襲撃
予想通り、砂は無茶苦茶な土地開発を始めた。適当に砂を掘り起こしただけの場を指さして「畑ができたから水を寄越せ」と言ってきたり、土遁で川のような溝を掘り、勝手に水路につなげたり。極めつけは植林した木の泥棒だ。俺たちの土地の木を盗み、自分の土地へ植えたり薪にして売ったりする。せっかく緑化した俺たちの田畑に、再び砂が被ってしまう。
はっきり言って、予想より酷い。一般市民は大丈夫と思っていたが、大分憎くなってきた。
俺達も、盗みやこっちの領土での土地開発は防ごうとするが、相手は万単位で押し寄せるから対応しきれない。しかも「我が国民に手をあげるとは何事か!」と言って砂の忍者が妨害してくる。警備隊員にも負傷者が出てしまった。報復したいが、相手のバックが強すぎて大きく出られない。
これが放漫な大国と小国の関係か。思ったより、なす術がない。
俺達に感謝もしない。自国の忍びの力で勝ち取った土地であり、そこに居座るのが当然と思っている。しかも、先に移民していた俺達と自分達を比べ、自分達の土地の方が貧しいからもっと支援しろと言ってくる。ダムだって奪う気満々だ。「人数が圧倒的に多い我々に使う権利がある」とか言って。
俺達も頑張って土地を増やしたが、半年で風と川の水の割り当ては1対1になってしまった。強欲な人間は川の国の木々をすさまじい勢いで伐採していく。禿げ山が目立ち始めている。俺達は「森林の回復能力を考えた計画的な開発が必要だ」と訴えるが、それも鼻で笑われてしまう。風影が欲を煽っているのもいけなかった。「土地を開発した人間はその土地を得ることができる」と言ったのだ。だから適当に大きいだけの畑を作ったり、盗んででも植林したり水路をつなげたりする。
少し風向きが変わったのは、砂側に保守層が出始めた時だ。彼等は勝手に水路をつなげ、木を奪ったが、自分がそれをされるのは許せない。そして砂の忍者に泥棒の監視を依頼する。こうなって初めて、俺達と利害を共有し、協力を求めるようになった。
また、俺が選抜した難民にも風の国出身が多数派となり、彼等も自国に対して発言をし始める。自主的に泥棒を捕まえたり、計画的な開発を訴えたり。彼等には俺の教育がそれなりに行き届いているので、計画的な開発の重要性を理解しているし、ダムを作った俺達に対する感謝の気持ちも持っている。
この状況で、この辺りには大まかに4つのグループができた。
1、俺達。川の国の上流に住んでいる。2、川の国の中流に住んでいる風の国出身の難民や移民。3、砂の国の中流に住んでいる早期開拓者。4、砂の国の下流に住んでいる後期開拓者。
風影は権利の平等を訴え、2、3、4のグループを使って俺達からダムを奪おうとする。革命思想の青年団とやらがポコポコできて、過激な活動を正義と称して行っていく。
俺達は計画的な開発の重要性を訴え、1、2のグループでタッグを組む。それに3の保守層も多少加わった。こちらは自警団を組み、犯罪を取り締まる。特に、貧しさを青年団に利用され、過激な思想に染められた子どもが多くいるのだが、彼等を更正することに力を入れた。
青年団は活発化していくばかりだった。もちろん裏には風影の援助がある。こちらの死傷者は増えていく。親衛隊は意地でも守ったが、警備隊では遂に死者が出てしまった。憎しみを乗り越えるのが大変だった。
他、綱手が襲われたり、それを返り討ちにしたら戦争するぞと脅されたり、孤児を人質に取られたり、働けないジジババを押し付けられたり。とにかく気分のよくないことがたくさんあった。
戦争はいけない。戦争してでも叩き潰したい。その思いで揺れる。
そんな中、綱手が俺に提案した。
「木の葉の中忍試験?」
「ああ。中忍の地位にあまり意味はないが、これは試験自体が擬似的な戦争となっている。最終試験は、各国首脳や大名が見守る中でのトーナメント戦だ。里の力を見せつけ、存在感をアピールするチャンス」
「存在感をアピールする意味はあるのでしょうか? どのみち砂がその気になったら攻め込んでくるでしょう?」
「言っておくが、そうなった時に木の葉がこちら側に就く保証はないぞ。その確率を高めるためにも、ここを失うのは惜しいと思わせる必要がある」
「なるほど。……そうですね。やってみましょうか」
木の葉は無視できない大国である。人口が多いから、きっとこの集落の思想に共感する人間もいる。特に若者だ。その一部を味方に引き込む意味でも、中忍試験を受けさせることにした。
さて、人選である。当然俺やクシナは出ない。また、出る場合は3人一組でなければならない。
実力順に、月、長袖、初。決まりである。
あまり多く出すと国防に関わるし、弱いものを出して木の葉に悪い印象を与えるのもよくない。十分な実力がなければ死ぬこともある。総合するとこの3人でちょうどよかった。
「まずは命を優先。危険だと感じたら辞めろ。逃げてもいい。実力は出し切れ。どうせお前たち程度なら隠すこともない。木の葉の忍びとは積極的に関われ。かと言って卑劣な人間は敬遠するべきだぞ。同志を募るのだ」
そう言って三人を送り出した。特製の大地の実を一人5つずつ手渡して。
一週間後、3人は無事帰ってきた。全員最終試験まで残ったらしい。最終試験は各国大名を募って一ヶ月後に行われる。それまで修行だ。
なお、同志についてたが、思想はともかく、長袖に交際を申し込んだくの一が4人、初と月を勝手に守った少年が2人いたらしい。そのうち、うちはミグシは最終試験出場が決まったようだ。
俺は驚いた。あいつの執念深さと、あの程度でそこまで残れるのかということに。
さて、1ヶ月後。3人は再び木の葉に旅立った。今回は綱手も一緒だ。
最大戦力がいなくなったわけである。俺はこの日のために大地の実を大量に用意し、親衛隊警備隊に配った。また、パーティと称して周辺の人間を集落に固め、守りの配置を簡単にした。
そして、待ち構える。来る、やつらなら。そんな予感はしていた。
10時を少し過ぎた頃、中流の居住域から爆音が響いた。
森を飛び越える巨大な土煙が舞い、その土煙の隙間から巨体が見えた。白眼がなくとも見えるほどの巨体だった。
「なんだあいつは?」
見たことのない謎の巨大生物。膨大なチャクラを纏い、暴れる。そのたった1つの挙動で、いくつの命が失われてしまうだろう。しかしやつは止まらず、悲劇を増やし続ける。
「あいつ一尾だそうだってば!」
クシナが叫び、飛び出していく。
「待っ! もう木遁分身が向かっ!」
聞いちゃいなかった。飛び出したっきり森に消えていった。俺は白眼で見えているが。
確かに、あいつの巨体やチャクラは九尾に似ている。本当に尾獣なら俺の分身だけで押さえられるだろう。俺こそが天敵なのだから。しかし、その場に尾獣以外の敵もいる可能性がある。そう考えたらクシナがいてもいい。人口比で言うと、この集落周辺が800人に対し中流は1500人。なのに守りが木遁分身だけってのは酷い話だしな。まあ国境警備隊って組織があるにはあるが。30人くらいでほぼ全員下忍のレベルだからな。
もっとも、砂の忍びが風の国出身の人間を襲う確率は低いと思ったから、こっちに守りを集中させたわけだが。やつらの闇の深さを見誤って読みが外れてしまった。
と、尾獣とは別の方向から急速に接近する集団あり。1、2、3、4……。ざっと100くらいか。多いな。本気で潰しに掛かって来てやがる。
青年団の見知った顔がちらほらあるな。フリーの抜け忍みたいなやつもいる。あっ、ただ道を歩いてるだけのお爺さんを殺しやがった。何てやつらだ。
ん? 雨隠れも何人かいるぞ。半蔵め。妙なところで出しゃばりやがって。くそったれが!
「俺の分身を中心に迎え撃て! 常にチームで動き! 深追いはしないように! それと警備隊は意地でも親衛隊を守れよ! この戦場で生き残ったものには親衛隊との交際も認める! 親衛隊見習いは待機! 非戦闘員の護衛と後方支援に徹せよ! 散!」
警備隊24名、親衛隊45名が、俺の木遁分身と共に飛び出す。親衛隊は3人につき木遁分身一人、警備隊は6人につき一人だ。また、ジョーカー的に綱手の影分身が3人混じっている。木の葉にいる彼女へも、口寄せしたカツユを通して情報は伝わっているはず。応援が来るまで、3時間ってところか。
こちらの実力は俺と綱手が上忍。釜倉と竹が中忍。他は下忍程度だろう。クシナがおそらく上忍の実力を持っているが、向こうに行ってしまった。
対して、敵は上忍が5人ほどいる。総人数も多い。単純な実力では不利かもしれない。しかしここは俺達のホーム。罠と土地勘を考えれば、こちらの方が有利ではあるだろう。問題は死者をどこまで押さえられるかだ。特にメイド隊の。自宅警備兵も、なんだかんだいい子達だしな。
戦場が動いた。砂の忍びが罠にかかって一人脱落。いや、もう一人。さらにもう一人。おっと、大蛇の縄張りに入って戦ってるやつもいるな。しかも苦戦してやがる。
まあ、こいつらは雑魚だから大した意味がないが。
小さな山を1つ越え、谷に向かう忍び達。そこには予め痺れ粉を撒き散らす花を大量に配置している。かかった。一人、二人、三人。よし、次々に眠っていくぞ。幻術を解こうとして意味がなかったやつもいるな。こいつは科学であってチャクラではないぞ。
おっと、医療忍者が出てきやがった。気づいたな。風で粉を吹き飛ばし、治療に入る。だが、俺の分身がもう来たぞ。
「土遁、土砂崩し」
予め崩れやすくしておいた山だ。少ないチャクラで大量の土砂が襲いかかる。動けない忍び、治療中の医療忍者にはなす術なし。一気に30人くらい殺ったか? いや、復活して地面から這い出てるやつもいる。
「木遁、挿し木の術」
地中のやつも串刺しにしておく。女はグルグル巻きで許す。戦後を考えると捕虜も必要だしな。ついでにあいつらのチャクラを集めて、俺の回復もできるしな。
だが、土砂を免れた生き残りがまだまだいる。こいつらは精鋭ばかりだろう。喜んでいる暇はない。別の山から来てるやつらは全員無事だしな。