疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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痛みを受け入れよ

 あまり悲しんでいる時間は無い。

 今日の食糧のために森に入って狩りと山菜集め。将来の食糧のために畑仕事。攻められた時のために抜け穴作り。木遁分身も利用してそれらをこなしつつ、本体は今後の国造りのための話し合い。相手には豪、初、月、イズモを選んだ。それだって、5人で近辺を周り、水汲みや井戸作りをしながらだ。なお、目の見えない月は俺と手を握りっぱなしである。

 

「木の葉はここを前線基地にすると思うか?」

「おそらく。第一ダムを取り返すまでは」

「第一ダムを取り返せると思うか?」

「実力で言うと、5大国でも木の葉が頭1つか2つ抜けています。本気になれば負けることはないでしょう。問題は、木の葉の拡張を恐れた他の国が、砂に手を貸すかもしれないこと」

「第一ダムを取り返せたとして、俺達は自由になれると思うか?」

「今までのようにはなれないでしょう。綱手さんが火影にでもならない限り」

「だよな」

 

 綱手が火影か。それは盲点だったな。

 千手一族の実質的な当主だから、火影に近いと言えば近いのだろうけど、どうなんだろうな。本人にその気がなさそうなのと、魑魅魍魎の卑劣達を押さえつけられるかってことと、今の火影が歴代最強と言われているのを考えると。もっと言えば、忍者は引退するって言ってたしな。昨日の戦いではふつうに動けてたけど。どうにかして血だけは見ないようにしていたのかな?

 まあ、どの道明日明後日の話ではない。今、どうやって目の前の難題を乗り越えていくか考えねば。

 東には木の葉。西には砂。北は雨。南は海。

 逃げ場はないな。どなんしましょ。マジでどうしよう。戦うしかないように思えてしまう。でも、これ以上彼等を死なせるのは、嫌だ。こんな思いはしたくない。クソッ。

 

「正直、この地を選んだのは失敗だったように思う」

 

 ああ、言ってしまった。

 言いたくなかった。自分の失敗を認めることになる。皆の死を自分の責任として受け止めなければならない。また、今までの喜びを偽善として糾弾する必要も出てくる。どっちも辛い。

 初と月も同じことを思っただろうか。ハッと顔を見上げている。

 

 だが、今のままではジリ貧だ。前に進むために、過去を乗り越えたい。

 

「緑化という俺の夢。大国の狭間で苦しんでいる人々を救う喜び。それらを否定してしまいたくはない。しかし、認めなければならない。美しい理想に魅せられて、盲目になっていたことを」

 

 初と月は辛そうな表情だ。

 この現状を直接的に作ったのは砂。こちらは理不尽な要求をいくつも飲み、見返りを求めることは無かった。嫌がらせを必死に堪えて、仲良くしようと頑張った。にも関わらず、裏切られた。

 だから、砂を恨みこそすれ、自分達の非を認めるのは難しいだろう。特に彼女達は美しい生き方に憧れている。俺がそうさせた。実際に今は美しい生き方をしていると思っているはずだ。それを否定することは、汚い生き方を肯定することになってしまうかもしれない。そういう嫌悪感もあるだろう。

 

 しかし、豪とイズモは俺の言葉を受け入れているように思う。運命を受け入れているというべきか。疲れたような表情をしている。

 

「もっと周辺国を知り、世界を知り、慎重に、着実に、時には狡猾に進めるべきだった。もちろん、忍界大戦のようなものがある中で、確実に安全と呼べる場所はないだろう。しかし、波の国のような島国や、人目につかない密林の奥底なら、いくらか安全性は増すだろう。とかく、人目につくのが早すぎたんだ。じっくりと軍事力を増し、他の実力者とのつながりを作ってから、ことに及ぶべきだった」

 

 俺は噛みしめるように言う。自分に戒めを刻むつもりで。

 皆、静かだ。足取りは重い。

 初と月が酷く悔しそうな顔をしている。失敗を認めたのだろうか。その辛さを乗り越え、大きくなって欲しい。それが若者の特権だ。

 不意に、月がギュッと俺の裾をつかんだ。

 

「ご主人様。ご主人様。しかし、私は思います。そのような安全地帯へ行けない人間こそが、本当に困窮状態にある難民だと。そしてご主人様が救いなさっていたのは、まさにそんな人々でした。私も、物心ついた頃には戦地にいました。母親を奪った男を殺したのが初めの記憶です。私がご主人様と出会えなければ、醜い戦争屋に言いように使われ、この世の全てを憎みながら死んでいったことでしょう」

 

 これは、励ましてくれているのだろうか。

 そうだろうな。実際励まされた。美少女に感謝されるというこの上ない喜び。

 裾を握る月の手に、そっと俺の手を覆い被せる。

 

「あっ」

「安心してくれ。俺も、俺の活動の全てを否定するわけじゃない。お前や初に会えたのは、何よりもの幸せだ。後悔なんかしてない。今後も続けていくつもりだ。しかし、反省するところは反省すべきだということだよ。同じ悲劇を繰り返さないために」

 

 おっと、いい雰囲気だったが、今後も続けていくと言ったところで、月のチャクラが刺々しくなったな。独占欲というやつか。鬼嫁になりそうだな。

 逆に初は、達観してるんだけどな。好きになったのなら仕方ないという感じで。控えめなかわいい嫁になりそうだな。

 

 イズモと豪は、呆れている感じだ。まあ2人共嫁さんラブだからな。

 

「ちょっといいですか。空海さん」

 

 不意に、その豪が口を開いた。

 

「なんです?」

「先ほど島という話が出ましたね。木の葉の南東には、こう魚の尾ひれのように、南西から北東にかけて長い半島がありますね」

「ええ、ありますね」

 

 尾ひれか。まあそうだな。

 

「その尾ひれの北東側はご存じのように水の国、霧隠れの諸島があります。しかし南西側には無人島がいくつかあるそうです。そう大きくはないようですが、ここの難民くらいなら過ごせると思います」

 

 ほう。それは、なかなかいい情報だな。木の葉を除き、五大国からほどほど遠く、ここからは近い。波の国はなかなか豊かな島国だが、遠さと大国を通らずにはいけないことが問題だった。しかしその無人島なら、船を使えば川の国から直接行ける。

 

「なるほど。そこに移住するのがいいのではないかと?」

「ええ。まあ1つの選択と思っていただければ」

「いいんじゃないですか?」

「え? ええ、はい。ありがとうございます」

「ちょっ、ちょっと豪さん。それもっと早く言ってくださいよ。こんなギリギリじゃなくて」

「は、はあ。しかし私も最近知った情報でして。それに、皆が砂と仲良くなろうと頑張っていた時分に、ダムを捨てて逃げ出すような話をするのは厳しく」

「まあ、確かに。僕はダムを諦めなかったでしょうけどね」

 

 希望が見えた、のか?

 船は、設計図さえあれば俺の木遁で作れるだろう。

 航海は、ジジババの知恵袋か、波の国の友人を連れてくればなんとか。

 海賊は、まあ大国の国境ってわけでもないし、大したやつはいないだろう。

 食料も俺の木遁でなんとかなる。

 いけそうだな。うむ。いい案だ。やってみようか。

 緑化は、しばらくお預けだ。

 

 ただな。時間がもうないんだよな。そろそろ木の葉から使者がやってくる時間だ。

 念のために、もしもの時の話をしておくか。

 

 俺は木遁で板を作り、指で削って文字を書いていく。

 

「初よ。これを」

「なんでしょう? ……子供達をよろしく頼む?」

「俺が拘束されるようなことがあった時、且つ、綱手もいなかった場合だ。お前が中心にこいつらを逃がせ。行き先は波の国が最も安全だろう。しかし、あそこへ行くには木の葉を通る必要がある。綱手と深い関わりがあるとは言え、この人数を安全に動かすのは不可能だろう。そこで、俺が信頼している木の葉の人物を紹介しておく。積極的にそいつらを頼れ。まず、自来也だ。綱手と同じ木の葉の三忍で、俺に忍術を教えてくれた先生でもある。初め俺は、長門と弥彦と小南と共に、彼の弟子になったんだ。その後綱手に連れられて木の葉へ行き、アカデミーで一年学び、もう一度自来也の弟子になった。そこで俺と一緒に弟子になったのがクシナとミナトだ。クシナのことは十分知っていると思うが、このミナトもなかなか人間のできた男だ。頼るといい」

「はい。クシナさんから話は聞いています」

「うむ。それからクシナの親友にうちはミコトという女がいる。こいつはうちはミグシの姉でもあるから、長袖を使えば交渉できるだろう。さらに、ミナトの友人の忍びにも、猪鹿蝶トリオというのがいる。こいつらはそこそこ思慮深くて正義感が強い。ただしチョウザという男にデブや太いなどと言ってはならんぞ。大らかでかっこいいと言えば喜ぶだろう。逆に、木の葉で注意すべきなのがダンゾウと大蛇丸だ。ダンゾウは大勢の部下がいるからそいつらにも注意だ。おそらくやつらは一般人を装って近づいてくるだろう。が、まあ、卑の意志を隠そうともしていないからな。ジメジメとした暗い雰囲気とかで見分けてくれ」

「はい」

「あとは……」

 

 他に何があるかな?

 考えたところで、木の葉の忍びが川の上を走っているのが見えた。ゾロゾロと大人数で来ている。砂と戦争するつもりなのだろう。

 

 綱手は、いないな。ダンゾウが中心にいる。予想は出来たことだが、あいつには会いたくなかった。

 他に目ぼしいのは、日向ヒアシか。ヒザシもいる。やはり俺を宗家の呪いで操るつもりなのだろう。ヒザシがどこまで味方してくれるかが問題だ。

 

 ここまで来るのに10分ってところか。最後に、メイド達にハグやキスをして回ろう。

 

「きゃあっ」

「ちょっ、ご主人様!」

「し、師匠! 自分にそんなつもりは……」

「あっ、あたしは面食いだってばね!」

 

 無理矢理やってやったが、全体的に拒否の方が強かった。まだまだ教育が足りないようだ。

 とかく、女の子約40人とハグをした。思いの外時間を食ったので、急いで城壁の近くへ移動した。

 

 初、長袖、豪は先に来ていた。木の葉の忍び、200人くらいいる、はちょうど来たところだ。雰囲気がよくないな。人殺しのような目付きのやつが多い。まあこれから砂と戦うんだから当たり前か。

 

「お久しぶりでございます。ダンゾウ様」

「ふん。お主などに用はない」

 

 ダンゾウは条約の時とうってかわって、豪を粗末に扱う。ズイと俺の前に来た。

 

「お前だな。うずまきトグロ」

「はい。そうです」

「何がはいか!」

 

 突然叫び、俺の顔面に蹴りを入れてきた。俺も咄嗟に顔を引いたが、間に合わず蹴り飛ばされる。50m近く転がる。痛い。まあ俺なら痛いで済むが、これが並の中忍だったら死んでいる。それだけの憎しみがあるということか。こちらこそ、と言いたいところだがな。

 

「よくもっ」

「お前達はジッとしていろ!」

 

 俺は叫び、初が飛びかかるのを防ぐ。

 来たときにダンゾウの両脇にいた忍びが、「チッ」と言ってクナイをしまった。引かなければ戦うつもりだったのだろう。立場を分からせるためと言ってボコボコにしてきた可能性もある。

 

 ダンゾウは初になど見向き見せず、ジッと俺を見下ろしている。チャクラで殺意をぶつけながら。従え、さもなければ皆殺しにする。口で言わずとも伝わってくる。

 

 里抜けだけで死刑でもおかしくないが、その上俺は九尾を逃がして日向当主まで殺した。忍者の世界では、酷い拷問の末に殺されるくらいの罪だろう。だが俺は殺されない。利用価値があるし、綱手とも仲がいいからな。

 しかし、俺が生きて木の葉と共に戦うことに、全ての忍びが納得するわけではないだろう。俺を殺せないのなら、俺の近くの人間を。そうしてやつらの卑の意志が俺の仲間に向けられる可能性が高い。特にクシナにな。

 

 ここは、大人しく従うポーズを見せた方がいい。親衛隊も警備隊も、今は休息が必要だ。

 そもそも砂以上に強い木の葉に逆らえるはずがないか。目の前のダンゾウも、現三代目と火影の座を競っただけあって、かなり強い。タイマンでも負けそうだ。クシナとコンビでやったら勝てると思うが。しかし、こいつに勝ったところで目の前に200を超える忍びがいる。その中には俺とタイマンを張れそうな上忍もちらほらいる。嫌でも上下関係を納得させられる。

 

 俺の木こりへの変化は蹴り一発で解けてしまった。小鬼モード(本当の姿だけど)で立ち上がり、口の血を拭いながらダンゾウを睨む。木の葉の中忍が「ひっ」と声を漏らした。情けないやつらだ。忍者が見た目だけで恐れるとはな。しかもこの圧倒的に有利な状況で。

 

「お前達の裏切りによって木の葉が被った苦しみ、この程度で済むものではないぞ」

 

 ダンゾウが相変わらず殺気をぶつけながら言う。ダンゾウの部下もそれに従う。

 他の忍びには、なんのこっちゃという反応もある。俺が木の葉で忍びをやっていたことを知らないのだろう。木遁使いとして割と秘匿されていたしな。もちろん、俺のこの見た目だから、一目見たことがある連中なら覚えているようだがな。「あっ、あいつだ!」「あのガキの化け物だ!」なんて声が聞こえる。

 

「従おう。要求を言ってくれ」

「なんだその口の聞き方は? まだ立場が分かっておらんようだな!」

 

 再び俺に接近し、攻撃しようとするダンゾウ。しかし、その前に飛んできたチャクラの塊が俺を突き飛ばした。

 

「若造が。なぜ邪魔をした?」

「ダンゾウ殿こそ、日向との取り決めをお忘れか? その者の処遇は我々に任せると」

「そんなものはこじつけに過ぎぬ! わしがこの方面の司令官を任せられた時点で、お主もわしの部下だ! 上官の命令には従ってもらうぞ!」

「ダンゾウ殿こそ、お忘れなきよう。我々が木の葉に協力するのは互いの利にかなうと判断したため。宗家が木の葉に従うことがないことは、里の発足時の協定に明記されています。それを認めぬというのなら、木の葉にて最強の我々が、明日からは敵に回ると知れ」

「日向、ヒアシィ……」

 

 俺を吹き飛ばしたのは、日向ヒアシだったようだ。相変わらず髪型以外はヒザシにそっくりだな。

 しかし、日向がダンゾウに反発するのは驚いた。宗家に従わぬ者は殺すという、ダンゾウ好みの卑劣だと思ったんだがな。影の王は二人いらぬということだろうか? しかし、日向って名は似合わないなあ。あんな暗い連中に。

 

 ダンゾウが引き、ヒアシが俺に近づいてくる。ヒザシも少し後ろを歩いてくる。

 ヒアシの表情は険しい。無理して演技をしている感じだ。逆にヒザシは、俺ではなく兄に対して嫌悪感を抱いているように見える。やはり分家の憎しみか。

 しかし憎しみばっかだな。木の葉ってところは。さすがは卑の国か。

 

 伸ばせば手が届く距離で相対する俺とヒアシ。そのヒアシから、不意に殺気が漏れる。

 

「余計なことはせぬことだ。お前自身、そしてお前を思う者のためにもな」

 

 ヒアシはボソリと言って、構えた。

 この構えは……。

 

「八卦一掌! 二掌!」

 

 やはり八卦六十四掌か! ぐおおっ、痛ええええ! 経絡系が焼けるうううう!

 

「四掌! 八掌! 十六掌!」

「がふうっ」

「三十二掌! 八卦六十四掌!」

「いっ、いぎいいいいいい!」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い! 何これ! 直接神経を攻撃される痛みって酷すぎじゃない! 今まで受けてきたあらゆる攻撃より痛い! 半蔵の毒攻めさえ生ぬるく思える! ばっさり切られた方がましだ! 全身を粉々にされるような痛みが増え続けて解放されない!

 やはり卑の国の忍者か。日向は拷問でも最強!

 

「八卦、百二十八掌!」

「いぎひいいいいっ! んぎゃあああああああ!」

 

 な、なんで六十四で止めないの! バカじゃないのこいつ! もう終わった経絡系に痛みだけ残して何になるの!

 

「八卦……」

「まっ、まさっ。やめっ」

 

 なんで! なんでまだ続ける雰囲気なの! ダンゾウだってもう見てないじゃん! ブサ男の悲鳴なんて誰も得しないただの拷問じゃん!

 

「おのれ! もう我慢ならっ、がっ!」

「手を出すな。君達は」

 

 ヒザシがこちらに来ようとした初を止めた。というか後頭部にチョップ一発で気絶させた。いい判断だけど、実力差がありすぎて泣ける。

 

「八卦、八卦………」

 

 というか、ヒザシさん。何溜めちゃってんの! 恐怖の時間を長引かせないでよ! 待ってる間も苦しいんだよ! まさかそれも計算ずくか!?

 

「おのれ、日向ヒアシィ……」

 

 俺の声にヒアシがビクンと眉間を上げる。

 

「お前も来い! ヒザシ!」

「……分かりましたよ。ヒアシ様」

 

 なんだ!? さっさと始めろってのに! また何かやる気か!? 嫌な予感しかしないんだが。

 

「あれをやるぞ。抜かるなよ」

「ヒアシ様こそ、私に置いていかれるようなことはないでしょうね」

「口の聞き方がなっておらんな! 後でお前も六十四掌だ!」

「いたあああああ!」

 

 ヒアシは怒鳴りながら攻撃を始めた。ほぼ同時にヒザシも。

 

「それだけは、勘弁願いたいですね」

「いててててええやああっ」

「行くぞ」

「ええ」

「禁術! 八卦千二十四掌!」

「あっ、あかああああああん!」

 

 な、何それ! おかしいじゃん! 桁が違うじゃああああん!


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