疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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急に雰囲気を変えてしまってラブコメ風に


嵐の後に

 白眼で見てみれば、目の前の天井は知っているものだった。第二ダム近辺に建設中の要塞(俺の家)の医務室だ。ベッドは負傷者で満杯。俺でさえ床行きだったのだから、それだけ重傷者が多かったということだろう。しかし、見る限りでは、戦場で撤退した者は皆生きている。ミゾレも、月も。おっ、クシナもベッドで寝ているな。ミナトについていくかもしれないと思ったが、心は俺の元にあったか。順調だな。

 

「あっ」

 

 おっと、声が出てしまった。だが驚くのも仕方あるまい。九尾がデカイ図体のまま、庭で寝てるんだから。尻尾を枕にして気持ち良さそう。

 気持ち良さそうと言えば、シズネもだな。看病していたのか、月のベッドに上半身だけうつ伏せになって寝ている。まあ、解毒とかをやったのは綱手の影分身だと思うが。

 

「そう言えば綱手さんは?」

「綱手さんは、木の葉です。砂の難民の対応をするために。それに、ここの取り扱いについても火影達と協議を。難民も集落も全て上手くいくよう取り計らうから、騒動などは起こさないで欲しいそうです」

「そうか。苦労をかけるな」

 

 本当にあの人がいて助かったな。有事には俺ができないことをいくつもやってくれる。普段も、なんだかんだ子どもの面倒を見るし、医療ができるし、修行をつけてくれるしな。感謝だ。俺が貯めた金は当然のように全額使うがな。

 

 しかし、難民か。ここにどれだけ入るかな?

 ここは第一ダムの南東に当たる盆地だ。俺達が緑化した中流下流の影響を受けて、少しずつ雨が降り始めていた。が、まだダムに水はそれほど貯まっていない。砂のあの連中の伝統を考えると、せっかく緑化した自然もすぐになくなるだろうから、ここから状況がよくなることはないだろう。今いる800人だったら、まあなんとかなるが。雪一族でも温度差を利用して水を作ることはできるしな。

 だが、砂の難民を受け入れるのは、どうだろうな。俺が木遁でせっせと食糧を作れば賄えると思うが、それでは完全に俺に依存することになる。健全ではない。いや、緊急事態だと考えれば、それでもやった方がいいかもしれないが。

 しかし、食糧以上に砂の侵攻が心配だな。ここも壊滅となったら目も当てられない。木の葉に泣き寝入りして命だけ救ってもらって、俺は奴隷コースだろうか。いや、あれだけ木遁を使ったのだ。既に俺のことはバレただろう。日向の呪印による奴隷コースは免れないかもしれない。

 だが、日向ヒザシが俺を逃がすのに協力したというのが気になる。彼も今は日向の分家として生きているから、俺に同情したのだろうか? そうだとしたら、彼を頼ることはできるかもしれないな。闇の中に薄明かりありか?

 

「俺の今後については、何か聞いているか?」

「ええ。木の葉の要求としては、難民を受け入れる代わりに、砂との戦争に全面的に協力しろとのことです。私たちも、戦える者はもちろん、戦えない者も後方支援などを積極的に」

「まあ、そう来るだろうな。あいつらなら。そして、従ったからと言って難民の面倒を見るとは限らない」

「私もそう思います。特に大蛇丸とダンゾウが子どもの受け入れについて怪しい動きを見せているようです。綱手さんが言っていました」

「人体実験だろうな。俺も大蛇丸にやられかけたことがある」

「えっ! 本当ですか!」

 

 ダン、と初が立ち上がった。順調にメイド化しているな。今は夜で皆寝ているから、騒がないで欲しいが。

 

「あまり大きい声を出すのはな」

「す、すみません」

「いや、いい。それと話の続きだが、俺は日向だったから大丈夫だったんだ。木の葉の日向は、白眼を血族で保存することに躍起になっていて、里の人間だろうとそこに踏み込むことは許さない。ダンゾウも大蛇丸も彼等を敵に回すことを恐れた。だから俺は助かったんだ。今は当主が変わったから、どうなるか分からないがな」

「なるほど。そんな事情があったのですね」

「そう言えば、戦争は休戦状態と聞く。俺達がいつ木の葉側で参戦するとか、そういう話はあったか?」

「いえ、私のレベルでは、そういう話は聞かせてくれません。明日の昼前に、木の葉から使者がくるそうです」

「そうか。その時に難民の話ができたらいいな」

 

 俺は再び眠気に誘われた。初の頭をゆっくり撫でてから再び横になった。

 

 

 翌日、医務室で目覚める。まずは人数の確認から始めた。親衛隊25人、警備隊15人。もう一度数える。親衛隊25人、警備隊15。もう一度。もう一度。しかし人数は変わらない。

 

「すまない。皆……」

 

 戦争は残酷だ。悲劇しか生まない。起こしてはならない。

 分かっていたが、泣けた。

 

「あああああーー! うわああああーーー!」

「いやだああああ! ゆりちゃんんんん!」

「サツキお姉ぢゃんのバガア! また会えるっでいっだのにい!」

「めええええええい!」

 

 皆も悲しいようだ。特に小さい子が盛大に泣いている。

 親衛隊、警備隊の子も目が赤いけど、賢い子が多いから、大人の真似をしてじっと耐えてるな。

 

「うおっ。うおっ。おっおっ」

 

 お? かと思えば、14歳のダイナ・イシが泣いている。今回の戦いでは、親衛隊の五番隊隊長任せた。それも、忍術の才能はなく、厳しい修行により伸ばした体術だけで上り詰めた気の強い子だ。だが、やはり辛いか。

 俺はそっと彼女に近づき、ティッシュを手渡す。

 

「あ、ありがびっ。んっ、ングシュウウウ」

 

 盛大に鼻をかむイシ。しかし終えると、また泣き始める。

 

「う、うおおおっ! うおおおおっ!」

 

 普段我慢強い分、失敗に対する悲しみが大きいのだろうか。逆に、失敗に対する恐れが大きいから、我慢強くなれたのかな? 俺もつられて泣きそうだ。

 

「すびばせん! 師匠、すびばせん!」

 

 あっ、うん。なんだか、師匠呼びが間抜けで笑えてしまう。すまないなこんな時に。

 

「どうした? お前のせいで負けたと思っているのか?」

「いや! ちがっ! 私がもっと、上手くやれていたらとは思います! でも、実はそうじゃなくて!」

「そうじゃない? いや、別に責める気はないが」

「違う! わ、私は! 愚かすぎる! 殴ってください! 皆が仲間のことで泣いているのに! 私は自分のことで泣いてしまってるんです!」

「え?」

 

 いや、俺の目にはそうは見えないが。

 足のことを言ってるんだろうか? 彼女は先の戦闘中に足に毒クナイを受けた。混戦中であり、治療を受けられる状態ではなかったので、咄嗟に膝から下を切り落とした。

 

「あれか? せっかく努力して強くなったのに、足を失って無駄になったと思ってるのか?」

「は、ばひいいいい! 自分のことばっかり心配しでる! がらだをぎだえで調子に乗って、ごごろはぐさっでだんでずうううう!」

「いや、そんなことはないと思うが。それに、足を失うのは悲しいことだろう。泣けばいいさ」

「じ、じじょうううう!」

 

 イシはめちゃくちゃに泣いて、俺の膝に抱きついてきた。俺のズボンが涙と鼻水でどんどん濡れていく。ちょっと汚いな。美少女だから許すが。

 

 と、今すごいチャクラの揺れを感じたな。これは月のチャクラだ。どうかしたのか?

 

 月は、呆然としたような表情でこちらを向いていた。毒の影響か、顔に大きな斑点がいくつもある。酷いな。

 それに、分かったぞ。何故彼女が今、追い詰められたような表情をしているかが。

 目の焦点が合っていない。俺は白眼だからそういうところまで見えてしまう。

 

「ちょっと失礼」

「ご、ごべんなざいいいい!」

 

 イシに離れてもらい、月のもとへ歩く。

 月はこちらを見たまま反応しない。いや、見ているようで見えていないだろう。視力を失ってしまったのだから。

 

「月」

「あっ」

 

 俺が声をかけると、月は慌てたようにベッドに横になる。そのままふとんにくるまった。

 

「どうした?」

 

 言ってすぐ、しまったと思った。この質問は残酷だな。もっと気のきいた言葉はなかったものか。

 

「い、いえ。寝起きの顔をご主人様にお見せするのは、恥ずかしくって」

「そうか。悪かったな」

「い、いえ! 私が悪いんです!」

 

 うむ。またこの反応か。しかしここの子は、本当に自己犠牲を知っているいい子ばかりだな。逆に心配になるほどだ。俺の教育が良すぎたか。

 

 どう言葉をかけるべきか。

 あれこれ考えながら、ふとんの盛り上がった部分じっと見つめる。不意に、もぞもぞと動いた。かわいい。

 

 もう、あれだな。湿っぽいのは嫌いだし、ぱあーっと行きたいな。

 

「イエーイ!」

 

 俺はベッドにダイブする。

 

「きゃあ!」

 

 かわいい声を出す月。俺から逃れるように激しく動く。

 俺はそんな月をふとんごと持ち上げ、抱きしめる。

 

「ああっ! ごっ、ご主人様! 何を!」

「お姫様ごっこだ! ははは!」

「えっ」

 

 俺は月を抱えたまま走り出す。ただし床はまだ寝ているな人間がいっぱいいるから天井を走る。チャクラコントロールの基本だな。

 

「あっ! 空海さん! 月さんはまだ安静に!」

 

 おっと、シズネに怒られてしまった。要塞のてっぺんまで行って二人で風に当たるつもりだったが、庭で我慢しとくか。

 俺は要塞を出て、庭の大きな石に腰かける。月をふとんから解放し、隣に座らせる。

 

「うっ、あっ」

 

 前のめりのなって転びそうになった月。目が見えていればこんな不自由はしないだろう。俺は彼女を支え、上体を起こす。

 

「す、すみません。まだ体調が優れなくて」

 

 ふふっ、どうやら目が見えないことを隠したいようだな。どうしたっていずれバレてしまうのに。捨てられたくないと思っているのかな?

 

「はあ、はあ、はあ。ごほっ、ごほっ」

 

 おっと、しかし体調が悪いのは事実だろう。とりあえず大地の実を食わせて、会話も早めに終わらせよう。

 石から降り、庭に手を着く。

 

「ぬっ、ぬうんっ」

 

 この辺は木が少ないから、けっこう俺のチャクラが必要だったな。まあもうできたが。

 

「月、大地の実だ。食え」

「あっ、はい。ありがとうございます」

「あっ。でも毒と薬の兼ね合いで食べない方がよかったり」

 

 渡してから気づいたが、月は構わず食べてしまっていた。まあ、あれは栄養というよりチャクラだし、科学的にダメという可能性は低いだろう。

 

「ありがとうございます。元気が出ました」

 

 今日初めて明るい顔になった。よかった。

 

「そうか。よかったよ」

 

 さて、男を見せてやらないとな。

 

「月よ。俺はお前達に、人を見かけで判断するなと言ったな」

「は、はい」

「俺は、はっきり言って美女が好きだ」

「はい」

「メイドが好きだ」

「はい」

「だがな。もっと好きなのは心の美しさなんだよ」

「えっ」

 

 ん? そこ『えっ』か? 確かに美少女に対する拘りは強いが。

 

「い、いえ。はい」

「有能な人間なんて別に好きじゃない。使えるだけのムカつく女がいたとしたら、利用するだけ利用してポイだ。だが、ここにいる子達は見捨てない」

「あっ……」

 

 なんとなく言いたいことは伝わったかな?

 まあ女の場合、ムカついても飽きなかったら捨てないけどな。

 

「お前は俺の何を見てきた? 俺が利用価値で難民を仕分けたことがあったか?」

「えっ……。いえ! いえ! はい! はい! ご主人様は、他の支配者とは違った! きちんと、ご自身の好みの方を選ばれておりました!」

 

 よし。いい感じに理解してくれたな。声も元気になった。

 ただ、月よ。その言い方だと、女ばかり贔屓していたようにも聞こえてしまうぞ?

 実際してたけど。

 

「そういうことだ。月よ! 心を磨け! あと、お前は美少女だから心配するな! 既に俺の頭の中では嫁になっている!」

「えっ…………。あっ、はっ、はい! ありがとうございます! ふつつかものですが、よろしくお願いいたします!」

 

 月は顔を真っ赤にし、口許をにやけさせた。さらに、石の上で正座になる。

 そこで丁寧に身を縮め、額を地面に着ける。両手は頭の前。嫁入りというより、奉公娘だな。かわいいからなんでもいいけど。

 俺は月の腰に手を回す。

 

「あっ」

 

 また赤くなる月。俺は彼女をゆっくりこちらに寄せ、再び抱き締める。

 

 いくらそうしていただろうか。

 月は小動物のように俺に身を寄せていたが、不意に顔を上げた。

 目をつぶってじっとしている。顔は赤くなっていく。

 これは、あれの雰囲気だな。

 

 そう思ったとき、月の唇がフッと突き出た。

 では遠慮なく、いただきましょう。

 

 ちゅーーーっ。

 

 おおーっ。柔らかくて気持ちいい。大和撫子最高や!

 

「何やってるの? あなた。こんな朝っぱらから。この大事な時に」

「えっ」

 

 と、何故か不意に小南の声が聞こえた。

 唇を離し、門の方を見る。

 

「分かってるのあなた? 今、あなたの国の人が大変なことになってるのよ!」

 

 小南は九尾の手前にいた。氷のような目で俺を睨んでいる。彼女の隣に飛んでいるいくつもの紙飛行機が、救援物資のようなものをぶら下げている。ありがたいことだ。

 

「ふむ。そうだったな。そして小南。お前がここに来たということは、暁も何か協力してくれるということか?」

「そのつもりだったけど、嫌になってきたわ。こっちは徹夜で働いてるのに、あんなの見せられちゃあね」

 

 確かに。目の下に大きな隈がある。ひどいことをしたな。

 

「それはすまなかったな。謝ろう。ついでに大地の実をあげよう。チャクラ回復、体力回復、病気撃退の万能薬だ」

「いらないわよ。それよりさっさと話を済ませるわよ。の前に、この食べ物と医療品を早くそっちの子に回して」

 

 小南は紙飛行機を俺に寄せる。

 

「うむ、いいだろう。お前達! 出てこい!」

「ええーーーっ! なんで分かったってばね!」

 

 いや、お前には気づかなかった。九尾の上にいたからな。膨大なチャクラに隠れて見えなかった。

 

「ご、ご主人様! お幸せに!」

「お、お姉ちゃん! おめでとう!」

「つっちゃん! あたしもつっちゃんと結婚する!」

「アラレは女だろ」

 

 ゾロゾロと出てくる親衛隊達。まああんだけ派手に漢を見せたらな。

 

 親衛隊に物資を渡し、それぞれ要塞と付近の仮設住宅に運ばせる。作業の途中で、本題へ。

 

「話ってのは、難民のことか?」

「ええそうよ。あなたはどうするつもり?」

「木の葉よりはここがいいような気がする。が、難しいんだよな。衣食住の問題と、安全かって問題がある」

「先に言っておくけど、私たちが受け入れられる孤児は50人がいいところよ。働ける大人だったとしてもそこに30人が加わわるくらい」

 

 おっと、これはどういう風の吹き回しだ?

 

「お前達、そんなお人好しなことやってくれるの?」

 

 言いながら気づいた。そう言えば戦争被害者を救ってたんだったな。立派なやつらだ。

 

「はあ? 何言ってんのよ! 私たちの組織は世界平和を目指してるのよ! その一貫で孤児や戦争被害者を救う活動をしてるって言ったじゃない!」

「ああ、言ったな。言った。悪いな。正直お前達のことを舐めてたよ」

「はっきり言ってくれるわね」

「あっ! ついでに頼んでもいいか!?」

「ついで?」

「いやさ。実は俺、波の国に仲のいいやつが何人かいてさ。そいつ等、けっこう土地も持ってんだよ。難民受け入れてくれるよう頼んでくれないか? お前のその紙飛行機で」

「紙飛行機?」

「ダメか? なんなら釜倉って美少年を一週間くらい連れ回してもいいぞ」

「釜倉? ……って、だから言ってんじゃない! そういうことなら協力するって! ダメなはずないでしょう!」

 

 おお。これもいいのか。全くすばらしいな。

 不機嫌そうに言うから断られると思っちゃったじゃないか。

 

「すばらしい! お前はまったくもってすばらしい! 顔もいいしな! 今度何かあったら言ってくれ! 全力で応援しよう! ところで長門と弥彦は?」

「彼等は他の暁のメンバーと共に木の葉の難民キャンプにいるわ。あなたに会うのはまだ抵抗があるみたい」

「逆に言えば、小南は抵抗がないのか! いいじゃないか! お前は真実に気づいたんだな! 本当に美しいのは顔ではなく心だと言うことに!」

「もうふざけるのはやめて! 私は仕事で来ただけよ! 冗談が言いたいだけなら帰るわ!」

「いや待て、俺が感動したのは本当だ」

「ああっ! もうっ!」

 

 小南はプンスカ怒って飛び立った。しかし相当眠かったらしく、途中で落ちていった。

 

「あら? いいベッドがあるじゃない」

 

 徹夜でボケていたのだろう。小南は九尾の耳をふとん代わりにして寝てしまった。


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