疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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青年団を討て

 川の国は傾斜の厳しい山と谷が続く天然の要塞だ。特に谷について、土砂崩し系の術に巻き込まれないよう注意が必要である。

 敵の配置も、崖の付近では土砂崩しができる砂使い。密林に覆われたなだらかな山間部では、木ごと敵を攻撃できる風使いが考えられる。

 

 土砂崩しに対抗するには、速さで土砂を躱したり、何らかの方法で宙に浮くのが有効だ。風使いに対抗するには、土の壁で防いだり、火遁で風を押しきるのが一般的。

 

 200人いる木の葉の忍びのほとんどは、土砂崩しに対応できない。ふつうに直進しては攻め込めない。そこでダンゾウが考案したのが、巨大な手裏剣に変化して、誰かに投げてもらい、一気に崖を超えるというものである。投擲主はパワー系の忍び。特に倍加の術が可能な秋道一族が担う。

 

 俺は、土砂崩しを木の根っこで受け止めることができる。風も土の壁で防御できる。俺の守りは効果的なので、木遁分身を4人分、土遁を使えない小隊に回した。

 

 しかし、本体の俺、ヒアシ班と他12名の少数精鋭は、別のルートで敵の本陣を目指す。襲撃に都合のいい道があったのだ。元は脱出のために作ったアレ。第一ダムから第二ダム方面へ続く、秘密の抜け穴だ。

 抜け穴は真っ暗で迷路状になっているが、俺なら正しい道が分かる。中で戦闘になっても、俺とヒアシとヒザシなら、月明かりすらない暗闇でも十分戦える。撤退時に穴の各所を埋めはしたが、再び掘り起こすのにそれほどチャクラは必要ない。大地の栄養を吸いながら歩けば、さらに楽だ。

 

「この一晩で、砂の野望を挫く。容赦するな。雨と結んだ程度ではどうにもならんという圧倒的な力の差、そして恐怖を刻んでやれ。散!」

 

 その声で忍び達が飛び出していく。ダンゾウは第二ダムでお留守番だ。

 

 精鋭である俺達は、俺を先頭に抜け穴へ向かう。

 メンバーは、俺、ヒアシ、ヒザシ、ミナト、うちはフガク、うちはミコト、ダンゾウ影分身、その他面をつけた暗部である。

 

 抜け穴に入ってからは、さすがにスピードが落ちる。土を退けては進み、退けては進みを繰り返す。光はうちはミコトの火遁で薪に火をつけた。ダンゾウが後ろにいるのは落ち着かないが、さすがにこの精鋭の中で俺を捕獲するのは無理だと思われる。

 途中で地下水が溜まっていた。集落で移動する時は、水を吸い上げたり凍らせたりした。しかし彼らは優秀な忍びなので、黙って水面の上を駆ける。なんだかなあ。

 

 油断なく、しかし気負うことなく、進み続けた。地上の峠を2つ超えたところで、迷路を別人に荒らされた跡があった。砂の忍びだろう。

 

「砂の忍びがここまで来た形跡があります。お気をつけて」

 

 ダムはこの付近の峠を超えたところにある。集落はもっと近い。さあ、風影はどこにいるかな。

 ドクン、ドクン。

 心臓が高鳴る。この世界でもトップクラスの忍びとの戦いが、直に始まる。昨日は怒りのために恐怖を感じなかったが、今日は薄気味悪い感じがする。どっちがいいのだろうな。

 

「むっ! 待てトグロ!」

 

 不意にヒアシが叫んだ。ヒザシも何かに気づいたようだ。俺はまだ分からない。

 いや、今分かったぞ! 3mほど先の土砂に、人のチャクラが混ざっている! 感知式だな! 気付かれたか!?

 

 じっと待つ。反応はない。まだ気づかれていないのだろうか。

 

「ダンゾウ様、この先にチャクラのこもった砂が散乱しています。おそらく感知式です。真っ直ぐ進みますか? 横に道を掘りますか?」

「ふむ。ここから集落へどれくらいだ?」

「1キロくらいでしょうかね。急斜面ですので一般人なら30分はかかりますが。それと、ここで地上に出たら、同じく急斜面の崖です。土砂崩し用の砂使いがいると思います」

「1キロか……」

 

 ダンゾウは顎に手を当てて思案する。ダンゾウのクセに人間っぽくて気持ち悪い。

 

「よし。波風ミナト、うちはフガク、うちはミコト。お主らはここを50m右に進み、先に地上へ出よ。道はトグロの木遁分身に作らせればいいだろう。地上へ上がった後は、できる限り敵を引き付けよ。遅れて、我々がこの道を進み、集落で出る。お主らが引き付けた敵には土砂崩しを使うゆえ、巻き込まれぬようにな」

 

 当たり前のように敵に囲まれることを要求するダンゾウ。こいつの道具になったら命がいくつあっても足りないな。

 

「次に我々の問題だ。おそらく砂は、穴を崩壊か、毒の罠かで我々を殺しに来る。崩壊ならば木遁で防げる。毒であれば、吸い込まなければいい。1キロ程度、よもや無呼吸で走れぬ者はおらんな?」

 

 こいつ、自分は影分身だからってなんて危険なことを言うのか。

 俺はそっと手を上げる。

 

「なんじゃと!? 貴様木遁を使える身でありながら!」

「息を止める修行はしていません。アカデミーは一年で卒業させられたので」

「何がアカデミーか! 卒業後に真面目に修行しておれば!」

 

 修行は真面目にやったけど、俺は長所を伸ばすタイプなんだよね。器用貧乏は魅力を感じなくて。でも、だからこそ木遁はかなり使えるじゃん! 体術だって同年代に比べればすごいじゃん!

 

「チッ。しょうがあるまい。貴様は木龍を出口に向けて飛ばせ。我々はその後方をついていき、道が崩される前に一気に地上に出る。貴様も急いで上がってこい! 分かったな!」

「はい……」

 

 なんか俺がダメな人みたいな言いようだな。俺頼みの作戦なのに。

 

 俺の木遁がミナト達を連れて掘っていく。この間、俺達は待機だ。ダンゾウは念入りに突入後の動きを確認している。こういうところだけ見ると真面目な仕事人だな。こいつが権力者じゃなかったらよかったのに。

 

「風影には徹底的に木遁をぶつける。そして日向ヒザシ、お前が風影を討つのだ。砂のチヨはわしらが風遁で時間を稼ぐ。ヒアシはトグロを守れ。分かったな」

「はい」

「ええ」

 

 と、地面が揺れた。誰かがそれなりの土遁を使ったようだ。早くも戦闘が始まったらしい。

 

「よし! 我々も行くぞ! やれ!」

「はい。木遁、木龍」

 

 足下から飛び出した木の龍。抜け穴に沿って地面を突き進んでいく。

 

「よし! あれに続け!」

 

 ダンゾウ達が慌てて追いかけていく。

 

 木遁分身の術!

 

 俺は分身に彼らの後をつかせる。慎重に毒を回避しながらでも、3分くらいで上がれるだろう。本体は、安全なところでボチボチやりましょうかね。大地の実でもかじりながら。

 それに、確かこの付近に、土砂崩しで生き埋めにした女の子がいるんだよな。生きてたらチャクラ回収に使おう。ついでに有望なら集落に勧誘しよう。

 

 とりあえず大地の実を一個作り、食べておく。分身2個分くらい回復したか? 心配だから、分身もう5体くらいヒアシのもとに送ろう。こうやって定期的送っていけば、あいつらも助かるだろう。

 うーん、娘はどの辺だっけなあ。

 地面に手を当てて、エネルギーを感じ取る。

 おっ、見つけた。思ったよりずっと下だった。抜け穴を逆戻りだな。まあ逆に進む分は安全だからいいんだが。

 

 うわっ。すごい揺れが来た。俺の分身が大規模な土砂崩しを使ったようだ。しかもそれで、チャクラが切れて分身消えちゃったよ。まあ別の分身が向かってるから許してくれるだろう。しかしダンゾウ、本当に俺頼みの作戦をするな。裏切ったらどうするつもりだったんだ?

 

「おっ、とうっ?」

 

 さっきの土砂崩しで、砂の忍びが5人地面に埋まった。こいつらの方が近いし、先にチャクラを取っておこう。まだ動いてるからな。地上に出る前に仕留める。

 根を伸ばし、拘束。そして吸収。あっさりしたものだ。やはり地中の俺は無敵だったか。

 気分のいいところで、大地の実をもう一個食べておこう。

 

 

 さて、本体のトグロがこそこそやっている間に、地上では激しい戦いが始まっていた。

 少し時間を遡る。まず地上に出たのはミナト達だ。敵が驚いている間にも、ミナトが若い男の首を撥ねる。別の男には、うちはフガクが起爆札つきクナイを投げつける。それは男に命中して爆発しダメージを与えたが、致命傷には至らない。男は溢れる血を無視して地面に手をつき、術を発動する。途端にフガクらの足場は砂となり、きつい斜面に沿って急降下を始める。ところが、それをトグロの木遁分身が防ぐ。大木を生み出し、地盤を支える。

 

「おっ、お前があああああ!」

「カルラ! 一人で突っ走るな!」

 

 木遁の発動を見たことで、青年団の女幹部がブチキレる。膨大なチャクラを怒りのままにトグロ目掛けて叩き込む。

 

 風遁、大カマイタチ。

 

「おっと、土遁、土流壁」

 

 トグロはもう慣れていたので、反射的に土の壁を発生させた。フガクとミコトもその内側に入る。

 

「余計でしたか?」

「いや、我々の火では、あれほどの風はどうにもならん」

 

 風は巨大な土の壁をもぎ取る勢いで吹き付けていた。壁の後ろに入り込む突風でさえ、肌が切れるほどの力を持っている。

 

「とんでもないですね。チャクラだけならまるで尾獣だ」

 

 トグロは軽口を言いながら壁に木の根を張っていく。補強だ。ここまでしたらさすがに安全だろう。

 トグロが思ったのも束の間、風は一層強まり、壁に亀裂が入ってしまう。

 

「ヤバイですね。二人は地面にお逃げを」

「ああ、そうさせてもらう」

「ミナトは大丈夫かしら」

 

 二人が砂に潜っていく。軽く1キロは息を止められるそうだから、嵐が止むまでも持つだろう。

 

 その頃、木龍の後を追って集落へ出た木遁分身は、青年団のボスを追い詰めていた。

 集落の守りは青年団に任されていた。おそらく風影はダムにいるのだろう。しかし20人程度まで減った傷だらけの青年団では、木の葉の精鋭を止めることはできない。

 

「ぐああっ!」

「ハンマ!」

「くうっ」

「バキ!」

 

 ヒアシとヒザシの柔拳が次々に決まる。砂の攻撃は俺が木遁で防ぐ。風の刃は白眼で見切る。体術で来たらそのまま柔拳の餌食だ。

 

 圧倒的。こちらは無傷。ミナト方面に引き付けられていた彼らは、さらに山を下っていく。

 暴風を何度も出現させている例の女と、青年団のボスがほぼ同じ位置に来た。女はミナト方面の俺の木遁分身に執心だ。こっちに気づかない。

 

「トグロ! この辺りを崩せ! やつらはミナトに任せる! 我々は体力を温存して風影のもとへ!」

 

 この二人とは決着をつけたかったが、上官の命令だから仕方ない。やりますか。どうせ地下に本体いるしな。

 

「土遁、土砂崩し!」

 

 分身全てのチャクラを注ぎ、青年団がまるごと入る一帯を土砂に変えて落とす。チャクラ切れで分身は消えていく。

 

 

 ミナト方面の木遁分身は、ヒアシ方面の木遁分身が大地を土砂に変えようとするチャクラの流れを感じた。

 慌ててフガクとミコトを掘り起こす。木で球体状のカプセルを作り、土砂をガードする。地面が流れ、カプセルに入ったまま落ちていく。

 

「すまん」

「助かったわ」

「いや、まあ、うん」

 

 これ、俺の攻撃だから、とは言いづらい雰囲気だった。

 

「カルラ!」

「えっ」

 

 女に対する土砂は、青年団のボスが砂で防いでいた。いや、他の仲間への土砂もそうだな。

 ただ、遠くにいた味方は守れなかったようで、5人ほど埋まったが。宙に浮いていたのに、ミナトによって土砂に叩き落とされたやつもいたな。

 

 ふふふふっ。あと少しだ。1年に及ぶ嫌がらせ。突然の襲撃。結果、親衛隊、警備隊が何人も死んだ。砂の難民も半分近く死んだ。風影の操り人形とは言え、自らの意志で動いていたことは分かっている。青年団は、ここで壊滅させる。

 

「ミナト、合わせろ!」

「ええ」

 

 フガクが言い、ミナトが応じる。

 

「火遁、業火球!」

「火遁、鳳仙火!」

「風遁、大突破!」

 

 うちは二人の火を、ミナトに風が横から扇ぐ。火は巨大化しながら砂の忍びへ襲いかかる。

 

「ぐうっ」

 

 砂のボスは、全面に砂の壁を張ることで仲間を守る。しかし火は完全には止まらず、徐々に砂を押していく。しかし、不意に砂に、女のチャクラが混ざった。莫大なチャクラによって砂が火を押し返す。それと、砂の壁の形が、なぜかデッカい女になった。

 ならば俺は、女を犯す触手軍団といったところか? いいね。

 

「木遁、挿し木の術!」

 

 分身は消えてもいいつもりで、全力の挿し木。木の槍がドッと押し寄せ、砂の女を貫いていく。押し倒していく。そして、内部の空間に入った。

 いい女は縛るだけで許しておく。だが青年団のボス。お前は確実に殺すぞ。

 

「ぐっ、くっ」

 

 真っ暗な砂の中で器用に逃げやがる。体術と風遁か。もう少しで捕まえられるが、先にチャクラが切れそうだ。あとは任せたぞ、本体。

 

 分身が消える。情報が本体に伝わる。

 

「何!? これほどの好機か!」

 

 本体は相変わらず地中で女を回収中だった。死にかけの女には医療忍術さえ施した。

 しかし、それらを置いて地上を攻撃せねばならない。素晴らしい好機がやって来た。

 

「さすがは木の葉の精鋭だ。弱っているとは言え、厄介だった青年団をこの短時間で追い詰めるとはな」

 

 言いながら、木の根を地上に向けて伸ばしていく。地面を出る前に、八方に拡散する。狙いを定めて、今だ! 挿し木の術!

 

「死ね! 青年団! 忌まわしき記憶と共に!」

 

 男4人にはそれぞれに3本の槍。ただしボスだけは15本。女5人には蛸足のように根っこが出て、縛りにかかる。

 

「何!?」

「やらせなっ」

「カルラ!」

 

 例の女がボスに飛びつき、体を張って木の槍から守ろうとする。

 いや、違うな。この行為に意味はない。強いて言うなら、死ぬときは一緒という感じか。

 

「ぐっ、ぐああああああ!」

「うぎゃあああああ!」

 

 槍が男に刺さっていく。ボスは、女が邪魔だから、手足だけだ。この女はチャクラ吸収で利用する価値が高いからな。慎重にグルグル巻きにする。

 しかし、ここまで愛が強いとなると、男を殺したら自殺するかもしれないな。どうしようか。

 

「ぎぎいいいっ。くっそ、がっ」

「風遁、カマイタチ」

 

 おっと、驚いた。男が全員生きている。致命傷は避けたようだな。手足から血がドバドバ流れているが。

 しかし生き残りの男達、ボス以外は10代前半に見えるな。なんか急にかわいく思えてきた。男女の愛を見せられたからだろうか。

 

「人間の心が、あるのなら」

 

 どうして攻め込んで来たんだ。と糾弾したい。そうすれば誰も死ぬことはなかったのに。

 落ち着けよ、俺。こいつらはもう動けない。戦えない。この後の風影やチヨとの戦闘を考えれば、グルグル巻きにしてチャクラを吸い取った方がいい。

 男を皆殺しにする理由は、何だろうな。たぶんない。憎いから殺したいだけだ。

 

 考えると、決意が鈍っていく。俺は知っている。空海なら、ここでこいつらを殺さない。許すことで防げる悲劇がある。

 

「俺、俺の心も、憎しみに囚われたくはない」

 

 試しに穏健なことを思い込んでみる。この辺で、やめておこう。こいつらは騙されていただけかもしれない。

 だが、一度そう思うと、すっと胸が軽くなる。驚くほどあっさり、憎しみが消えていく。殺生なんてとんでもないとさえ思えてくる。

 もう、無理だな。これは。

 

「すまない、皆。仇討ちは諦めてくれ」

 

 まあ、風影は殺すけども。

 

 青年団全員を木の根で捕獲する。砂の壁が崩れていく。全員埋まる。木遁分身を一体出す。やつらを地下の抜け穴まで引っ張っていくよう命令する。ただし、扇の女だけは別だ。こいつのチャクラは尾獣並み。風影のところまで持っていく。大いに俺の役に立ってもらうぞ。

 

 グルグル巻きにした女を抱え、地上へ出る。

 

「ミナト! やつらは全員縛って地下に埋めた! 俺はこいつを連れてダムへ行く!」

「トグロ! どうしてここに!」

 

 そりゃあ、俺は木の葉のために命を懸ける気がないからだよ。フガクとミコトがいるから言わないけど。

 

「お前も来るか!?」

「僕は足止めを命じられ……。いや、うん。そうだね!」

 

 登ってくる敵を足止めするのが、ミナト達の命じられた役割だ。だが、こっちにはたぶん応援が来ない。風影は青年団を使い捨てくらいに思っているからな。ミナトの今の間は、それを推測していたのだろう。


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