疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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大国の狭間で

 いつも孤児で賑やかな集落が、不気味なほど静まり返っている。

 今日の会議はこの村の存亡に関わるとても重大なもの。子供たちは全員中流の新興地域に移動させ、ここにいるのは砂、木の葉、我が理想郷の要人とその護衛のみ。

 砂は、なんと風影が直々にやってきた。護衛もそれに見合った強者揃い。国境付近の地域に対する領土的野心と、慢性的水不足解消への国の意気込みが伺える。

 対して、木の葉が送ったのは志村ダンゾウ。三代目火影の右腕にして木の葉の裏の顔と呼ばれる。隠そうともしない溢れっぱなしの卑の意志が、いっそ清々しく思えるほどの曲者である。彼の護衛は仮面をつけているが、ダンゾウと同じく後ろ暗そうな雰囲気が漂う。

 比べて、我が理想郷からは綱手と豪。護衛は初と長袖という悲しさ。俺は1キロも離れて白眼で周囲を警戒している。

 

 組織の実質的なトップは俺だが、名目上は綱手がトップであり外交官は豪である。だから今回の会議も、俺が出ずとも成立する。木の葉との会談は姿を白眼で見られてしまう可能性があるので、俺は出たくない。綱手がいて助かった。初代火影の孫で千手一族の実質的な当主でもあるから、権威という意味でも助かる。砂は気に食わないだろうがな。

 

「この水事業に最も深く貢献したのはうちだ! 人的資源は半数以上! だというのに、主要な役職に砂の人間は一人もおらず、給与も支払われていないという! これは、土地を無断で使用することを許してきた我が里に対する重大な裏切りである! 即刻謝罪と賠償! そして待遇の改善を要求する!」

「笑止! ここは川の国であり、風の国の領土ではない! 事業を始めたのは木の葉の創設者である千手柱間の孫に当たり、自身も非常に優秀な忍びである綱手! また、孤児や難民に対する無償援助の施設なのだから、給与が出ないのは当然である! それに集ろうなどという輩は盗賊に同じ! 必ずや正義の鉄槌が下されることになろう!」

 

 風影もダンゾウも国益優先の言いたい放題だ。妥協する気がない。

 しかし、やはり風影の方が要求がキツいな。切羽詰まってるのもあるが、もともと強気外交なのだろうな。

 ダンゾウは、組織が綱手のものだと認めさせれば勝ちだと思っている感じだな。たぶん、綱手がいる限りいざとなったら木の葉のために動くと思っているのだろう。

 その後、この土地の歴史やら戦争の状態やら、だからどちらの土地だという舌戦が繰り広げられた。どちらも相手の言葉に耳を傾ける気はなく、壁に向かって知恵比べしているようだった。

 

 動き始めたのは、昼食のときだった。豪がトイレから出たとき、ずいと砂隠れの忍びが寄ってきた。

 

「お前のガキは、こいつだろ?」

 

 忍びは豪に、アラレとミゾレが写っている写真を見せた。

 

「かわいいな。誘拐されないか心配だ」

 

 脅しだった。忍びはクナイを舌舐めずりし、豪に見せつけた。豪は汗をダラダラ流し始め、ついには折れてしまった。

 

「あ、あの、私は砂こそがもっとも事業に貢献し、その富を得る資格があると考えています」

「ほう?」

「待たれよ。そこの御仁」

 

 しかし、そこでダンゾウが現れる。ダンゾウは豪の額に手を当て、幻術を解く。

 

「はっ。私は何を……」

「幻術です。砂め、愚かなマネをした。公正な会議の場で」

「そんな……」

「ちっ」

 

 砂隠れの忍びは逃げていく。ダンゾウは豪を守るように立ち、犯人を追いかけはしなかった。

 

「すみません。犯人を逃がしてしまいました」

「い、いえ。私どもの責任です。まともな護衛がおらず」

「いえ、我々も情けないのですよ。木の葉は痛みを知った。戦後間もない今、彼等の機嫌を損ねないよう必死なのです。しかし彼等は我々の意志を理解してくれているのかどうか……」

「そうだったのですか。お察しします」

「ありがとうございます。そのような状況ゆえ、誠に情けない話ですが、今回のことも見なかったことにしていただければ」

「え、ええ。私は構いませんよ。このようなことはしょっちゅうですから」

「そうでしたか。やはりこれだけの規模の代表となったら経験が違いますな」

「忍びのダンゾウ様とは比べられませんよ」

 

 ふむ。砂には強引で残虐な印象を。ダンゾウには無害な弱者の印象を与えることに成功したわけだな。さっきの忍びは、議場にいた誰ともチャクラの性質が異なるし、外から入った形跡もないから、口寄せだと思うが。しかし影分身だったようで、フッと消えてしまった。誰が呼んだんだあいつ? 悔しいが分からなかった。

 俺は、ダンゾウが怪しいと思うがな。状況がダンゾウに有利になったことを考えると。

 俺は親衛隊の一人を遣いに出し、そっとそのことを豪に伝えさせた。

 

 

 午後からはわりと早く決まっていった。

 

・速やかに風の国側へ水路の拡張を行う。その時の都市計画は風の国が用意し、風の国の了承なしに工事を進めてはならない。

・ダムの水の割り当ては利用する土地の広さに応じるとする。

・ダムの所有権は川の国側とする。

・砂の領土の警備は砂が、川の領土は川が行う。

・川の国は土地の所有者に無料で水を与える。所有者が水やそこで取れる作物を売るのは自由。

・川の国の審査の元で難民への無償援助を行う。風の国、火の国共にこの審査には関与しない。

・以上が守られているかどうかの監査機関を置く。火の国、風の国から1名以上の3人からなり、選考は川の国側が行う。

 

 その他取り決めもあったが、大まかにはこんな感じだった。風影は終止「遺憾である」と口では不満げだったが、表情は穏やかになっていった。逆にダンゾウは眉間にシワが寄るばかりだった。

 特に二人の明暗を分けたのが、水の割り当ては土地の広さに応じる、というものである。川の国より風の国の方が大きいから、やがて水は風側に取られてしまう。風影は当然それを理解しており、大人数で押し掛けて川の国の富を絞り尽くすつもりだろう。ダンゾウとしては、味方であるはずの綱手が敵に塩を送っているようなもの。おもしろいはずがない。隣国の繁栄は木の葉の防衛にとって凶なのだ。少なくともダンゾウはそう考えている。

 

「どういうつもりだ! 綱手!」

 

 対談後、ダンゾウは綱手に食って掛かった。

 

「どうも何も、私は生活が困難な人に仕事と食事を与えたいだけだ」

「ふざけるな! そのような子どもの遊びで木の葉を危険に晒そうと言うのか!」

「知るか。私の勝手だろ。別に木の葉を貶めたいわけじゃない」

「な、なんという愚かな……。初代様も二代目様も、草葉の影で泣いておるわ」

「あん? じい様がこんなことで泣くわけないだろう。あの人の何を見てきたんだ?」

「ぐっ。……二代目様が泣いておる。火の意志がこんな輩に蔑ろにされていくなんぞ」

 

 ダンゾウは綱手に強く出れないようだった。やはり千手の血は尊いのだろうか。

 結局、ダンゾウ達は不満そうに帰っていった。

 

 さて、今回の取り決めで俺達に特だったことなど何もない。多少の安全の口約束はもらったが、この忍びの世界でそれが何になるのだろう。俺は全く信用していない。

 二里の要人が完全に去ったのを確認してから、俺は幹部を集めた。

 

 円卓に並ぶ7人。俺、綱手、豪、初、長袖、イズモ、ついでにクシナだ。クシナはバカだが戦闘力は3番目。美女でもあるし、是非ともこの集落に残ってほしいので、代表補佐という重要そうな役職を与えた。

 

「今後の防衛と緑化についてだが、まずイズモさんがいるので緑化について話したい。聞いたとは思うが、水の割り当ては土地の広さに応じることになった。おそらく砂隠れは人海戦術で一気に土地を増やし、水を奪うだろう。畑と呼べないような粗末なものさえ畑と言い張ってな。しかし、これはもう止められないこと」

「申し訳ありません」

 

 豪が力なく頭を垂れる。

 

「いや、いい。俺は、今回のダムはくれてやろうと思ってる」

「えっ」

 

 綱手を除く全員が驚いたような反応をする。俺の治水に対する熱意を知っているからだろう。綱手も不満げだ。

 

「砂がどういう里なのか分かったのはよかった。豊かな土地に寄生し、吸い尽くしてくる。ならば今度は、囲い込む」

「今度ですか?」

「ああ、二つ目のダムの話だ」

「えっ」

 

 驚きと、まだやるの?、という呆れの反応があった。

 やるに決まってるだろう。俺のダムに対する思いはウザいぞ。

 

「今は大して雨が降らないが、緑化によって定量的に降るようになる場所がある。そこにダムを作る。ただし、次は風の国に水が流れないようにする。川の国の平野が狭いことは分かっている。しかし果樹園ならできるし、平野が足りないなら平野を作ればいい。土遁を使えば山を均すことさえできる。やりすぎると突然地盤沈下するから、ほどほどにだがな」

 

 俺は雨が降る予想地域とダム、池、水路の予定地を示す。主にイズモが反論を述べる。

 白熱の議論の末、現地調査で一旦決まる。イズモには出ていってもらい、次は軍事を話し合う。

 

「正直今回のことで砂は憎い。だが、一般人は別だ。俺は、彼等を味方につけるべきだと思う」

「ほう?」

 

 綱手が片眉をあげる。軍事は主に俺と綱手の会話になる。

 

「俺達が田畑を耕せば、彼等は俺達に感謝するだろう。特に若い忍びに働きかけるのだ。俺達は仲間であり、戦争が起きたとしても攻め込むことはできない、と思い込ませるように。積極的にな。そうすれば、次の条約で有利に立てる」

「しかし、具体的にはどうするのだ? 引き込みのようなことをすれば怪しまれ、最悪戦争になるぞ」

「分かっている。だからいつも通りでいい。貧しい人に食事と仕事を与える。共に汗を流し、食事をし、風呂に入る。こういう交流を積極的に行い、両国民に信頼関係を作る。忍びの合同訓練も行った方がいいだろう。子どもの遊びという形でもいいから」

「ふむ。では砂が理不尽な要求を出したとしても、従う姿勢を見せるということだな。それをこちらの民にも納得させる」

「ああそうだ。従う姿勢を見せていれば、こちらの軍事拡張に対する砂の反発も小さくなる。この間に一気に防衛力を高める。問題はこちらの民の反発。文化が違うのだから、摩擦は起こるだろう。おそらく風の民の方がこちらより野蛮で犯罪が多いだろう。水の配当に対し、砂に富を奪われたという感覚も持ってしまうだろう。彼等に我慢させなければならない。俺は、砂の移民が、先の移民に感謝を示すよう誘導する必要があると思う。定期的に感謝のパーティを開かせよう。また、こちらには山奥で静かに暮らしたい者が多い。そういうやつらには、第二のダムで希望を与えるんだ」

「なるほど。そう考えれば第二のダムも無駄ではないな」

 

 その後、忍びの育成の話に移った。人員増強。人選の基準。個人の技量。小隊の編成。修行の評価、見直し。などなど。

 また、どうも俺の木遁で作った大地の実がチャクラ増強に効果的らしいので、綱手はそれの実験がしたいと言った。医療の実験と平行して。


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