疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

2 / 49
卑の意志

 俺は施設で薬を飲まされた影響で記憶が大分減っている。自分が日向一族とうずまき一族のハーフであることは、施設でも大っぴらに話されていたので覚えているが。

 しかし原作知識は薄かった。主人公の名前がラーメンの具だったくらいしか分からない。主人公の里はおそらく木の葉だったが、砂だった気もする。まあこれは、木の葉の顔岩を見た瞬間にやっぱり木の葉が舞台だったと確信できたが。

 

 綱手に連れられて日向の門をくぐった。黒髪長髪で白眼の集団がワッと群がった。

 

「むっ。本当に赤髪なのだな。うずまき一族だったか」

 

 日向の代表らしきおっさんは俺の髪を見て嫌そうな顔をした。他の連中は俺の顔が気持ち悪いようだった。どっちがましなのだろうか。

 

「すまん。トグロ」

 

 別れ際、綱手はぼそりと言った。俺にはその意味が分からなかった。

 

 代表らしき男から長い話があった。日向には宗家と分家があるそうで、分家は宗家に従わなければならないらしい。お前は分家だからわしには逆らってはならぬ、という感じだ。そして誓いとしてよく分からない印を押された。痛かった。しかし痛いだけで終わらないのは、この印は呪いだということだ。なんでも、俺が宗家の意向を無視したらいつでもどこでも殺せるようになっているらしい。なんてひどい脅しだ。人権なんて全くなかった。綱手はこれを言っていたのか。

 それでも、我慢すれば安全が手に入る。俺は分家の屋敷に他の孤児と共に入れてもらえた。上下関係はあるが食料は確保できた。

 しかし、無能が上から目線で肩を叩けとか、埃が完全になくなるまで部屋を掃除しろとか言ってくるのは堪える。こっちは自分の修行がしたいのに、どうでもいいことに時間を使わされてしまった。

 それに比べると、忍者アカデミーはましだった。少なくとも年齢とか血筋による上下関係はない。実力がありさえすれば認められる。将来性豊かなかわいい女の子もいっぱいいる。俺は顔がぐっちゃだから化け物扱いされるけどね。

 

 とかく、アカデミーの教師はまだ公正公平な人間が多かった。俺は実力さえ出せば誉められたし、よく扱ってくれた。

 ところがだ。戦争がいよいよ泥沼化してくると、言い訳のように「子供だからと言って、戦える者がぬくぬくと暮らしていていいのか」なんて声を聞くようになった。俺をこき使ってくれた日向の先輩が死んだのは朗報だったが、周囲は「お前が死ねばよかったのに」と言ってくるようになった。そして、その日がやってきた。

 

「うずまきトグロ、お主を下忍に認定する」

 

 そう言って額当てを渡されてしまった。しかも早速任務が入る。

 

「担当教官と共に物資を前線まで届けよ。後方支援とて立派な軍務である。木の葉の忍びとして誇りある行動をとるように」

 

 誇りも何も、俺来たばっかでまだ9歳なんだが。もしかして、この額の呪いがあるから裏切らないと思ってるの? 木の葉の闇ってそんなに深いの?

 俺が木の葉に対する信頼を完全に失った瞬間だった。

 

「よお。久しぶりじゃのお」

 

 担当教官は自来也だった。これには助かった。あと二人は、俺に次ぐ天才である波風ミナトと、俺と同じうずまき一族で木の葉に来たばかりのうずまきクシナ。俺が密かに狙っていた子の一人だ。だけど、彼女はなあ。チャクラと体力はあるがそれ以外がなあ。

 

「先生、クシナって、まともに使える術がないんですよ。多少体力はありますが、戦えるレベルではありません。死にますよ」

「うむ。じゃからお主らやわしがおるんじゃ」

 

 自来也は妙に厳しい顔で言った。

 

「いや、違いますよ! クシナのレベルじゃ明らかに足手まといですよ! 下手したら一年前の小南にも劣る!」

「な、何言ってんだってば! 足手まといになんかならないってばね! あんたこそ一番ガキのクセに偉そうなこと言ってんじゃないってばね! 他人の心配する前に自分の心配しろってばね!」

 

 クシナがバカ丸出しの口調で言う。まともな大人に見てもらいたいなら敬語を使えばいいのに。というレベルまで頭が回りはしないだろうけど。彼女って日本と比べても小3くらいの子どもっぽさだと思う。本当の年齢は知らないが、胸の発達を見るに12歳以上ではあるはずなんだがなあ。

 

「まあまあ。彼女は実は意外なところでとんでもない力を発揮するんだよ。きっと僕達を助けてくれるはずさ」

「い、いいこと言うってばね! ミナト!」

「俺はね、クシナが嫌いでこういうこと言ってんじゃないんだ。戦場だ! 本当に死ぬんだ! はっきり言ってクシナ程度なら俺でも簡単に殺せるんだ!」

「なにをー! 憎たらしいやつ!」

「ええ加減にせんかい二人とも! 特にトグロ! 忍者が初任務から文句言っとったら失格じゃわい!」

 

 その初任務で死ぬかもしれないから、文句を言ってるのに。というか今の俺は木の葉への信頼ゼロなんだよな。何せいきなり頭に爆弾押し付けられて、ちょっと強くなったら戦争行けだもん。逆らったら死ねだもん。どうやったら素直に従おうと思えるんだ?

 

 俺が予期したようなことは起こらず、任務はふつうに始まりふつうに終わった。俺の白眼と自来也のセンサーが生きた。あと、ミナトが思ったより強かった。本番で実力を発揮するタイプだな。やさしくて身内相手の組手では本気になれないが、敵に対しては躊躇せず殺す非情さも併せ持っている。情には厚く、味方は裏切らない。理想的な忍びだな。

 対して、クシナは荷物運びの役に立った。女子なのに妙に力が強い。戦闘では完全にお荷物扱いで、自来也は俺に「クシナから離れるな!」と言ってきた。俺にお守りをさせるつもりらしい。

 初任務後、自来也に「クシナってチャクラが2つないですか?」と言ったら「今は聞くな。必要になったら教える」と意味深げに言われてしまった。

 

 その後も戦争に関する任務が度々行われた。専ら後方支援ということもあり、肩透かしに思えるほど安全だった。クシナは本当に戦闘に入らず、そも入れるレベルでもなく、なぜメンバーに選ばれたのか分からなかった。彼女の中に2つあるチャクラの内、不気味で巨大な方が関係しているとは思うが。

 

 任務をしながら修行も行った。全員実力は上がっていく。チャクラコントロールの木登り、水面歩行など俺もミナトも一発でできたが、クシナは一ヶ月も泥だらけになってやっとできた。白眼で見てみると、彼女の中にあるもう1つのチャクラが彼女本来のチャクラを邪魔している感じだった。それを自来也に言うと「お主がアドバイスしてやれ」と言ってきた。やはり自来也は俺にクシナのお守りをさせたいようである。俺が歳の割に大人で気心が知れているからだろうか。クシナの方は明らかにミナトラブなのだが。

 

 下忍になって一年ほどで、俺とミナトは一緒に中忍になった。そこで俺の班員全員が火影に呼ばれた。

 

「そろそろお主たちにも話しておくべきじゃろう。何故、術の使えないうずまきクシナを戦場に連れ出したのか。そのくせ後方支援ばかりさせていたのか。尾獣という言葉は知っておるか?」

「えっ、まさか!」

 

 俺はその言葉で理解した。アカデミーで一応習っていた。人間では及びもつかない、膨大なチャクラの塊である化け物。それを使役する存在が人柱力であると。クシナの中の謎のチャクラも、里が急いでいた理由も分かった。ひとつ分からないのは、そんな大事な人柱力の守りを俺やミナトのようなぺーぺーに任せたことだ。

 三代目火影は俺の疑問を理解しているようにじっと俺を見た。

 

「お主の言いたいことは分かる。どうして人柱力を下忍と組ませたかじゃろう? 実はそれにも理由があるのじゃ。下忍ではなく、お主の血継限界が重要じゃった」

「白眼ですか?」

「いいや、木遁じゃ」

「木遁ですか? 木遁と人柱力と何の関係が……」

「よいか。木遁は、千手一族でも初代火影であらせられる柱間様しか扱えなんだ。そして柱間様は、その木遁をもって全ての尾獣達を押さえることができた、たった一人の忍びじゃったのじゃ」

「そ、そうだったのですか」

 

 珍しいとは思っていたが、それほどだったとは。俺がクシナとペアなのも合点がいった。というかここまで来たら俺とクシナが結婚する勢いじゃないか? 一生ペア決定みたいな話でしょ? でもミナトがいるしなあ。どうだろう。

 

「今後は九尾の封印を緩め、その扱いも修行に組み込むように。これは我が里の存亡に関わる重大な任務である」

 

 すごい話を聞いた。そんな気持ちで帰路についた。モブから急に主役に押し上げられたような……。ところが驚いているのは俺だけで、クシナもミナトもいつも通りだった。

 

「なあ、驚いたりしないの?」

「ごめん。実は知ってたんだ」

「あっ。ふーん」

 

 どうやら知らないのは俺だけだったらしい。クシナが知っているのはおかしくないが、ミナトもだったとは。こいつはポーカーフェイスだから分からんのよなあ。

 

 その後、本当に九尾を扱う修行が始まった。自来也が封印を解き、クシナがもがき始める。俺は自来也が合図するまで待ち、「今じゃ!」の声に会わせて木遁でクシナを縛る。

 

「ガアアッッアアアア!」

「おっ、おおっ」

 

 なんだこれ。木がめっちゃチャクラを吸い取る。しかも破裂せずに相手のチャクラの大きさに合わせて成長して、確実に相手の動きを止める。すごいなこれ。

 自来也は再び九尾を封印する。クシナはふらっと気絶する。

 

「面倒じゃからこれからはお主が封印も封印解除もやってくれると助かるんじゃがのう」

 

 面倒というより、自来也という戦力をいつまでもこんなことに使ってはいられない。だから俺は真剣に封印術に取り組んだ。もともとうずまき一族は封印が得意であり、俺は白眼でチャクラの流れを見ることもできるので、あっさり習得できた。

 

 九尾の修行については、進展のない日々が長々と続いた。クシナ曰く、九尾はクシナを小娘と呼んでおり、バカにして力を貸す気がないらしい。俺が「歌でも歌ってみれば?」「好きな食べ物とか」と言ってみると、クシナはさっそくその日から歌い始めたし料理も始めた。例によって不器用だったが。また、狐を探し回り、餌付けしたり、生態を調べたりもした。モテモテのメス狐を九尾に紹介したときは、激しく怒られたらしい。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。