛銃のコンディションを整えているはずだが、こればかりは長距離狙撃を行う者の性だろう。引き金に指を掛ければ弾道予測線が出る都合上、ゼロインには標的すら必要ない。

 

 そしてファイヴを除く最多の銃を持つシカゴは、自身の周囲に様々なガジェットを並べている。手榴弾に爆薬、指向性地雷に小銃擲弾。そして何種ものカラフルな散弾銃用の弾薬……。

 

「この時点で娘の居場所は分かっていません、ってか?」

「すんませんファイヴさん、ちょっと今忙しいんで後で。……っていうか全部使って爆破する訳じゃないッスよ流石に」

 

 見向きもされず冗談をスルーされ、ファイヴは上げかけた腰を再び落ち着けた。今更ホルスタードロウを練習するような柄でもない。

 

 代わりに、過去の記憶を交えながら《ドミネイターズ》のルールを復習することにした。

 思えば、随分と大会の根幹に関わる仕様をシカトし続けていた。

 

 

『暁さん……まーだルール把握していなかったんスか……』

『めんどくちゃい。スパムで埋まったメールから掘り起こすのもダルいし』

『言わんこっちゃない。……んじゃ、良い機会だし説明しながら対策立てますよ』

『よろしく』

 

 ある日の大学喫煙所で、何気ない日常会話のように作戦会議が行われていた。

 

『まず、《ドミネイターズ》ってのは領地制圧戦ッスから、当然制圧すべき目標……拠点ってのが、フィールド上に点在しています』

『だろうな。撃ち合って敵を殺すっていう《BoB》や《SJ》とは違う立ち回りが必要って事だろ?』

『そッスね。んで、勝利条件は自軍のポイントをゲージいっぱいまで溜めることッス。チームが全滅すると拠点を喪失。それまで稼いだポイントは喪失したことにはならないそうッス』

 

 暁は顎に手をやり、数秒黙考した。

 

『……つまり、敵を倒すことに躍起になってても負けるって事か』

『そうスね。なんで、必ず拠点へは侵攻しなきゃいけないッス。んで、自軍の拠点が奪われることもありますね』

『逆も然り、か。いつどこを攻めて、守るのか……そういうの考えんのは苦手なんだよなぁ』

 

 銜えていた煙草を口から離すと、既に殆ど燃え尽きていた。

 話が長くなりそうだと思い、暁は缶コーヒーを一口飲んでから新しい煙草に火を灯した。

 

『そうッスねぇ。一個の拠点に引きこもるのも良くないッスし、拠点を次々制圧していく……いわゆる回遊魚になるのもあんま良くないッス』

『ん? 前者はともかく、その回遊魚とやらがダメなのは何でだ?』

 

 解説役の祐士は、身振り手振りを交えながら説明を続ける。いつもの事だが、彼は暁よりも速いペースで煙草を消費し続けていた。

 

『一つは、撃ち合いに弱くなるって事ッスね。銃撃戦は待っていた方が俄然有利ッス。拠点を要塞化している敵に突っ込むのは当然無茶ッスし、移動中を横や後ろから撃たれるリスクも増します』

『なるほど、遮蔽物の無ぇところを走り続けるのは勘弁だな。機銃の陣形に突っ込むのも』

『後は単純に、自分たちの位置がバレやすいって事ッスね。参加者の位置情報がわかるサテライトスキャンってのが大会中は定期的にやられるんスけど、それとは関係なく各拠点の状況はマップに表示されるんスよ』

『ああ、ようは拠点が順番に埋まっていってると、それだけで動き方が分かるのか』

 

 いよいよもって戦略的な話が加わり、暁はガリガリと後頭部を掻いた。

 彼は正面切っての撃ち合いではそれなりの覚えがあるものの、大局を見据えた立ち回りという点ではズブの素人だった。

 

『んで最後に、拠点を守れないって事ッスね。後ろから追っかけられるように別チームに拠点を奪われていたらポイントも溜まりませんし……』

『最悪、カマ掘られて終わりか……』

『そういう事ッス』

 

 ぷはー、と大げさに暁は煙を吐いた。これまで彼が目にしてきた戦いと比べ、随分とややこしい。

 

『どーすんだよ。だいぶめんどくさいぞ。この大会の考案者兼スポンサー様は随分と凝り性だな』

『ま、勝てる要素はありますよ。最大6人とはいえ俺ら4人はそれぞれルールに合致する特徴を持ってるッスから』

工兵(エンジニア)に、選抜射手(マークスマン)狙撃手(スナイパー)。それからファイヴ(おれ)は……前例が無いから、とりあえず遊撃兵(トレーサー)とでも呼んどくか』

 

 暁は自己を含めた各員の役割と、それぞれの兵装を思い出しながら可能な限りで戦闘の光景を想像した。

 

『……正面火力が足りんな。あともう一人小銃歩兵(ライフルマン)か、欲を言えば機関銃手(マシンガンナー)が欲しいところだ』

『無い物ねだりしてもしゃーないッスね。ま、任せてくださいよ』

 

 なんだかんだでシナリオ想定をしっかりと行える自身の先輩に満足げに頷き、祐士はついに4本目の煙草に火を付けた。

 

『疑う訳じゃねーけど、マジで行けんの?』

『ぷはー。……実際のフィールド見ないと正直確証は無いッス。けど、《ドミネイターズ》が戦力のぶつけ合い勝負じゃないのは、間違いなく俺らに有利ッスよ』

 

 自身と信頼に満ちた良い表情をする祐士。

 その顔を見て暁は、半分程吸った後で持て余していた煙草を灰皿に落としてから、口端をニッと上げた。

 

『……そこまで言うなら信頼するかな。殺ってやろう』

『うッス。死ぬときは一緒ッスよ』

『うわー嬉しくねぇ』

『冗談ッス。俺を生かす為に盾になって死んでください』

『御免被る、お前がやれ』

 

 いつの間にやら、祐士が手にする煙草は1/3が燃え尽きていた。

 

 

「お待たせッス、ファイヴさん」

「おー。まぁ特に用も無いんだけどさ」

 

 ファイヴは思考を現在に引き戻す。シカゴは、普段のマルチカム迷彩のコンバットシャツの上からしっかりとプレートキャリアとチェストリグを着用していた。

 

 シカゴがあれだけゴロゴロと広げていた火薬は殆ど見る影もない。先ほどは即座に設置できるように用意しただけで、爆発物の類はわざわざストレージから出すだけ危険だと判断したのだろう。

 

 装備もいつも通り、手にしたDDM4ライフルと腿のM9A5拳銃。

 だが、背中にウェポンキャッチで括られた銃が、以前とは異なっていた。

 

「あーあ、買っちゃったんだなぁ」

「マジ高かったッス。その分、使い勝手は上がったッスけどね……」

 

 それは、以前までの古くさいイサカM37とはガラリと印象の違う、短めの銃身と折り畳み式の銃床(ストック)を備えた現代的なポンプ式散弾銃だった。

 そして洗練された銃本体とは裏腹に、銃口先端は凶悪そうなスパイク状だ。

 

 その名もファバームSTF/12。日本ではあまり知られていないが、猟銃や競技用散弾銃で有名なイタリアの銃器メーカーの戦闘用ショットガンだ。

 シカゴのものはスタンダードな物より軽快な、射程より取り回しと他武装との兼ね合いを重視したコンパクトモデルである。

 

「ぶっつけ本番、な訳ないよな?」

「勿論ッスよ。買ってからずっと、ファイヴさんに言われてた練習はしてたッス」

 

 論より証拠、と言わんばかりにシカゴは素早くライフルからショットガンにトランジション。

 流れるような動作で畳んであったストックを展開し、構えて見せた。

 

「……良いな、うん。それで良い」

「ウッス」

 

 それぞれが尖った特技を持つチームVICNの面々だが、何だかんだで実銃関連の知識を一番持つ――つまるところシューティングの知識を持つのはファイヴであった。

 実銃の射撃経験が無いので典型的な頭でっかちの知ったかぶりヲタクではあるが、超人揃いのGGO(ゲーム)では役に立つ物も多かった。

 

 そんな訳で、付け焼き刃も良いところであるが彼はチームメイトそれぞれに戦闘技術の指導を予め行っていた。

 それが役に立つかどうかは知らないし興味もないが、元々が手練れなのであまり心配していない。

 

 (かれ)は、ファイヴ(かれ)の役割を果たす。それだけを考えていた。

 

「……そだ。ファイヴさん、タバコ一本下さいよ」

「金欠でおかしくなったか? VRでニコチンは接種できねーぞ」

 

 ショットガンを背に戻して手を差し出すシカゴ。ファイヴはいぶかしみながらもソフトケースを取り出し、手首を軽く振ってフィルターを一本飛び出させる。

 

「いやぁ、この大会中継されてんで、ここぞって時に一服できればカッコいいかなー……なんて」

「火はどうすんだ。ライターは貸さんぞ」

「…………あっ。な、ナイフにファイアスターター付いてますし」

「ここぞという時に必死扱いて火種作って一服か。カッコイイナー」

「……いただきますよ」

 

 結局もらうのか、というファイヴの嘆息を後目にシカゴは苦い顔で紙巻きを抜き取った。

 一旦どこへしまうか迷って手を右往左往させたが、コンバットシャツの折った襟にそれを挟んだ。

 

「調整完了です。お待たせしました」

「ばっちり」

 

 女性二人がライフルを背に回して野郎二人に寄ってくる。シカゴは手首を返してデジタル腕時計をみやる。13時57分だ。

 

「うっし。――全員、傾聴!」

 

 シカゴの鋭い言葉が、プレイヤー達を戦士に変えた。

 

「事前情報で分かっていることを確認する。フィールドは一辺10km四方。拠点数は13、参加チームは俺らを含めて24。一つの拠点に入る前に、1~2回の戦闘は覚悟しておくように」

 

 シカゴはまるで熟練の分隊長であるかのような口振りで作戦会議を進行させる。事実、彼はGGO以外の軍事ゲームにも数千もの時間を掛けた手練れであった。

 

「まずは2拠点の制圧を目標に。他チームが半数近くまで減ったら、3つ目の拠点を制圧する。中央近くの拠点は危険だが、ポイントが高めに設定されている。制圧次第引いて餌と壁にする」

 

 シカゴの経験則からくる洞察と戦術は見事であった。

 確かにプレイヤーが集中しやすい中央陣地は危険な分、ポイントの増加が早い。

 

 それを牽制と誘い出しに使う――言われてみれば道理だが、ファイヴには思いつかなかったことだ。

 

「だが側面や裏取りは怖い。後方拠点にはトラップを掛けて、少しずつ制圧拠点のブロックを前進させよう。サテライトスキャンは基本的に俺が見る。質問」

 

 ここまでを一気に言い切って、シカゴはチームメンバーの顔を見回した。最初に手を挙げたのはのべ助だ。

 

「進軍方法」

「基本的には纏まって、けど団子にはなるな。場合によっては危険だけど分割する。何より俺以外の機動力を無駄にするのは惜しい」

「はいっ、その時はどう分けますか?」

 

 次にアイリスだ。彼女はとりわけこのチームでも戦術面に疎かったが、何とか役に立とうという姿勢が見受けられた。

 

「基本的に、俺とライフル組がひとかたまり。スポッター兼ポイントマンになる。もう一人はスカウトとして少し離れたところから隙を突いてもらう」

「……俺は?」

「次の拠点に直進。囮になってください」

 

 便乗するように自身の役割を訪ねたファイヴは、そのまま表情を凍らせた。

 

「…………冗談だろ?」

「まさか。何のためにリーダーをファイヴさんにしたと思ってんスか」

「聞いてねぇぞ!?」

 

 大会中に10分間隔で行われるサテライト・スキャンは、チームのリーダーの現在地のみを表示する。つまり、チーム登録時点でリーダーに設定された人物が一番危険であるのだ。

 それを囮に使う戦術はある程度の有用性がある。が、そのリーダーが倒されれば権利はチーム内の次席へと移る。チームに生存者がいる限り、サテライト・スキャンからは逃れられないのだ。

 

「言ってませんでしたっけ? まぁキロ単位で距離離して孤立なんてさせませんし、大丈夫ッスよ」

「お前なぁ……」

「それに、接近しないと当たらんでしょ」

「……しゃーねーなぁ」

 

 遠距離攻撃が苦手という点を突かれ、ファイヴは帽子の鍔を抑え沈黙した。

 

 ついに、《ドミネイターズ》開始まで秒読みの時間となった。シカゴはニット帽を被る。

 

「んじゃ、こんなもんかな。最後に――」

 

 人の優しそうなイケメン青年は、その傷面にふさわしい殺戮者へと表情を変えた。

 抱えたライフルのチャージングハンドルを引くと、他三人も各の長物に初弾を装填した。

 

 金属と金属が擦れぶつかり合う音。銃達の、威嚇の唸りが連鎖する。

 

「――――障害は全員、殺せ」

 

「了解です」

「らじゃー」

「アイアイ、サー」

「……揃えてくれよぉ」

 

 シカゴの泣き言を最後に、彼らは暗黒空間から戦場へと飛び立った。




 ある描写を書きたいと思いついたので、主人公の銃を変更しました。

 鉄砲関連に興味のない方は「前の銃より装弾数が少し減った」くらいに考えていただければ結構です。
 混乱させるようなことをして済みません、よろしくお願いします。
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