ガンゲイル・オンライン ザ・ドミネイターズ   作:半濁悟朗

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#02 浪漫と変態が両方そなわり最強に見える

 そんな具合で意気揚々とファイヴ達はフィールドに繰り出した。そして死にまくった。

 何せ光学銃を使用すること前提で設計されているモンスター達だ。拳銃弾でチマチマ削って倒しても、稼ぎは軒並み赤字だ。

 

 ならば弱点なり急所を狙うという話になるが、ファイヴの持つ拳銃は競技用でもなし、ゲーム側のシステム補助があっても精密射撃というのはなかなかに骨が折れる。

 ファイヴの狙撃適正というか堪え性のなさも相まって、何故か普通に戦うよりも弾を使うというバカらしい結果になることもあった。

 

 当てられなければ当たるまで近づけばいい、という話だが、それを好機と見たモンスター達はこぞって近接攻撃を仕掛けてくる。それを食らった結果防御力皆無のファイヴは幾度となく死に戻りを経験したのだった。

 

「先輩……そろそろ諦めませんか。光学銃買うくらいの金なら俺が奢りますんで」

 

 ファイヴの死亡回数が二桁に届いてからしばらく後(まだ序盤の序盤である)、拠点の街に先回りしたシカゴが呆れたように頬を掻いていた。

 

「んー、悪ィけどもう少しだけ付き合ってくれ。何かイケそうな気がしてきたんだ」

「ハァー……ま、ガンオタ病のファイヴさんを誘った手前、俺も覚悟はしてたッスよ」

 

 大きく溜め息を吐きながらも、シカゴはファイヴにM1911A1を手渡す。先刻ファイヴが死んだ際にドロップしたものだ。

 

「で、イケるって言ってもどうするんスか」

「急所をコイツで吹っ飛ばす。一発で」

 

 ファイヴはやっと買えたナイロン製のホルスターに拳銃を納めながら、得意げにニタリと笑った。

 

(同じじゃないか……今までと)

 

 シカゴは眉を顰めつつも、渋々といった風情でM37ショットガンに散弾を装填した。

 

 

 そうと決めてからのファイヴの死亡率は、ぐっと減った。

 戦法は変わらず、全力で敵に近づいてから銃を抜く。だが違うのは、そこから発砲しなくなったこと。

 

 まずは回避に徹した。六つ目のデカいイノシシのようなモンスターの攻撃を避け続ける。突進はタイミングを見て飛び越し、暴れ回った時には冷静に最小限の距離を取った。

 

 スタミナ切れは狙えない。何せ相手はプログラムだ。しかもファイヴのプレイングを学び、徐々に回避しづらい行動を取ってくる。

 だが、ファイヴだって学んだ。それにこちらは人間だ。()()()()()()()データの裏をかくことなど、造作も無い。

 

 イノシシの行動を把握しきるまで粘りに粘ったファイヴは、何度目かも分からないイノシシの突進を鞍馬競技を行う体操選手のような挙動で回避した。

 

 イノシシはファイヴの狙い通り岩に激突。背後でひっくり返った哀れな獣にファイヴは悠々と近付き、首元に45オートを突きつけて一発。

 生命体の弱点である脳を大口径拳銃弾に破壊されたイノシシは、無惨にも光り輝くポリゴンとなって四散したのだった。

 

 

「すげぇッス! 今のすげぇッスよ先輩!」

 

 近くの茂みに身を隠していたシカゴが喜々として走り寄ってくる。それに対してファイヴはガッツポーズで応じた。

 

「やったぜシカゴ! どーだ実弾銃でもやれたじゃねーか!」

「いや、俺は真似できないッスよ……何スかさっきのスタイリッシュ回避!」

 

 シカゴが紙一重の回避を繰り返すファイヴの様を録画していたと言うのでファイヴも見てみる。本人も驚いたは、思いの外かなりギリギリで避け続けていた事だ。

 特に最後の回避に至っては、高速接近するイノシシを片手で()()()にしてロンダート――着地時に後方受け身まで行うという曲芸っぷりだ。

 なるほど確かに、現実でおいそれと行える挙動ではない。

 

「まぁゲームだし、こんなモンじゃねーの?」

「先輩、もしかしてバイトでスタントマンとかやってんスか?」

 

 ファイヴのステータスはごく低く、敏捷性(AGI)も初期値だ。当然ながら軽業(アクロバット)などのスキルも習得しておらず、ならば可能性はプレイヤー自身が現実で行える技能という事になる。

 

「いや、全然?」

「……にしちゃ、今の動きはちょっとヤバめッスよ」

「まぁ、ゲームだし。想像できれば体が動く、ステが足りりゃあ実現できる。そういうもんじゃね?」

「そんいうもんスかねぇ……」

 

 ファイヴとしてはほとんど無意識下での動きだったが、なかなかに得難い才能であるとシカゴは結論づけた。

 彼の話によると、タンブリングのような動作で戦闘を組み立てるプレイヤーには前例があるらしい。

 

 その名を《ペイルライダー》。第三回BoBに突如出現し、そして忽然と姿を消した神出鬼没のアバターであった。

 

「これはかなりの強みになるッスよ先輩。ペイルライダーみたいな軽業(アクロバット)を生かしたアバターはそう多く居ないんで対策されてませんし、先輩のスタイルとも噛み合います」

「それにカッケーしな! 浪漫重点、それ大事」

 

 男二人は街に戻ってから、公開されているBoB動画の中から数少ないペイルライダーの戦闘シーンをどこぞの外人4コマよろしく騒ぎながら視聴し、ファイヴの育成方針を決定した。

 

 

 まず候補に上がったのは敏捷性(AGI)一極型。だがこれは両者共に即刻断念した。

 

「未だにAGI万能論はありますけど……ファイヴさんが紙耐久だとすこし不安が残りますね」

筋力(STR)無振りとかガンゲーやる気あんのか」

 

 という事でAGIはそこそこ振るに留め、能力値(アビリティ)ボーナスを他に回すことに。

 

「そういやペイルライダーはそれほど速くは見えなかったが、あんだけ動けるってのはどういうカラクリだ?」

「多分、ステータスはSTR多めに振ってるんでしょうね。その上で装備重量を抑えて、三次元機動――ようはジャンプとかバック転とかに補正(ブースト)掛けてるんスよ」

「なるほどな……まぁSTR振っときゃ重装備も出来るし困らないかもな」

 

 という具合に、最優先はSTRを伸ばすことに決定。そこからはとんとん拍子であった。

 

 ファイヴが目指す戦闘スタイルは、派手な動きと射撃精度を両立させねばいけない。不安定な姿勢・構えからでもある程度の命中精度を持たせるために器用(DEX)は重要だ。

 

 そしてどれだけ速く動こうとも、被弾する時は被弾する。

 BoB動画を見る限りペイルライダーも、弾道予測線(バレットライン)無しの狙撃に倒れていた――そこからどうなったかはいくら探しても動画がみつからなかったため不明だが――とにかく、当たる時は当たってしまう。

 そして、ファイヴは何かとそそっかしい。シカゴの強い勧めもあり、生命力(VIT)も少なからず振っておいた方が良いだろうという事で決着。

 

 残りのステータス――(LUK)は、ステータスボーナスが余ったら振っておく程度。何に役立つかは分からないが、無いと困りそうだ。

 

「オイ、知力(INT)って何だよ」

「あー、それは化学ガスとか電磁スタン弾(スタンバレット)の効果に影響したり、ステ値が高かったら索敵に……」

「面倒だな、要らん」

「ちょ」

 

 知力は男らしく(?)無振り。

 という事で、ファイヴはメインSTRにサブAGI-DEXのバランス型に決定した。

 

「そうそう、スキル《軽業(アクロバット)》は絶対取ってくださいね。それ前提の能力構成(ビルド)っスから」

「うんうん……ちょっと待て、《軽業》の要求SP(スキルポイント)結構高くねーか? 他のスキル全然取れねーぞ」

「あー……まぁ、アクロバット系アバターがあまり流行らない理由の一つッスね」

「他は?」

「活かしきれない事ッス」

「なるほどね……産廃か、はたまた変態用って辺りか」

「ファイヴさんがその変態になるんスよ」

 

 そんな具合で野郎二人は西部劇調の酒場(サルーン)のカウンターでスキル習得ウィンドウや攻略Wikiと睨めっこを繰り返した。

 

「多分ペイルライダーは《散弾銃習熟(ショットガンマスタリー)》くらいしか武器習熟(マスタリー)取ってなかったでしょうね。……ファイヴさんは武器、どうしますか?」

「ハンドガン」

「……いや、まぁそりゃそうなんでしょうけど」

 

 現代兵士の標準的な主兵装であるアサルトライフルの有効射程はおおよそ300~500メートルはあるのに対し、拳銃は精々50メートル。他にも装弾数や弾丸の持つ運動エネルギーなど殆どの要素で勝負にならない差がある。

 鉄砲オタクであるシカゴはその事を把握しているので危惧したし、ファイヴも当然承知していた。

 

 だが、所詮ゲームだ。殺されて本当に死ぬ訳ではない。《軽業》などという現実性を一切無視したスキルを軸にしたビルドを行うのだ。

 ネタに走って怒られるような人とは付き合う気も無いし、別に構わないだろうと彼は考えた。

 

「二挺拳銃しよう」

 

 ファイヴは不敵に口端を吊り上げると、ストレージからイノシシの戦利品に対し具現化コマンドを実行。ウィンドウを操作していた左手に光が集い、それは一挺の拳銃の形を伴って質量を持って現れた。

 

 そのハンドガンは無骨なM1911とよく似つつ、しかし大型の照準器(サイト)やラバー製のグリップが実戦的な印象を持たす自動拳銃であった。

 黒一色の精悍な雰囲気の内、唯一シルバーであるトリガーには3つの穴が開いている。そのまんま『スリーホールトリガー』と呼ばれるそれが、鮮烈に個性を主張していた。

 

SFA(スプリングフィールド)のMEUピストルッスね。ここらじゃ割とレアドロップっスよソレ」

「マガジンも流用できるな、運が良い」

 

 米国スプリングフィールド・アーモリー社のMEUピストルは、ファイヴがもつM1911の他社改良品――いわゆる1911クローンと呼ばれる物のひとつである。

 

 その中でもの銃は特異な経歴を持つカスタムガンだ。

 かいつまんで言えば、拳銃を新調する為に法的に面倒な手続きを渋った米国海兵隊が「元々持ってる銃の整備パーツって事にすれば手続き要らないんじゃね?」というトンチじみた手法で1911をアップデートしたものだ。

 

「少しは弾代も浮きますね。……で、本当にそのコルトとMEUで二挺拳銃するんですか?」

「いや……GIの1911は古すぎる。MEUも古いっちゃ古いが、できればもう一挺も何とか調達したいな。……手に入るモンなのか?」

「高レベル帯のレアドロに関してはサーバー内の個数が決まっているのもあるんスけど、高レアリティのハンドガンくらいなら割とアバターの経営店にある事も多いっス」

 

 もはや二挺拳銃程度の暴挙には驚かなくなったシカゴが冷静なアドバイスを出す。

 ――僅かだが、ファイヴなら二挺拳銃でも戦えるのではという個人的な淡い願望も込めて――

 

「まぁ二挺拳銃なんかでこの先ずっとやっていけるわけもねーし、別の武器使う必要あるよな」

「俺の希望かえして」

「いや、冷静に考えて無理だろ。近接ロマン特化にしても二挺拳銃じゃ火力がサブマシンガン並かそれ以下か……あ、そうだ。サブマシンガンも二挺持てば解決だな。交戦距離を何とかする方法は上手い事考えないとなぁ……。《軽業》が重い以上、SP振りはよく考えねーと……あ、《武器習熟》ってもしかして――――やっぱりな。コレ、使えるかもな……」

 

 

「あ、サーセン。バーボン二つ、ロックで」

 

 長考に入った際のファイヴは話を切かなくなる事を、シカゴは一年以上の付き合いで良く把握していた。諦めてサルーンのマスターであるNPCに注文を行う。

 

 気さくで豪快そうな西部のおっさんNPCは、小さく溜め息を吐くシカゴとファイヴの前にゴトリとオールドグラスを置いた。

 その事にも気付かず、ファイヴは顎に手を当ててぶつぶつと声を漏らしながら思考を続けるのだった。

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